小松シリーズ第二号 その2
【2】
パタパタと俺の横を通過していく足音、勢いよく扉を閉めるバタンって音がした。あの乾いた音具合はパンプスかな? 続いてため息とこちらに近づいて来る足音がし、俺の横でそれは止まった。
「寝てるふりご苦労。藤井の耳にはどっちが悪いように聞こえた?」
「仮に小松が悪いって言っても、いつもの屁理屈でごまかすんだろ」
「ご名答、でも質問に答えてないから五十点。不可だな」
「その採点は厳しすぎる。教務部に問い合わせをしてやる」
「で、何で聞き耳立ててたの?」
「空き時間だから寝てただけだ。気づいたらすぐそばで争いが勃発していた」
「なんだ。お前もこういう大人の話に興味あるのかと思った」
「それで、あの女は何番目? どうせ他にも本命はいるんだろ」
「うーん、六番目くらい。おっと、何人中かは聞くなよ。プライバシーの問題があるから」
小松はそうやって、いつもの飄々とした調子で言うのだ。どうせ数十人単位の六番目だから本命のうちとか言うんだろうけど、そこまで関心は無かったのであえて聞かなかった。
実は小松のこういったトラブルを聞いて目の前で見るのはこれが初めてではない。小松は非常にモテる。それでどんな女に交際を頼まれても一つ返事で了解する。
これは小松流に言うと、「俺、優しいから女の子の悲しむ顔は見たくないんだ」という論法に沿っている。小松がその後、付き合った女の子以外の女の子と関係を持つ男だと知って、それぞれの女の子が怒り悲しんでも奴は困った顔で、「それはリサーチ不足だよ。俺を見た目だけで判断する女の子を優しさでカバー出来ない」と屁理屈で言ってのけて、自分は悪くないと言い張るのだ。
俺は自分の知り合いの女の子が小松を好きだと言ってたら、よく考えろと諭すつもりでるのだが、俺には女の子の知り合いは一人もいないので、実践出来ないでいる。誠に悔しい気持ちでいっぱいだ。
そんなことを繰り返しているから、小松の彼女枠は非常に回転が速い。我々が二年の頃、つまり一年前は同学年の同学部中、七:三で付き合っている女が多く、付き合って別れたという経過を辿った女が少なかったが、いまやその比率は二:八になっている。学年を飛び越えても関係を持った女性が多いと聞く。全体の比率は分からないが、おそらく数はとんでもないことになっているだろう。想像するだけでムカムカする。
俺は同学年同学部女性の二割中の一割を信じてる。小松の価値観を否定し毒牙に吸い寄せられんことを。
「あー、どこかに俺の恋愛観を肯定してくれる女の子はいないかな? 藤井、知らない?」
「探せばどっかにあるんじゃないか。ほら学校の裏山にでもいるって、人外なら」
「ひどいねー。でも、今、充実してる。こうやって理想の女の子を探していることは」
回転の速さがそれだけ傷心の女を増やしていることに小松は頭が回らない。要は阿保だ。
阿呆には三通りあって自分は阿呆だと分かって青春を謳歌する者、自分は阿呆かもしれないと疑って気をつけながら青春を謳歌する者、一番質が悪いのが自分は阿保ではあるとひとかけらも疑わない阿呆で好き勝手に青春を謳歌する者。
俺は一番目か二番目の阿呆だが、小松は三番目の阿呆だ。しかし不思議なことにいつだって女性ウケがいいのは三番目の阿呆なのだ。やはり熟成された一.二番目の阿呆からは女性を寄せ付けないフェロモンがにじみ出るのだろうか。
「小松、お前は阿呆だ。俺が保証してやる」
「俺は勉強が出来るし、単位はたくさん持っているぜ」
「そういうわけではない」
そういうわけではないのだ。




