村と少女と殺戮者
少々肌寒い朝、風蘭の昨日の魔力切れがウソのように回復していて、冷たい床に伏す風蘭は少々眠たそうに体を上げ、昨日作り上げた銃をすぐにでも手に取り使ってみたいと外の景色などには目もくれず、真っ先に机の上を凝視した
机の上にはステンガンが一丁、その隣には4つの弾倉があり、そのうち一つは32発、他は50発のもので、今差し込めばすぐに使える状態にしてある、ただし玉は全て2発少ない状態にしてある、なんでもこっちのほうがよく動くとか。
「うむ、そろそろ外で魔物とか撃って試すか、、、」
今すぐにでも使ってみたい、そうウキウキと心を踊らせ、風蘭は机の前の椅子に座り込むと銃を手に取りジロジロと外観を眺めたり、撫でたり、とにかく今ステンガンでできる堪能の仕方を全てやろうとフェイスマスクで見えない表情をニヤリとさせて、黒い手袋を取り銃の冷たさをしっかりと感じて幸福に浸かっていた
[バリン!!!!]
しかし風蘭にとって幸福な時間はそう長くは続かなかった、窓ガラスが突如割れ、菊のような花の入った可愛らしい花瓶は落ち、ガラスの破片は銃に降りかかった
風蘭は苛立ちとともに銃からガラス片を払うと不機嫌そうな眼で割れた窓の外を見下ろした
「!?」
「おら!村の奴らは全員集まれ!殺されたいのか!!」
モヒカンで小太りの男が10人ほど、大きな斧を持ち町の中央に人を集めている、もはや数人斬り殺したらしくあちこちに血溜まりが出来ており村人たちは恐れおののき体を震わせて身を寄せて、ただ無力に蹂躙されていった
「いやあああ、助けてえええ!!!」
「うるせえ!」
「兄さん!この女は高く売れそうですぜ!」
「ははは、そうだな!」
ある程度楽しげであったRPG風な村の風景は一変、まるで敗戦地か世紀末かのような恐ろしく汚らしい風景に変わっている、さらに盗賊と思われる男たちの外装は革製のジャケット、モヒカン、さらに小太り、さらに背が低い、やっていることは非情で異常で情けない光景であるがあの容姿では小悪党にしか見えない
風蘭はゴミを見るような目で盗賊たちを見下ろした、彼自身殺人現場なんかは嫌いではない、何故ならそこには純たる感情、殺意がうずまき、自分の好きである純粋な何かがそこにあるからだ、しかし彼らにその様子はない、強姦したいし強奪したいし、その上殺して遊びたい、傲慢と言うよりも余裕があり、余念が多いその行動に風蘭は一切の感情はなく、むしろ邪魔で不愉快な存在としか思っていない。
「金は出すから命だけは」
「うるせえ!」
[ガン!]
命乞いをした男のクビが飛び、いつしかやったフラスコの実験みたいになっている、宿に盗賊が来るのも時間の問題だろう、風蘭はそう思うと荷物をまとめ逃げる準備を行った、危険を冒さずとも武器は幾らでも試す機会はある、あんな危ない集団相手にする必要など無いのだ
「お、、お兄さん、、、」
風蘭が部屋を出ようとすると、そこには少女が一人立ち尽くしていた、昨日宿付近で遊んでいた少女にも見えるが、その黒い髪以上に鉛色の眼は昨日の活発的な少女とは思えない、むしろそれは大人びているというか、魅力的に写った
風蘭は左手を差し伸べ、右足の膝を折ると優しい声で少女に話しかけた、何てことはない、ただの気まぐれである、ここで撃ち殺して逃げるなんて真似するほど風蘭は面白みのある性格はしていなかった
「なんだい少女、一緒に逃げるかい?」
少女に向かいサラリと声をかける風蘭に、少女は声を少し震わせ、腰辺りで手を握りしめ、目を血走らせながら風蘭の目を見つめて声を絞り出すように話し始めた
「、、、あの人お母さん乱暴にして、お父さんを殺したです、、、優しかったんですよ、お母さんもお父さんも、、、なのに、、、」
「そうか、しかしどうしようも無いだろ?」
少女の家族の事情なんて風蘭には全く関係はなく、そのへんの石ころよりも興味はなく、不幸話なぞ訊いている余裕はないがゆえ風蘭の返答冷たいものであった
しかし少女の姿は変わらず、まるで割れかけの風船のようにふくらんだ感情は遂に口からこぼれて落ちた
「死ねばいいんです、、、」
少女の悍ましい一言に風蘭の態度は一変した、声色が変わり、先程までと違い抑揚が付く、表情はマスクで隠れているが頬をいやらしく上げ、目はカット見開き、銃を持った手には力が入る、その姿は先程までは少女の高さに合わせる姿に見えたが、今では跪くようにさえ見える
「誰が?」
期待の篭った声は少女の耳を劈いた、冷たく、低く、そして緩やかな声は丸で耳に滑りこむように少女の脳内を支配するように、その問をしっかりと頭に染み込ませた
「みんなです、、あそこにいる悪い人全員死んでしまえばいいんです、お父さんもお母さんも帰ってこないのは分かってます、それでも!!」
「死んで欲しいと?」
「はい、、、私悪い子でしょうか?」
風蘭は鳥肌を立てた、殺意しかこもらぬその台詞は12歳の少女から出たものとは思えなかった、どす黒い声を聞き、こんな素晴らしい少女をあんな蛮族に渡すのは勿体無い、あまりに、非常に、かなり勿体無い、そう思い、思わされ、風蘭は顔を少し突き出して少女に楽しそうに話しかけた、その姿はまるで悪魔か何かに見える
少女は化身になったのだ、死の化身、恨みを込めて行動し、意味をなさずに死を求めた、その姿に見惚れて惚れた風蘭はこれ以上の素敵なものはないと動かずに入られない
「少女よ!あいつら皆殺しにしたら嬉しいか!笑うか!?」
「、、、はい、う、嬉しいです」
「ならば望め!俺がその願い叶えてやる!君の殺意を乗せて恨みを込めて奴らを皆殺しにしてやる!どうする?」
「お願いします!!」
風蘭は銃にマガジンを入れた、赤い目をググりとドアの方へ動かし、少女を部屋に隠すとその黒いコートを振って階段を降りた、風蘭にとってこの後の少女の反応を見ることは歓喜であり、さらに右手に持った銃を打つことはまさに満願であるからだ、銃の試射も含めた彼の暴挙はもはや誰に求められない
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風蘭は受付のカウンターに身を隠した、恐らくはもうじきこの宿にも盗賊は押しかけてくることが予想できたからである、幸い彼らの武器は近接武器であり、銃を持った状態でさらに出入り口があるこの場所では負けることはないと踏んだのである
[ギイイイ]
ドアが開くとそこには小太りで2mほどの斧を持ったモヒカンの盗賊がまるで神か何かのような横柄な態度で周囲を見渡した、よほど金がほしいのか、女が欲しいのか、その欲深さはぱっと見てもわかるものであった
風蘭はそんな盗賊に向かい銃口をそっと向けるとすっと立ち上がった
「誰か居るか!!」
[ダァダァダ!!]
乾いた音は宿内に響き渡った、盗賊は血を吹き出しながらその場に伏した、血は木製の地面を這い、そして遂に風蘭の足元まで流れていくと風蘭はその血で靴を拭いた
風蘭はステンガン独特の火薬臭さを鼻で嗅ぐとクスクスと笑って銃をジロジロ眺めた、その様子からよほど銃が撃てたことが嬉しかったことが伺える
「動作確認!打てる、動くぞ!」
銃声を聞き、盗賊たちはまるで浮塵子のように宿のドア前に集まった、異様な音に倒れる仲間、盗賊はキレて怒鳴りながら突撃する、こんな事で統制が取れなくなる時点でこのグループの質はたかが知れていることは一目瞭然である
「この野郎!今すぐ叩き殺してやる!」
盗賊たちは哀れにも集団で行けば勝てると思い、ドアに突撃してきた、確かに、銃のないこの世界であればそのような選択肢は良作であったのであろう、しかし現段階、銃の存在するこの状況下で斧を持って突撃などをすればどうなるかは見当がつく
[ダダダダダダダダダ]
集団で入ってきた盗賊は次々と銃の前に膝を下ろした、まるで糸がキレたかのように盗賊が倒れる、風蘭はノリノリで装填し、指が一ミリ、一マイクロでも動いた者は過剰に打った、その爽快感は何とも言えず、風蘭を虜にする
「ひい!?詠唱無しで魔法だと!?聞いたことねえ!!」
膝を震わせ宿の前でしゃがみ込む盗賊、先程の威勢は何処に消えたのか、意味不明の暴力の前にもはや震える以外にはなかった。
宿の中からは『カツ、カツ』と音を立てて歩いてくる男の姿が見える、黒ずくめで目を赤く光らせるその男は盗賊にとって死神化何かに見えたのであろう、片方は遂に失禁してしまった
「魔法なじゃないし、、、殺しまくっていまさら殺されないと思ったか?」
鋭い声とともに銃に掛かる風蘭の指は迷うことなく引かれた。
[ダン!カチ]
「ひい!、、、あれ?」
銃弾は一発、失禁をした盗賊に当たると血あぶくを拭いて倒れこんだ、しかし引き金は引かれたままだというのにその銃弾は一発も出ない、これには風蘭もかなり焦り、先程までは楽しそうであったのに今ではどうしたのかとオロオロしてします
――弾づまり
ステンガン最大の弱点であり、これが原因で『スティーンガン(くさいじゅう)』なんてあだ名が付くぐらいであった、それを思い出した風蘭はどうしようかと周囲を見渡した、しかし
「な、、、なんかわからないが今だ!!!」
銃弾の当たっていない盗賊は今だ健在であり、何やらトラブルが起きたことを察すると、手元のナイフを持って風蘭に斬りかかった、まるで鬼の首を立ったかのように襲いかかる姿はゴブリンと大差変わりない
「おらああああああ!!!!」
[ガン!]
盗賊の決死の攻撃はあえなく失敗に終わり、血を流しながらその場に倒れた、村人が後ろから石で殴った、盗賊も1人じゃ後ろから殴られるのが落ちであり、風蘭は危なかったと汗を拭い、弾づまりの対策もしなければならないとこの時考えることとなった。
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盗賊が全滅すると村人が歓喜の声が上がる、泣く者、笑う者、息子を抱く母、いろいろな者達が自分たちの生存に喜び、声を上げた、村の中央広場はちょっとしたお祭り騒ぎである、しかし盗賊や死んだ村人の血を踏みつけながら笑う村人はどう見ても狂っているようにしか見えない
「やったああああ」
「あ、ありがとうございます!!」
しかし風蘭に一切の興味はなかった、もはや村人に興味はない、興味が有るのはただ一つ、先ほどの少女であった、今どんな表情をして、どんな言葉を発するのか、それだけが気になり宿の方へ風蘭は小走りで向かう
少女は宿のドアの前におり、血まみれの盗賊の首を蹴飛ばし、股間を踏み潰し、目をえぐり、そしてその肉片を引きずって宿内に持ち込んだ
風蘭は何だなんだと覗いてみると、宿の炉に盗賊の死体を焼べていた、少女は燃えゆく死骸を眺め、暖炉の前の椅子に腰掛け足を汲んで大笑いした
「はは、ざ、ざまあみろ、ふあははあははは」
少女は完全に中毒になった、彼女の悪意は純化した、もはや恨みなどというチンケなものはなく、あるのは恨み、妬み、そのような負の感情だけが残った、恨む対象の消えた恨みは何処にもいかずに少女にとどまり、恨む対象の亡骸をさらに残骸にしつくしその殺意をおさえていた
風蘭は笑った、素敵すぎて顔が赤くなった、こんな狂った者、前の世界では見られなかったとこの世界に来たことを深く喜んだ、風蘭は少女の方へ歩み寄り、少女の腰掛ける椅子の隣に膝を付けると口元をギチギチと上げて話しかけた
「少女よ、どうだったね」
「さ、、、最高でした、怯えて逃げて最後は見下してた奴に撲殺される、全員死んだ!ははは」
少女が完全に狂ったことを見届けると、『さて、つぎはどうしよう』程度で風蘭はその場を過ぎ去った、彼にとってはこれはゲームのようなものであり、この狂気に満ちる世界ではまだまだやることが沢山あった、それ故確かに素敵であった少女に固執せず、すぐさま次の行動に移った、宿を出た風蘭はもう宿を振り向くことは無かった。
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魔物を殺したい、情報を得たい、さらなる武器を作りたい、風蘭はこの世界でやりたいことは五万とあった、頭のなかにはもうやりたいことで溢れかえる
しかし思考回路は極めて冷静であり、今回の救出の礼として、ここより大きいとなり町まで馬車を村で出してもらうことをお願いした、魔物にしても、情報にしてもこんな村ではままならない、風蘭はさっさと新しい街で研究したいと思いわずらう。
今いる村がフラム、今から行くところがクラク・ラミという街で、貿易が盛んだそうだ、馬車の中は案外快適であり、風蘭は宝物である武器の設計書を眺めながら『次はどのような武器を作ろうか』と思いニヤニヤしていた
「すみませんね、馬車出してもらって。」
「いえいえ!貴方様が居たおかげでみな救われたんです!」
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こうして風蘭はようやくこの世界での本格的な武器製作に移ることが出来るようになった、今回の反省点として風蘭が上げたのは、弾づまり時用のハンドガンの製作、それから魔物に対しての情報収集と対魔用武器の制作、これが今後の課題であると考えた、
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ガラガラと揺れる馬車、その揺れに抵抗することなく風蘭は馬車の荷台で銃を抱えながら揺られていた、この世界に来た当初とは違い、ある程度今後の予定が立てられている現状況において風蘭は景色を楽しむ程度の余裕があった
風蘭には現在鉄がない、いつもの風蘭であれば『武器だ!』と声を荒げ、息を荒くし馬車の荷台で銃の一つでも作ろうとしたであろう、しかしない袖振れね、鉄のない現状況において異世界を異世界らしい楽しみ方で楽しむ以外やることはなく、馬車の荷台に揺られながら風蘭は空を見上げた後道の脇の草原を眺めた
草原は何処までも膝丈ほどの草が続き、角の生えたウサギや変わった虫が飛び交い移動する、空は雲一つない、恐らくは海が近くにないのであろう、異様に晴れ渡った空に綺麗な草原、自分の趣味以外にあまり興味の示さない風蘭でさえその気分は良くなり少し体を揺すった
「お兄さんってこの先どうするんだい」
暇そうにする風蘭に気を使い、馬車の御者は話しかけてくる、その陽気な声はこの道中に似合うものであり、本来であればこういう物語の少イベントとして楽しむべきものである
「あ、あああ、えっと、そうですね、ま、魔道士として、、、魔物退治でも」
しかし風蘭は所詮ニート上がりである、こんな小心者にはこのイベントはキョドる以外に選択肢はなく、まるでコンビニで『お弁当温めますか』に対し『YES』といえないコミ症である、と言うより彼はコンビニでハイと言えたことはない
「お兄さん口下手な方かい、まあ良いや、じゃあ一方的に喋らせてもらうよ、がはは」
しかしコミ症というのは面白く、相槌は打つ物だ、案外話を無視はしない、それ故話好きな人間ほどコミ症と相席になるとよく喋るのだ、まさに今がそのさなか、いつ『どう思う』みたいな台詞が来るかと怯えながら話を聞く風蘭と話してて気持ちのいい御者の旅はこれよりさらに数時間続くこととなった。
とっぷりと夜も更けた、星空は赤や黄色の光を放ち夜空いっぱいに散りばめられ、前の世界では見られないような夜空には風蘭も思わず息を呑む、鈴虫様な音は生暖かい空気に響き、馬車は眠たそうにガラガラ揺れる、未だ話し足りないような御者であるが流石に疲れたらしく今は喋ってはいない
「そこの馬車!!荷物拝見!!」
すると銀製の西洋鎧に身を包んだ兵士がこちらに走り馬車を止めた、兵士は御者に話しかけると荷台の荷物をガサガサと漁り始めた、女神の特典知識にある内容だと、この状態を貨物拝見というらしい、街から1kmほどになると兵士たちが巡回を始め、馬車の荷物に麻薬や武器がないかを確認する、検問でも検査するが、検問での仕事を減らすための見回り兵士たちの工夫らしい
馬車の中には、藁、砂糖、麻布、ステンガン、銃弾、マガジンがあり、何処にも危険なものなどない、兵士はにこやかに風蘭に一礼すると御者台の方へ歩いて行った
「ご協力ありがとうございました、こちら見回り手形です、検問で見せれば少し速く進めます」
馬車は再び進み始めた、吸血鬼だからであろうか、眠気はない、むしろ夜のほうが目が冴え、月明かりでかなり明るいとはいえ異常なほど夜道がよく見える、この新鮮な感覚に風蘭は楽しみながら周囲を見渡した
「あ、、、そういえば」
風蘭は試しにとフェイスマスクを外した、この世界来た当初は焼けるような痛みを喰らい、見事泣きかけたが今は夜、もしや今ならば問題はないのではないかと希望を持ったのだ
「おお、痛くない」
案の定痛みはなかった、息苦しかった口元は開放され、少し甘みのある空気は喉に向かってなだれ込んだ、マスクなどを長時間使用すると空気に味を感じるのは何とも不思議なものであり、その開放感は心地のいいものである
そんな開放感を味わう風蘭をよそ目に、御者は手元の紐を引っ張った、紐は御者台の左に伸びる棒に伸び、紐を引っ張ると棒の先端部分が赤く発光した【高嶺の蛍光】、魔導装置の一つでありこの世界で使われる信号の一つ、事前許可なしでの街へ入る場合、馬車であればこの高嶺の蛍光を街の100m前で付ける規則となっている
風蘭が何だなんだと進行方向を眺めれば、そこには大きな外壁がそびえ立っている、レンガであろうか、その外壁の高さは10mほどであり、木製の門の前には松明と兵士がそびえ立つ、【貿易都市クラク・ラミ】、そのあまりに非現実的な光景は風蘭の心を射抜いた
「これは素晴らしいな」
こうして風蘭は、クラムに到着したのであった。