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リュミドラ

「さあお命じくださいお父様。なんなりと。」


 リュミドラは何故か俺をお父様と呼んでいる。

 怪訝そうな瞳を向けると、ニコリと微笑まれた。少し赤面してしまう。


「なんなりと。」


 もう一度言ってくる。

 少し押しが強い子かな?


「じゃあ、あの金髪の子と戦ってみて。」


「喜んで。」


「上級魔族の影だ。気をつけて。とても強いよ。危ないと感じたら戻っておいで。」


「ありがとうございます。お父様。」


 リュミドラが歩きだす。


 ここは戦場なのでいくらでも武器が転がっている。オーク兵士が使っていた武装だ。


 リュミドラは地面に転がっていた大剣に目を留めると、足で切っ先を踏みつける。

 刀身が跳ね上がり空中で回転する。

 器用にキャッチして柄を握り、剣をビュンビュンと振るう。剣士タイプなのかな……


「そこまでです。お父様の命により。わたくしが相手ですわ。」


「……シュガール?」


 マリがリュミドラに目を向けた。

 その視線だけで、意識を向けられただけで感じる威圧感が増加する。


「シュガール? 人違いですわ。」


「うん。君はリュミドラだね。聞いてたよ。聞こえてたよ。でもね。あのね。ボクはマクバーンを材料にしてシュガールを取り戻そうとしていたんだ。それでね。君はマクバーンの牙から生まれたんだ。見てたよ。すごいね。普通の竜人族じゃないんだ君は。そもそもマクバーンのように完全竜化できる竜人族はね、とても少ないはずなんだ。昔ボクが創った段階では完全竜化はとても実現できなくて、竜人族がこの世界で世代を重ねるうちに獲得した進化なんだ。マクバーンの存在はいずれきたると思ってたけど、今日この日は昔に試算した結果より遥かに早くて、思わず影で来てしまったほどなんだ。だからね。君がシュガールだ。」


 ああ、完全竜化できる竜人族はウルトラスーパーレアなのか。

 そのウルトラスーパーレアなマクバーンを素材にしてシュガールという何者かを作ろうとしていたのか。


 そのマクバーン牙を素材に創られたから、リュミドラがシュガール認定されてるのか。

 女の子だけど。


「そのシュガールというのは何者ですの?」


「シュガールは、はるか昔に失われたボクの伴侶、魂の半身さ。だけどもう願いはかなった。君はシュガールだ。」


「わたくしはお父様の娘です! あなたのシュガールではありません!」


 リュミドラがマリを拒絶する。

 マリは静かに微笑んだ。すべてを受け入れる穏やかな表情。


「オーラブーストザンバー!」


 リュミドラの全身が金色のオーラに包まれ、大剣まで伝わる。マクバーンと同じく気功戦士オーラファイターだ。

 小さな翼を広げ、一足飛びにマリめがけて斬りかかった。


 マリは赤いバリアで全身を包み、オーラの乗った斬撃を止める。

 バチバチと火花が散る。


「えっとね。確かに驚いたよ。シュガールが女の子になっちゃうなんて。でもね。あのね。」


 マリのバリアが膨らむ。

 リュミドラが力負けして弾かれた。


「転生ってそういうのありえるよね。よく知ってるよ。それでね。ボクはね。シュガールが女の子だった場合のシュミレーションも万全なんだよ。だからね。安心してね。それくらいじゃ失望したり諦めたりしないよ。」


 はあ、さいですか。

 そもそも異世界でイチから創ろうとしていた相手なので、シュガールの記憶を外部に保存しておいて後からインストールでもしない限り元から別人だし、ずっと別人じゃないかと思うんですけど。


 後ろではクジョウさんが弓矢を構えながらタイミングを見計らっているが、マリはバリアを一瞬も途切れさせない。


「それにね。ボクはね……このマリ・アンボトはね。魔女ちゃんたちに信仰される守護者なんだ。それでね。実はね。サバトを主催し司る側面もあるんだ。えっとね。だからね。毎週ね。サバトを催したりしているんだよ。シュガールが居ない間はね。魔女ちゃんたちだけとか結構あってね。いろいろあってね。だからね。女の子でもバッチコイなんだよ。」


 ポッと赤面するマリ。

 リュミドラは呆気にとられる。何を言っているのか分からないという表情だ。


 マリが消える。瞬間移動。リュミドラの直前に転移する。

 そしてリュミドラを両手で押さえつけるように抱きしめ。問答無用で口づけをした。

 

「ンンー!!!」


 動転したリュミドラが暴れるが、ガッシリ掴んで離さない。ガランと剣が落ちた。

 うぁわ……あれ舌いれてるよ。


 突然のレズ宣言+濃厚なレズキッスに場が凍る。


 クジョウさんが無表情に矢を撃ったが、マリの片手が動いて矢を掴み取――ろうとして矢がひょいっと軌道を曲げた。

 マリの横っ腹に矢が刺さる。


「は――?」


 今度はマリが呆気にとられる。矢は深く刺さって逆側から突き抜けた。貫通した。

 デスエンカと思われた強敵が傷を負った。しかも結構な重症じゃないのかあれは?

 クジョウさんの方を見る。


「風魔法のちょっとした応用。」


 矢が軌道を曲げた原理だろうか。風魔法って……すごい。


 クジョウさんは次の矢をつがえ、無言で魔法の集中にはいる。あの一撃は連続では撃てないようだ。

 集中時間ゼロで魔法を連打できるのは俺の知る限りルビーだけである。


 クジョウさんが集中している間、リナリーアさんが周囲を警戒しオーク兵士の襲撃から護衛していた。

 夫婦特有のコンビネーションか。



「こぉんのお……オーラブーストドラゴンテイル!」


 マリの両手が離れ、拘束から解き放たれたリュミドラが後ろ回し尻尾でマリの横っ面を張り倒す。

 そのままこっちに逃げてきた。


「わーん、お父様へ捧げるファーストキスが取られたぁ!」


 恥ずかしいことを叫びつつリュミドラがこっちへ突進してくる。


 おい。まさか。やめろ。


 ああ、ギルマスのオーラブーストタックルってトリケラトプス吹っ飛ばす威力だったよな……


 リュミドラは流石に俺の直前で立ち止まり、俺を押さえつけてキスをした。

 この捕まえ方はさっきのマリと同じじゃないか。


「んー!!」


 落ち着け。キス程度ルビーで慣れている。

 熱出して寝込んだときとか口移しで薬飲ませてきたし。あれ、それだけだっけ。それだけだ。


 リュミドラの身体はとても柔らかかった。

 気功戦士タイプのせいかルビーより大柄で背が高い。胸もルビーより大きい。そして全身がすごく柔らかくていい匂いがする。


 舌が絡み合う。情熱的なキスだ。貪るようだ。足も絡んでくる。密着した身体が動くたびに興奮度が増す。否応にも心に火をつける。

 こんなのどこで覚えた……さっきか。


 朦朧とする意識の中、撤退していくオーク兵士と、マリと戦っているクジョウさんとマクバーン、ルビーが見えた。


 クジョウさんはマリに矢を数発当てたようだ。


 マクバーンは拘束魔法が効いたままだが、足は拘束されてなかったので足の爪で連続蹴りを放っている。


 ルビーはマリや、撤退中のオーク兵士たちに魔法を連射して攻撃を加えている。


「ハイ・サイクロン!」


 マリは足止めに業を煮やしたのか、嵐を呼ぶ風魔法の大技を使って邪魔者すべてを遠くへふっとばす。


 リュミドラがいるおかげか、ハイ・サイクロンの効果範囲にはいっていなかったので俺とリュミドラは吹き飛ばすに済んだ。まだキスは続いている。


 ハイ・サイクロンで発生した風に乗って、こちらにマリが近づいてくる。


 それを横目で見たリュミドラがビクッと震えてキスを中断、唇を俺から離した。唾液が糸を引く。


 マリが目の前にやってくる。相変わらず空中に浮いたままだ。



「えっとね。あのね。お父様。娘さんをください。幸せにします。必ず。」


 ……なに?


 何を言っているんだこいつは。


 上級魔族はみんな頭がぶっ飛んでるのか。


 アンリも相当ぶっ飛んでたけど、マリも別方向にぶっ飛んでる。


 というかマクバーンは力ずくと脅迫で奪おうとしていたのに、なんでリュミドラは会話でお願い……交渉なんだ?


 そんなに穏便な形で手に入れたいのか?


 だが、くださいと言われて気軽に『はい』とは言えない。俺はガチャ娘の面倒を見る義務がある。

 駄メガネのかけた制限だ。



 それに、生まれたばかりのガチャ娘だぞ?

 何も知らない娘を生まれてすぐ他人に預けるとか、『無い』だろう。


 たとえ相手が上級魔族といえどもくれてやる訳にはいかない。


 ……上級魔族か。

 相手は上級魔族。上級魔族。魔界の実力者だ。魔王の側近なのかもしれない。俺の敵だ。

 敵――。


 思考のさなか、いち早く体勢を立て直し弓矢を構えるクジョウさんが見えた。


 マリを見る。最初の弓矢が貫通した脇腹を手で押さえている。


 さらによく見ると、肩や太ももに矢がかすって吹き飛んだような傷口があったり、赤いコートの裾が破けて無くなっていた。クジョウさんの攻撃だろう。通じている。なんだあの人。上位魔族の影を平然と傷つけるとか超高レベルキャラなのか。前々からレベル高いなぁとは思ってたけど一度も具体的なレベルを教えてもらってない。

 俺にとってマリはレベル差がありすぎて戦ったら死ぬデスエンカだが、クジョウさんにとっては戦いになるレベル範囲なのかもしれない。


 そうか、マクバーンのように『奪う』のではなく、『交渉』に切り替えてきたのはクジョウさんの攻撃が通じているのもあるからか。こちらの力を認められたのだ。


 俺はクジョウさんに手で合図して、いったん攻撃を止めてもらった。


「ん。」


 クジョウさんは頷く。

 ただし弓矢の構えはそのままだ。いつでもマリに渾身の射撃を撃てるよう、用心深く待機する。


「リュミドラを必ず幸せにするって本当?」


 俺は魔王と戦わなければいけない。


 魔王と戦って勝つ。

 そのためにここに居る。転生して生きている。


 だが、魔王に勝てるのか?俺が?魔王の強さは誰にもわからない。目の前のマリ以外は。

 魔族は強い。強かった。上級魔族は恐らく何人もいる。ニクスキー、リュウスキー、エルフスキー。


 そんな連中に俺は立ち向かわなければいけない。

 力が、ほしい。


 だが、それよりなにより情報がほしい。


 知らないのだ。この世界の誰も。クジョウさんも、マクバーンも、魔王のことを知らなかった。魔族についてさえ、人類の天敵、侵略者。精神生命体。フォートレスコアの取り合いを競う相手としか認識されていない。


 こいつは、強い。情報も、持っている。


「うん。幸せにするよ。必ず。約束するよ。」


「じゃあ魔界を裏切って俺の仲間になれ。」




 俺は娘を売った。



「魔王のことを教えろ。魔界のことを教えろ。魔族のことを教えろ。そして共に戦ってくれ。俺と一緒に魔王を倒せ。……それでリュミドラを口説くことは許してやる。嫁にやるかどうかはそれからだ。」


 ギリギリで踏みとどまる。本人の自由意志が大事だよね。

 いや、それは欺瞞だな。――すまない、リュミドラ。本当にすまない。許してくれ。


「わかったよ。仲間になる。魔王のことを教える。魔界のことを教える。魔族のことを教える。そして共に魔王を倒そう。マリ・アンボトの名において約束する。」


 俺とマリは合意した。

 契約は成立した。


「お父様……?」


 抱きついてるリュミドラが嘘だろ……という表情で見上げている。

 アカン。病みそう。

 一歩間違えば刺されそうだ。


「えっとね。あのね。これで親公認だね。頑張ってモノにするから。してみせるから。」


「お父様ああーー! なんでー!!??」


 リュミドラの叫びが魔女の山にこだました。

誤字等ご指摘願います。

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