メイドの女性とハンドガン
前回村を出てからようやく到着したクラム、その街並みは素晴らしいものであり、あいも変わらず気持ちの悪い晴天と活気のある街の声、レンガの道とレンガの建物の街並みは奥に見える大理石のお屋敷まで続く、紙袋にパンを入れた女性はやんちゃな子どもたちにパンを少しちぎって与えたり、少し筋肉質な男は角材を方に担いで持ち運ぶ、傭兵風の鎧の兵士はまさにファンタジーと言う雰囲気を醸し出す。
「人に酔う、、、人が多い、、」
そんな中世ヨーロッパやファンタジーの街並みを前に、マスクで顔はほぼ見えないがその表情を蒼くし、目を細めて風蘭は手を額に当てた、通常であればこんな景色を見れば面白くて見渡すものだが、彼は下を向くと周囲を観察することはなかった。
そう、人が多すぎたんだ。元ニートにこの人混みはきつい、ネット繋がってなくても大丈夫だが、人が多いのと日差しが強いのはダメなのだ、風蘭は路地裏に逃げるとたまたま置いてあった木製の箱に座り込み考え事を開始した。
今回この街でやることは大きく分けて4つである
・疑問なことに対して図書館での情報収集 ・魔法の兵器化ができるか考える
・ハンドガンの制作 ・対魔物武器の設計
再優先は魔物と接触しそれにあった武器を考えることだが、魔物と接触するにはまず【ギルド】という組織に参加して仕事をもらえるようにするのが合理的だ、なぜならそうすれば仕事しながら研究できて一石二鳥だからである、こういった考え事をする際はやはり基礎知識があるのは嬉しい。
そしてもう一つ、自分の立ち位置が判明したため武器の製作が急がれる、こういったファンタジーであれば自分の立場は一騎当億の化物なものだが、自分の強さは全て武器依存であり、今の装備では盗賊相手でも危険に成るほどである、つまりあまり時間はない、風蘭は考えをまとめると早速ギルドに向かった、その足並みは少しダルそうである。
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ギルド内は口の字型の吹き抜けであり、二階には風蘭のいる下の階には下品に笑う野盗に見分けの付かぬ男たちが、木製のギルド内の古びた机に汚らしいジョッキに酒を入れて飲みながら騒いでいる、ギルドといえばファンタジーには欠かせない存在であり、大昔にはヨーロッパにも商人同士のそういったものがあったほどであるが、このギルドは荒くれ者が集まる、いわばロクデナシの巣窟であることがわかる
そう思い上の階を見上げれば、そこにはきらびやかな装備を身にまとい、大きな剣、宝石のついたスタッフ、赤い弓など非常に強そうな者達が酒を飲んでいる、恐らくは上の階が上級の冒険者か何かなのであろう
ゲルトは汚いギルド内を進み、依頼の受付カウンターまで歩いて行った、周囲の人間は黒ずくめの男が歩いているという不自然さを無視して騒ぎ続ける
「あの、ギルド参加したいんですが」
風蘭がそう言うとバンダナを薪、褐色の髪の毛を上げている若い兄ちゃんが出てきて紙を出す、紙の内容は冒険者についてであり、日本語ではないが何となく分かる
「これに戦闘スタイルと名前書いて!ギルドの説明いる?」
「あ、説明頼む」
説明などもはや知識としてはあるのでいらないのだが、コミ症の風蘭はこれを断ることが出来なかった、いるかと言われればはいと言い、しますかと言われればいいですと言ってしまうのは彼の悲しい性である
「ギルドは魔物や盗賊などの危険な仕事を依頼する組織さ、ギルドには階級があって、依頼をこなすうちに上がってくよ、階級はF~Aそうしてそれをも超えるのは世界にいま5人しか居ないSのランクに分かれるよ!」
よくよく考えると、名前が彼にはない、東道風蘭、その名前は明らかに目立ちすぎる、何かそれっぽい名前は無いか、そう風蘭は思い少し悩む、そんな彼の心中を察さず受付の男が足をゆすり始めた、それを見た風蘭は慌ててペンを進める、やはりコミ症の性である
「はい!お名前はフウさん、戦闘スタイルは中距離魔法ね!」
「はい、そうです」
魔法などほぼ使えない、しかし科学の力は行き過ぎると魔法に見えるものである、第二次大戦時なら戦闘機は鉄製の兵器に見えるが、戦国時代であれば鉄の龍あたりに見えるであろう、ならば銃は魔法でいいのである
「はいこちらF階級のバッチ、そのかっこいいコートにつけときな!」
そうして風蘭は星の形の中にFと書いてあるバッチを胸につけた、少々不満気に黒いコートにつけた、非常に格好悪く、風蘭は流石に頑張ってBあたりまであげようと思うほどに格好悪く、武器の性能を調べると同時に仕事をしてランクを上げるため風蘭はオーガ5体の討伐の依頼を受けてギルドを出た、外に出た風蘭の鼻には未だ酒の匂いがこびりついている
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広がる草原に眩しい太陽、そしておおきな棍棒を持ち歩くオーガの群れはその景色をRPG風の光景に彩っている、多数の冒険者はオーガに剣や弓を向け応戦する、そんな中黒尽くめの服を着る風蘭はその黒い衣装と吸血鬼の特性で熱さで頭がもうろうとしていた
そして風蘭は銃を構えると少々不安を覚えた、オーガは通常弓などで倒せる、それ故普通であれば銃で殺せるはづなのだが、もしも倒せなければと思うと風蘭の脳裏には少々の恐怖がよぎり、その恐怖は風蘭を笑顔に変えた、こんな恐怖は前の世界では味わえなかったためである
[ダダダダダ]
乾いた音は中に響き渡る、オーガは膝から崩れ落ち、風蘭の表情は興奮の色に染まる、まるでアダルト雑誌を見るように顔を赤らめ、まるで宝石を拾ったかのように心臓を震わせた
「オーガ沈黙確認、問題なしっと」
オーガの近くまで行くとやはりオーガは血まみれになってみどり色の草を彩る、しかしオーガは未だ手に棍棒を持ち、その目をこちらに向けた、その表情は殺意と恨みが篭っている
「うーん、もう少し威力が必要かな~」
風蘭はその表情に興味も持たずに銃を構えた、その行動は明らかに狂っている。
そうすると後ろから足音が聞こえて来る、風蘭は敵かと思い音のなる方向へ銃を向けた、銃を向けた方向には女性が立っている、白と黒のメイド服、腰まで伸びる黒い髪の毛、切れ長な目、整った容姿に白い肌、こんなにも綺麗な女性はいないであろうというほど綺麗であり、異世界小町である
「オーガは死にづらいので、中距離の魔法からでしたら動かなくなったところを頭に止めを刺すこと速いですよ」
メイドの言うとおり風蘭は足をググりと上げてオーガの頭を勢い良く踏み潰した、オーガの頭は勢い良く潰れて眼球は草原を転がった、まるで蟻でも潰すように頭をすりつぶした後にメイド向かって風蘭は一礼した。
「本当ですね助かりました!ありがとうございます」
メイドは優しげなというより、怪しげに笑みを浮かべると楽しそうにオーガの頭を眺めた後、風蘭の胸元を眺める、風蘭はこんな美女と話している時点で心臓が破裂しそうでありその冷や汗はとどまることはない
「貴方もFなんですか、私も実は最近ギルドに参加して」
唐突に女性は自分の懐からバッチを取り出し見せてきた、バッチは風蘭の胸元のFのバッチと同じものであり、風蘭は同じ冒険者なのかと少し嬉しい気分になる、風蘭は銃をおろして少し女性に近づいた
「そうなんですか!戦闘スタイルは?」
「植物魔法です、貴方は中距離魔法ですねさっきの感じだと」
本来は魔法ではないのだが魔法ということにして話を合わせる、風蘭には魔法を使うものが魅力的であった、武器への融合、魔導武器の製作を志す風蘭にとってここでこの女性と友人になっておくことは非常に意義のあることである
「はい、そうですよ」
女性は周辺に落ちている石を手荷物とその石を少し握って周囲のオーガに投げつけた、オーガにぶつかると石は緑色に光り蔦が生えてくる、その蔦はオーガを巻き取り完全に拘束した、蔦の締め付けるギシギシ音を立てている
「こんな感じでやってます、私は」
風蘭は銃をオーガに抜けるとそのまま発砲した、銃声は瞬く間に響き次はオーガの頭を撃ち抜いた、出血量さほどなく、白い脳みそは周囲にばら撒かされた
「俺はこんな感じ」
そう言うと女性は満面の笑みでオーガに近づき、その死骸を眺めたり突っついたりしている、その姿はなぜだか風蘭の首元に鳥肌を立て、ゾクゾクさせた
「すごい威力ですね!それなら倒し放題!」
「え?」
「あ、、すいません、実は私、魔物や人を攻撃するのが好きで、いえ!普段はしませんよ!合法な状態でしか!」
突如として出たその発言は風蘭の心を射抜いた、風蘭はコミ症であることを忘れて女性に近づく、マスクの下は恐ろしいほど頬を上げ、その表情はまるでピエロのようである
「それはすごい!欲に忠実なんですね!」
「い、いえ、あくまで問題にならないように相手は選んでますよ」
風蘭は理性のない人間が好きだ、しかしながら『共に旅をする』のであれば話は変わる、近くにいる人間は流石に理性を持っていてほしいものである、それ故そこの女性はドンピシャであった、同僚で魔法を使い殺人鬼で理性もある、こんなストライクな人間はそうそういないと風蘭は嬉しさで心を踊らせた
「よければお名前を教えてくれませんか?」
「ロベリカ・マルコフです あなたは?」
名前を聞くと少し心音を立てて、緊張した声色で最後の発言をして
「俺はフウっていう、今後なんかあったら一緒に依頼でもどうだ?」
「いいですね!よろしくお願いします!」
ロベリカはそう言うと風蘭は凄く嬉しそうに、事実嬉しくて体が揺れた、正直少し心細かったのだ、それ故彼は仲間ができたことが嬉しくて仕方がなかった。
その後二人はオーガを依頼数殺すとギルドに戻り、各自自分の宿に戻った。
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宿内はボロいものであり、最初に止まった村の宿よりも少々薄汚い、風蘭は部屋の真ん中にあるテーブルに荷物を置き、椅子に腰を掛けると肘をついた
机の上には鉄や鉛が置いてある、そんな荷物の上に強引に風蘭は武器の設計書を置き、ニヤにしながらページを捲った、今回作る銃はまだ明確に決めてはいないものの、ハンドガンを作る、ハンドガンというのはこの世界ではかなり使うことが多いであろう武器の一つだ、何と言ってもコンパクト、では何を作るか、威力が魅力なデザートイーグルか、丈夫なSIG SauerP226か、そう見ていると一つの銃が飛び込んだ、今回の目的はステンガンが使えない時に確実に使えることが目的である、それ故丈夫でジャムらない銃である必要がある、それにぴったりな銃、それは
――コルトアクションシングルアーミー・通称ピースメーカー
西洋劇よく見る銃である、装填数はリボルバーなので6発、装填にはスイングアウトしないため一発々込めないといけない古い銃である
では利点はというととにかくジャムらない、壊れない、これに尽きる、さらに言うならば中折銃では出来ない火力が出せたりなどそれ相応に利点はある、今回の目的は万が一の際武力が無くなることの防止であり、利便性はそこまで重要ではない、そしてもう一つ作る理由がある、それはただ単純に風蘭がこの銃が好きなのだ、と言うよりハンドガンが好きな人間の7割はこの銃が好きであろうというものであり、その研ぎ澄まされたフォルムは心を躍らせる物だ
早速ひとつ目の銃を決める、しかしあと一つハンドガンを作る、それも別の銃、もしも盗まれた際、二つ同じものがあれば複製が安易になってしまうため同じものを2つ用意するのは望ましくないというものだ、
風蘭は何にしようかと心躍らせてページをめくる、そして先ほどのピースメーカーのページよりしばらくすると、風蘭はページをめくる手を止めた
――ナガンM1895
ロシアン銃である、こちらも装填は一発づつ、こちらはリボルバーではあるが結構壊れやすい、しかしながら利点もあるというものであり、この銃はサイレンサーが付けられる、少々複雑な構造の代わりの利点である、この通常のリボルバーほど単純ではなく、オートマチックほど複雑ではないという絶妙なラインは今現在の目的にはぴったりである、風蘭は作る銃を決めると机の上の邪魔なものをどかして鉄を並べた
「さ~て、つっくるぞ~」
非常に気分の良さそうな風蘭は早速設計書を眺めながら魔法を唱える準備をする、実は風蘭は武器の設計書などなくても全て暗記している、しかしながら彼にとって失敗は避けたいものらしく設計書をシッカリと見つめる
「造形魔法発動!我の想像を具現化すれ!」
赤い光が机を包む、少し風を外向きに放ちながら光は机の中心に収束していき、最後光が消えると机の上には銃弾と銃が二丁並んでいる、二回目であるからか今回はかなり疲れた様子ではあるが風蘭は倒れずに銃を手にとった
「おおお!!、普通にカッコいい!」
風蘭は純粋な物が好きであり、武器はその際たる例であるがゆえに好きである、しかしそれと同時に彼は男の子としての銃好きも持ち合わせている、それ故か彼は二重の喜びで非常に喜び、銃を撫で回す
「いや~、これはカッコいい、いいね~、とくにピースメーカー、なんでこんなしびれるデザインかな」
コミ症とは一人になるとよく喋るものであり、風蘭は銃に向かって長々としゃべる、しかし冷静に見るとその姿は異常である、例えば子供が銃を手に入れた、彼は単純に格好良さに目を輝かせる、それはその強さに憧れるためであり、生物としてその姿は正常であろう、しかし彼にはそんな感情はない、『この銃で打たれた者はどんな顔を見せるのだろう』と言う考えが彼の基本理念であった
風蘭は銃を机に置くと興奮を抑え、椅子に深く腰を掛けて今日の出来事についてまとめることにした、こういった緊急事態にはきっと物事を整理した方がいいという考えである
・報酬は
ー銀貨3枚、宿一泊分
・収穫は
ー魔法を使う旅仲間とこの世界の魔物の強さの把握
・製作武器は
ーピースメーカーとナガン
・今後の目標は
ー第一優先は高火力武装の製作、長い目では魔導武器の制作
脳内で大方の事情をまとめると風蘭はクスクスと笑いながらベットの脇の窓を眺めた、窓の外には星が散りばめられており、月明かりはまるで日のように明るい
「ああ!異世界は楽しい!、しかしやることが多いな、明日から大変になるし今
日はもう寝よう!」
風蘭にとって異世界は思いの外に楽しいものであった、武器を作れて打てるという点に加え、危険な世界ならではなの彼の好きな恐怖や殺意の充満は天国よりも彼には天国に思えた
風蘭は席を立ち上がるとベットに向かい数歩歩いて勢い良く仰向けにベットに倒れこんだ、そうして天井を見上げると少し緩やかな笑顔で目を閉じた
(嗚呼、こんな楽しい世界にこれたのなら、あの女神様にも感謝すべきなんだろうな、、、)
落としたり化物にした女神でさえも今の彼には感謝すべき相手とかした、そうして風蘭はぐるりと寝返りをうち、うつ伏せになるとそのまま今の高揚感とともに眠りの世界に落ちていった。