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女らしさ。前編:水瀬真実

時間的には文久三年の秋ごろ。

女らしさに悩むまことです。

酔っ払ったまことは何をするのでしょうか?

夕暮れともなると、風がずいぶん冷たくなってきた。

あたしは左之さん、永倉さん、平助君の三バカトリオと一緒に食材の買い出しに出かけ、京の町を散歩していた。

そろそろ帰ろうというその時。


「あの、水瀬様!」


突然呼び止められて振り向くとそこには小柄な女の子。

緊張しているのか、髪にさした花かんざしが小さく震えている。

俯いていて顔はよく見えないけれど、着ているものなんかを見ると、いいとこの御嬢さんって感じだ。


「新撰組の水瀬さまでございますか?」


「えっと…そうですが何か御用で?」


その子はばっと勢いよく顔をあげるとあたしと目が合った瞬間、暗がりでもわかるくらいに顔を真っ赤にしてまたすぐに俯く。


「あ、あの…」


「大丈夫ですか?」


あたしが手をさしのべようとしたその時。

女の子はその手に持っていたものをあたしの目の前にずいっと差しだした。

それは結び文。

紫苑のかわいらしい花に結び付けられてあるそれはまさしくラブレター。



「ずっとお慕いしておりました。これ、読んでください!」


その子は一気に言い切ると頭を膝に付くのではないかと思うくらいに下げて踵を返すと走り去っていった。




「あーあ。また水瀬かよ。こちとら島原の女にも素気無くされてるっつうのによ。

これで何人目だ?」


呆然とするあたしをしり目に左之さんが面白そうに半ば呆れながら笑う。


「俺の知る限り一三人目。うらやましいよねー。」


平助君もシャムネコみたいな意地悪な笑みを浮かべた。


「ばか、一九人目だろう?

色男水瀬の実力なめんなよ?」


永倉さんはにやにや笑って言った。


「「「モテる男はつらいねえ」」」


「あたしは女だっつの!」


ハモった三バカに向かって吠えるあたしはやっぱり女としての魅力が欠如してるんだろうか。

こんなふうに一方的に女の子に告られるの何回目よ?

あたしはため息をついた。



あたしは屯所にもどってご飯の後に縁側でもらった手紙を読んだ。

あの子はあたしを男だと思っていて、想いを伝えようとしているんだなって思う。

ああ、恋する乙女っていつの時代も変わらないんだなって想う。

好きで好きでどうしようもなくて…

すごい勇気を出して告白してきたんだろうな。

そんな想いがひしひしと伝わってくる。

あの子かわいかったな。

恋する乙女って感じでキラキラしてて。

全部が砂糖菓子みたいに儚くて守ってあげたい雰囲気のかわいい子だった。

手も細くて小さくて柔らかくて…

あたしとはえらい違いだ。

寝転がって自分の手をみると水仕事と稽古で節が目立ち傷だらけになっている。

女として少し恥ずかしくなるけど、次の瞬間そんなこ思わず苦笑した。

この道を選んだのは誰でもないあたし自身なのに。

守られなければいけないくらい儚い女だったら、あたしは今ここにいない。

殺されたか、売られたか…。

生きるためにあたしはこの道を選んだんだからいいんだ。

今更後悔なんてするものか。


そんなふうに自分を納得させたけど、やっぱりどこかであの手をうらやましいと思ってしまう自分を止められなかった。



「おーい。まこと?起きてる?」


ふと衝立の向こうから総司の声。


「うん。起きてるよ?」


「今からうちうちなんだけど飲もうってなんてるんだけど、まこともおいでよ。」


「うん!」


まあ、くよくよしてもしょうがないよね。

飲んで楽しくなっちゃえばいいか。


あたしは総司と並んで部屋を後にした。




試衛館のメンツがそろってみんな思い思いに飲んでいる。

大分お酒が回って左之さんはいつも通りに腹踊りをしてみんなに流されてる。

あたしも熱燗がおいしくて永倉さんと飲み比べをしてしまった。

ふと落ち着いた頃、平助君が思い出したように昼間の出来事を話した。


「まあ、水瀬君は並みの男などよりもよほど頼りになるし、惚れる女子がいても無理はないなあ。」


近藤先生が冗談とも本気ともつかない慰めをしてくれるなか、あたしは苦笑しながら杯をすすめた。


「腕っぷしも強いし、潔いしね。」


加わる山南先生。


「だが胸も色気もねえと。」


土方さんは意地悪そうににやりと笑って付け加えたのを聞いて、あたしはカチンときて口を開く。



「なんで胸も色気もないってわかるんですか?あたしだって着飾ればそれなりに…「むりむりむりむり!」」


あたしの主張を食い気味に遮ったのは左之さん。


「お前には女の色気がねえんだよ。

なんつーか匂い立つようなあでやかさっての?

こう守ってやりたいみたいなさ。」


「そんな…」


「まあねえ、色気があるかないかで言ったら無いかもね…。」


と総司。


「水瀬が女なんて俺、今でも信じられねえし。」


と永倉さん。


「まあ総司と互角に戦える女なんて信じられないよね。」


と平助君。


「うむ。女子としての色香は少々足りぬように思う。」


くっ斉藤さんまで!

好き勝手言う男どもになんだか無性にいらいらする。

今迄だってこんなこと嫌ってくらい言われてきた。

笑って流すことくらいわけないはずなのに。

なのになんで今日に限ってこんなに気持ちがささくれ立つのか!


あたしは腹が立って、目の前にある徳利をそのままらっぱ飲みした。

のどを甘苦い日本酒が滑り降りる。


畜生!

むかつくな。


「いよ!いいねえ。さすが男の中の男!」


「うるせー!酒もってこーい!」


誰から発せられたかわからないそんな言葉に、ノッて無理やり笑う中、心の中の自分はどんどん冷えていくのがわかる。


「そんなだと嫁の貰い手無くなるぜ!」


どれくらい飲んだのか覚えていないけれど、そんな言葉が聞こえた瞬間、あたしの中の何かがキレた。

プツンと。

あたし…女として欠陥なのかもしれない…。

ぱらぱらと涙が零れ落ちる。


「え?おいおい水瀬…。なんで泣いてるんだよ?」


周りの人が困惑しているのがわかったけど、どうにもならなかった。

酔っぱらってるせいで感情のコントロールが聞かない。

もうこんな勝手なこと言わせたくない!

もうこんな男みたいな自分は卒業だ。

見てろよ。

絶対色気のある女になって見せるんだから!


「あたし、女らしくなる!!!」


やけっぱちのようにこぼれた言葉はこんなものだった。



それから後の記憶は無い。


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