情報収集開始!
夜ご飯を食べてから自分たちの部屋に篭り、今日調べた資料を整理する。
量が多いので、分担してやる事にし、図書館でやったと同じ様な役割にした。
妹が資料を整理している間にうちは図書館で借りた本を読む。
まずは、と適当に一冊の本を手に取った。
お、何か面白そう。
タイトルは『魔術の基礎知識』。
西洋占星術やらドルイドやら陰陽五行説やら自然魔術とは何かが書かれている。
う〜ん、ワケわからん。
占星術とか陰陽五行説は有名だし何となく分かるけど何、ドルイドって……。
単語だけ聞いたらチンプンカンプンだったけれど流石、魔術の基礎知識と銘打った物だけあって分かりやすく解説してある。
お、これは面白い。
「ねぇ、類感魔術と接触魔術って知ってる?」
「は?何やそれ」
眉を潜めて妹が言う。
うん、だよね。
予想していた反応だ。
「接触魔術は別名、感染魔術とも呼ばれているらしいんやけど、イギリスの人類学者ジェームズ・ジョージ・フレーザーが代表作『金枝篇』で提唱したもので、民族学では、魔術よりも呪術という言葉が用いられるため、民族学関係の書物では類感呪術とか接触呪術と記されていることが多いらしい。
類感魔術は【模倣魔術】とも呼ばれ、形の似ている物体同士はお互いに影響力を及ぼしあい、その一方に作用すると他方へと効果が及ぶという【類似の法則】に基づいているんやて。
特定の人物に似せた人形や画像に針を刺して、その本人に災厄をもたらそうとする行為や、獲物の動物に扮した人物を槍で殺す真似をして豊猟を期待する儀式などがこれにあたるとかなんとか」
うちの話を聞いて
あぁ、なるほどと妹が頷く。
「呪いの藁人形みたいな感じってことな」
「そうそう、まさにそれや。
それで接触魔術は【感染魔術】と呼ぶこともあり、一旦触れ合ったもの同士がその後もお互いに影響を与えあうという【接触もしくは感染の法則】に基づいている。
人の足跡にナイフを刺して本人を害する試みなどがその代表例である。
いずれも自然魔術の一種と言えるってさ」
足跡にナイフを刺しただけで人が殺せるとか………恐っ!!!
なぁんて、怖がってみせても信じてはいない。
あんな杯を持っているくせに矛盾しているとは理解している。
でもやっぱり実際に見るのと、読むだけじゃ違うしなぁ。
例えるなら、怖い話が好きでも幽霊を信じるかどうかとは別って感じ?
「接触魔術ってその人が脱いだ服を輪ゴムで縛りつけたらその人が苦しむっていう奴?」
「そうそう、そんな感じや。てか、よう知っとんなそんなん」
「この間読んだ小説に書いてあってん。それより、それはあの杯と何か関係あるん?」
「いや全く」
これっぽっちも無い。
まぁ、実際には無いとも言い切れないけれど、人形ならいざ知らず杯を使って人を呪い殺すとか想像出来ないしこれは多分関係ないだろう。
「……関係無いの読んでるんやったら、あいつとの会話もう一回聞いて口調とかで何か手掛かりないか探そうや」
呆れたようにため息を吐きながら妹は言った。
おいおい、基礎知識は重要なんだぞ。
何か自分の全く知らない事に挑戦するのなら、多少なりとも予備知識があった方が何事もスムーズにいくんだから。
それについて熱く語ろうとしたら
『会話を聞くだけなのに予備知識もクソもあるか』
と言われた。
……うん、まぁ確かにね。
《杯?一体何の事です?うちはそないな物売っている店とちゃいますけど、マクンですけど》
《普通の民家がマクンな訳ないでしょう。
またまたぁ、ご冗談がお上手ですね。見ましたよ、貴女方が屋根の上で杯にカラスを捧げている所を》
「ストップ、なあ、あの人出身は東京って言ってたやろ?あれ、嘘やと思うで」
そうじゃないかと思っていたがやっぱり嘘を吐いていたか、あの男は。
「何で?根拠は?」
「今のもっぺん聞いてみ」
《杯?一体何の事です?うちはそないな物売っている店とちゃいますけど、マクンですけど》
《普通の民家がマクンな訳ないでしょう。
またまたぁ、ご冗談がお上手ですね。見ましたよ、貴女方が屋根の上で杯にカラスを捧げている所を》
「???」
妹は聞いたが分からないようだ。
「ヒント、マクン」
「マクン?……あ!」
ヒントを得てようやく理解がいった様だ。
「気付いたか。そう、マクンは関西限定で通じる言葉、マクドナルドの意味や。
マクドは最近テレビとかで言われて知ってる人も多いけど、マクンはマクドとちごうてこれはあまり東京の人とかは知らんのや」
「そう考えると、あの男は関西生まれてっちゅう可能性が高いな。
まあ、たまたま知識として知っていたっちゅう考えもあるけど」
「それは言わない約束やろ?」
「してへんわ、そんな約束。それにしても、なるほどね。
いきなりマクン言うからあん時はどうしたんかと思うたわ」
「冗談の一つともとれる上に、出身まで分かる引っ掛け。
ふ、うちってば天才やん?」
実際は偶々マクドナルドにしただけなのだが。
「は?」
それを察していたらしい妹に物っ凄く冷たい目で見られる。
「すいません、調子に乗りました」
わーい凄いや、この寒さ。
クーラー要らずだね!
合っているにせよ、間違っているにせよあの男について一つは情報を得ることが出来た。
次に、あいつから渡された電話番号を調べることにした。
『はい、電話番号案内所です』
「すみません、090−××××−△△△△ってどこの番号か分かりますか?」
『申し訳ありませんが、そういった事はお答え出来ない規則となっております』
「そうですか、あ、志戸泰さんのお宅の電話番号って分かりますかね?」
『しばらくお待ち下さい……そのような方は、こちらには登録されていませんね』
「そうですか、ありがとうございます」
電話を切る。
「やっぱり、番号案内には登録してへんみたいやな」
予想していた通りの結果だ。
番号案内役に立たず。
「うーん、じゃあ、やっぱりこれを調べるにはここに直接掛けるしか手は無いんやな」
妹はひらひらと指に挟んだ紙を振りながら言った。
「うん、でも、そこに掛けるんは何となく嫌や」
何か裏や罠があるかもって言うか十中八九あるだろう。
そうそう簡単に掛ける気にはならないし、なれない。
「奇遇やな、私もや」
そしてそれは妹も同じようだ。
「それにしても、あの男は一体何者なんやろうか?」
疑問を妹にぶつける。
「あのさ、私が分かると思う?」
「いや、全く、全然」
「即答かっ!ちょっとは期待してや!」
「だって、分からないんでしょ?」
「うん、悪い?」
「あれ、開き直ったよ、この子」
意味も無くじゃれあう。
いくら不思議な杯を持っていたとしてもうちらは所詮、ただの女子中学生。
考えてもあの志戸泰と名乗った男の正体なんかは分からない。
だから男の事は一時保留にし、明日の学校に備えて寝ることにした。
ちょっとした実験を実行に移すかどうか考えながら。




