今月ちょっと課金しすぎたぜ
俺の名前は草壁豹真。
俺は死んだ。
そして女神の目の前にいる。
「あなたは死にました。餓死です。」
女神の声は美しかった。白いドレスがエロかった。そしてメガネをかけていた。
メガネ女神。むしろメガネ様?
これはレアじゃないだろうか。レアな女神。レア神だ。
「いやあ…………ちょっと今月ガチャにつぎ込みすぎちゃったぜ。」
しっぱーい、という風情でテヘヘペロ。
「食費も光熱費も水道代さえ全部課金してしまったのでは、当然です。」
「でも仕方ないじゃん!あのゲームも、このゲームも、どのゲームもピックアップの子がかわいくて、エロかったから、つい。自分を抑えることはしたくなかった。」
俺はウェブ広告にだって軽々釣られる男なんだぜ?
「死んだらソシャゲは持っていけませんよ。」
俺の手にスマホは無い。
「十本以上のゲーム、掛け持ちでやってたんだ。」
「そうですか。」
「命賭けて課金した事に後悔はない。そう、後悔はない。」
「そんなに強調しなくても……?」
「俺は確実に、エス・エス・アア~ル(↑)レアを引けて、持って、満たされてた。掲示板でレアがなくて腐ってる連中に『レアおりゅ?』もできたしマウント取れたし、交流かわいかったし。……可愛かったし。うん。満足をした。」
これほど満たされて、幸福だった。
口元に笑みが浮かぶ。満足の微笑み。
充足を知った者の笑顔。
女神……もといメガネ様は笑顔を貼り付けて引いていた。
「あなたはこれから剣と魔法の異世界に転生して、魔王を倒してもらいます。」
「え?なんで?」
「え?美少女に囲まれてモテモテですよ?ソシャゲの主人公のように、ご主人様とか王子様とかナイト様とか提督様とかお殿様とかプロデューサー様とか団長様とか船長様とか呼ばれて冒険できます。」
このメガネ様くわしいじゃん。
だが間違っていることがある。
「いや、俺がソシャゲに人生ごと課金してた理由は、かわいい、エロい、カッコいい『美少女のキャラクター』をコレクションしてコンプしたかったからであって、リアルな女さんが欲しかったわけじゃない。あくまで『キャラクター』が欲しかったんだ。データってわかってやってたんだ。」
メガネ様が絶句した。
「ゲームデータであると納得ずくで課金してたのであって、死んだら消えることもわかってたし、そもそも何年か経ってゲームの運営がサービス終了して全部のデータが消えることも、覚悟してやってた。」
「ええ……」
「俺は昔、MMOで何年か廃人って奴をやってな、学校と寝る時間以外全部注ぎ込んで狩場にこもってレベル上げして、最新の装備を整えて、狩場でも対人戦でもすげーつえーって言われるように頑張ったんだ。すごく頑張ったんだ。青春ささげたんだ。でもサービス終了して全部消えてやることなくなったんだ。運営のホームページを毎日5回はチェックして最新情報を仕入れて分析してたんだ。突然サービス終了の告知が出てさ。それで終わり。時間も金もすべてパー。」
ぱっと手を開く。パーという仕草。
「はあ……おつらいですね。」
「それで悟ったよ。今を楽しもうってね。自分に正直に。欲しいものは手に入れる。」
「ええ……なんかおかしくないですか?そこは、ゲームやめて現実を大事にするところでは?」
「ゲーム楽しいし。やめないよ?んで、もっと楽しむためにキャラは揃えたい。当然だよなぁ?メガネ様。」
「女神様です。そこ間違えないでください。」
「はいゴメンナサイ!」
「ええと……理由ですけど、天国や地獄にはソシャゲに課金しすぎて死んだ人間がどこに行くべきかというルールが決まってないんですよ。どの宗教でも死後の世界のルールが厳密に定められていますが、今の体制ではこの新しい死因に対応ができてないのです。」
「なんだって?結構遅れてるんだな。」
「その、申し訳ありません。自殺した場合は地獄行きになるのですが、それとも違いますし……審判を司る方々もさじを投げました。」
審判するのは閻魔大王かサオシュヤントかちょっと気になったが、突っ込んでも仕方ないのでスルーした。
そもそも自分の宗教も今は思い出せない。
「それで異世界転生になるのか。」
「はい。こちらに不手際なのでチートもひとつご用意します。」
不手際(笑)
どっちの不手際になるのだろうか。
追求すると立場が悪化しそうなのでスルーした。
「じゃあ、ガチャを引ける能力をください。」
「ガチャ……?」
「『美少女キャラクター』を仲間にしたいです!」
「あ、あなたという人は……」
女神様、おこか?
「……いや、いいです。」
女神様はなにか諦めたように落ち着いた。
「でもそんなチートは無いので、あなたには擬人化チートを与えます。」
「擬人化チート?それは一体?」
「様々な動物や、道具や、自然にあるものを美少女化させることができる力です。日本には、百年使った道具が意思を持つ付喪神や長い年月を生きた猫が猫又になるという伝説がありますが、それらを自力で起こせるようになる力です。」
「なるほど、つまりゲームコインに課金するのではなくて、その場にあるものを消費してガチャを回すわけだな。」
「……はい、そう思ってもらって結構です。ただし、いくつか制限があります。」
「なんだって?教えてくれ。」
女神様が指をおって数える。
「ひとつ、お金を消費します。異世界で流通している現金です。多ければ多いほど擬人化した後が強化されます。サービスとして初回は無料です。」
「ふたつ、元となった存在は美少女化するため消滅します。元となるものが高価な宝石や伝説の剣などレアなものであるほど擬人化した後が強化されます。ただし、この力で空気や火や大陸そのものを消されても困るので、所有権が自分にあることと、手元にあって触れるものという条件をつけます。」
ふと衝動的に女神様に触れようとしたが、手は届かなかった。
足が動かない。
「みっつ、元には戻りません。ちゃんと面倒を見てください。」
「ちょっと!?それはないぜ!『美少女キャラクター』を仲間にしたいって言ったじゃん!」
「そういう都合のいいチートは取り扱っておりません。」
女神様が拳をつくって力を溜める。
拳が輝き出した。どんどん強く光る。
「この、駄メガネ!!!!!!」
その言葉を最後に俺は駄メガネに殴り飛ばされた。振りかぶって放たれたストレートだ。
俺の魂はホームランボールように遠くまで吹っ飛び、異世界へ向かって流星となってきらめいた。
「あれ、魔王を倒す理由を聞いてなかったな。」
吹っ飛びながら、そうつぶやいた。
誤字等ご指摘願います。