禁じられた遊び
【供物
宗教儀礼として神仏や先祖、あるいは故人など、信仰・崇拝を目的に、霊前に捧げる供え物をさす。教義により様々な供え物があるが、神道では米や飯、酒などのほか玉串、青果物、生魚、干物、菓子類の飲食物等。正月には、鏡餅を供える。仏教では神道同様の供え物のほかに生花なども供える】
【生け贄
神への供物として生きた動物を供えること、またその動物のことである。
供えた後に殺すもの、殺してすぐに供えるもののほか、殺さずに神域(神社)内で飼う場合もある。
『旧約聖書』『レビ記』にある贖罪の日に捧げられるヤギは、「スケープゴート」の語源となった。
動物だけでなく、人間を生け贄として供える習慣もかつてはあり、これは特に「人身供養」と呼ぶ。】
「ふーん、供物と生け贄の大きな違いは、生き物かどうかの違いなんやな」
供物で干物があるが、これは生き物ではなく料理と考えて良いだろう。
イメージ的には供物は仏教とかキリスト教。
生け贄は悪魔崇拝や邪神教って感じがする。
それを踏まえてそう考えるとあの杯に入れるのを供物ではなく変えてみたらもしかしたら………。
資料を読みながら興味深いと頷いていると隣から冷たい声が飛んできた。
「とりあえず、資料整理するの手伝ってくれへん?」
声の主である妹の手には沢山の紙束がある。
「ああ、そやったそやった」
「あんたの悪い癖や、書類やら何や整理しててもおもろそうな物見つけたらすぐほっぽり出して読むの」
「やー、分かっとんねんけどついな」
そういうのを見ると読書家の血が騒ぐ。
笑いながら頭を掻くうちを見て妹はため息を吐く。
「ついとちゃうわ、今日は図書館行く言うてたやん」
「そやったな」
そうだった、今日は図書館に行って悪魔とかオカルトの事をもっと詳しく調べようと妹と計画していたのだった。
妹の手にある紙束を受け取り、あいうえお順に並べようと床に置いていく。
【悪魔
特定の宗教文化に根ざした悪しき超自然的存在や、悪を象徴する超越的存在をあらわす言葉である。
悪魔という漢語は本来、漢訳仏典に由来する仏教語であるが、現在日本語では西洋のデビル、デーモンの訳語としても用いられている。
仏教語としての悪魔はサンスクリット語マーラ(殺す者の意)の音訳「魔羅」「魔」と同義である。
「魔」という漢字は、死者を指し超自然的なものを含意する意符「鬼」と、マーラの意を表す音符「麻」とを組み合わせたものである。
数える際の助動詞は「人」「体」「匹」など。
西洋の悪魔は、人間に似た姿でありながら、黒や紺色の肌、赤い目、尖った耳、裂けたような口に尖った歯、尖った爪、蝙蝠のような羽を持つ存在として描かれる事が多い。
キリスト教においては信仰者の信仰心を試す存在として登場する。聖人の大アントニオスの誘惑の題材が知られる。】
「もう!また読んでるやん!」
妹の怒ったような声にハッとする。
「あー、すまん」
ヤバイ、怒った。
冷や汗が垂れる。
「ええ加減にしいや、ホンマ」
「はーい」
怒られないように今度こそ本当に資料を整理し始める。
面白そうな物を見つける度に読みそうになるのを何とか堪えて、二時間かけてやっと資料を整理し終えた。
冷たい麦茶を飲んで一息ついた所で妹にさっき供物や生け贄についての資料を読んで思いついた事を言ってみることにした。
「あんな、ちょお思いついたんやけど、あの杯に米みたいなん入れて、屋根の上に置いといたらスズメ来るかな?」
「さあ、来るんとちゃう?でもそないな事してどうするん?」
「いやね、スズメが米をつついて食べている時に杯を弾いたらどうなるかなぁっと」
これはさっき生け贄と供物の資料を読んでいる時に思いついた事だ。
「アホかー!!!そないなことしてスズメがもし死んだらどないすんねん!」
「だよねー」
妹の反応はある程度は予想していた。
そこで、生け贄や供物、悪魔や邪神の資料の他に神や仏、天使などについて詳しく調べてある資料を見せて自分の立てた仮説を話す。
「今までうちらが杯な色々入れてたんは悪魔やら邪神やらこうゆうんを奉ってたのと意味は一緒やと思うって事は前に話したやろ?」
「0の時にでしょう?」
「そう。色々入れたお陰で色々ラッキーな事があったのは等価交換みたいな感じになる。
もし神とか仏やったらお供え物と同じ意味になるから、そうなると今までのラッキーは神様からの恩恵って事になる。
でもな、最初のうちの仮説がもし当たってた場合、この資料に書いてある悪魔とか邪神の話が本当やったら、それらに捧げる物としたら生きている物が一番効果的やと思うねんやけど」
悪魔や邪神の資料には儀式の内容等も生々しく書かれている。
「ふーん、なるほどね」
「スズメが生きていた場合あの杯は悪魔、もしくはそれに系統する種類の物じゃないって証明になると思うんや」
「でも、もしスズメが死んだら?スズメかて生きてるねんで」
「その場合あの杯は悪魔、もしくはそれに系統する物だって分かる。未知の領域に挑む事には犠牲が付き物だってよく言うやん」
「そんな…」
妹の言葉を遮り、畳み掛ける様に言葉を紡ぐ。
「もしスズメがこおへんかったらその時は諦めるさかい、とりあえずやってみようや」
渋る妹を説き伏せ、台所から米を持ってきて二つの杯に入れて屋根の上に置く。
そしてカーテンを閉め、布の隙間からスズメが来ないかと杯を観察する。
十分経過。
「こおへんけ」
「いや、まだまだこれからや!」
三十分経過。
「そろそろ諦めたら?」
「いや、もう少し」
一時間経過。
「もうそろそろ図書館行こうや」
「もうちょっと待ってぇな」
一時間半経過。
「ええ加減行こうや」
「………そやな」
諦めかけたその時、屋根の上に鳥の影が!
「来たぁー!!」
「え!?」
テンションが上がって思わず叫んだ。
急いでカーテンの隙間から外を覗く二人。
そこには、
「ガー」
カラスがいた。
「って、カラスかい!!」
思わず突っ込む。
「あれ、杯を狙っているんじゃ…」
カラスはキラキラした光り物が好きだって言うし…と妹の呟き。
「え!?あ、畜生!待てこの野郎!」
うちは二つの杯のうち、銀の杯に足をかけたカラスの姿に思わず窓を全開にして叫びながら屋根に飛び出した。
妹もその後を追って屋根に出てくる。
「グァア!」
叫び声を上げながら突然現れた人間に驚いたのかカラスは慌てて杯を足に掴んで米を撒き散らしながら飛んで行こうとする。
その時、杯は屋根の瓦に当たり音を立てた。
キーン
「カー!……カグァァァァァーー!!!!、グガァアァァァ!!」
ミシリッ、ポキッ、バキバキグチャァバキ、ジュグッ。
杯が音を立てた瞬間からカラスは、否、カラスの体は外部からの何か途方もない力で体を無理矢理圧縮しているかのようにバキポキジュグッと骨や内臓の潰れる音を立てながら不自然な方向にネジ曲がり始める。
「グャァァアアあ、ガアアァァ」
羽を、血を、うちや妹に向かって撒き散らしながら断末魔の叫びを上げるカラスはどんどん歪な形に小さくなっていく。
そして……。
「 ! 」
ついにはただの赤黒い物の塊となり、銀の杯の中に消えていく。
うちと妹はその様子を呆然と見つめる事しか出来なかった。
「ア、ウグェェェ」
妹はその場にしゃがみこみ泣きながら吐瀉する。
うちは込み上げてくる嗚咽や吐き気と戦いながら、カラスが居た場所に近づいた。
そこら一帯は血の海と化していたが、その中央に位置する銀の杯には一帯の血も付いてはいなかった。
「……これは、…一体、何なんや…?」
その問いに答える者はおらず、拾い上げた杯はカラスの血の塊が顔や服に飛び付いたうちをただ映し出しているだけだった。
そして、
「…やっと、見つけた」
そんな、うちらを見ている者がいたとは夢にも思わなかったのだ。




