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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
第一章 ソラと異国と綺麗な魔術
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1.高校合格祝いの夜

本日、人物紹介とプロローグと本編3話、同時更新しています。

いきなりこのページを開かれた方は、目次に戻ってプロローグからお読みください。

「それじゃ、改めまして。高校合格、おめでとう!」


「おめでとう、奏楽(そら)!」


「おめでと、お()ィ!」


 俺、宍戸(ししど)奏楽(そら)、十五歳、都内の公立中学校に通う三年生は、満面の笑みを浮かべて返した。


「サンキュー!」


 父親、母親、妹の麗美(れみ)に囲まれた食卓で、俺は超絶ご機嫌だった。なにせ、ようやく勉強漬けの日々が終わったのだ……高校に入学するまでのひと時とは言え。


 都立高校受検日の翌日から学年末テストをし、それが終わった後に高校合格発表。その日の夕方には早速母親を駅前まで連れ出して、念願の携帯電話を買ってもらった。今どき携帯を持ってない中学生なんていないと、三年の間ずっと何度も親を説得したが、両親は「中学校が携帯を持たせないことを推奨しているのだから、それを守るのは当然」と聞く耳を持ってくれなかったのだ。


 ようやくスマホを手に入れてからの数日間、俺は夢のような日々を過ごしていた。ゲームやSNSで有名な無料通話もできるアプリを活用し、友人と思いきり楽しんだり、スマホの使い方を研究したりと、遊びで忙しい毎日を送っていたのだ。そして明日は友人達とカラオケ、春休みには遊園地、サッカー観戦、映画と、予定がぎっしり詰まっている。これで機嫌が悪い訳がない。


 そして、今日。父親が休みの土曜日の夕食時。自宅で母親が腕を振るい、俺の高校合格パーティをして家族が祝ってくれた。大好きなジンジャーエールの泡がぽつぽつと浮かぶグラスを、カツンと音をさせて家族と合わせ、一気に喉に流し込む。


「ぷっはー! うまい!」


 数日前に、半年間に及んだ合格祈願のジンジャーエール断ちをようやく解禁したのだが、母親から甘い物飲みすぎにストップをかけられ、まだ満足するまで飲んだとは言えない状態が続いている。今日も五百ミリリットルのペットボトルを大事に堪能する決心をしていて、俺は肩を震わせる勢いで喉越しを楽しんでいた。


「お兄ィ、なんかおじさんくさーい」


「ええー……そんな……うう、麗美ぃ」


 少しだけ年が離れている妹、麗美は小学二年生。活発過ぎず、大人し過ぎず、利発で可愛い。素直でよく言うことを聞くし、家族をあまり困らせることもない。「お兄ィ、大好き!」とばかりににっこり笑い、信頼感たっぷりで見上げてくる麗美は、世界一可愛い妹だ、と兄の欲目満載で俺は常々思っている。

 そんなシスコン一歩手前の俺にとって、妹からの否定の言葉はちょっとだけ胸に突き刺さる。


「まぁまぁ、麗美ちゃん。そのくらいにしてあげて。たとえどんなにそう思っても、心の中だけに留めておいて口に出さないのも素敵なレディになるためには必要なことよ?」


 娘に対してアドバイスをしながらも、若干息子を(おとし)めている内容を口にする母親、蘭々(らら)。夫の職場に週三回パートとして勤めに行っている。「全く知らない世界の仕事内容をいちから覚えた頑張り屋、こんなに良い嫁はいない」と、妻溺愛の夫……父親はいつも頬を緩めて言う。


 その父親が「それはそうと」と俺に向かって口を開いた。


「それはそうと……奏楽。お前、高校受検が終わったのだから、春休みあたり、あっちへ行ってみないか?」


「え……」


 寝耳に水な話に、俺は動きを止めた。

 先ほどまでの多幸感が一気に消え失せていく。


「行かないと……ダメかなぁ」


「うーん、中学に入ってから一度も行ってないだろう? 受験勉強で忙しくなる前から、平日は部活と勉強、休日は部活、長期休みは部活と塾の講習で目一杯……あちらも、お前が来るのを心待ちにしているんだぞ」


 父親の言葉に何も返せず、俺はむっつりとしたまま炭酸の気泡を眺めていた。


 話題に上っている『あちら』というのは父親の故郷のことだ。父親は毎日、自宅から職場に通っている……生まれ故郷の国にある、魔法庁(・・・)に。


 そう、俺の父親はなんと異世界人で、元々はレチタティーヴォ・コン・センティメントという名だった。姓の宍戸は母のものだ。


 現在、地球上では日本が政治的にも経済的にも世界の中心に近い場所にある。三本の指に入るくらいまで世界情勢に食い込めるようになった理由は、父親であるレチタティーヴォの出身である異世界と行き来できるゲートが、日本にしかないからだ。


 日本中のあちこちに数ヶ所あるゲートは、普段は政府が管理をしているが、事前申請とある程度の事前教育で、一般人も簡易的な異世界見学までできるようになってきている。泊りがけの旅行となるとまだまだ難しいが、あちらには転移装置があるため移動時間にあまり時間を取られないので、日帰り見学ツアーでも数箇所は訪れることができるのだ。


 一方、貿易に関しては取り決めがなかなか難しく、まだぼちぼちといった具合だ。そしてそのゲート先の国とのやり取りを日本政府が行う以上、地球上のどの国も、異世界との交流を持ちたければ日本を通さなければならない。


 日本と接する異世界側の国、父親の生まれ故郷コントラルト国は、ファンタジー感満載の魔法の国だ。父親の弟、アルマンド叔父が現在魔法庁魔法長官を務めていて、その叔父の補佐をするために、俺の父親レチタティーヴォは、東京の自宅から毎日魔法庁へと通っているのだ。ゲートは自宅から車で三十分、ゲートをくぐるとそこから転移装置に乗って魔法庁へ。無理のない通勤時間で異世界の職場へ通えるということを考えると、俺は少し不思議な気分になる。


 そもそも父レチタティーヴォは、異世界間の穴が繋がった初期にゲート作成と固定化のメンバーとして日本に滞在していて、その時に俺の母親である蘭々と出会い、熱烈大恋愛の末に婚姻の運びとなったらしい。


 それからニ十三年、俺が生まれてからは十五年。ハーフとしてはまだまだ数が少なく、一般にはそれを秘されているために友人達にも知らせず過ごしてきた俺は、父親の生まれ故郷であるコントラルト国から、ハーフ第一号として成長を期待されているのだが……叔父が俺を呼びたがっているのには、それ以外にも理由がある。


 その理由を思い浮かべて、俺は小さくため息をついた。


 魔法長官である叔父のアルマンドは、俺を、自分の後継ぎにしたいと考えているのだ。

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