エピローグ
本日、2話同時更新しています。
前話をお読みでない方は1話戻ってお読みください。
奏楽が、私の大事な息子が、皆の中で笑っている。
隣には、婚約式はまだしていないものの、婚約者になる予定のマドリガーレ。
私の産んだ子供が、こんなにも大きく育ってくれて本当に嬉しい。
奏楽をお腹に宿した時は、決して出産を許してはもらえないと思ったから、どうやってごまかして産もうかとか、どこに逃げようかとか、日本政府に助けを求めてみようかとか、SNSで呼びかけて理不尽を訴えてみようかとか、色々考えていた。
追い詰められてしまった心を救ってくれたのは、アンティフォナだった。
何もかも隠そうとする夫に、不信感まで抱いていたあの頃。
「ララさんに情報をすべて伝えるべきです」と言ってくれたのは彼女だった。
だから彼女は私の恩人なの。
でも陰でいつも私の心を支えてくれたのは、義父であるアモソーゾだった。
彼は常に微笑みを浮かべていて、穏やかに語りかける人だった。
私がつらい気持ちを抱えていると、いつもそっと側に来て励ましてくれた。
「ララさん、大丈夫、落ち着いて」
「ララさん、短気を起こしちゃいけないよ」
「ララさん、気をしっかり持って」
「ララさん、おおらかに、ゆったりと過ごしなさい」
彼の語りかけるような優しい口調を、今でもよく覚えている。
私は常に義父に助けられ、救われていた。
だから彼のことをいつも目で追っていたのかも知れないし、もしかしたらたまたま目に入っただけかも知れないけれど。
彼が元老院会議から戻って来て「子供を産んでも良いと、ようやく許可が出た」と報告してくれた時。
セリオーソも加えて家族中が喜びに沸く中、笑顔を絶やさなかった義父が一度だけ、外に向かって表情を引き締めた。
夏に向けてどんどん青みを増していく空に向かって、真剣な目をして。
私にはあの瞳に見覚えがあった。
それは日本で母の介護をする生活の中。
母の容態が悪くなり、そして持ち直し、小康状態が続き、また悪化を始める……そんな繰り返しの中で、父が見せたあの瞳。
あれにとてもよく似ていると思った。
父は常に、いつ母にお迎えが来てもおかしくないと覚悟を決めていたようだ。
いつ、何が起きても慌てない、母に対して不安を見せない、そう決意していたと言う。
そう、義父の瞳は、そう父が語った時と同じ目をしていたと思う。
何か重大な決意をした時のような。
義父が私達に何を隠していたのかは知らない。
今でも分からない。
でもきっと、大切な息子と、孫を守るために、彼は何か重大な決意をしてくれたのだと、直感的に思った。
それを私が暴いて聞きだして、喜ぶ彼の息子達の幸せな風景を壊す権利は、私にはないと思った。
義父はきっと知られるのを望んでいない。
そう思ったから。
だからそっと、自分の胸だけにしまい込んだのだ。
けれども。
それを暴くことによって、聞きだすことによって、せっかくもらえた元老院からの許可を覆すようなことになっては大変だと、私はこっそり思ったのも事実。
だからなおさら、私は口をつぐんだのだ。
お腹の子を守るため。
私の大切な我が子を守るため。
たとえ何を犠牲にしても、この子を守ると決めたのだから。
それが、優しくて大好きでいつも私を励ましてくれる存在の、義父を犠牲にするのだとしても。
それでも私は我が子を選んだのだ。
この子を無事、産み育てるためならば、迷ったりしない。
そう、決意したのだから迷わない。
顔を上げると、義父がいつもの穏やかな瞳で、私に向かって微笑んでくれていた。
『大丈夫だよ、ララさん』
そう言った義父は、私の選択を認め、励ましてくれているような気がした。
だから私は義父に手を差し伸べ、いつものように、一緒にお茶を飲もうと誘ったのだった。
間章3 愛と迷いと決意の時 End
間章3は、ソラの秘密を明かすと共に、親世代の絆の深さを書きました。
これからどうやって、皆で問題に立ち向かっていくのか。
そしてソラの祖父アモソーゾがした決意とはなんなのか。
最終章の、第四章をお待ちください。
そして間章3はこれで終わります。
次の章は少し日数を空けて、10月31日(水)からです。
最終章の前に、マーレとブリンちゃんの女子トーク、間章4が入ります。
ちょっとしたネタ回収も兼ねていますが、気楽に読んでください。
楽しみにお待ちいただけたら幸いです。




