表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

短編集

助けて、お父様!

作者: 氷桜 零
掲載日:2025/10/23


【あらすじ、混じった→交じった】始まりの記憶は、両親に売られたこと。

多少神聖力があるから、大聖堂に連れて行かれた。

立派になれば迎えに来ると言っていたが、両親がお金を受け取っているのを見てしまった。


器量が良い姉たちとは違い、私は平凡だった。

そして私は6人目の子ども。

両親としては、もう子どもはいらなかったらしい。

それでも、美人なら家に置いてくれていただろう。

けど、私はそうじゃなかった。


初めは両親を恨んだ。

けれど、いつしか意味のないことだと気がついた。

恨んだところで、何も好転しない。

お腹が膨れることも、仕事や教育が少なくなることもない。

私は何も感じない、そう言い聞かせた。


私には神聖力があるから、聖女見習いとして扱われた。

聖女と言えば、女の子が一度は憧れる。

神に仕え、民に癒しと安寧をこぼす存在。

だけど実際は、そんなに良いものじゃなかった。


私以外の聖女見習いも聖女も、全員が貴族出身だ。

対して私は、親に売られた孤児の平民で、最下層の存在。

貴族の中にそんな存在がいたら、結果は分かりきっている。


彼女たちの中で、私は何をしても良い存在になった。

暴言なら可愛い方。

暴力や物を壊されることだって、当たり前にあった。

雑務は全て、私に押し付けられた。


大聖堂の人たちは、そんな私を無視した。

私がされている事を知っているのに、見なかったことにされた。

押し付けられた仕事が終わらなかったら、私が叱責された。


教育だってそう。

あれは教育じゃなくて、暴力だった。

鞭で叩かれることも、私にとって当たり前だった。


その度に私は、何も感じないと言い聞かせた。

それでもやっぱり、苦しくて辛かった。

誰も助けてくれず、もういっそのこと死んでしまいたいとすら思った。


そんな絶望の中にいた私に、唯一手を差し伸べてくれる人がいた。

私にされた事を、自分の事のように怒ってくれた。

手当をしてくれた。

物を直してくれた。

抱きしめてくれた。

優しい私のお父様。


本当の父ではないけど、私の父になってくれると言ってくれた。

お父様が、どこの誰かはわからない。

そんなことは、気にならなかった。


親の愛を知らない私に、愛情を注いでくれたお父様。

私の唯一の大切な家族。

お父様がいれば、何も怖くなかった。

お父様は神出鬼没で、私が一人の時にしかやってこない。

けれど私が困っているときは、必ず助けに来てくれた。

不思議なお父様だけど、私は大好きだった。




大聖堂に引き取られてから10年。

私は15歳になり、正式に聖女に任命された。


やっと見習いから解放されて、少しはマシな扱いになるかと期待した。

けれどその期待は、すぐに砕け散った。

押し付けられる仕事が増え、ろくに食事や睡眠の時間がとれなくなった。

見習いの方が良かったと思うほど、その差は歴然だった。


浄化も治療も結界も葬送も、本来なら複数の聖女でやるところを、私一人が負担している。

神聖力が上がったが、何も嬉しくなかった。

神聖力が上がった事で、より疎まれることになった。

私はただ、仕事をしていただけなのに。


一番嫌だったのは、貴族に夜伽を命じられたこと。

断固拒否したら、貴族は大聖堂に抗議をしたみたいで、司教から厳しく叱責された。

そして、お前には身体を売るしか能がないと言われたのだ。

司教からそんなことを言われて、とてもショックを受けた。

お父様以外の男性が、怖くなった。

その夜は涙が止まらなかった。


それでも翌日の仕事は無くならない。

感情を殺して、動くしかなかった。




そんな日々を送っていた私に、決定的な日が訪れた。


ある日のこと。

突然、大司教に呼ばれた。

礼拝堂に行くと、聖女と聖女見習いが勢揃いしていた。

みんな私を睨むか、蔑んだ目で見てくる。

今更何とも思わない。

慣れてしまったから。


でも、嫌な予感がする。

ここは、悪意に満ちている。


「聖女アーチェ、聞きたいことがある。」


「大司教様、私が。」


そう主張するのは、最高位の聖女カサンドラ。

私の虐めの主犯だ。


「アーチェ、お前はとんでもない事をしたわね。よりにもよって、神具を壊すなんて!他の聖女から報告があったのよ!」


「何のことでしょうか?そのような事、しておりません。」


「嘘おっしゃい!お前が宝物殿にいたのを見たと言う子がいるのよ!」


私は唖然とした。



違う。

私じゃない。

そもそも今日は、宝物殿に行っていない。


でもそれを証明できる人はいない。

私はいつも一人だから。

例え証明できる人がいたとしても、私を庇ってくれるはずがない。



私は礼拝堂を見渡した。

そして気がついた。

そもそも私の話を聞く気がない、と言う事を。

彼女たちは、私が何を言っても信じる気がないのだ。

どうしてそこまで、恨まれなければならないのか。

私が何をしたと言うのだろう。

孤児の平民ってだけなのに。


私は俯いて、顔を隠した。

彼女たちに、涙を見られたくなかったから。


「ほら、早く認めなさい!」


「……て、……ま。」


「よく聞こえないわよ!」


「助けて。助けて、お父様!」


私の心からの叫びだった。


「はあ!?お前に父親なんて……」


「よく言えたな。我が愛しい子よ。父が助けよう。」


礼拝堂に響いた声は、私が最も信頼するお父様の声。


礼拝堂に、光の粒子と真っ白な羽が舞い落ちる。


顔を上げると、お父様の広い背中と、背中に生えた大きな羽根が目に飛び込んできた。


「まさか……あなた様は、主神シルヴァンテス様!」


「「「……え!?」」」


「よくも我が愛しい子に、罪を被せてくれたな。覚悟はできているな?」


「「「ひっ……」」」


「申し訳ありません、申し訳ありません!」


さっきまでの勢いとは、比べ物にならないくらい遜った態度。

変わり身の早さに、何とも言えない気持ちになる。


「神具を壊したのは、警告のためだ。古の神託に、そうあったはず。まさか、知らないとは言わないだろうな?」


「あ、え……」


「愚かな。かつては、敬虔な者たちばかりだったと言うのに、こうも穢れが酷いとは。情け無い。」


「お父様、穢れ、ですか?」


「そうだ。アーチェも感じただろう?この大聖堂に広がる悪意を。負の感情が強ければ強いほど、穢れが酷くなる。ここはもう、駄目だな。直に、穢れに呑まれる。」


「そんな!?どうか、どうかお助けを!主神様!」


お父様がそう判断されたのならば、本当に駄目なのだろう。

自業自得なので、助けたいとは思わないが。


「民に影響がないように、ここを封じた。アーチェ、私たちも行こう。神界に、アーチェの部屋を用意してあるんだ。やっと、一緒に連れて帰れる。」


「はい。」


お父様の差し出す手を取った。


関係のない民のことは心配だったが、お父様にはお見通しだったらしい。

民に被害がないなら、それで良い。


それに、お父様と一緒にいられるなら、どこでだって大丈夫。


私はやっと、身体から力を抜くことができたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
両親に捨てられ、理不尽に働かされ、集団の中で疎まれ孤立し、女性としての尊厳さえ惨く奪われたアーチェ。 そんな彼女に冤罪を押し付ける浅ましい者たち。 大聖堂がどうしようもなく汚れる前に、とっとと神罰を…
愛し娘の叫びに答えてお父様の登場! 問答無用で神罰を与えないだけマシですよ。ま、残りの人生で後悔するといいです。 これは、ついでに貴族達も喰らってそうですね。同じ穴の狢ですから、同然ですね。 ギャ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ