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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第一章 ソラと異国と綺麗な魔術
8/130

6.日本の何がそんなに魅力的?

「それで……あなたは、日本がとても好きみたいだけど、何がそんなに魅力的なの?」


 突然、脈絡もなくマドリガーレは俺に問いかけてきた。


「そりゃあ、友達と騒ぐのが一番楽しいよ! 部活して、一緒に遊んでしゃべって、あの日本での生活が俺の暮らしそのものなんだ。それを……手放したくない」


「そうなの……こういった話は初めて聞いたわね。私達、こんなに長く話をしたこともなかったし」


「まぁ、そうだな」


「ブカツって何? 何をするの?」


「部活は……そうだな、課外活動かな。サッカーやってるんだよ。足でボールを蹴ってゴールに入れるのを競い合うスポーツだ」


「……なんだか奇怪な運動ね。なんの意味があるの?」


 よく理解できないとばかり、マドリガーレはグラスを持ってストローに口をつける。

 氷をくるくるとストローで回し、カラカラと音を立てた。


「意味って……そういうのを楽しいと思う人達がするってだけだよ」


「そうなの。それで、そのサッカーは一生できるものなの? サッカーをしていると、将来何か有利な職業に就けたりするのかしら?」


「いや、別に……選手になるには一流の実力がないとダメだけど、俺は高校の部活でもレギュラーが怪しいってくらいだからなぁ。高校の二年半必死で頑張って、卒業したらきっと終わりだろうなと思ってるよ」


「そうなの。では卒業後にサッカーをやめるつもりなら、成人してからこちらに来て、魔法長官をするのに何の問題もないのね?」


 マドリガーレの思いもよらぬ言葉に、俺は驚き過ぎて慌ててしまい、手に持とうとしていたコーヒーカップをソーサーにガチャンとぶつけた。


「い、いや、その……サッカーと日本で仕事することに関連はないけど、おれの好きなことはみんなあっちにあるから」


「たとえば?」


「たとえば……ネットもゲームもアニメもマンガもこっちにはないし、テレビだって毎週欠かさず見てるのがいくつもあるし、こっちはジンジャーエールないし、友達はあっちにしかいないし、とにかく、俺の楽しみは全部日本にあるから!」


 少し冷めてしまっているホットコーヒーにミルクを入れてスプーンを突っ込むと、カチャカチャと音が出るほど乱暴にかき回す。

 ソーサーにこぼれた茶色い液体の量が、心の焦りを表していた。


「その……ネット、とかよく分からないけど、その日本にしかないものの中で、あなたは将来仕事をしようとしているということなの?」


 マドリガーレの真剣な瞳に、俺はぽかんと口を開けた。


「そんなワケないじゃん。仕事にできるほど専門のことなんて知らないし……それに、まだ将来のことなんて考えたこともないよ」


「え、それじゃあ、そのいくつも出してきた知らない名前のものは、全てあなたの趣味や娯楽のための活動なの?」


「ま、そうだけど」


 俺の軽い返事にマドリガーレは柳眉(りゅうび)を逆立てた。

 白い頬が怒りで赤く染まっている。


「では、将来なりたい職業が日本にしかないものだから、こちらに来たくないというわけではないのね?」


「う……ん、まぁ、そうだけど……でも、日本の中学生は大体みんなそうだよ」


「十五歳になってもまだ将来を何も考えていないと言うの? だからこそ魔法長官の仕事をするかどうかも決められないってこと? 何それ、何なのよ、それ!」


 マドリガーレの突然の怒りに驚き、俺は瞳を瞬かせるしかできなかった。


「友達なんてこっちでだって作ることはできるでしょう!? レーヴォ伯父さまのようにそちらに住んで、こちらで働くことだってできるはず! こんなにも魔法長官の職を嫌がるのだから、どうしても何か夢があって、他になりたい職種があるのだろうと思っていたのに……! そんないい加減な考え方のあなたが、こんなに魔力測定で良い結果を出すなんて!」


 マドリガーレの理不尽な責め言葉に、俺も今度こそ黙ってはいられなかった。


「なんだよ、俺だって好きでこんな結果出したワケじゃねーっつーの。できるだけ手抜きしようと思ってたはずなのに、気が付いたら測定終わってて、しまったー! って感じだったんだから!」


「え……それはまさか、魔力測定で悪い数値を出すために、手加減して検査しようとしたということ……?」


「そーだよ。別にいーじゃん。俺はこっちに来たくない、あんたは魔法長官になれる。ほら、万々歳じゃん」


 不機嫌そうに吐き捨てて、ふいっとそっぽを向く。

 すると、ふいに視界に影が差し。


 バシッ


 唐突に、頬の痛みを感じた。

 みっつほど数えるくらいして、ようやく目の前に立ちふさがる人物から平手打ちされたことに気がつき、次の瞬間、怒りがカッと湧き上がった。


「なにすん……!」


 だよ、と続く言葉は出なかった。

 アメジストの瞳から涙がこぼれ落ちていたから。

 握るこぶしは震えていて、化粧もしていないのに赤く潤った唇はぎゅっと噛みしめられている。


 思わず頬を押さえた俺に、マドリガーレはつぶやいた。


「最低……」


 その後、マドリガーレはきびすを返すと走って部屋から出ていってしまった。魔法庁の廊下を走る者など見たことがないが、今、従姉は廊下を走っていったのだろう。


 走り去る際に彼女の足がローテーブルの角にぶつかり、彼女の飲んでいたアイスティーのグラスがガチャンと倒れた。中身はだいぶ減っていたが、飲み残した分と氷がテーブルの上にパシャンと流れ出る。けれどもそれを拭うことすら思いつかないほど、俺はうろたえきっていた。


 パタパタと足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなる。


 何が起きたのか分からない。

 何がそんなにあの従姉を怒らせたのかが理解できなかった。


 椅子に座ったまま、打たれて少し傷む頬を押さえ続ける。


 テーブルの上に広がったアイスティーが、テーブルの端からぽたり、ぽたりと垂れていた。

話し合いはマーレの怒り爆発により強制終了となりました。

ソラはぽかーん。

マーレ側の事情はそのうちに。


次回更新は3月14日(水)です。

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