エピローグ ~仲間を増やす方法は
本日、2話同時更新しています。
前話をお読みでない方は1話戻ってお読みください。
「なんだかごめんなさい、今日は私の愚痴ばかりの日になってしまったわ」
「なんの。少しでも心が軽くなったのならば重畳じゃ」
「ふふっ、すっごく軽くなったわ。ありがとう、ブリンちゃん」
「そなたには悪いが、実は、吾は今、少し浮かれておる。物語の中で登場人物達は、愚痴を言い合い、相談をしあい、互いに支え合って生きておる。そうして強固な友情を結んでいく……そんな関係に、吾は憧れておったのじゃ。マーレが今回こうして悩みを打ち明けてくれたこと、そしてその打ち明け先に吾を選んでくれたこと、心から嬉しく思っておるぞ。こちらこそ礼を申す」
「うふふ、私もこんな友人関係に憧れていたのよ。夢が叶って嬉しいわ」
「吾もじゃ」
そう言って微笑み合う。くすくすと忍ぶように漏れる笑い声が満ちる部屋には、朱い夕陽が射し始めていた。王女の横顔が赤く染まる。私も夕陽に染まっているだろう。けれどもその頬の赤さは、陽によってのみではない気もする。初めて得られた“親友”という存在に、もしかしたら浮かれているのかも知れない……私も、そして彼女も。
「ああ、もうすっかり夕方ね。今回はこれでお開きにしましょうか。後はお互い、借りた本を家で読みましょうね」
「そうじゃな。そなたから借りた本、たくさんあって、吾は思いの外、うきうきしておるぞ」
「ふふ、良かったわ。でも……最近、夜が涼しくなってきたでしょう? 読書にちょうどよくて、ついつい夜更かししてしまうのよ。いけないと分かっていても、先が気になって読み進めてしまって……この調子では、こんなにたくさんある本でも、次回の交換会までに冊数がもたないわ。そうしたら、そうしたら、私はいったい何を読んで夜を過ごせば良いのかしら? ここにある全部の本を読み尽くしてしまったら……?」
「そうじゃのう……本の交換仲間が増えれば、互いに貸し借りできる冊数も増えるのじゃが……」
「それよ!」
王女の言葉に、私は両手でテーブルをバンと叩いた。
「なんて良いアイデアでしょう! 増やせば良いのよ、読書好き仲間を!」
「そ、それはそうじゃがな、マーレ、そんなに都合よく増やせるものか?」
「新しい人間関係を築けば良いと思うの。ほら、私達は一般学生とそれほど交流がないでしょう? でも、窓際の一番後ろの席の子、彼女、きっと本が好きよ!」
「ふむ……窓際の一番後ろの席の……と言うと、三つ編みおさげの女生徒じゃな。一般学生で、吾は話したこともないが」
「そう、その彼女よ。たった今、思い出したけど、先日、休み時間に廊下で、他の一般女生徒達と歩きながら『真実は必ずひとつよ』と言っていたわ! あれはきっと推理小説の名作『少女探偵・恋うナン』の決め台詞に違いないわ!」
「恋うナン……確か、恋する少女探偵ナンが、恋愛絡みの事件を颯爽と解決していく話じゃったな。ある時は血の繋がらない兄に恋する愛らしい少女、またある時は皆に頼りにされる委員長、そしてまたある時は大人顔負けの推理力を発揮し大活躍する探偵として、三つの顔を持つ少女が主人公という……なるほど、そうか。あの三つ編みおさげの女生徒は、小説を読む同輩なのか」
「きっとそうよ! そして私とブリンちゃんが友達のように、彼女の友人達の中にも、読書が趣味という子が必ずいるはずよ! もしかしたら、一般の子達は私達とは違うジャンルの本を読んでいるかも知れないわ! そうしたら、ねぇ、ブリンちゃん、新しい世界を知ることができるのよ!」
「なるほど、でかした、マーレ! まっこと良い思いつきじゃ! 明日、早速三つ編みおさげ女学生に話しかけようぞ!」
「いいえ、待って、ブリンちゃん。いくらなんでも王女がいきなり話しかけて、彼女が普通に会話できるとは思えないわ。ここはひとまず私に任せてちょうだい」
「むぅ……そうかの……だがしかし、それならば、そなたとて第三家の本家の者ではないか。急に話しかけられた時の衝撃となれば、吾とそう変わらぬと思われるが」
「そうよね。そう思うわ。だからまず、第二家の分家の傍流の子がクラスにいるでしょう、あの子に仲立ちをしてもらおうと思って。先にあの子に事情を話して、彼女につなぎをつけてもらいましょう。あの子は気さくだから私に臆すことはないし、一般人とも気兼ねない付き合いをしているもの。きっと快く引き受けてくれるわ。それに、これでも三年間、一応同じクラスなのよ、彼女とだって共同活動の時には、少しだけど直接話したこともあるもの。きっと上手くいくわ!」
「うぬ、任せたぞ、マーレ! 吾もそろそろ本の感想を語り合う仲間が増えたら楽しいじゃろうと思うておったところじゃ。期待しておるぞ!」
「ふふふ、ブリンちゃんは、特に恋愛小説の感想、でしょう?」
「マーレとてそうであろう?」
「ふふふ」
「ふはは……」
「うふふふふ……」
「ふはははははは……」
国防を担う王族と、大魔術を行い国の繁栄に責任を持つ魔法副長官。
私達の肩には、将来とてつもなく大きな責任がのしかかってくる。
それを負担に思ったことはない。
国の頂点近くに生まれ、様々なものを与えられて生きてきた。食事、衣装、調度品、そして高水準の教育、興味を持ったものへの研究費など。
与えられたものを活かして国に返していくことに疑問もない。
そのための先行投資をしてもらったのだと思っているから。
そしてこれからも与えられるのだから、その分はきちんと責任を果たさなければならないと。
素直にそう思う。
でもきっと、つらいこともたくさんあるだろうし、大変なこともいっぱいあるだろう。
恐怖で震え上がる時もあるだろうし、泣きたいくらい悲しい時もあるだろう。
それでも、彼女とは手を取り合って協力していかれると信じている。
彼女の窮地には必ず駆けつけると誓っているし、逆に私の苦境に彼女が手を貸してくれることは疑いもない。
そんな風に信じられる親友を得られたことは、何より得難い幸福だと感じる。
ああ、彼女に出会えて良かった。
高潔で、誇り高く、国と民の幸せと安寧を願って日々努力を続け、将来を見据えて大地を踏みしめる、我がコントラルト国ブリランテ第一王女。
私は、彼女が大好きだ。
優雅にお茶のカップを手に取り、ゆったりと口をつける彼女を見つめると、やわらかな微笑みを返される。
尽きぬ話題に時間を費やすのは女性の特権。
こうして、親友と語らう休日はとても貴重で、だからこそ、もう少し、あと少しと、わずかでも惜しんで話し倒す。
こんな素晴らしい関係を、これからもずっと続けていきたい。
そうして私達は、窓の外が暗闇に覆われるまで、互いの興味の赴くままに語り続けたのであった。
友と語らう休日は End
マーレとブリンちゃんの友情を描きつつ、マーレから見たソラの姿を書いてみました。
恋する女の子から見た男の子は、こんな風にキラキラして見える、ということですね。
実際のソラは汗臭くて泥にまみれて、口開いてぼうっとしている時もあったり、クラスの女子から「気の利かない男子!」と言われたりするような、そんな普通の男子高校生なんですが。
ブリンちゃんも相当レッジェロに対して憧れを抱いていますが、実際はパストから見たレッジェロの方が実物に近いと思います。
恋とは美しい錯覚ですね。
そして間章4はこれで終わります。
次の章は少し日数を空けて、11月14日(水)からです。
最終章である第四章です。
とうとう元老院の最長老である、第四家テンペストーゾと第一家レンタンドに向かい合います。
更に、仮想敵国と言われ続けている、王妃の故国である隣国グリオの国王と第一王子も登場し、物語収束に向けてひた走るのです。
プロローグと第1話の、2話同時更新となります。
楽しみにお待ちいただけたら幸いです。




