助けて、お父様!
【あらすじ、混じった→交じった】始まりの記憶は、両親に売られたこと。
多少神聖力があるから、大聖堂に連れて行かれた。
立派になれば迎えに来ると言っていたが、両親がお金を受け取っているのを見てしまった。
器量が良い姉たちとは違い、私は平凡だった。
そして私は6人目の子ども。
両親としては、もう子どもはいらなかったらしい。
それでも、美人なら家に置いてくれていただろう。
けど、私はそうじゃなかった。
初めは両親を恨んだ。
けれど、いつしか意味のないことだと気がついた。
恨んだところで、何も好転しない。
お腹が膨れることも、仕事や教育が少なくなることもない。
私は何も感じない、そう言い聞かせた。
私には神聖力があるから、聖女見習いとして扱われた。
聖女と言えば、女の子が一度は憧れる。
神に仕え、民に癒しと安寧をこぼす存在。
だけど実際は、そんなに良いものじゃなかった。
私以外の聖女見習いも聖女も、全員が貴族出身だ。
対して私は、親に売られた孤児の平民で、最下層の存在。
貴族の中にそんな存在がいたら、結果は分かりきっている。
彼女たちの中で、私は何をしても良い存在になった。
暴言なら可愛い方。
暴力や物を壊されることだって、当たり前にあった。
雑務は全て、私に押し付けられた。
大聖堂の人たちは、そんな私を無視した。
私がされている事を知っているのに、見なかったことにされた。
押し付けられた仕事が終わらなかったら、私が叱責された。
教育だってそう。
あれは教育じゃなくて、暴力だった。
鞭で叩かれることも、私にとって当たり前だった。
その度に私は、何も感じないと言い聞かせた。
それでもやっぱり、苦しくて辛かった。
誰も助けてくれず、もういっそのこと死んでしまいたいとすら思った。
そんな絶望の中にいた私に、唯一手を差し伸べてくれる人がいた。
私にされた事を、自分の事のように怒ってくれた。
手当をしてくれた。
物を直してくれた。
抱きしめてくれた。
優しい私のお父様。
本当の父ではないけど、私の父になってくれると言ってくれた。
お父様が、どこの誰かはわからない。
そんなことは、気にならなかった。
親の愛を知らない私に、愛情を注いでくれたお父様。
私の唯一の大切な家族。
お父様がいれば、何も怖くなかった。
お父様は神出鬼没で、私が一人の時にしかやってこない。
けれど私が困っているときは、必ず助けに来てくれた。
不思議なお父様だけど、私は大好きだった。
大聖堂に引き取られてから10年。
私は15歳になり、正式に聖女に任命された。
やっと見習いから解放されて、少しはマシな扱いになるかと期待した。
けれどその期待は、すぐに砕け散った。
押し付けられる仕事が増え、ろくに食事や睡眠の時間がとれなくなった。
見習いの方が良かったと思うほど、その差は歴然だった。
浄化も治療も結界も葬送も、本来なら複数の聖女でやるところを、私一人が負担している。
神聖力が上がったが、何も嬉しくなかった。
神聖力が上がった事で、より疎まれることになった。
私はただ、仕事をしていただけなのに。
一番嫌だったのは、貴族に夜伽を命じられたこと。
断固拒否したら、貴族は大聖堂に抗議をしたみたいで、司教から厳しく叱責された。
そして、お前には身体を売るしか能がないと言われたのだ。
司教からそんなことを言われて、とてもショックを受けた。
お父様以外の男性が、怖くなった。
その夜は涙が止まらなかった。
それでも翌日の仕事は無くならない。
感情を殺して、動くしかなかった。
そんな日々を送っていた私に、決定的な日が訪れた。
ある日のこと。
突然、大司教に呼ばれた。
礼拝堂に行くと、聖女と聖女見習いが勢揃いしていた。
みんな私を睨むか、蔑んだ目で見てくる。
今更何とも思わない。
慣れてしまったから。
でも、嫌な予感がする。
ここは、悪意に満ちている。
「聖女アーチェ、聞きたいことがある。」
「大司教様、私が。」
そう主張するのは、最高位の聖女カサンドラ。
私の虐めの主犯だ。
「アーチェ、お前はとんでもない事をしたわね。よりにもよって、神具を壊すなんて!他の聖女から報告があったのよ!」
「何のことでしょうか?そのような事、しておりません。」
「嘘おっしゃい!お前が宝物殿にいたのを見たと言う子がいるのよ!」
私は唖然とした。
違う。
私じゃない。
そもそも今日は、宝物殿に行っていない。
でもそれを証明できる人はいない。
私はいつも一人だから。
例え証明できる人がいたとしても、私を庇ってくれるはずがない。
私は礼拝堂を見渡した。
そして気がついた。
そもそも私の話を聞く気がない、と言う事を。
彼女たちは、私が何を言っても信じる気がないのだ。
どうしてそこまで、恨まれなければならないのか。
私が何をしたと言うのだろう。
孤児の平民ってだけなのに。
私は俯いて、顔を隠した。
彼女たちに、涙を見られたくなかったから。
「ほら、早く認めなさい!」
「……て、……ま。」
「よく聞こえないわよ!」
「助けて。助けて、お父様!」
私の心からの叫びだった。
「はあ!?お前に父親なんて……」
「よく言えたな。我が愛しい子よ。父が助けよう。」
礼拝堂に響いた声は、私が最も信頼するお父様の声。
礼拝堂に、光の粒子と真っ白な羽が舞い落ちる。
顔を上げると、お父様の広い背中と、背中に生えた大きな羽根が目に飛び込んできた。
「まさか……あなた様は、主神シルヴァンテス様!」
「「「……え!?」」」
「よくも我が愛しい子に、罪を被せてくれたな。覚悟はできているな?」
「「「ひっ……」」」
「申し訳ありません、申し訳ありません!」
さっきまでの勢いとは、比べ物にならないくらい遜った態度。
変わり身の早さに、何とも言えない気持ちになる。
「神具を壊したのは、警告のためだ。古の神託に、そうあったはず。まさか、知らないとは言わないだろうな?」
「あ、え……」
「愚かな。かつては、敬虔な者たちばかりだったと言うのに、こうも穢れが酷いとは。情け無い。」
「お父様、穢れ、ですか?」
「そうだ。アーチェも感じただろう?この大聖堂に広がる悪意を。負の感情が強ければ強いほど、穢れが酷くなる。ここはもう、駄目だな。直に、穢れに呑まれる。」
「そんな!?どうか、どうかお助けを!主神様!」
お父様がそう判断されたのならば、本当に駄目なのだろう。
自業自得なので、助けたいとは思わないが。
「民に影響がないように、ここを封じた。アーチェ、私たちも行こう。神界に、アーチェの部屋を用意してあるんだ。やっと、一緒に連れて帰れる。」
「はい。」
お父様の差し出す手を取った。
関係のない民のことは心配だったが、お父様にはお見通しだったらしい。
民に被害がないなら、それで良い。
それに、お父様と一緒にいられるなら、どこでだって大丈夫。
私はやっと、身体から力を抜くことができたのだった。




