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ソラと異国と綺麗な魔法  作者: みんみん
間章4 友と語らう休日は
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1.仲良くなったきっかけは

本日、人物紹介と第1話、の2つを更新しています。

このお話からお読みください。


最終章の前に、マドリガーレとブリランテの友人関係をお見せしたくて書きました。

今まで話内であった小ネタも回収しています。マドリガーレ視点です。

「マーレ! 遊びに来たぞ!」


「いらっしゃい! 待っていたのよ。さぁ、私の部屋へどうぞ、こっちよ!」


 高等部の友人であるブリランテ王女が、私の家にやって来た。

 今日は空の一の月、月末の陽の曜日。ソラの“夏休み”が終わってひと月ほど経った頃だ。


 ソラは私の従弟であり、大切な男性であり、将来共に国を支えていこうと夢を語り合う同志でもある。彼は常には日本に住んでいて学校に通い、あちらでの生活があるので、会いたい時にいつでも会える距離にいる訳ではない。


 そんな風だから、夏休みが終わってしまったら、長い間ソラとは会えないのが普通なのだけれど。夏休み終わりの炎の一の月末には私の誕生日があって、先日、その誕生日会にソラが来てくれたのだ。こちらでの休日である陽の曜日は、あちらでは“金曜日”という平日らしく、始まったばかりの学校を休んでまで駆けつけてくれたのだ。とても嬉しかった。


 そして今年は特別に、来月、水の二の月に、姉のアリアの結婚式がある。そこにもソラが来てくれる予定なので、この秋は二度もソラに会えて本当に嬉しいのだ。


 ただ、私の誕生日会も、姉の結婚式も、周囲が全て段取りをしてくれるにもかかわらず、私にとってもそれなりに準備が必要で、なんだかんだと忙しい。こうして休日の午後、友人が家に遊びに来る、というだけのことに時間を空けるのも、少しだけ苦労したのだ。


 一方、訪ねてきてくれた友人、ブリランテ王女はと言えば、これまたとても忙しく、ほいほいと友達の家に遊びに行くなどできる立場でもなければ、暇もない。


 王族は通常、学校へ通うことがない。個人的に教師が付き、魔法の訓練やら礼儀作法やら国史、世界史、その他様々な勉強をするのだ。しかもそれを十六歳か十七歳頃までに全て終え、準成人となった後は王族としての公務をしていくことになる。それが王族としての務めなのだ。


 ところが、ブリランテ王女はこのやり方に異を唱えた。

 「同世代の友人がいないから、王族にはいざという時に頼る相手がいないのだ。王族も学校へ行き、将来魔法庁や各部署で長官を務めるような者達と交流を持っておくべきだ」と。


 それが認められて、彼女は十五歳の春から高等部へ入学してきた。

 魔法に関して彼女はほとんど卒業までの課程を終えているが、高等部に通うことによって、彼女の目的のとおり級友達と交流を持つことができている。

 しかし、こうして互いの家を訪ねたり、趣味の話で盛り上がったりできる友人と言えば、私くらいのものだろう。私にとっても数少ない共通の趣味を持つ友人ができたことは、本当に幸いだった。


 その趣味とは。


「では、まずはこの袋が返す本。そしてこちらがそなたに貸す本じゃ」


「嬉しいわ! 私の方は、こっちが返す本で、これが貸す本よ」


 ふたつずつの紙袋を交換し合う。

 夏休み前から約二か月ぶりの、互いの本の交換会。


 私は元々、読書と言えば魔術書ばかりを選んでいたのだが。

 ブリランテ王女が高等部に進学してきてひと月が経とうという頃。彼女がこっそり鞄の中に忍ばせている本の題名を見かけてしまった時、あまりに彼女が慌てていたので興味を持ち、尋ねてしまったのだ。「それは、どういった本なの?」と。


 その時の彼女の怒涛(どとう)のおしゃべりときたら、きっと誰にも想像できないに違いない。雅な王族言葉を駆使しつつ、超速音楽のように次から次へと説明が流れていくのだ。その内容とはざっくりと言うと、仲間達の愛と友情で結ばれた冒険譚、というものであった。仲間のひとりが裏切ったのかどうか、皆で交わした約束は果たされるのか、女性主人公とヒーローは結ばれるのか、それとも障害に打ち勝てずヒーローは政略結婚をせねばならないのか……そういった内容説明を、彼女は目を輝かせて並べ立てていく。


 始めは呆気にとられていた私も、そんな彼女の変わりように思わず微笑んでしまい、つい言ってしまったのだ。「今度、その本を貸して」と。

 彼女はまだその本を読み終わっていないらしく、翌日までには必ず読み終えて持ってくるから絶対に読んで欲しいと言い、風のように帰城していった。


 その頃、私とブリランテ王女はまだそんなに交流がなく、高等部から編入のような形で入学してきた王女に、私達中等部からの進学組は、なんとなく距離感を掴みあぐねていた。何しろ彼女の生誕祭で挨拶をした誰もが、彼女のオーラに圧倒されていたのだから。そして生誕祭に招待すらされない一般出身学生は、王族と同じ教室にいるというだけで、気を失いそうなほど顔色を失くす始末。当初、教室内は常に緊張感をはらんでいた。


 第三家本家の私ができるだけ積極的に王女に話しかける日々過ごし、それに続いて第四家本家の長女イントラーダの弟が、同じクラスなので何かと気を遣ってくれ、そして第五家の分家の娘が私の補佐に入るような形で王女の世話を焼き……そうしてなんとか教室内で誰も気まずくならないように気をつけ、日々を過ごしていたのだった。


 それに対して王女は、にこやかな微笑みを見せつつ、一般学生に対して畏怖を感じさせないように気を遣いながらも王族言葉をやめられないようで、クラスに馴染むのはまだまだ時間がかかるような状態であった。


 そうして過ごしていた日々の中で、運命のあの日。

 帰宅直前の化粧室で髪を整えていた時に、彼女が化粧ポーチを鞄から取り出した瞬間、何かに引っかかったのか、その本が外に飛び出たのだった。


 あの日が全ての始まりであった。

 その翌日、それほど気にも留めずに本を受け取り持ち帰った私は、何の気なしに表紙をめくり……次の日、寝不足で目を赤くしながら朝一番でブリランテ王女に詰め寄ったのだった。

「この本、完結してないじゃない!」

と。


 よく見ると、題名の下に「第一巻」と書いてあった。

 なんたる不覚。

 続きを知りたくて、早く読みたくて、王女に迫ると、彼女は雅な尊顔をこちらに向け、ニンマリとした口元で言ったのだ。

「ほれ、第二巻じゃ」

と。


 私は続きが読みたくて、読みたくて、仕方なかったが、なんとか耐えてその日の授業を受け、運転手を急かして風のように帰宅すると、第二巻のページをめくった。

 そして真夜中に、ひとり自室で叫んだのだった。

「まだ終わらなかったー!」

と。


 翌朝、学校に行くなり王女に詰め寄った私は、彼女から衝撃的な言葉を聞くことになる。

「その第二巻は、一昨日発売されたばかりじゃ」

と。


 なんと、続きはあと数か月待たねばならないとのこと。

 絶望の縁にいた私に、彼女が悪魔の(ささや)きをする。

「その作者の、ひとつ前の作品も、最高に面白いぞえ? ほれ、一巻を持って参ったが、()(よう)か?」

と。


 その日から、私はまんまとブリランテ王女の策にはまり、小説を読むという沼に落ち込んでしまったのだ。その作者のひとつ前の作品というのはもう完結していたので、二巻を受け取りながら「一冊と言わず全巻貸して欲しい」と言えば、王女は魔導車で私の自宅まで持ってきてくれた。王女殿下、そして運転手さん、ありがとうございます。


 ……自分でもなんとなく、そうかなとは思っていたが。

 私は何かひとつのことに興味を持つと、とことんまでのめり込むタイプらしい。

 その日から私は彼女に色々なジャンルの小説を貸してもらい、たくさんの作者を紹介してもらっているうちに、今まで貯め込んでいたお小遣いを根こそぎ使って小説を買い漁ってしまった。


 そして買った本を彼女と交換することで二倍の量の本を読むことができる。

 まさに王女の思うつぼであった。


 けれどもこの世界を知ってよかった。

 教えてくれた彼女に大感謝だ。


「どれ、そなたの()うた本を見せてもらうとするかの。ふむ、事前に聞いていたとおりの題名が並んでおる。ふーむ……最近のそなたが購入するのは、恋愛ものが多くなってきたようだ。ここ数か月といったところだろう……やはり婚約者ができると、そのように変化するものなのじゃな」


 ブリランテ王女の言葉に、一瞬で顔に熱がこもる。


「い、いやねぇ、そんなのじゃないわよ。そ、そそそれに、ソラはまだ婚約者じゃないし……」


「ふむ、とりあえず落ち着け。そのように腕を振り回すでない。紅茶がこぼれておるぞ……して、婚約式はいつ頃の予定なのじゃ?」


「え、ええ、次の春休みを予定しているわ」


「まだ先じゃのう。なぜそんなに引き伸ばすのじゃ? 今すぐしてもよかろうに」


「ソラが日本に住んでいるから、ね。あちらはあちらで学業が忙しいらしく、休日にひょいとこちらに来られる訳ではないの。やはりまとまった休みでないと。そうすると、次の冬休みに婚約式のための採寸をして、式の希望を聞いて、取り決めや作法を習ってもらって……そういった準備期間が必要なのよね、ソラには」


「なるほど。離れて暮らしていると大変じゃのう……しかも思うとおりに会えず、寂しいであろうし」


「さ、寂しくなんか……! な、ないとは……言わないけど……」


「あちらとは、魔伝話も通じぬのであろう?」


「ええ、そうね。ゲートまで行けばあちらの電話というものが使えて話すことができるのだけど、まだ婚約式をしていないので正式な婚約者として認められず、そう簡単にゲートの通行許可がもらえないのよ。なんでも“電波”というものがゲートの中までしか届かないらしくて、それこそきちんと連絡を取ろうと思ったら、ゲートを抜けて日本側まで行かないとならないの……」


「魔法庁内に、日本へ通じる魔伝話はないのか?」


「あるわ。有線で引いてあるということだけど、ほとんど政府間のためのものだから、私が使うことはできないの」


「そうであるか。それではあと半年はこのような状態が続くのだな……」


「そうね……」


 ソラの明るい笑顔を思い出す。


 あんなに早く走る人を初めて見た。遠くに彼がいるのを見つけた時、ソラも同時に気付き、あっという間に走って私のところまで来てくれた。まるで風が吹くような速さで駆ける彼の笑顔は、とても(まぶ)しかった。


 あんなに身軽な人を初めて見た。夏に行った視察の時に大きな岩がある岩場をひょいひょいと越えていたし、家にいる時に上階にいた彼に声をかけたら、階段を勢いよく駆け下りてきて、なんと階段の途中から飛び降りたのだ。恐らく五段以上はあったと思う。そんなことを軽々とこなして、目を丸くする私へ軽快に笑う。彼には驚かされてばかりだ。


 そんな風に明るく屈託のない彼は、言い出したら割と聞かない。

 魔術訓練をしていて、少し休憩をしようと言っても「もう少しでコツが掴めそうだ」と言ってなかなかやめない。パストラーレが強めの声で「今はここまで」ときっぱり止めないと中断してくれないのだ。「闇雲に繰り返したって良い結果が出ることはない。いったん休憩して頭の中の情報を整理し、身体が魔術に馴染むのを待つ方が、結果的に早道だ」と。そんな時、決まって彼は少し下を向いて唇を引き結ぶが、しばらくすると小さく息をつき、ようやく「はい」と言う。


 日本の勉学もそう。夏休み中、持ってきたあちらの勉強をしている時に、終了時間がきたからとお茶に誘いに行くと、必ず「切りの良いところまでやる」と言って、すんなり休憩を取ってくれることはほぼ無い。私もだいぶ慣れたので「今、どこをやっているの?」と聞き、彼が指差す場所を見て「それでは、このページが終わったら休憩よ?」と約束を取り付けることを覚えた。


 レチタティーヴォ伯父はそんなソラを見て笑う。「あいつは昔からそうだ。色々とマイルールがあるらしく、それに沿って生きているんだ。だけど高校生になって、あれでもずいぶんマシになったんだよ。中学の時までは、彼にとって必要だと思われるアドバイスですら、なかなか聞き入れようとしない頑固者だったからね」と言っていた。


 そんなソラが魔法長官になったら、彼はきっと思う方向に迷わず突き進んでいくに違いない。

 真っ直ぐな瞳で、明るい未来を目指して。


 私はソラの人となりを知るようになって、まだたった数か月だ。彼が五歳の頃からの親戚付き合いだったが、互いに向き合って話をするようになったのは今年の春からなのだ。そしてソラはこの国に住んでいるわけではないので、学校が長い休みになった時しかこちらに来てくれない。だから日数的にはひと月くらいしか共に過ごしていないのだ。

 けれどもそんな短い付き合いの中でも、これだけは分かっていることがある。


 ソラは、人道に(もと)ることを決して選ばない。


 ソラの心は真っ直ぐで、運動する者特有の潔癖さを持っている。彼の考え方の基本は、物事に対する公正さと、他者に対する優しさだ。

 そんな彼が「こう」と決めたら、それは誰にも止められないだろうし、止める必要もないと思う。彼は彼の正しいと思う道を、目標に向かって突っ走るであろう。その時、私は彼の隣で一緒にひた走るだけだ。


 私達、ソラの周囲にいる者達は、ソラを支えて彼の思いを遂げる助けをするつもりだ。


 パストラーレは補佐官として、ソラの往く道を整えると言っていた。どうすれば一番良い結果がもたらされるのか、ソラが望む方向への近道はどれか、あるいはどんな根回しをすれば遂げられるのか、そういったことを策し実行することでソラを支えていくと言っていた。


 姉のアリアは秘書官として、魔法長官のソラ、副長官の私、補佐官のパストラーレを支えると言っていた。パストラーレが組んだ予定どおりに事を円滑に進められるよう、執務的な手配はもちろんのこと、身の回りの世話の手配から、健康状態の把握、精神面での支えまで一手に引き受けてくれると話していた。


 そして私は副長官として、ソラの足りない部分を補い、彼が突っ走ることで見失っているものを拾い上げ、補填(ほてん)し、彼を励ましながら隣で走るのが役目だと思っている。

 以前、視察に連れて行ってくれた第四家のフリオーゾが言っていた言葉を、何度でも胸に反芻(はんすう)する。


「マドリガーレ嬢。ソラ殿は類稀(たぐいまれ)な才能を持ち生まれてこられた。他者より抜きんでた才能を持つ者は、人とは違う人生を歩み、人に理解されぬという悩みを抱えると言う。そなたが理解者となり、必ずやソラ殿の心を護ってやっていただきたい。彼の心が黒く染まらぬよう、闇に囚われぬよう、どうかお願いいたしまするぞ」


 私が彼を支える。

 心も、身体も。

 そして必ず彼の思いを遂げさせる。

 賛同して、一緒に走る。


 それが、私の決意。


 私達の父親世代が、共に支え合って国を導いてきたように、私達もソラを中心にし、より良い国を目指して進んでいきたい。

マーレとブリンちゃんの読書好きによる本の交換会の様子と、マーレから見たソラの印象を書きました。

ソラ視点では分かりづらかったソラの性格もここで披露。

頑固者は、何かをさせるのも、やめさせるのも、一苦労ですよね。


次回更新は11月2日(金)です。

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