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  作者: 東稔 雨紗霧
11/13

真実への手掛かり………?

文字数が過去最高に。

 うちは台車を取ってくると、乗せていた資料を妹の前に積み重ねた。

 物凄い量だから三十センチ位の本の塔が二個できた。

 わざわざ妹の前に資料を置いた理由は男の視界から妹の顔が極力見えないようにするためと、これから妹にしてもらう事が男に見えないようにだ。


 能筋派の私が言っては何だが、妹は腹芸が出来ない。

 直ぐに顔に出してしまうタイプだ。

 だからババ抜きやポーカーとかを家族でやっても表情で手札が丸分かりなので、いつもドベだ。


 この目の前の男は一体どういった目的で近付いて来たのかは分からないけれど、うちらにとってあまり愉快な話では無さそうだ。

 もしこの男が変質者だった場合怯えた瞬間そこに漬け込まれたりすると誰かが言っていたような言わなかった様な気がする。

 人間は心理的に恐怖の対象との間に何か障害物があるだけで安心感を得る事が出来る。

 だから極力妹を怖がらす事なく、且つ、相手に漬け込ませる隙を与えない様に妹の前に障害物を置く必要があったのだ。


 妹の左隣の席に座ると妹の前に置いてあるノートにさりげなく手を伸ばし、男に話しかけながらシャーペンでやってもらう事を書いた。


 さぁて、一介の中学生に一体何が出来るのか分からないが出来るだけやってみようじゃないか。


 「貴方は一体何なんですか?自分の名前も名乗らんと話を聞いて貰うなんてちぃとばかし虫が良すぎるんとちゃいます?」


 眉をひそめ、そう言うと男はわざとらしくたった今気が付いたとでもいうような表情と動きをしてみせた。


 「これは、これは、失礼いたしました。私としたことが、お二人のあまりの可愛らしさにうっかり女性に対応するマナーを忘れていたようです。そうですよね、名乗らなければ男は素敵なお嬢さんとはお近づきになれない。これ、世間様の一般常識ですよね!」


 胡散臭さ倍増だ。

 中学生にお近づきになる。

 ここだけ聞いたら犯罪臭が半端ない。


 「私の名前は志戸泰しとやすしこころざしの戸は安泰と書いて志戸泰です。どうぞお見知りおきを。失礼ですがお嬢さん方のお名前をお聞きしても?」


 名前について何かもっと他に説明の仕方は無かったのか。

 漢字は分かりやすいが意味が全く分からない。

 心中でそうツッコミを入れつつ服の襟元に銀色のピンを刺しているな、と男を観察しながら返事を返す。


 「名前…ですか。すみません、さっきどっかで頭をぶつけてもうたらしくてその衝撃で忘れてしまいました」

 「ああ、そうなんですか、それは困りましたねぇ。では妹さんのお名前だけでも」

 「………」

 うつむいて何も喋らない妹。


 「おやおや、どうやら私は妹さんに嫌われているようですね、残念です」


 ちっとも残念そうじゃない志戸泰と名乗った男は困ったように肩をすくめた。


 「まぁ、うちらの名前は置いといて、それで?話って言うんは何ですか?」


 そう言ったうちの顔を志戸泰は目を細めて暫く見つめた後、話し始めた。


 「ああ、はい。私の話と言うのは貴女方が持っている杯の事です」


 出来るだけ表情を変えないようにしたが、上手くいっただろうか。


 「杯?一体何の事です?うちはそないな物売っている店とちゃいますけど、マクンですけど」

 「普通の民家がマクンな訳ないでしょう。またまたぁ、ご冗談がお上手ですね。見ましたよ、貴女方が屋根の上で杯にカラスを捧げている所を」


 あの場面を見られていたのか。


 「…はて?一体何の事やら」


 不味い、よりにもよってそんな場面を見られるなんて。


 「しらばっくれるのは構いませんが、こちらにはちゃあんと証拠がありますよ」


 そう言って志戸泰が取り出したのは数枚の写真だった。

 一枚、一枚とテーブルの上に置かれていく。


 一枚目はうちらの家を正面から撮った写真。

 二枚目はカラスが潰れていく写真。

 三枚目はカラスが杯に吸い込まれていく写真。

 四枚目は杯を拾い上げているうち。

 五枚目には屋根の上であちこちに血が付いた格好で立っているうちとしゃがみこんでいる妹が遠目に写っている。

 妹はピクリッと体を震わせた。


 「ほら、これ、貴女方じゃありませんか?」


 してやったりと言ったような顔で見てくる。

 どうでも良いが腹立つな、その顔。

 いや、全くどうでも良くないけど。


 「………さあ?他人の空似とちゃうんですか?」


 家が既にこの男に割れてしまっている上に、更には杯とあのカラスの光景を見られてしまっている。

 今の状況は非常に不味い。

 弱味を握られまくっている。


 どうする?どうやって誤魔化す?

 唯一救いがある事と言えば写真に写っている人物の顔が遠目でハッキリとしていない事だ。

 だけれど、こんなの拡大したら直ぐにバレてしまう。


 必死に思考を回転させて何とかこの場を乗り切る方法が無いかと考える。


 「ここまで似ているのに他人の空似とするのは無理があるんじゃないですか?」

 「遠目過ぎて顔がわかりまへんね」

 「そう言うと思ってちゃんと拡大写真もあります」


 チッと内心舌打ちをする。

 見せられた写真にはハッキリとうちと妹の顔が写っていた。


 「うーん、これは凄いですね。一体どこのカメラを使ってはるんですか?」

 とりあえず話をずらしてみる。


 「ああ、キャノリの一眼レフです」


 キャノリとは有名なカメラの会社だ。

 機能が充実しており、価格もお手頃で、おまけに他の追随を許さない程の高画質さが売り。

 多くの写真家やマニア達がこの会社のカメラを愛用している。


 「へぇ、それは羨ましい。画質もええし、ほんまにええカメラなんですね」

 「ありがとうございます」

 「そう言えば貴方の出身地は?いえねぇ、あまりに綺麗な標準語なんでなんや気になりましてね」

 「ああ、私の生まれは東京ですよ。育ちも東京です」

 「そうでっか、どうりでですね。そや、その胸に付けてはるピン格好ええですね。流石東京の人や。模様は百合でっか?」

 「はい、そのとおりです。で、これは貴女方ですよね」


 何とか話をずらそうとしたけれど、やはりそうそう簡単には見逃してはくれなさそうだ。


 「いえ、違います。ところで、この写真頂いても?」


 そう言った瞬間志戸泰はにやにやと笑いながら言ってきた。


 「おや?何故自分ではないのにこんな写真を欲しがるんですか?」

 「世の中には自分とそっくりな方が三人はおるゆう話もありますし、この人はとても自分のそっくりらしいので記念に欲しいだけです」


 ピクリッとこめかみに血管が浮き出そうになるのを必死で笑顔で抑えながら返事を聞く前にさっさと写真を自分の鞄にしまい込む。

 とりあえず写真を回収したは良いが、どうせ元のデータは持っているのだろう。

 志戸泰は写真を勝手に鞄にしまい込んだ事を特に気にせず言った。


 「ああ、なるほどなるほど、あくまでもこれは自分じゃないと言う事ですね。 妹さんは素直でしたのにお姉さんは中々強情だ」

 

 妹はその言葉を聞いて今まで俯いていた顔をバッと上げてうちに向かって必死に首を横に振ってみせる。


 「………妹が素直と言うと?」

 「ああ、失礼。別に貴女が素直じゃないと言っているんじゃありませんよ。

 ただ、先ほど妹さんと二人で話した時にこの写真を見せた途端、面白い反応を見せてくれたものですから」

 先にも言ったが妹は腹芸が全く出来ない。

 今聞いた話から妹は先に写真を見せられ、その時にとっても分かりやすい反応をしたという事が凄く良く伝わった。


 「強情も何もうちはさっきの写真に写っておる人はうちとは違う人やと言う事実を話しているだけですさかい」

 「ふむ、妹さんは写っているのに貴女が写っていないでそっくりさんが写っているだなんて何とも奇妙な話ですね」

 「そっくりさんだから妹も自分だと思って反応してしまったんとちゃいますか?」


 あくまでもにこやかに、自分は何もやましい事はしていませんよ、と子供の純真さをアピールした笑いをして言い切った。


 うちの輝く様な笑顔を見て志戸泰はうーんと考え込んだ。


 やがて、何かを閃いたのか手をポンっと打ち合わす。


 「そうそう、言い忘れてましたがあの杯は最初は様々な幸運をもたらしてくれますが、きちんとした所に納めないとやがて所有者に災いが降りかかりますよ」


 災い。

 その単語を聞いた時、ゾクリと悪寒が走った。

 それを隠し、何気ない風に問いかける。


 「災い?へぇ、それは面白いですね。一体どんなのが降りかかるんですか?」

 「さあ、それは人によって色々ですね」

 「災いが降りかかるという根拠は?」

 「ありませんが、それは確定している事なんです」


 確定している?

 一体どういう事なのだろうか。


 「………私はその杯とやらを持ってはいませんが、仮に持っていたとしてもそんな根拠の無いそれを信じるとは到底思えませんね。 それに、貴方がその杯とやらの本当の持ち主かも分からない」

 「ああ、なるほどなるほど、それは確かに理にかなってますね。

 私は正真正銘杯の所有者ですが私は今、自分があの杯の持ち主である事を証明する物は持っていません。 そうですね、それではこうしましょう」


 今度は一体何を言うのかと少し身構える。


 「今日は何も認めて下さらないようですので、今回は諦めます。

 次に会う時には私はちゃんと自分があの杯の持ち主である事を証明する物を持ってきますので楽しみにしてて下さい。

 それではまた近いうちにどこかで」


 さっきまでのしつこさとは打って変わって志戸泰はあっさりと引き下がった。


 「それじゃあ、失礼しますね」


 そう言うと立ち上がり、こちらに背を向けて去って行った。


 あまりの呆気なさにコチラが唖然と図書館の出入口から出ていくその背中を見送ってしまう。


 そして、しばらくしてからやっと行ったかと一息吐いた。


 「ああ、一つ言い忘れていました」

 「!!!」


 突然背後から声をかけられてうちと妹は驚いた。

 勢い良く振り返ると、さっきいなくなった筈の志戸泰が立っている。


 「あの杯について何か知りたい時や、杯を手放したい時はこちらにご連絡下さい。それじゃあ、今度こそさようなら」


 そう言うと一枚の紙をテーブルの上に置き、今度こそ去って行った。


 気を抜いた瞬間に思わぬ攻撃を喰らった気分だ。


 ぐったりしながら紙を手に取り見てみる。

 そこには携帯番号らしきものが書かれてあった。


 「ちゃんと頼んだ事やってくれた?」


 紙をテーブルに戻し、妹に確認を取る。


 「バッチシ、ほら」

 妹はスマートフォンを見せてきた、そこには志戸泰の写真が何枚か表示されている。


 「御苦労様、それで、今の会話は?」

 「これもバッチシ録音してあるよ」

 「あいつの特徴は何かあった?」


 特徴が無いのが特徴みたいな男だった。

 聞いといてなんだが、半ば妹の答えに予想がつく。


 「それがほとんどない。

 服かて全身白くて死装束みたいだって事以外は普通の服やし、なんや赤い十字のピアスしてる事と、襟元にピンをさしている以外は特徴らしい特徴何か無いもん。

 指輪やネックレスもしていない、更には時計もしてへんかったし」


 妹もあの服装に同じ感想を抱いた様だ。

 それにしても白い服に赤い十字だ何てとある組織が連想される。

 そして、


 「百合の紋章ねぇ……」

 スゥッと目を細め、考える。


 「あいつは一体何やろな?」


 先ほどのうちの呟きは聞こえなかったらしく、妹が聞いてきた。


 「さぁ、あいつの正体何か考えてもそれが当たっているかどうか何てうちらには分からんし、今は考えても時間の無駄やろう。

 あんたが録音したやつとかは家帰ってから聞こう。

 何や手掛かりになる事を言っておるかも知れへんし。

 今はとりあえず時間が惜しい。

 調べもんすんのが先や」

 「うん、そだね」

 「じゃ、とっとと始めんで」


 いったん、それっきり志戸泰について考えるのは止めた。


 この図書館に入り口は一つしか無く、その入り口はうちらの視界にあった。

 その入り口から出ていった筈の志戸泰がうちらの背後に立つ何て事は物理的に不可能なのだが、この時はその事には何の疑問も持たなかった。



 蛍の光〜♪ 夜の窓辺〜♪


 図書館の閉館を知らせる音楽が鳴り始める。

 顔を上げて壁にかけられている時計を見ると、もうすぐ五時を告げようとしていた。


 「そろそろ帰ろうや、夜ご飯の時間やし」


 筆記用具などを片付けながら妹に声をかける。


 「あー、そやな。疲れたー!」


 鉛筆をテーブルに放り投げながら伸びをする妹。


 「それにしても……頑張ったなうちら」


 視線をテーブルへとやる。

 二人で使用していたテーブルの上はおびただしい紙と本で埋めつくされていた。


 志戸泰が居なくなってからうちらはすぐに調べ物を始めた。

 さっきのナンパらしき物に邪魔をされるかと心配したが、資料を集めて調べ物を開始するとさっきのナンパ?はぱったりと無くなった。

 これもカラスの恩恵だろうか。


 調べる方法はこうだ。

 まず、図書館の目録で調べたい内容と関連のありそうな物をピックアップする。

 次に二人でそれを集め、速読のできるうちが重要そう、役に立ちそうだと思った所を探し出す。

 本まるまる一冊が知りたい内容に関連する事だったら借りる事にし、本まるまる一冊とは言わずとも広範囲に知りたい内容が書かれている時は図書館のコピー機をフル活用。

 少ししか書かれていない時は字の綺麗な妹に写させる。

 二、三時間でうちはまだ貸出しをされていない、図書館にある本のほとんどから関連のありそうな内容を出す事が出来た。


 それの中から比較的書かれている内容が短いのを妹が写している間にうちは本をコピーしたり、コピーの終わった本を元あった場所に戻したりの作業をした。

 その作業が終わったら、探し出した所で難しい、意味の分からない単語を図書館のインターネットで調べる。

 本当、どこのエリート商社マンだって言う位に働いた。

 給料を貰っても良い位だ。


 「あー、明日知恵熱出して寝込みそう」


 若干熱を持っている様な気がする額に手を当ててぼやく。

 それを聞いて、呆れた様に妹は言った。


 「知恵熱って……どんだけ頭悪いのさ、あんた」

 「毎回テストは赤点ギリギリアウトですが何か?」

 「ドヤ顔すなや」

 「アテッ」

 額にデコピンを喰らった。

 何でだ。


 「まあ、うちのテストは置いといて、とりあえず片付けんで」

 「おー、私はこの本とか借りてくるさかい、本を元あった場所に戻すのヨロシク。

 勿論、一人でね」

 「…え?」


 妹の言葉に耳を疑った。

 冗談だろ、二十冊はあるぞ、本。



 「今日、私をあないな目に合わせたペナルティーや。十分以内に返していや」


 怒っていないように見えたがどうやら妹はあのカラスの事について相当怒ってらっしゃったようだ。



 一時期図書館に入り浸った事があります。

 どれくらいかと言うと、開館から閉館まで一日中ずっとを三週間とか。


 夏休み最高。

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