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血のつながっていない貧乳の妹(大嘘)

 マクバーンの鉄拳炸裂。

 右手が、いや全身が蒼いオーラで包まれている。冒険者の職業クラスの一つ、気功戦士オーラファイターのスキルだ。肉体や武器を生命力のオーラで包み込み、前線で戦う職業である。

 オーラの色は種族や性格によって違い、蒼は冷静な人物や水棲系種族に多いカラーだ。


 金色の髪が宙に舞う。髪の毛が分離して飛び上がった。


 首が飛んだ!?

 ……いや、カツラだ。ボリュームが多い豪奢な髪の毛はカツラだった。

 カツラが外れ、地毛の黒髪が露出している。長髪で艶のある髪の毛だった。


「な、何をなさいますの! 痛い!痛いわ! ぶたれた! 粗野で野蛮な殿方にぶたれたわ! ああ、痛い。熱い。切れた、口の中が切れたわ。血、血が出てますのよ! ああ、ひどい。ひどいわ。こんな仕打ち初めてよ! 責任者出てきなさい! この野蛮人を奴隷にして! 奴隷階級に落として! 奴隷よ! 四肢をちぎって見世物にするわ!」


 黒髪の姫?は美しい顔立ちをしていた。だが、どこか不自然だ。

 そして甲高い声できゃあきゃあ。長い。うるさい。口から生まれたのかこいつは。

 痩せぎすで不健康そうな骨ばった腕を振り回してマクバーンを指差し、奴隷奴隷と連呼する。

 マクバーンは冷静に切り返した。


「ジェニー姫様? ふざけんな。俺は王族全員の顔と名前を覚えてる。貴族の詐称は重罪だぜ。あとテメエ、臭い。香水で誤魔化してるが血の匂いしかしねえ。」


「……奴隷ってこの世界じゃ存在しない言葉だね。それを口にしたということは、転生者か転移者だ。」


「確かに聞いたことがないですね。」


 クジョウさんが俺にだけ耳打ちする。

 ああ、この世界に奴隷制度は存在しないのか。ずいぶん優しい世界なんだな。

 2018年の地球ですら、どこの国でも誘拐や奴隷売買が秘密裏に横行して不幸を量産していたのに。


「この髪の毛、見覚えがあるぜ。第二王女フィーア様の頭皮をそのまま剥いだな? 人毛カツラならぬ人皮カツラだ。」


 マクバーンが金髪を拾って俺たちに見せる。裏側に固まった血がべっとりこびりついていた。


 第二王女フィーアって……妹だ。俺の。同じ父母から生まれた。一度だけ会ったが、その時相手は俺のことを知らなかったし、兄と気づかれもしなかったので、ただの他人としてすれ違っただけだ。あの子の髪の毛……。たしかに、ボリュームが多い明るい金色の髪の毛だった。


 そんなものをかぶっていたのか。こんな事をしたのか。それだけで相手が異常者で外道だとわかる。


「フィーアは……どうした?」


「お兄様、助けてお兄様! この男がわたくしをいじめますの! 来て! 一緒に王城へ帰りましょう!」


 地面をのたうって憐れさを誘う声音で誘ってくる。ゾッとした。こっちを無視して一人で喋ってる。

 伸ばしてきた手を、マクバーンがオーラをまとった足で蹴飛ばす。

 

「いい加減にしろドラァ!」


「その子、男の子だね。骨格が男だ。下半身は広がったドレスで隠してるけど、痩せてるし、すぐわかる。」


 クジョウさんの言葉で全員の動きがピタッと止まる。

 ……マジ? 女装少年?


「ふふふ……義理の妹とは嘘ではありませんのよ。わたくし、第三王妃の連れ子で……」


「オーラブーストクラッシャー!」


 マクバーンがアンダースロー投げから放ったオーラの奔流が、偽王女を吹き飛ばす。

 遠距離を攻撃するオーラファイターの上級技だ。


「オーケーわかった。第三王妃の連れ子といえば、素行不良で幽閉されてたウァリウスだ。おっと、この国に来てからは改名してアンリだったっけ。もちろん男だぜ。」


 言われてみればそんなのも居たような気がする。

 十歳程度にして侍女に暴行したとか、近衛兵を誘惑したとか、他の王子王女に悪事を吹き込んで悪の道に誘おうとしたとか悪い噂だらけで逆に不遇なんじゃないかと思えるほど現実離れしてた子供だ。


「おおかた、魔族が憑いてこの騒ぎを興した張本人、あるいはそれに近い立場の野郎だな。ここに来たのも、王城を襲撃した時に関係者を拷問かなんかして、隠された直系男子の存在を知って大急ぎで来たんだろ? 王位継承者が残ってるとフォートレスが出現しないからな。」


 ……と、いうことは王族側には俺が生きてることも、この魔女の山にいることも知られてたのか。

 王位継承権抹消されたと思ってた。


「きゃはっ……なにこいつ。無礼にもほどがありましてよ。ああ、よく見るとこんな山小屋に男が三人。逞しく野蛮で無礼で手の早い蛮族に、冷静そうな超美形とスキがない構成ですわ。全部お兄様の情夫なんですの? ホモチ●ポ乱交ハーレム形成済みですの? いいなぁ。わたくしも入れてくださいまし。みずみずしい肌のうるおいとケツマ●コの深さには自信がありましてよ。あらまぁ! 黒●女奴隷端女までいるなんて……わかりますわ。黒●女は性欲が強いから前と後ろで二人分のメスマ●コになりますものね。お兄様のエッチ(はーと)絶対わたくし達気が合いますわ。体の相性もいいか今すぐ試さないといけませんわね。ささ、お兄様オチ●ポ出してくださいまし。あたくしの絶頂フェ●テクで天国にイカせてさしあげますわ。」


「えー……」


 どうしよう。ツッコミが追いつかない。

 こいつは相手にしないで無視したほうがいい人類だ。


 ガサガサと茂みが揺れて、グリフォンに騎乗した全身鎧の騎士が現れる。そのままの勢いで庭を突っ切り、こちらへ向かってきた。ランスと呼ばれる突撃騎兵槍でマクバーンを引っかけて突き殺す動きだ。


「クジョウ、止めろ。」


 マクバーンの号令でクジョウさんが矢を放つ。グリフォンの胸の中心に刺さった矢はそのまま後ろまで突き抜け、胴体が消し飛んで大穴が開いた。グリフォンの首と手足が一瞬で引きちぎれて分解、背中に乗っていた騎士が投げ出される。

 クジョウさんが弓を射るのは初めて見たけど、ありえない威力と貫通力だ。弓矢の攻撃に特化したボウスナイパーの本領発揮か。


 グリフォンを失った騎兵は全身を地面に打ち付け、兜が外れて転がった。その顔は豚そのもの。豚獣人オークだ。オーク騎士はよろよろと歩き、ウァリウスことアンリをかばう。


「ブヒッー!(ご主君様、隠れていろとのおおせでしたが、その御身をお護りすることをお許しください!)」(オーク語)


「何お前……慰めてくれるの? ああ、いいのいいのグリフォンなんてまた騎士ごと召喚できるからさ……それより、慰めてくれるならやることはわかってるよね……そう、チ●ポさ。」


 アンリが起き上がってオーク騎士の腰にすがりつく。片手を鎧の隙間から股間に手を入れて、もう片方の手で鎧のベルトを外していく。


「ブ、ブヒッ!?(おやめくださいご主君様! オークの男児はオークの女人としか交尾いたしませぬ!)」


「グリフォンの後ろに乗ってるときからさぁ、お前のオチ●ポが気になって仕方なかったんだよぉ!おら脱げ!脱いでその立派なチ●ポ出せ!」


「一旦引くぞ。」


 マクバーンが俺たちを隠者の家の中へ誘導して扉を締める。

 外ではオーク騎士がアンリにのしかかられていた。悲鳴が聞こえる。


「作戦を説明する。あいつに取り憑いているのはほぼ間違いなく上級魔族だ。俺が何発殴っても死なない強靭さ、そして高レベルのオーク騎兵を召喚して従えていること。これらの点から、オーク種族の創造者、豚の王ニクスキーと呼ばれる上級魔族と見て間違いない。」


 一同が凍りつく。

 上級魔族はヤバイと話題に出た直後だ。しかもオーク種族の創造主? 半端ない。ニクスキーという名前は置いといて。

 そこへクジョウさんが補足を入れる。


「ニクスキーって人間側がつけたあだ名で、上級魔族の本名は誰にもわからないんだよ。……ってのは置いといて、どうするのギルマス?」


「倒すのさ。ここで。あいつを倒せば、王都に出た魔族どもは総崩れだ。」


「そうだね。わかったよ。」


 クジョウさんの質問にマクバーンが返す。

 あっさりとしたものだ。種族一つ創造してのける上級魔族を、この場で倒すと断言する。この男たちは何者なのだろう。


「幸いここには金等級が三人いる。が、万全を期そう。スタールビーはヒョーとリナリーアを連れてディメンションゲートで王都に戻り、冒険者ギルドに行ってくれ。」


 金等級とは……間違いなくスタールビー、マクバーン、そしてクジョウさんの三人だろう。


「そこに俺の留守番で最低一人は金等級がいる。そいつを連れて戻ってきてくれ。」


 マクバーンはルビーを使って王都から増援を呼ぶつもりだ。


「ゲート出口に出た後、ヒョーをリナリーアに任せてギルドまで飛行して行けば、門で止められても三十分位。ギルド受付で事情を説明すれば待機してる金等級が出てくるから約二十分、最後にそいつ連れてゲートで戻る。その間一時間弱、俺とクジョウで遅滞戦闘をして耐える。そうすれば一時間後には金等級四人でニクスキーに当たれる。」


 ディメンションゲートは複数人が一度にテレポートできる空間を歪めた門を作り出す魔法だ。


 保安上の関係から、直接街の中に転移することは禁止されているので、街の外にある専用の広場でなければ出口としての事前登録ができない。

 ルビーはゲートの出口に王都と、この隠者の家の庭を登録している。個人差はあるが一人につき三~五ヶ所を登録できる。


 広場に出現した後は、市壁の門を通る必要がある。

 門を無視して空を飛んで市壁を超えると、関所超えの不法侵入とみなされて弓や魔法で攻撃を受けて撃墜される。

 そのため、門に並んで王都に入る手続きしてから、街中を飛んでいくことになる。


 しかしそれは、一時間たった二人で耐えるということだ。


「俺も戦えます。」


「わ、私もやれますよ。これでも銀等級の冒険者です。」


「駄目だ。まず、敵の狙いはあくまで、ヒョーおめぇだ。おめぇが死んだら終わりだ。フォートレスが出現しちまう。ヤツがここまで一人で出張ってきたということは、もう他の王族は全員死んでる。」


 あ……第二王女で実妹のフィーアは……もう駄目なのか。王城が魔族に占拠されてる上に、頭皮を剥がれてたらなぁ……生死は絶望的って最初にギルマスが言ってたよな。

 ああ、俺の手が届かないところでいくらでも人って死んでいくんだな。


「戦力としても、冒険者登録してないヒョーは論外。リナリーアも緊急時ならともかく退避するチャンスがあるなら、銀等級の参加は認めらんねえ。」 


「ギルマス、ヒョー君は強いよ。僕が保証する。」


 マクバーンの決定にクジョウさんが止めに入る。


「上級魔人を相手にやれるほどか?」


「うん。問題ないよ。六年も一緒にいたしね。よく知ってる。大丈夫。」


 クジョウさんがこちらを見た。うなずき返す。


「ヒョー君、僕とスタールビーさんでつけた修行の成果、今こそ使うときだよ。」


「頑張ります。」


 腰の短剣を叩く。


「じゃあ……やるぞ。ヒョー、上級魔人の相手は俺がすっから、後衛の護衛を頼まぁ。こりゃあ役割分担だ。俺が死んだら、オメェが前衛張るんだぜ。クジョウも前衛ができるが、後ろから弓撃ってたほうが戦力になるからな。」


「わかりました。」


 初陣の相手は血のつながってない貧乳の弟かぁ……ん?

 

 覚悟を固めてるところで、ツンツンと背中を突っつかれる。

 振り向くと、ルビーがいた。いままで異常に静かだったのでおかしいと思ってたが……


「ヒョーちゃん。命令して。」


「え? ら、らしくないなルビー。」


 いつも元気で、強く、無鉄砲すぎるほど勇敢なルビーがどうしたんだろう?


「言ったでしょ。ヒョーちゃんもう大人だから、これから私を使うの。だから命令が必要なの。」


 ご機嫌ななめ……ってわけじゃなさそうだ。

 今まで逆転していた主従関係が、本来の形になる音がした。ガコンと歯車のように。


 こういうとき、どう言えばいいんだ?

 普段のルビーなら何の心配もなく任せられる。だけど俺が変な命令をしたら、しなくていいピンチになりそうだ。

 ガンガンいこうぜ? みんな頑張れ? 命令させろ? いのち大事に? 呪文節約? 呪文つかうな?


「……がんばれ、ルビー。」


 命令形にしないのは、せめてもの抵抗だった。


「がんばるわ。」


 ルビーが魔女の三角帽子を目深にかぶり、少し微笑んだ。

誤字等ご指摘願います。

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