若手社員
まだ今の仕事について間もないころのおはなし。
私の教育係は、佐渡さん(仮名)という名前の、とんでもなくテキトーな先輩だった。
以下佐渡さんスペック
名前→さどがしま(嘘)
性別→男
年齢→38
髪型→長髪、ちじれ毛(薄め)
学歴→都内六大のどこか(本人がどこかは教えてくれない)
趣味→合コン
好きな音楽→シャムシェイド
好きなタイプ→化粧の厚い女の子
好きな言葉→お持ちかえり、好きっちゃ好き
夢→国際線のスッチーと付き合うこと
生き甲斐→合コン
そんな先輩なので、仕事教えるときはこんな感じ。
「あのさ〜、ワキミズちゃんさー、営業ってのはさー、相手の立場に立つっちゃ立つし、かといって、立たないっちゃ立たないわけ。」
私「どういうことですか?」
先輩「いやだからね、ニュアンスの問題なんだよね。ほら、今流行ってるシェアリングよシェアリング。社内でワークシェアリングするのと同じように、相手の気持ちも、こっちサイドにシェアしちゃう?的な感じなわけよ。」
私「はぁ…」
といった具合で、まさしく三分の一も伝わらないのであった。
そんな先輩の口癖は、
「ドゥー(do)しちゃう」
する(do)にたいして、しちゃうわけなので、単純に和訳すると、
「する、しちゃう」
と、なんとも奇態な表現になるわけだが、本人いわく、古代ギリシア哲学がどうとかで、とにかくドゥーしなければならないのっぴきならない事情があるようで、
お昼に誘われた日などは大抵、
「とにかく今の日本はさ〜」
からはじまり、
「ドゥーが足りない」
といった不満をぶちまけた後、ワールドビジネスサテライトや、ガイアの夜明けで仕入れた最新のトレンドの話をしながら、
「世の中常にドゥーを求めている」
と、会社の組織体制に文句をいい、自らの武勇伝を話50倍くらいに大きくしながら、意味が分からない程ドリンクバーをおかわりしまくる、といった行為で、若手社員のモチベーションを下げ続けるのであった。
そんな自分が社長だったらまず窓際に置いておきたい社員の筆頭格の先輩であったが、なぜだか女性にはよくモテた。
社内の女性ほぼ全てをナンパし、何人かとは、最終的に「ドゥー」しちゃっているようだった。
そんな先輩がある日結婚すると言い出した。
社内で「ドゥー」した内のひとりが、妊娠し、向こうの両親から責任を取れと言われたらしい。
向こうの両親は、長髪、髭、香水(本人いわくシャネルの4番バッター)臭い佐渡さんに強い不信感を露にし、
「娘と結婚するなら床屋に行ってきなさい!そしてお風呂に入りなさい!」
と、散髪代と銭湯代を渡したそうだ。
佐渡さんは大人しく従い、その後彼女と無事結婚し、そして挙式から3ヶ月後に、突然、
「イクメンになりたい。」
といって仕事を辞め、主夫になってしまった。
その後5年がたち、私もすっかり中堅社員となってしまい、その後の佐渡さんの消息は知れない。
ひとづてに聞いた話だと、すっかり太ってぶくぶくになってしまったそうで、スーツ屋で見かけた女子社員によると、
店長
「当店は、200種類以上ののスーツを取り揃えております。何なりとお申し付けください。」
佐渡さん
「モテスリムスーツをください。」
・・・
ウエストを測る店長
・・・
店長
「どうぞこちらよりお選びください」
2着。
といったことがあったらしい。ちなみに、新婚旅行ではグアムに行き、なぜか4泊5日のジャングルクルーズを敢行し、海に全く触れることなく帰国したため、虫に刺されまくった妻が激怒し成田離婚になりそうだったとの話も聞いた。(本人はジャングルが楽しくてしかたなかったそうである)
そんな佐渡さんの話をなぜしたかというと、
営業課の社内の成績表の横にでかでかと掲げられている看板。
「若手SHINE!」
の文字。
若手シャイン(社員)。
・・・
確か自分が入社したころに佐渡さんが掲示したものである。
その他にも、自作のポエムやら詩やら格言やらを勝手に壁に貼り付けては、すぐに上司に剥がされてしまっていたが、「若手SHINE!」だけはずっと残されたままになっている。
ちなみに私のPCは佐渡さんから引き継いだものだが、裏面に、
「くだらない今日が、すばらしい明日への思い出となる」
と意味不明な文言が書いてある。
しかし、なんだがこの文字を見ると少しほっこりした気持ちになるので消してはいない。
いろんな人生があるよなー
と思いながら、「若手SHINE!」を見て新人の日々を思い出し、ウチの会社って平和だよな、と思いつつ今日も仕事に励むのであった。
※後日、若手SHINE!は、若手シネ(死ね)!と読めてしまうことに気付いてしまいました。大変ショックです。