To dear you.
――――これは凶王と呼ばれた一人の音楽家の恋の物語。
昔の私はよく笑う子だったと兄は言う。
それは私が良く笑うのではなく、兄の演奏が私を自然と笑顔にさせるから常に笑顔だったのだ。
兄が音楽業界から去った私はここ十数年笑っていない。
――――天才兄弟。
そう呼ばれている時期は楽しかった。私も兄も、心から音楽というものを楽しんでいた。
しかし、何時からだっただろうか?・・・ああ、そうだ。3年戦争(第3次世界大戦)が始まってから間もなく国外の領事館にいた兄さんが日本の中立に怒ったどこかの兵のテロに巻き込まれてからだ。
兄さんはその時にけがをして左腕が使えなくなってしまった。
兄さんは笑いながら「こういう運命だったんだよ」と笑った。私には・・・いや誰から見てもそれが作り笑いであると分かった。
―――思えば兄の笑顔を見たのはその時が最後の気がする。
それから私の心に黒い何かが生まれた。
・・・ああ、兄さん。あなたはどうすればもう一度笑ってくれますか?
そう思った私が引くクラシックはさらに感情にあふれるようになった。
切迫する、息が詰まるような強弱。まるで何かに追われるように変わるテンポ。
ベートーベンの『運命』なんて引いた日には観客全てから魂を抜かんとばかりの迫力であり、兵士たちの士気向上に役立ったと外国の偉そうな人にいわれた。
けど、劇場にいるのにまるで戦場にいるようだと兄には言われた。
おかしいな、みんなは素晴らしいと喜んでくれたのに。なんであなたはそんな悲しそうな顔をするのだろう?
私ではあなたを笑顔にはできないのか?
私はひたすらクラッシックの曲を極めた。
どうしてクラシックかって?
歌詞が無くて・・・一番感情表現がしやすいからに決まっているじゃないか。
私は、無愛想だ。だから兄さんに勧められて音楽を始め、音楽を通す事で多くの人とわかりあってきた。
私の音楽で兄さんに、誰かを認められたかった。だから私は一心不乱にクラシックを引いた。
―――クラシックの凶王。
兄が音楽の世界から消えてから私はそう呼ばれるようになった。
私の音の望む音楽にするには無駄な個性は邪魔でしかなかった。ゆえに私はそれ以上の才能でひざまずかせたのだった。
個性の強い音楽家?―――調和を乱すな!
自分は天才と思っている自信家?―――貴様程度の程のものなど腐るほどいる!
自身がない?―――私の前で弱音を見せるならば弾くな!
私の目の前には抵抗する者は一切なく、指揮者さえメトロノームと成り下がっていた。
私が凶王と呼ばれながらも、私に意見することを許した人が2人だけいた。
1人はリーシャ。
彼女は世界中が注目する和平を結ばれたことを喜ぶ音楽の日にメインとして演奏するトランペット、ヴァイオリン、ピアノの当代最高奏者に送られる魔術師の称号の中の、トランペットの魔術師で私がバイオリンの魔術師の称号を3年連続して獲得していた時期に彼女は私の横に立っていた。
そのころはすでに凶王と呼ばれ、他の魔術師でさえ共演する時には私に意見させなかった。
しかし彼女は果敢に挑んできた。
その様子は「さながら魔王に挑む小さき勇者のようだ。」ときの音楽団は語っていた。
始め、私は耳を貸さなかった。だが、ふと一人で演奏している時にふと彼女の言葉がよみがえり、久々に意見されたせいであったのかためしに彼女の言うとおり弾いてみると、かなり自分のイメージにしっくりきた。
後日、私は彼女に誤り変更を伝えた。
それ以来、私は何かと彼女と組むようになり(そうなりように仕組まれていた)私はいつしか彼女に恋心を抱くようになっていた。
しかし何分恋と言うのが、はじめてなもの誰かに相談しようと思ったが誰もかれもが当たり障りないこという。
そこでもう一人の私に遠慮なくものを言ってくれるも一人の人物でありリーシャの事も知る・・・兄に相談した。
そこではピアノを弾いていた兄は・・・盛大に笑った。
その日ほど久しぶりに兄が笑ったのを見た。
「そうかお前、好きな人ができたのか。おまえが幸せになってくれるならおれは嬉しいよ」
そう言って立ち上がった兄は片腕で戸棚にしまってあるファイルの中から1つのファイルを抜き出す。
「・・・じゃあ、これを渡そうか」
兄がそう言って渡してきたのは2枚の楽譜だった。
「それはな、俺が死ぬまでに書きたい4枚の楽譜の1枚・・・の失敗だ」
失敗って、なんでそれをぼくに?と私は不思議そうに聞きた。兄は音楽に関しては決して悪ふざけをしない人だった。
兄はテロに会ってから故障しだしていた左腕がついに動かなくなって右腕だけになってから、作曲家になった。
―――作曲なら感情をこめられる。
兄はそう言ってよろこんでいた。
私は知っている。兄は自分が好きなものは決してズルや妥協はしない。
この失敗と言ったものは・・・今の兄だから失敗したという意味ではないだろうか?
「そう、正解」
兄はそう言って私に題名を見せた。
「―――」
「兄さん、これは!」
「・・・弟が先にこの言葉を使うことになるとはな」
兄は少し悔しそうだった。しかしそれもすぐに消え、曲の説明をし始めた。
「じつはな・・・おまえがリーシャの事を好いていることには気づいていた」
僕は驚きを隠せなかったが、兄から言わせればバレバレだったらしい。
「それでな、お前らを見ていて曲を書いたが・・・弾けなかった」
どうして?兄さんに私はそう問いかけた。
「・・・これをきちんと弾けるのはな、当事者であるお前らだけだからだよ」
私は楽譜に新鮮を落とし、頭の中で奏でてみる。
その曲は驚くほど私にぴったりで、だけど変更したい点もいくつかあった。
「ここで試しに・・・いや、今からこれを弾いてこい」
兄さんはそう言って寒い冬の中私を外に放り出してタクシーに乗せると、私とリーシャの初めてであった異世界の音楽界を毎年行うコンサートホールに立たせた。
「そう言えば言い忘れていたがな、お前は立派な奏者になった。けどな、俺は思うんだ。気持ちはやっぱ、自分で音にした方がいいと思う。それは作曲していてよく思うことだよ。だから―――」
私は兄激励だと思って絃を持った手を掲げてうなずいた。
兄はそのまま、「ヴァイオリンの調整だけしておけ」と捨て台詞を吐き、譜面台2つと照明だけセットして出て行ってしまった。
しばらくすると、コンサートホールの扉が開き一人の女性が入ってきた。彼女は紙とトランペットを持っており、練習帰りのようだった。
彼女は私に何か言おうとしたが私は自分の持てる最大限の力を持って彼女を黙らせる。
私としてはまずこの曲を聴いてほしかった。
もうすぐ一番が終わる。これでこの曲はおわりだ。
しかし、譜面はこの一番で終わっていない。だが繋がっていないのだ。
兄さんに聞いたら「じゃあ、ここで演奏をやめろ」と言われた。
私としてはこっちが失敗の理由かな?とも思っている。
この間に入れる曲が作れなかった。
それこそこの曲が曲足りえなかった理由。
・・・そうして曲が終わり、私が顎からヴァイオリンを離す。
―――しかし、音はそれで終わらなかった。
真横でトランペットが鳴り響いたのだった。その曲はどこか僕の演奏した曲と似ていながらもどこか違う音楽。
・・・そうか!あれが私らしく手直ししたのならこの曲は彼女らしく直した曲。
そして私はふとここで疑問に思った。
・・・兄さんは同じ譜面を私とリーシャに渡したのか?
その時、兄さんの言葉が頭によぎる。
「それでな、お前らを見ていて曲を書いたが・・・弾けなかった」
・・・それはなぜ?
「・・・これをきちんと弾けるのはな、当事者であるお前らだけだからだよ」
それ私は分かった。
この曲は私とリーシャの二人で引いて初めて完成する曲。
これは決して2番がないわけではない。
始めは私が彼女に告げるための1番。
それに対して彼女がそれに返答するための2番。
ならば3番目は―――
彼女の奏でる2番がもう少しで終わることを察した私はヴァイオリンをセットする。
その時に彼女の瞳を見ると目はうるみ、涙がこぼれていた。
―――私はその顔が思わず笑みがこぼれた。
3番目の曲が始まる。
私たちは一度も打ち合わせはしなかったせいか、それとも性格のせいかずれがあった。
しかし、それでもしっかり調和はしていた。
普通の演奏か2人ではこれを超える演奏は無理とこっそりと聞いていた立役者はのちに語る。
・・・演奏が終わる。
私は聞いていてこの3番にこれ以上の変更は必要ないと思えるほど素晴らしいものだった。
この曲を作ってくれた兄さんには感謝しても足りないくらいだ。
そしてこの曲を演奏していた時間は・・・私の気持ちを表現するのに十分な時間だった。
「そう言えば言い忘れていたがな、お前は立派な奏者になった。けどな、俺は思うんだ。気持ちはやっぱ、自分で音にした方がいいと思う。それは作曲していてよく思うことだよ。だから―――」
これは兄さんが私に激励として行ってくれ言葉。
「―――きちんと自分で音にしろよ」
これはこの曲だと思っていた。けど、それは違う。
自分で音にするというのは・・・
曲が終わり、私と彼女は向き合う。
「リーシャ、私は遠回しな言い方ができないから素直に言うよ」
彼女はうつむき、胸元にトランペットを抱えうなずいた。
「私は君が好きです。・・・付き合ってください」
「はい、喜んで」
彼女は涙をぬぐい、笑顔で私の手を握ってくれたのだった。
2人そろって手を握り、コンサートホールから出てくるとそこには兄さんがいた。
「おまえら、結ばれたのか。それはよかった。それじゃあ、これは神様の祝福かな?」
兄さんはそういって外を指差す。
外は雪が降り、イルミネーションがその光景をより幻想的にしている。
「さて、お兄さんサンタはプレゼントを渡したから退散しまーす」
そう言って兄さんは外を走り去って行き、私はハッとする。
「・・・今日クリスマスだったね」
「・・・私も忘れていたわ。いつもクリボッチだったから」
「・・・でも今日は二人だよ?」
「・・・うん。だからとても嬉しいの」
リーシャはそう言って私の方に身を寄せる。
「でもこれが兄さんからのプレゼントとは・・・あの人らしいね」
リーシャはそう言って私の握る楽譜を見る。
その楽譜は先ほどまで私たちが吹き、私たちを結び付けてくれた曲。
その名も―――「To dear you.」
読んでくれてありがとうございます。
ちなみに作者はクリボッチ予定です!
・・・誰か慰めてヾ(。>﹏<。)ノ