小松シリーズ第二号 その4
【4】
「いいか、お前ら。最近の女は人の内面を見ようとしない!」
小松は掘りごたつ形式の机に片足を乗せ、右手にはコークハイのジョッキを持ち、左手を握って大きく振っていた。
「そうだそうだ。俺なんか外面も磨いているのに女が近寄りもしねぇ!」
「俺たちはどうすればいいんだよ」
やっぱりこうなった。ノリノリ庵で開かれた会合はいつもと全く同じく始まった。
里中は最初の乾杯のビールで潰れたし、酒が進むごとに小松の言葉には力が入り、その小松の言葉に泣き崩れる者や小松の微笑みに安堵の笑顔を見せる者、共鳴する者が多く出始めた。
店は二週間に一回は必ず来るので、常連や店主、店のアルバイトは小松の演説をイベントだと思って見てくれているので、迷惑そうにしたりはしない。
ただ、こっちのテーブルに料理を運んでくれる女性アルバイトは唯一酒が入ってもいつもと変わらない俺に色々と声を掛ける。
「ねぇ、今日は何を彼は演説しているの?」
「大学にいる女はいつだって、外面だけを見てる。だから、今モテなくてもいいんだって言ってます」
「私も大学生だけど、こんなに面白い男の子は周りにいないわ。いいね、あんな男の子」
「みっちゃん! 俺の隣空いてるよ!」
後ろのブロックに座っているサラリーマンが女性アルバイトに声を掛けた。当のみっちゃんは後ろを振り返りあっかんべーをしたのだろう。サラリーマンは嬉しそうに歓声を挙げた。あぁ。
「今、男はみんな馬鹿だって思ったでしょ」
声を潜めてみっちゃんは耳打ちした。
「男はみんな阿呆なのです。ただ自分が阿呆であることを自覚してない阿呆は馬鹿なのです」
「あっ! 藤井がみっちゃんに抜け駆けしたぞ。みんな問い詰めろ。あいつはセコイ阿呆だ」
小松にそそのかされた有象無象の阿呆共が一斉にこちらに詰め寄ってきた。酒臭い。
「おい、うちの店は恋愛禁止だ。想いを伝えるのは閉店後にしろ」
ドスの利いた声が調理場から聞こえた。阿呆共が唯一恐れる店主だ。詰め寄った阿呆はすぅーっと引いていき、小声でもにゃもにゃと言い訳をしている。
「お? なんか、気に入らねーのか?」
「いえ、滅相もございません」
「……だけど、おやっさん。藤井はいいのかよ!」
「あっ、そういえば!」
「そうだ、そうだ。藤井はいいのかよ」
「っるせぇ、藤井から話しかけたわけじゃあないんだからいいだよ! お前らから話しかけるなよ! みぃに男臭さが移る」
有象無象から、ロリコン親父とか勘違い爺とか聞こえたが、筋骨隆々とした店主が調理場から姿を現すと誰も声を発しなくなった。
「なぁ、小松。馬鹿どもを焚きつけるのは程ほどにしろ」
「焚きつけたわけじゃねぇよ。こいつらの魂の叫びがさっきまでの姿なんだ」
「はぁ、他の客に迷惑が掛からない程度にな」
店主が調理場に戻るとみっちゃんは俺の傍から去って行った。みっちゃんが後ろを振り返った時、髪の毛からいい匂いがした。
でも彼女も小松みたいな軽薄でふざけた男に興味があるのかと思うと怒りに身体が震えた。




