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三月の短編系まとめ

異世界に飛ばされた※ただし呪いの市松人形と共に

作者: 三月

 残暑厳しい8月中旬。アタイが通う市立「逢魔ヶ原高等学校」ではもうすぐ夏休みが終わろうとしていた。高校生であれば残り少ない休みを思って嘆いたり、やり残した宿題に追われている頃だと思う。

 だけどアタイの場合は、とある理由でそんな悠長に使える時間なんて少なくとも今は無かった。

とにかく時間が惜しいので全力で自転車を漕ぎ、家から一番近いコンビニで塩を大量に購入。自転車の前かご購入したばかりの塩を乗せて猛烈なスピードで自分の家に向かってペダルを漕ぎ出した。


 通常8分掛かる道筋をいつもの倍のスピードで駆け抜ける事により到着時間を短縮。自転車を漕ぎ出して数分もすると、目の前に寺とそれに隣接している家が見えてきた。あれがアタイの家だ。急いで自転車を投げ捨て石段を駆け上がり、寺の後ろにある倉に向かって飛び込んだ。


「ジジイー!!買ってきたぞぉー!!」


観音開きの扉をぶち破る勢いで開けると、そこには見た目70代のガリガリに痩せたヨボヨボのジジイが目を血走らせながら数珠をすり合わせて般若心経を唱えており、更に辺り一帯には黒ずんだ塩や、無残に砕け散ったお神酒の瓶の破片、何だかよくわからない巻物の残骸などが飛び散っていた。

 そしてその先には倉の奥へと続く扉があるのだが、様子が明らかにおかしい。その扉は火で炙られたかのように黒ずんだ何かに覆われていた。更にその黒ずんだ何かはゆらゆらと蠢いており、今にも倉全体を侵食していこうとしているように見える。


観自在菩薩(かんじざいぼさつ) 行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃはらみったじ) 照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)………」


 相変わらずのカオスな光景を前に、アタイはため息とともに買ってきたばかりの塩をジジイに渡した。


―――――――

 この光景はいつもの事だった。といっても普通じゃない事態が普通になっているなんていきなり言っても理解出来ないだろうから簡単に説明する。


 アタイの家が寺に隣接しているということでお察しかもしれないけど、家族が寺の住職をやっている。ちなみに祖父が寺の住職だ。

 地元ではそこそこ有名な寺で代々続いている歴史ある寺なので壇家の方も多い。

 とある地元の名士であった壇家の方からの依頼で3代前くらいの住職が人形供養を始めたのだが、俗にいう“本物”が依頼に出される事があり、お焚き上げでは払いきれない邪気が篭っていることがあるそうな。そんな時は、時間を掛けて倉に安置し定期的に供養することにより邪念を払い、お焚き上げをするということを行っていた。

 そんな数ある“本物”の中でダントツにヤバイ市松人形が倉に安置されており、3代たった今でもその邪念を払いきれなかったのだ。

 そしてこの人形こそが、今回の騒動を作り出している。といってもこの騒動が初めてではない。寺の住職である祖父が毎日倉全体の供養を行っているのだが、それでも1年に1回か2回ほどその人形から邪念だか悪霊だか分からないけど、噴き出してきて悪さをするようだ。

 祖父曰く、霊感を持ってない人間や仏の教えを真に理解していない人間(あくまでこの住職の意見・定義です)でも知覚できる程の邪念など今まで見たことはないと語っていたが………確かに、こんな光景を見せられたら信じられない気持ちで一杯になると思う。アタイはもう既に悲しいけど慣れちゃったんだけどね……


 塩を渡されたジジイは心経を唱えながらビニール袋から塩を出し、黒ずんだ盛り塩を新しく変えて扉に向かって塩を投げ付ける。


 扉からは魂に訴えかけるような不快な音(まるで悲鳴のようだ)が放たれ、暫くの後のちに音が止んだ。

 ようやく騒動が終わった事を見届けたジジイは安堵のため息とともにアタイに礼を言った。


「ふぅ~………いやはや助かった助かった。そろそろだとは思っていたが塩とお神酒の在庫が切れているとは思わなんだ。玲(アタイの名だ)が帰ってきてくれていて良かったよ」


「まぁ、アタイは未成年だからお神酒は買って来られないけど塩くらいなら買って来られるからな。良いってことさ」


 ジジイに渡された財布を手渡しつつ、ついでに文句も言う。


「まったく………毎度毎度のことだけどさー。あの人形何とかならないの?あれを何とかしてくれる寺に預けるとかさー。いっその事、テレビ局にでも情報を売りつければ高く売れるんじゃねぇの?」


 毎回毎回何かある度に走らされては叶わない。それにあんまり人形の事は詳しく知らないが、ヤバイっていうのは何となく分かる。ならいっその事、ここではないどこかに持って行って貰ったほうが気が楽だというものだ。しかし、そんな甘い考えなど、このジジイに通用するものではなかった。


「あのような邪悪な存在を同じ寺とはいえ世に放ってはならん!冗談でもそのような事を言うでないわ、このたわけが!」


 カッと目を見開きながらジジイは怒鳴った。


 そして怒鳴った拍子に入れ歯がアタイに向かって飛んできた。もちろん先ほどまで使っていた入れ歯だ。ジジイのよだれでベトベトである。


「うぎゃああああぁぁぁぁ!!キタネェェェェェ!!

テメェ、このクソジジイ!入れ歯なんぞ飛ばすんじゃねぇよ!」


「ふがぁぁぁぁ!!ふががぁぁぁぁ!」


 人形の件が一段落ついた後もカオスな状況は続いた。


―――――――――――


「まったく………近頃の若い者ときたら、すぐに短絡的かつ楽な方向に流れようとする。良いか、ワシが若い頃はな――――」


「ああ、はいはい。その話は聞き飽きたよ」


 何度も聞いた話にアタイは鼻白んだ。


「こりゃ!話を聞かんか、まったく!………お前はあの人形の事を理解しておらんから、そのような迂闊なことが言えるんじゃよ」


「あぁ?あの人形なら見たまんまじゃねぇか。

定期的に何か黒いモヤみてーなもんを出すフザケタ人形だろ?あんなもん怖くもねーよ」


 それこそ、アタイにとってはたまに発生するイベントのようなものだと感じていた物だ。例えるなら正月に親戚のおじさんが毎年やってくる程度の恒例行事と同じくらいの認識だ。


「良い機会だから、いくつかあの人形について教えてやる。あの人形は倉の様子を見てわかると思うが、あれはこの世に存在してはならない人形だ。お前はテレビ局が云々と言っていたが、実際に噂を聞きつけた奴らが居てな。フリーのジャーナリストだか何だか知らんが、面白半分に記事にさせてくれと言いおってんでワシは断ったのだが、不法侵入して倉を開けてな。ワシが倉を開けて確認した時には奴は廃人になっていた。その後、医者と警察を呼んで騒ぎになったよ。お前が生まれる前の話だったから、知らんのも仕方がないのかもしれんがな。

 そしてその時ワシは倒れておる男に気を取られていて気づかなかったのだが、その場にビデオカメラが残されていたらしいのだが、そのカメラには信じられない光景が写っておったようでな………その情報が警察内部からテレビ局やその他周辺にまで広がって、テレビ局では暗黙の了解で放送できないと内容となったのだ」


「ふーん、そんな事言われても想像付かないや。人が倉の中で廃人になったとか嘘くせーし」


 ジジイの長い話が始まったと思ってテキトーに話を聞き流しながら答える。それにアタイにはいまいち何かヤバイって認識はあるけど、それこそ生まれた時から見てきている光景だ。危機感なんて沸くはずもない。むしろ放置しても良いんじゃないかとすら思っている。ぶっちゃけあんまり怖いと思ってない。


「ほう………玲はあの人形の恐ろしさがわからんと見えるな。祓ったばかりじゃし丁度良い。今なら倉にも入れるじゃろうから、ワシについて来い」


「はぁ?面倒だし良いよ。アタイは部屋に戻ってモ○ゲーやんなきゃなんねーんだ。今、選抜戦やってるから忙しいんだよ。んじゃなー」


 部屋に向かって走り去ろうとしたが、ジジイに回りこまれてしまった。


「ワシが逃がすと思うか?

火の熱さを知らない者は火傷をしてしまうのと同じように、人形の事を知らんと馬鹿をやらかす恐れがある。いいからさっさと来るのじゃ」


「ぎゃー!離せジジイー!」


 妙に力の強いジジイに引っ張られてアタイは倉に連れて行かれた。


 倉の中は淀んだ空気に満たされていた。淀んでいるという表現もちょっとおかしいかもしれない。何だか嫌な予感をひしひしと感じるねっとりとした空気に満たされている、という表現の方が合っているかもしれない。肌がビリビリするような感じがして、ここに居てはいけないと思わせる何かをアタイは感じた。


「倉なんぞ始めて入ったが………何かキモチワリー空気なんだけど、大丈夫なんかジジイ?」


 倉の外で見慣れた怪奇現象であったが、実際に倉の中に入るのは始めてた。空気も何かおかしいような気がするし、何だか本当にヤバイのではないかと思うようになった。


「ふむ………玲はあんな人形怖くないと言っておったが、何か心配なことでもあるのか?」


 ニタリと人に嫌味を言うような嫌らしい笑顔を浮かべるジジイ。それを見たアタイは頭に血が登る。


「ふざけんなジジイー!怖くなんかねぇよ!

ほら、さっさと人形確認して帰るぞ!」


「ふん、ならいいんじゃが」


 ジジイは奥にある棚を指差した。


「あれが問題の人形じゃよ」


 ジジイの指差す方を釣られてみると、棚の上にはボロボロの人形が鎮座していた。服はボロボロで髪もところどころ抜けてしまっている。顔に至っては皮膚に当たる部分がハゲて中身が少し見えていた。

 その棚にはびっしりと札が貼られており、その下には見たこともないような文様がびっしりと描かれている。見た目と雰囲気が相まって、とんでもない恐怖を感じた。


「ひっ!」


「あんまり近づくんじゃないぞ。今が一番力が弱っているとはいえ、何が起こるかわからんからな」


「は、早く帰ろうぜ………」


 恐ろしさのあまりなのか、人形が動いたような錯覚を覚え恐怖に顔が引きつる。そしてたまらずにきびすを返して帰ろうとした。その時――――


 突然、アタイの真下に魔法陣が光を放ちながら現れた。


「な、何が起こったんじゃ!」


「ちょ、え、なによこれ!」


 ジジイも不測の事態が起こった事で慌てているが、異変はアタイの真下で起こっている。何か起こって被害を被るとしたらアタイが一番の候補だろう。


「なんと面妖な!玲!早くこっちに来るんじゃ!」


「え、う、あ………分かっ―――」


 その瞬間、アタイはこの世界から姿を消した。


―――――――――――


「おぉ、勇者様だ!勇者様が降臨なされたぞ!」


 耳を覆い隠したくなるような大声が辺りに木霊した。その声を聞いてアタイは目を開いて飛び起きた。


「ひゃあ!びっくりした!

って、ここはどこ………アタイは確か倉で………」


 怒声と聞き間違えるような大きな声で飛び起きたアタイは目の前に広がる光景を見て混乱した。


 今、アタイは一直線に敷かれている赤いカーペットの上に座り込んでおり、周りは甲冑を着た兵士のような人達に囲まれていた。更に目の前には王冠を被った初老の男性と、その隣には頭の良さそうな異国風の服を着た文官らしき男が立っている。

 辺り一体を観察して更に混乱したアタイを見て目の前の王冠を被った男が話しかけてきた。


「おぉ、異世界より召喚されし勇者様!どうかこの世界をお救い下さい!」


「え、どういうこと?ここは一体………」


 アタイが混乱していると、王冠を被った人の隣に居る男が話しかけてきた。


「ツサジュ王よ、勇者様は混乱されているようなので説明を先にさせて下さい。ようこそ勇者様。あなたは我がイロノ帝国により異世界から召喚されたのです。私は大臣のウギョン=ニラワと申します」


「え、ちょっとどういうことなの?王様?召喚?魔王?全然理解出来ないんだけど!」


 アタイの混乱に更に拍車が掛かった。異世界召喚がどうとか魔王がどうたらとか、そんなものはアニメの中だけにして欲しい。だけど目の前の光景を見るにあながち嘘じゃないってこともヒシヒシと伝わってくる。意識を失っている間にどこかに運ばれたんじゃないの?とも思わなくもないが、こんな大掛かりなドッキリを仕掛けられる程、有名人でも無いし視聴率を稼げる訳でもないのだから。


「順を追って説明します。まずこの世界は人間という種族と魔族という種族の2種族が存在しております。魔族は戦いを好む種族で身体能力が高く、古来より争いが絶えない歴史を歩んできておりました。しかし突然、魔族を統べると言われる魔王が現れたことにより戦局が一変。現在、我々人間は魔族に侵攻され徐々に支配されつつある状況となっております。しかし、逆を言えば魔族を統べる魔王を倒すことが出来れば、我々に勝機が生まれるということにもなります。そこでイロノ帝国に古来より伝わるという予言の書をひも解き異世界より勇者を召喚するに至ったのです。そう、つまりあなたが勇者として召喚されたのです。どうか勇者様。魔王を倒し、我々をお救い下さい!」


「ちょっと!そんな事イキナリ言われても困るよ!しがない一般市民に何言ってんのさ!」


 一体何を言っているのだろうか、こいつらは。

何の特技も無い女子高生を捕まえて召喚だの魔王を倒せだの無理に決っている。

こういうのは“実は祖父より最強の殺人拳を受け継いでいるけど、学校ではその力を隠しながら生活していたら異世界召喚に巻き込まれて仕方なくその力を使って無双する”だとか“廃課金だとか廃人プレーしてたらそのキャラクターに憑依して無双する”だとか、そういう奴らに任せておけばいいのよ。というかアタイに頼るな!


「いえいえ、予言の書にはこのように記載されているのです。

“力なき男勝りの女が光より現れ、名状しがたき人形を引き連れ魔王を滅す”と」


「ちょっと!!男勝りってどういう意味よ!!」


「ゆ、勇者様!落ち着いて下さい!今は召喚されたばかりです。どうか安静に」


「ああん?何か文句あんのかクソジジイ!」


「ひいっ!」


 よくチンピラに絡まれた時に使う顔を大臣みてーなヤツに見せたら怯みやがった。っていうか、どんだけ失礼なんだその予言の書ってやつは。

 そんな事を考えていると、ふとさっきの一文が妙に頭に残るのを感じた。


”力なき男勝りの女が光より現れ、名状しがたき人形を………”


 その瞬間、ぞっとするような気配を両手に感じた。


 冷や汗が背中を伝う中、アタイの手を見るとそこには倉に安置されていたはずの超絶呪われた市松人形がすっぽりと手に収まっていたのだ。

 アタイが人形を知覚したのと同時に、その人形はグググという理解し難い音を立てながら首だけ回転してアタイに向かってケタケタと顔を揺らしながらぞっとするような笑みを浮かべた。


「うぎゃあああああああああああああああああああ!!喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 生理的嫌悪がMAXになったのを知覚する前に人形をぶん投げた。呪いの市松人形はケタケタ笑いながら兵士に突っ込んでいった。そして突っ込んでいった先に居る兵士にぶつかると、髪をゆらゆらとさせながら兵士に襲いかかった。


「うおわっ!なんだこれ!!

うぎゃあああああ!!髪が!髪が伸びて俺の首にぃぃぃぃぃ!

助けてくれぇぇぇぇぇ!!」


 慌てて他の兵士が襲われている兵士に助けに入るが、切っても切っても髪は伸び続けて兵士の首を締め上げる。何だかヤバイ状況になっているようだ。


「きゃああああああ、本当にどうなってんのよこれぇぇぇぇぇ!意味不明すぎて理解出来ないわ!そもそも異世界召喚だとか魔王を倒せだとか理不尽すぎるのよ!っていうかもう何もかも“いい加減にしなさい”よ!」


 アタイが何もかも嫌になって叫ぶと、人形がぴたりと動きを止めた。そして兵士の首に巻き付いていた髪を解いて長さを元に戻すと、再びアタイの手にすっぽりと収まった。


「っていうか戻ってくんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「ケタケタケタケタ」


 首をグルグルと360度回転させながら、アタイの手の上で笑い転げる人形。どういう絵面なんだと小一時間問い詰めたくなる。そんな中、あっけに取られていた王が、ようやく口を開いた。


「ゆ、勇者殿………その名状しがたき人形とは、一体何なのであろうか?突然我が兵士を襲うとは、どのような………」


 そんな事を言われてもアタイはこの手に爆弾に等しいブツを手に持っている(しかも離れる気配がないのだ)のだ。そんな王の一言なんぞに構っている余裕はない。どうにかしようとアタフタしていると、突然、部屋の中央に位置するシャンデリアの一つが落下し、その空間が真っ黒い世界に覆われた。そしてその真っ暗な空間から角が生えた4mはあろうかという色黒のムキムキな巨人が現れ、宙に浮かびながらこう言った。


「ふはははははは!勇者が召喚されたと聞いてきたが、何の力も持たない娘1人が召喚されただけであったか。全く、無駄骨に等しい仕事であったな」


 突如現れた巨人を前に兵士は抜刀するが、全員顔色が優れなかった。一体何が始まるのか分からず、動きを止めていると、突如王様が叫んだ。


「お、お前は魔王に使える4魔将が1人、マイタ炎魔将軍!」


「ふむ、お前は矮小なる人間の王か。オレはお前ではなく勇者に用があったのだが、肝心の勇者が“これ”ではな………興ざめである。興ざめついでにこの城を吹き飛ばして帰るとするか」


「なっ!」


 いうが早いか、マイタとかいう筋肉ダルマは手から漆黒の玉のようなものを作り出し、それをあろうことはアタイに向かって投げつけてきたのだ!!


「ぎゃああああああああああ!!なんでアタイを狙うのよぉぉぉぉぉ!!」


 ふざけんな!この流れだったら普通、王様とか狙うだろ!何で興ざめとかホザいていたアタイに向かって投げつけるんだよ!馬鹿じゃないのか、あの筋肉ダルマは!

 そうこうしている内に、その明らかにやばそうな玉は近づいてくる。というか、そんな状況なのになんで周りの兵士はアタイを助けないんだ!おかしいだろ!


「きゃあああああああああ!!誰か“助けなさいよ”!」


 そう叫んだ瞬間、手から呪いの市松人形が飛び出し、玉に向かって突っ込んでいった。そして玉にぶち当たる瞬間に、顔が肥大し口を大きく開けて玉を飲み込んだ。そして何事も無かったかのように筋肉ダルマの元へ。


「ぐお、なんだこれは!」


 筋肉ダルマは一瞬驚いたが、体勢を立て直して人形を握りつぶすべく身構えた。しかし人形は伸ばされたその手をひょいと避けると、筋肉ダルマに向かって髪を触手のように伸ばして全身を締めあげた。


「ぐおおおおおお、何という力だ。こ、これは………ぬ、抜けだせん!や、やめろ………やめろぉぉぉ!」


 みるみるうちに、蜘蛛の糸のように巻きつけられた髪は全身をミイラのように覆い隠して締めあげた。そしてギリギリと何かを締め上げる音が聞こえたかと思うと、髪を元の長さに戻した。筋肉ダルマが居た空間には誰も居なかった。


「………え………ちょ、なにこれ、どうなってんの?」


 アタイが狼狽えながら混乱した。何とかしなさいと言った瞬間に、人形が何とかしたのだ。もしかしてこの人形はアタイの言うことを聞くのではないだろうか。そんな事を考えていると、その光景を見ていた大臣が歓声を上げた。


「ゆ、ゆ………勇者様が4魔将の1人を打ち倒したぞぉぉぉぉぉぉ!!」


「「うおおおおおおおおおお!!」」


 耳をつんざくような歓声が辺り一体に木霊し、さらにアタイを混乱の渦に巻き込んだ。

 そして、筋肉ダルマを消し去った呪いの人形は空中にふよふよと漂いながらアタイの所に突っ込み、目から血のような何かを出しながらアタイに向かってこう言った。


「お………母さん………」


「アタイはお母さんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 何とか突っ込むことが出来たが、恐怖のあまり失神してしまった。




 その後、なんやかんやあって魔王討伐することになったのだが、人形を投げつけるだけの簡単なお仕事で魔王を倒してしまったのだが、これはまた別の話である。

 ちなみにその後、人形をけしかけて元の世界に返すように王に説得(脅迫)したのは言うまでもない。

元ネタの用語説明


イロノ帝国………呪い

ツサジュ王………呪殺

ウギョン=ニラワ……わらにんぎょう

マイタ炎魔将軍………退魔


こうしてみると帝国が呪う方で、魔族側が邪気を払う名前なんですね。

気づきませんでしたなぁ(すっとぼけ

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― 新着の感想 ―
[一言] 髪の伸びる日本人形は定期的に切り揃えて、服も何年かごとに着替えさせてあげると家の守り神に神化するそうです ただ、それは由来のわかっている(いつ、だれが可愛がっていた)人形に限るそうですが………
[一言] 返信有り難うございます。 ゲームご存知なかったのですね。 『育てて日本人形』というアプリの中の人形が、そのまんま市松人形ですよ。「お母さん」という台詞もついてきます。スマホなら、やってみてく…
[良い点] 腹を抱えて怖がってしまいました。元はあのゲームですか? [一言] ないす。
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