どうやら私は乙女ゲームに転生したらしい
どうやら、私は乙女ゲームの世界に来てしまったようだ。そう自覚したのは、小学校6年生のころだったか。近くの中学からトライやるウィークで男の人が来た時だ。見覚えのある顔つきに聞き覚えのある声。私が覚えていたその人物よりは少し幼かったが紛れもなく攻略対象の1人、風祭 日向がいた。
そう私が認識した瞬間、前世の記憶と呼ばれるであろう何かが頭に叩き込まれた。あれはとても痛かった。頭が割れるかと思ったぐらいだ。そんな痛みを受けてじっとしていられるほど私は我慢強くなく風祭の自己紹介中だったにも関わらず椅子ごと後ろにひっくりかえってしまった。1番後ろの席だったため周りを巻き込まずに済んだのは不幸中の幸いか。
そうして、次に目覚めたとき私は『私』になっていた。今世で12年生きた私と前世で14年生きた私が完璧に混ざり合った。と、言っても前世と今世での私の性格の違いはほとんどなくスッ、とそれが正しい形であるかのように馴染んだが。
だが、それからが問題だった。人格のほうがスッ、と馴染んだといっても記憶のほうがそうではなかった。14年間の――幼少時の記憶はないため少し減るが――記憶を無理やり叩き込まれたのだ。しばらくは前世の記憶と今世の記憶が混じり合って大変なことになった。ありもしない学校へ行こうとしたり、急に泣き出したり、とても大変だった。それでも親の大変さに比べれば私の大変さなんてとても小さいものだろう。泣きわめく私をあやしたり、根気よく付き合ってくれた。それで今の私がいるのだ。
記憶の話に戻ろう。
私の前世の記憶は……詳しく言うと私が前世でプレイしたゲームの記憶はとても衝撃的なものだった。乙ゲー、といわれる類のゲームを前世の私はよくプレイしていた。その中の1つ、『恋はすぐそばに』のヒロインのデフォルト名、雨宮 撫子。それは今世の私の名前と1文字たりとも違わなかった。そして見た目も。パッケージに載っていた女子にとてもそっくりだ。あの子が3次元にいたら絶対にこうだろうと思えるくらいには。
そう。私は乙女ゲームのヒロインなのだった。
私はそれがわかった瞬間、こう思った。なぜ悪役じゃないのか、と。こういう時は悪役に転生してヒロインも転生者で。逆ハーを目指すヒロインがいじめの自作自演を……とかそういう感じのがテンプレっていうものだろう、……前世の私はネット小説もよく読んでいたのだ。
そして、なぜこんな話をしたかというと……。
「俺様系って私、あまり好きじゃないのよね。強引過ぎるのは嫌い」
「うちも、ツンデレ系あんまり好きやないわー。男なら、こうズバッと言ってほしいんよね」
「……私は、無口系好き……。私もそうだから……」
「鈴蘭ちゃんはかわえーのー。嫁にもらいたいくらいやわ」
「桔梗ちゃん……も可愛いよ……?」
「あははー。ありがとうなー」
「先ほどから話に入ってこないけど撫子大丈夫? しんどいの?」
「ああ、うん。大丈夫。百合ちゃんごめんね。心配させちゃって」
「いいのよ。だって私たち転生者同士なんだからね? まあ、撫子はヒロインで私たちはライバルキャラだけれど」
そう。彼女たちは転生者でありライバルキャラの皆さんだ。今日は、私の家に来て女子会をしている。改めて見る皆が美人すぎて少し現実逃避をしてしまった。
俺様系の雷堂 柳担当の晴島 百合。
ツンデレ系の霧崎 柊担当の霧島 桔梗。
無口系の松・クラウディア担当の村雨 鈴蘭。
皆、とてもいい人たちばかりだ。
そして、とても可愛い。恋をしている乙女のオーラというかなんというか……。まあそんな感じのが出ている。私もあんなのを出しているのだろうか。
さて、私も大好きな幼馴染系のあの子について話そうかな。
風祭 日向……先輩系。お金持ちなので家がライバル。
雷堂 柳……俺様系。百合の恋人。百合のために強引なのを治そうとしている。
霧崎 柊……ツンデレ系。桔梗の恋人。桔梗にホレすぎてデレデレになりかけ。
松・クラウディア……ハーフの無口系。鈴蘭の恋人。2人の場合は言葉がなくても伝わる。
幼馴染系の人……名前はない。撫子の恋人。微妙にヤンデレ。
晴島 百合……お嬢様系の恰好をしているがただの趣味でどこかの令嬢というわけではない普通の女の子。綺麗系。
霧島 桔梗……運動も出来るし勉強も出来る関西弁の女の子。おしとやか系。
村雨 鈴蘭……頭がいいゴスロリ好きの女の子。可愛い系。
雨宮 撫子……器用貧乏。
ちなみに、トライやるウィークは兵庫で行われている、中学二年生を対象にした職業体験のようなものです。