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物語は動き出す

「オッス、ウィッス、チィ~ッス!!」


「帰れ!」


 ルビーが隠者の家のドアをバタンと閉める。

 やってきたのは王都の冒険者ギルド、ギルドマスターのおっさんだった。


「つれねぇなスタールビーちゃん。結構重要な用件なんで入れてくれや。」


「……しっかた無いわねぇ。あとちゃん付けやめろ。」


 ルビーが渋々といった様子で扉を開けて訪問者を入れる。

 隠者の家にやって来たのは、ギルドマスターのおっさん、クジョウさん、クジョウさんのお嫁さんの三人だった。


「よお坊主、久しぶりだな。俺を覚えてるか? ギルドマスターのマクバーンだ。」


「お久しぶりです。ギルマス。」


 マクバーンは赤いバンダナがトレードマークの髪を逆立てた作業服のおっさんだ。

 中年の割には筋肉質で腹が出てないどころか服の下では腹筋が割れてる。腕も太い。首も太い。

 冒険者ギルドの人気者で率先して肉体労働を行い、事務処理能力も高くて新人の指導も丁寧でやる気を出せてる、見た目によらず敏腕な組織の長だ。

 この人、十四年前から変わってないように見える。出会ったときに四十代だとしたらもう五十代か下手したら六十代のはずなのに。


「こんばんは。今日はお土産がないんだ。ゴメンね。」

「結婚式ではありがとうございました。」

 

 クジョウさんは六年経っても変わらない。ゲームのアバターに寿命がないとすれば、このまま千年も万年も生きられる可能性すらある。

 お嫁さんはダークエルフのお姫様で、名前はリナリーア。優しくおとなしい感じの容貌だが、ダークエルフの都市を一人で出て狩人見習いになるほどお転婆でアグレッシブだ。

 ふたりとも弓矢を背中に吊るし、旅装で大荷物だった。どこか旅に出るのだろうか?


「で、三人揃って何の用事? 今忙しいんだけどー。」


 訪問客の三人を客室に招いて、ルビーが問いただす。

 俺も横に座った。


「王都の王城が魔族に占拠された。王族の生死は絶望的だ。このままじゃフォートレスが出現しちまう。力を貸してくれ。王国の金等級ゴールドランク冒険者には全員声をかけるつもりだ。」


「んー、もうちょっと詳しく説明して。」


 ルビーが俺をちらちら見ながら言う。

 王都、王城、王族って……俺が生まれた場所で、俺の両親やその親戚だよな。そして魔族というのは、魔王の配下で人類の敵対的種族だ。ひょっとしなくても。親戚たちが大ピンチらしい。テロ組織に国会議事堂が占領されて人質を取られたようなものかな?


 フォートレスとは何だろう?


 あと、ルビーは金等級ゴールドランクという、金銀銅の三つの等級ランクある冒険者のうち最上級の資格もちである。


 銅等級ブロンズランクが駆け出し、初心者で、銀等級シルバーランクが一人前、ベテラン。大半の冒険者はこの二つのどちらかで、金等級ゴールドランクは極少数の優秀な冒険者にしか与えられない。能力の他に人格も大変重視される。ルビーも冒険者生活八年のうち、七年間は銀等級シルバーランクだった。

 

「ヒョーはフォートレス知らねぇか?」


「ええ、聞いたことはあるけど詳しくは知らないです。」


「ダンジョンは知ってるよな。洞窟や塔、放置された古城なんかのハコがダンジョンマスターによってダンジョン化してできる……『成る』ヤツだ。」


「それは知ってます。野良モンスターや悪の魔法使いがダンジョンコアを生成してダンジョンマスターになると雑魚モンスターが周辺から集まってきたり生まれたりして、モンスターの持ってる素材や武具のほか貴金属なんかの宝物も地下から出現してそれがランダム配置され、自動的に形成されるんですよね。」


「そだな。それらが迷宮内で循環を繰り返して、年月を経た古いダンジョンほど手強くなる。」


「冒険者の基礎知識ですね。」


「フォートレスってのはダンジョンの凄いバージョンだ。この世界は無数にあるフォートレスとフォートレスコアにより支配されている。フォートレスを踏破してフォートレスコアを手に入れたものは、その周辺の土地の天候や川の流れ、地下水脈なんかを操作できるようになる。」


「へえー。日照りとか水不足が起こらなくなるんですね。食糧生産しやすくなって人口増えますね。」


「俺たちの住んでた王国は、とてもでけぇフォートレスコアで支配された広大な支配地域そのものだ。王国の開祖が超大型フォートレス『ピレイネ』を攻略し、興した国がピレイネ王国。王族はピレイネ王家となった。そしてピレイネ王国の領土はみんなピレイネのフォートレスコアの支配下だ。」


「へえー……国境が歴史以外の根拠ではっきりくっきり線引されてるんですね。」


 全く知らなかった。

 いつも会話では王国や王都で済ませていたから、ピレイネって名前すら忘れていた。普段使わないんだもん。


「フォートレスはこの世界のありようそのものだ。フォートレスを攻略するために周囲に人が集まって、街ができる。フォートレス門前町だ。王都も、もともとはピレイネフォートレスを攻略するために集まった冒険者達の村がはじまりだったんだぜ。」


「フォーレスを攻略すると、攻略したパーティのリーダーが自動的に支配地域を治める領主という事になっちゃうんだよ。天候を操作する力という裏付けがあるから、領地内に存在する村から人頭税や雨乞い料だって取ることができる。だから、冒険者の求める財産や名声や権力を一気に手に入れることができるんだ。」

 

 クジョウさんが補足を入れる。

 冒険者をやっていたときは、フォートレスとは縁がなかったのでそこまで詳しくは知らなかった。ダンジョンなら、何回もルビーと一緒に潜ったりしたけど。


「えっと、じゃあ、この辺境は?」


「ここの辺境は、まだフォートレスの入り口が見つかってねぇな。よくあるんだ。そういう地域は。」


「フォートレスの入り口が見つかれば、そこに門前町ができて人が集まってきて、都会みたいに賑やかになるだろうね。食料のほか武器防具、回復薬なんかの冒険につかう道具もよく売れる。商業が活発になって人も家もどんどん増える。ゴールドラッシュならぬフォートレスラッシュって現象が起きるんだ。」


「フォートレスコアに支配者が居ない、支配されてない土地は、門前町以外は人気がねえ。いつ災害が起こるかわからねぇからな。あと、徘徊するモンスターのレベルも高めになる傾向がある。洪水や飢饉やモンスターの襲撃で死ぬリスクがある所よりは、安全な土地に人が集まるのさ。」


「そうなんですか……この辺のモンスターは全部ルビーが駆除してたので知りませんでした。」


「そりゃ、相当スゲェことだぜ。愛がなくちゃ出来ねえよ。……で、フォートレス支配者の居ない土地で村を作るのは、税金も払えないほど貧乏だけど街外れのスラムでは暮らしたくないって自然派か、よほどの物好きか、犯罪者か人間関係や政治関係で追放された連中なんかの訳ありって判断されるぜ。」


「じゃあ、この隠者の家って……変わり者が住んでたの?」


「うん。変わり者だったよ。ちなみに僕が管理している森は半分が王国の最外周にあるから、ギリギリ領土ってことになってるよ。」


 隠者は変わり者で、ルビーと俺は訳ありだな。

 間違っていない。


「えっと、皆さんが数日前までいたダークエルフの都市も、古い時代に見つかっていたフォートレスをダークエルフ一族が攻略して、それからずっと支配している地域なんです。そうすると自然と各地からダークエルフが集まってきます。攻略した人の種族が優遇されやすいので、同じ種族が集まる傾向があるんですね。」


 リナリーアさんが解説する。ダークエルフの都市にも人間族や獣人族はいたけど少数だった。ダークエルフが圧倒的多数だった。

 そういう理由があったのか。


「優遇といっても、税金が安くなるとか仕事や家探しの口利きがしてもらいやすいというだけで、犯罪をしたら普通に逮捕されます。」


「それだけでも十分だと思います。」


 周りが同族だらけでその待遇なら、居着いてもおかしくない。

 

「じゃあ王国は人族が優遇……されてたっけ?」


「王国は特別でな。領土があまりに広すぎたことと、王国の開祖が多種族に寛容だったんで、王国の方針として人族優遇政策はやってなかった。それやると、あちこちで人手不足になるんでな……で、だ。王族が全滅すると、正確には王位継承権の候補者が途絶えると、フォートレスコアの管理者が不在になってフォートレスが起動する。そうなると、ピレイネフォートレスが復活する。」


「フォートレスが復活するとどうなるんですか?」


「王家……領地の支配者が不在となり無政府状態に陥る。王国の領土で起こる災害を防げなくなる。治安は悪化し犯罪が増え人心は荒廃する。フォートレス攻略のため冒険者が世界中から集まってくる。それまでの貴族や騎士たちは他国へ亡命するか、ボランティアで自警団をするか、冒険者になってフォートレスに向かうかだ。まぁ大体が冒険者になる。次の国王を目指してな。」


「はえー。自警団しても次の領主がそのまま引き続き貴族にしてくれるかはわからないんですよね。」


「うん。ただの村人に落とされて騎士団を取り上げられる可能性もあるね。フォートレスコアを支配しているだけで領土内での武力や補給で勝利してるんだから。そういうわけで、誰も彼もがフォートレス門前町に群がるのさ。」


「ここで事態をややこしくしているのが魔族でな。魔族とは魔界という異世界からやってくる精神生命体だ。本体は魔界にあって精神だけこの世界へ飛んでくる。魔族は魔王崇拝者や、絶望してたり力を渇望している者の前に現れ、憑依して力を貸す。その目的は、この世界を侵略して第二の魔界にすることだ。だから魔族もフォートレスコアを積極的に狙っている。」


「魔族がフォートレスコアを取って領主になったら大戦争が起きるっていうね。もっとも、何百年もそういう事態にはなってないそうだけど。大昔に魔族がフォートレスコアを取ったときは領地に軍隊を入れても天候操作の落雷や洪水で散らされちゃうから、勇者という名の暗殺者を少数精鋭で送り込んで解決したんだって。」


「魔族には魔王、上級、中級、下級の4つの区分があります。下級中級もかなりの強敵ですが、上級魔族は本当に凄まじい力を持っています。この世界で生きる生物をいくつも創造しています。ダークエルフも、エルフの美しさに感動した上級魔族エルフスキーが創り出した魔族側の生き物でした。しかし、魔界を知らないダークエルフはエルフスキーと袂を分かち、この世界の人類側の味方となりました。ダークエルフに伝わる古い伝説です。」


「エルフスキーって何さ……」


「イカスミ料理を食べ過ぎたエルフがダークエルフの祖先って伝説や、インク壷をひっくり返したエルフが祖先って伝説もあるから、まぁ話半分にね。だけど、上級魔族はそれだけ凄まじい存在って事を、リナがわかりやすく教えてくれたのさ。」


 リナとはリナリーアさんの愛称だ。

 クジョウさんやリナリーアさんの家族がよく呼んでる。


「お熱いねえ。」


 マクバーンは結婚式に呼ばれてない。

 だが、クジョウさんとはとても親しげだった。まさかクジョウさんも冒険者だったのか?


「状況はわかりました。それで……ルビー?」


「ヒョーちゃんに任せるわ。もうヒョーちゃん大人だもんね。大人と認めるわ。だから、今度からヒョーちゃんが私を使うの。」


「「「大人っ……!」」」


 三人の来客が盛り上がる。


「はえー月日が立つのははええなあーあの赤ん坊がなぁ俺がおっさんになるわけだわ。」

「僕は、出会ったときからヒョー君が見た目より大人だとわかってたよ。でも、そうかぁ。そーおーかーあぁー。」

「えっと……おめでとうございます?」


「ち、違うっ!違うよ。そういうのはまだだから!」


 三人が盛り上がる。ちがう。まだヤッてない。ヤる寸前だった気もするけど。

 でもなぁ。ルビーが俺のものだと思ってるのはなんか抵抗がある。ルビーはそれで幸福なのだろうと思うから、俺の問題なんだけど。


「スタールビー、ヒョーにどこまで話した?」


「全然まだ。」

 

「なら、俺から話していいか?」


「仕方ないわね。」


 マクバーン……?

 ギルマスのおっさんが真剣な表情になる。


「お前らの事情はスタールビーから聞いてた。事の起こりは十四年前……」


 ドンドンドン! と隠者の家のドアが叩かれる。気勢を削がれた。

 家の外から声が聞こえる。


「お兄様お兄様!ここにいるのですかお兄様!!きゃはっ!」


 でかい。大声だ。

 しかもなんか気持ちが悪い声だ。声変わり前の子供の声なんだが、妙な熱気を感じる。良くない熱だ。


 ルビーと顔を見合わせる。

 ああ、山の結界が反応してないな。家の外の、こいつは誰だ?


「お兄様? この家にいる男の子は、ヒョー君だけだよね。」


「わからないです。妹は……いるけど俺のことは知らないし。俺より年下の知り合い?王都の知り合い?冒険者仲間?この山奥まで?ないな。」


「敵か? 敵だな。俺に任せな。」


 全員で玄関の前に集まる。

 マクバーンがドアを開けた。


「誰だい?」


 ギイ、とちょっと古くなったドアが開く。


 外にはボリュームの多い豪奢な金髪の、姫君のようなドレスを身にまとった痩せて小柄な子供がいた。胸元は隠れてて平板だ。

 年齢は12歳程度。

 その子供は俺たちを一瞥すると、俺に向かって歩きだしてきた。

 

「ああ、お兄様!? わたくし、あなた様の義理の妹でジェニーと申します! お兄様を追放して山に追いやった父上に反対し、お兄様のお味方をするためにここまでやってきましたわ! さあ! わたくしと一緒に王座を取り戻しましょう!!」


「オーラバトルナックル!」


 ドゴッシャア!!

 蒼いオーラをまとったマクバーンの鉄拳がジェニーの横っ面を容赦なく引っ叩き、殴り倒した。

誤字等ご指摘願います。

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