一万人の豚獣人(※オーク騎士視点)
※今回のお話は、オーク騎士の視点です。
「あ、痛い!痛いわ。殴られた頬がズキンズキン痛い!ああ、なんてことかしら。鏡、鏡ありませんこと!?アザになってたら大変だわ。あたくしの国宝級文化財王室財産人類至宝永劫保存傾国無窮の大事な大事なお顔が傷ついたなんて絶対に許せないわ!」
さっきまでパンツを脱がせようとしていたご主君様が頬をおさえてうずくまる。
大げさなアクションだ。それほど痛いのであろうか。当然か。あのオーラをまとった拳に殴られたら普通、肉塊になってると思うのだがさすが上級魔人が憑依した肉体。『痛い』だけで済んでいる。さすがご主君様。さす主。
「ブヒー!(ご主君様、あいにくと手前には鏡に持ち合わせはありませんが、魔界のツールを使えばよろしいかと。)」
「魔界のツール?ああ、そんなのもあったわね。えっと……これか。って、そうじゃないのよ。あたくしが求めているものがわかる!?」
「ブヒー!(お求めなものとは……申し訳ありません、はっきりとお伝え下さい。)」
「もうー!気が利かないわね。イラっとするわ。わたくし傷ついたの!?わかる?殴られたの!?ひどいでしょ!?」
「ブヒー!(ご主君様は彼らの命を奪うためにここまで来たはずです。それはつまり戦場です。戦場で傷つくのは当然です。)」
「そういうことじゃないのよ!あたしの傷を心配してよ!?おもんばかってよ!ちやほやしてよ!優しくしてよ!それが男でしょ!男の甲斐性!女の癒やし!」
「ブヒ。(そうですね……初太刀で倒れず、軽傷ですんだことは僥倖でした。これは、命を落とさずに戦の心構えがひとつ学べたと言えます。この積み重ねをもって我らが主君としてこの先も油断をなさらず成長していってください。)」
「ちーがーうーわーよー!そこは!やさしく!『痛かったね』とか!『ひどいね!』とか!共感を示して!あたしの心を癒やしてよ!かまってよ!そういうことが聞きたいんじゃないのよ!」
「ブヒィ(うわぁ。……あ、ご主君様。魔界のツールが起動しています。)」
ご主君様の手元にある、薄い板の形をしたツールが光っている。
「どうやって使うのかしら……ああ、オーカスの知識が教えてくれたわ。自撮りモードでカメラ起動……共有?動画配信?なにそれ面白そう。選択……マカマカ動画へ。チャンネル作成、スタート。」
画面がすごい勢いでパッパと切り替わって、ご主君様の顔が映し出される。
殴られた頬は青黒く腫れ上がっていた。
「ああ~ひどいわねえ。絶対アザになるわよこれ。」
『あちゃー』
『どうしたんだいオーカス配信とは珍しいね』
『あたらしい顔、いいね!』
「あら、コメントついてるわ……いいね!だって。ありがと☆」
『その背景、ひょっとして異世界?』
『ワオ! やるじゃんオーカス』
『いまどこの世界?位置情報教えて』
「位置情報?いいわよ。ほらここよ。この異世界。」
『ありがと。』
『それより顔どうしたのオーカス』
『それメイク?入れ墨?』
『スカーフェイスはただでさえ通好みだけど痣ショタはニッチにすぎる』
『別の顔にしたほうがよくない? よくなくない?』
「それがね、聞いてよ~。大柄で野蛮な蛮族に殴られちゃったのよ~。ひどいでしょ。いきなりよ、いきなり。バゴーンって。」
『そりゃひどい。』
『許せないね』
『報復はよ。こちとら復讐でメシ喰ってるんだ。それで信仰集めてんだ』
『蛮族ktkr 最近の魔族は原始時代を知らないから困る』
『やれやれ』
『その割には嬉しそうじゃない?気の所為?』
「あら、わかる~?皆優しいわぁ。あ、フォロワー増えてる。どんどん増えてるわぁ。タグも増えてる。遠征ナウ?多分そうね。いいじゃないいいじゃない。気分良くなってきたわぁ。」
『いまきた産業』
『ドラゴンはよ』
『エルフマダー?』
ご主君様はすっかり魔界ツールに夢中になってしまった。
ここは一つ、御身が未だ戦場にいることを忠言しなければいけない。
「ブヒー!(ご主君様!ここは戦地です。敵を倒しに行きましょう!)」
「ちょっとまって、なんかお見舞いと応援でフォロワーが魔界コイン振り込んでくれるんだって。何に使えばいいかしら。まず防御スキルは取るとして~。やっぱり衣装?ライブ用の衣装が足りなかったのよねぇ。」
「ブヒー!(それならば、まず兵力です!兵士はいればいるほど助かります。)」
「もう!気が利かないのね!そこはライブ衣装いいね!するところでしょ?なめてんの?チ●ポだして。詫びチン。」
「ブヒー!(お許し下さいご主君様!)」
「まぁいいわあたくし心が広いから。感謝しなさいよ。末代まで褒め称えなさいよ。記念碑建てて毎日礼拝しなさいよ。えーと兵士兵士。オーカスが事前に用意してた一括パックがあるから、ワンクリックでポチッちゃお。」
その瞬間、山を覆い尽くすほどの一万人のオーク兵士が魔界のエネルギーを受けてこの世界に生み出された。
それは荘厳で、勇ましく、この上ないほどに奇跡だった。
この世界のオークという、亜人の、人種の、総人口が、一気に、一瞬で、一万人も増加したのだ。
これを奇跡を言わずしてなんという。
「オークナイト部隊、抜剣!」
「オークソルジャー部隊、抜刀!」
「オークファイター部隊、捧げ斧!」
「オークアーチャー部隊、構え弓!」
「オークグリフォンライダー部隊、空中展開!」
「オークトリケラトプスライダー部隊、地上展開!」
「オークメイジ部隊、抜杖!」
「オークシャーマン部隊、抜枝!」
「オークアルケミスト部隊、前方待機!」
「オークヒーラー部隊、後方待機!」
……これは勝ったな。
戦いは数だよ、ご主君様。
誤字等ご指摘願います。




