ルビーと初恋
隠者の家で六年が過ぎ、俺は十四歳になった。
背はグングン伸びてルビーを追い越し、体格も大人とそれほど変わらなくなった。
ここ最近で一番のイベントといえば、それはクジョウさんの結婚式だろう。
数年前に狩人見習いの弟子をとったが、恋愛的な意味で迫られて、性的な意味で喰ってしまったので責任をとって結婚するという。何ということだ。爆発しろ。
転生で一度死んだ俺と違って、クジョウさんは百年以上異世界で過ごしても『まだ現実で生きてる』という意識が強い。
『現実世界に戻りたい。帰りたい。帰るよ。何があっても帰る。家族が待ってる、仕事がある、やり残したことがたくさんあるから。』以前、真顔でこんな事を言ってたのにえらい心変わりである。
現実世界に戻るのを諦めたのか、と聞いてみたら、奥さんには全部話して事情も知ってるし、いきなり消えて帰ってもしようがない。恨まないと約束したらしい。
なんて理解のある嫁さんなんだろう。
そんなわけで、結婚式にお呼ばれした。
魔女の山は辺境に所在するが、更に奥地にはダークエルフの都市がある。
嫁さんはダークエルフで、その都市の出身だった。
結婚式に友人枠で呼ばれた俺とルビーは二人で短い旅をしてダークエルフの都市を尋ねた。
招待状を門番にわたすと、あれよあれよと中心にある城に連れて行かれて正装させられた。
なんと、クジョウさんの嫁さんはダークエルフの姫君だという。
王族の結婚式はそれはもう華やかで賑やかで、宴は三日三晩盛大に続き、隠者の家に帰ってきたときは俺もルビーもヘトヘトになっていた。
それからだ。ルビーとの距離がちょっとよそよそしくなったのは。
ダークエルフの都市では客室が男女別だったのでお互い一人で寝ていたのだが、帰ってきてじゃあまた一緒のベッドで……という雰囲気ではなくなってしまった。
お互い妙に意識してしまって落ち着かない。
一緒に寝るのを恥ずかしがるルビーが妙にかわいい。
そんな状態は、俺の居心地が非常に悪い。悪かった。そう、不健全といえる。俺は即断即決すると、ルビーに真正面から話をすることにした。
「ルビー、結婚しよう。」
「!」
……単刀直入真正面にぶっこんだが、ちょっとムードが足りなかったかな?
こういう事は手をつないでデートしてディナーの後に観覧車か夜景のいいバーでいい雰囲気になってから切り出すべきだったか。
「俺たちもお互いいい年だし……じゃない。これからも、一生、俺のそばに居てくれ。俺と一緒に幸せになってくれ。だから、結婚をしよう。」
「……」
ルビーが感情のない眼で俺を見てる。
なんだか汗が出てきた。何か間違ったか?
「俺はルビーとなら……」
「ヒョーちゃん。先、ベッド行ってて。」
ルビーが平板な声で命令してくる。
声から感情が一切なくなっていた。
「は、はいっ!」
俺はなんとなく気圧されて、言われるがままに寝室に下がった。
服装はダークエルフの都市でもらった正装ではなく普段着である。まずかったか……?
一人でしばらく寝室をウロウロする。
何をやっているんだろう俺はこれから起きることを想像したらドキドキムラムラしてきたぞ……いや落ち着け、クールになれクールジャパン。アイアムサムライ。ビークール。
しばらく待ってると、ネグリジェのような薄手の下着姿のルビーが寝室に入ってきた。
お湯で体を拭いて、香水をつけている。
ルビーの谷間なんぞ見慣れていると思ったが、思わず赤面して下を向いた。
「正座。」
「えっ?」
「正座しなさい。」
ネグリジェ姿のルビーに命令される。身体が勝手に反応して、俺は秒で床の絨毯の上に正座した。
な、何をやっているんだろう……。
「ヒョーマ様。」
目の前にルビーが正座する。
ふわりとネグリジェの裾が浮いて、香水の香りが鼻腔をくすぐった。
俺のほうが座高が高いため、正面から胸の谷間が深く深く見えて集中できな……ん?ヒョーマ様?今、様付けして呼ばれたよな。
ルビーが俺を『ヒョーちゃん』以外の呼び方をしたのは、十四年ともに生きてきて初めてじゃないかもしかして。
「結婚のお申し出、大変嬉しく思います。しかし、私はあなたのちからで作られた道具です。」
え。
何を言っているのか分からない。
「この体も、心も、魂すら最初からあなたのものです。私はあなたの役に立ちたい。あなたを守りたい。すべてを与えたい。それだけを考えて生きる存在です。」
ルビーは続ける。
浮かれた気分はすでに吹き飛んでいた。
冷や汗が背中を濡らす。
「私の初恋も、私の初めても、すべてあなたに捧げるべきもの。どうぞ、もらってください……いえ、お返しいたします。だから、道具と結婚することはありません。私は常にあなたの側におります。いままでも、これからも。それが私の幸福で、運命で、いのちの理由です。」
「そんな……そんな、ことが。ルビー、お前……。それでいいのかよ。」
「私はそれでいいのよ。ヒョーちゃん。」
ルビーが笑う。
美しく、あどけなく……儚かった。
「俺はルビーと結婚できればそれで幸せだから、ルビー以外はいらない。」
「もったいないお言葉です。」
「やめてくれよ……。」
ガラガラと足元が崩れたような気がする。
だが、俺は現世でもっと絶望的な状況を味わったこともある。助けようとした女子高生達を、よくわからない化物の八つ当たりで皆殺しにされた喪失感、無力感に比べればどうということはない。ルビーは全然生きてるし、こうして目の前にいる。まだ間に合うし、絶対に……
「わかった。俺ルビーには遠慮せずこれから擬人化チートガチャ回してガチャ娘増やしていって俺専用のガチャ娘ハーレム作るよ。そんでハーレム内の喧嘩の仲裁はルビーに丸投げするよ。」
「は?自惚れるなよ小僧。」
「ほら、俺はいつでもルビーが一番だからさ。」
「いい度胸だな小僧。下半身へし折るぞ小僧。あ、一生介護して守ってあげるってのもいいわね♪」
ルビーの声がコワイ。
手をワキワキと動かしている。お互い正座で真正面なので襲われたら回避不能だ。
「ルビールビー、俺は魔王を倒しにいく系の仕事があるので、身体は大事にしてくれ。」
「……わかってるわよ。」
腰を浮かしかけたルビーが尻を落とす。
ほっとした。今ルビーに襲われたら俺は死ぬ。薄布一枚のルビーに飛びかかられ、のしかかってこられたら、乳尻ふとももで押さえ込まれたら、そのショックで下半身のレバーが暴発して死んでしまう。
「それで……やるの?」
「魔王退治?それとも……」
「もちろん、こっちよ。」
ルビーがネグリジェの裾をチラリを上げる。
思わず前のめりになったところで……邪魔がはいった。
ルビーの設置した山の結界が侵入者の到来を告げる。
魔法を習っていたおかげで、結界が警報を上げたことを俺も察知できた。
ルビーと目を合わせて、お互いうなずく。
「ヒョーちゃん、鎧、鎧取ってきて。ヒュドラ革のやつ!」
「わかった。っておい、いきなり脱ぐな!」
ルビーがネグリジェをベッドに脱ぎ捨て、タンスから戦闘用の下着と、鎧の下に着る厚手の服を取り出す。
俺は見ないように寝室を出て、鎧を取りに向かった。
誤字等ご指摘願います。
次回更新は一週間後です。




