第2話
数年が経った。王妃様は焦っていた。
あの気高さが、嫉妬に狂ってしまっている。容姿は努力を重ねることで、さらに美しくなっている。しかし、心の劣化が止まらないのだ。
王妃様のこころを狂わせているのは、王様の娘、白雪姫だった。彼女は病死した前妻の子どもであり、王妃様に懐かなかった。最初は努力をしていた王妃様だったが、少しずつこころがすり減っていくのをわたしは感じた。たぶん、王妃様にとって、最大の挫折だったのだろう。
徐々に、美しいことで評判だった前王妃に似ていく義理の娘。王妃様の気持ちは、とても複雑だったはずだ。どんなに努力しても、周囲に嫉妬され、亡くなって美化された前妻と比べられてしまうことも悲劇だった。
超えることができない努力の限界を王妃様は突きつけられてしまった。
それは、王妃様の人生すべてを否定されたかのようなものだった。
王妃様は焦点の合わない目で、わたしに問いかける。
「鏡よ、鏡。世界で一番、美しいのはだあれ?」
いつものような口調でわたしに問いかける。その口調だけが、わたしの大好きだった王妃様の面影だった。
わたしは王妃様に残酷な事実を突きつける。わたしにとっても辛いことだが、わたしは持ち主に対して、嘘をつけないようにプログラムされている。
「それはあなたの娘。白雪姫です」
白雪姫はまだ、子どもである。美という完成度では、王妃様よりはるかに劣る。しかし、彼女はこころが豊かなのだ。天真爛漫で優しい。数年前までの王妃様であったらのなら……。
この事実が王妃様をさらに狂わせた。王妃様は完全に狂ってしまったのだ。わたしの大好きだった彼女はもういないのだ。
この言葉を聞いて、王妃様は怒り狂う。自分のすべてが否定されてしまう恐怖がそこにあった。
白雪姫から感じる前妻の面影。はたして、自分は愛されているのだろうか。
単なる代わりなのではないのか。自分がここにいて本当にいいのか?。また、わたしは昔に戻ってしまうのではないか。恐怖に満ちた顔だった。
「壊してやる。すべて。なにもかも」
そして、悲劇ははじまった……。