小松シリーズ第二号 その5
【5】
「なぁ、小松。お前を好きで会いたいって人が来てるのだが」
ビールで潰れた里中が真っ青な顔でフラフラと立ち上がった。余裕が無いのか効果音が出ない。その様に里中を心配する声よりも歓声が挙がったのは異様な光景だった。
「俺のファン? 困ったな。その子は可愛い子なんか?」
「うん、割かし可愛い方かと思うよ。でも最後に聞いておきたいのだけど、ウップ。小松のことを好きな子、ウゥ」
「お、おい。そこ畳だから吐くなよ」
心配そうな店主を手で制し、ニコリと笑った。あぁ、その笑顔なら女の子にモテるかもしれない。
「ゥップ。好きな子なら誰でも受け止めるのだよな?」
「あぁ、心配せずともどんな子でも受け止めるさ」
「あは、安心した。それでこそ小松だ。では岩崎、表で待っていると思うから呼んできてくれ」
崩れるように倒れた里中を捨て置いて、岩崎が店の入り口に駆けて行った。しばらくするとファッションが目にうるさいマッチョな男が入ってきた。ここでそういえば、里中は一度も女の子とは言っていないことを思い出した。
「ごんにぢはぁ、彩です!」
「なっ、ファッションは可愛いだろ。オロロロロロ」
その彩さんが入ってきたのを見届けて、里中は腹の中の酒を吐き出した。店主が何か言っていたが、この作戦を知らなかった奴が何人かいたらしく。そいつらと小松の視線は彩さんに注がれていた。
彩さんの身長は二メートルほどで、多分鍛える系のオンナノコだ。美より機能性重視の、えーっと言葉が出ないけど。彩さんの後ろについてきた岩崎が満面の笑みで小松に囁いた。
「ほら! 小松の好きなオンナノコだぞ」
「いや、どうみても女装したオト、コ」
「違いますぅ! どっからどうみても、お・ん・な・の・こ。でしょ?」
精一杯ぶりっ子して可愛く見せましたって顔、多分あれは一時期流行ったアヒル口ってやつだろ。
「言ったよな。小松、男に二言は無いよな。お前が好きなオンナノコを用意したんだから、俺たちのことは気にせず二人で遊んで来い」
笑顔で岩崎をサムアップした。小松の怯えた様な視線が俺の目を捉えた。俺は何も知らなかったと首を振ってみせた。
「小松クンはぁ、初めてのデートでオンナノコを食べちゃう系の野獣的なオトコノコ?」
「いやだって、あなた、女の子じゃないし」
「アァ? オンナノコって言ってるだろ! 見て分かんねーのか?」
彩さんの声が男のソレに変わり、すごく怖い顔で脅した。
「は、はい。女の子です。でも、会いたてでデートとかはちょっと……」
「えー、里中君からは一週間でヤッて、二週間でポイしちゃう鬼畜系の男の子って、彩、聞いてたけど」
この時、小松の近くにいた奴は小松がとてもとても小さい声で「里中、岩崎。ぶっ殺す」と今まで聞いたことない怖い口調で言ったのを聞いたらしい。
彩さんは畳席に可愛いパンプスを脱いで小松の元に歩いて行った。この時、俺は心中で、「小松良かったな。靴は可愛いぞ」とよく分からないことを考えていたので、すごく動揺していたのだと思う。
「アタシも鬼畜系だから、気が合うね。久しぶりだな、こんな可愛い男の子とデートに行くなんて! 行きつけのホテルね、この近くなんだけど、もうお互い大人だからカラオケなんて生ぬるいことはナシね」
小松は真っ青な顔で彩さんに腕を掴まれたが、抵抗の意思を見せていた。次の瞬間、彩さんの手刀が小松の首を捉え、小松は意識を失った。
「あらぁ、気絶しちゃうなんてカワイイわぁ」
いや、今手刀打ったじゃん。とはみんな思っていたが、誰も口にしなかった。
「よっこらせ、小松ちゃんって軽いのね。あぁ、小松ちゃんの分のお代はこれで払っといて」
そう言って、小松を広い肩に担いで一万円札を岩崎に押し付けた。岩崎は真っ青な顔で頭をぶんぶん縦に振って、作った笑顔で手を振って送り出した。




