第一話「大好きなんですけどね」
この作品はフィクションです。現実の団体等とは一切関係ありません。また、他作品様を批判する意図もございません。
1月12日、説明不足のため加筆しました。
私は、大好きな乙女ゲームの、DLCを買いに行ったんだ。
それで、
大きな音が、響いた。
……
ガシャンッ!!!!
私が、私が叩きつけたアンティークのカップが砕けて、紅茶とともに床に散らばる。
「も、申し訳ありません!!ワルノ様っ!」
メイド服を着ている女性が、謝罪をしてきている。私に。
私の名前は佐々木花、ごく普通のモノだったはずだ。ワルノなんて名前では……、待てよ、いや、知ってる、この名前を、知ってる。
私が大好きな乙女ゲーム、「竜と魔法使い」のお邪魔略奪系悪役令嬢、ワルノ・カネヒーメ。雑すぎるネタ枠の名を、よく覚えている。
ネタ枠のくせして、
どんなルートを選択しようとも、
邪魔をし割り込み攻略中のキャラを寝取り意地悪をし犯罪をし主人公の旅路を邪魔し何もかもを台無しにする魔女悪女売女最低最強悪役令嬢。
「あ、あの、ワルノ様……?」
目の前の女性は、酷く怯えている。
私は今、ワルノなのか?この女性も、ドレスの袖も、スチルで見たことがある。
とりあえず、えっと、確定かどうか確認するために、いや、そんなことよりも、まず、
「大丈夫よ。」
蜂蜜のような、鈴をかき回したような、可愛いのに気色の悪い声。
「どうか命だけは……えっ?」
ああ、確定だ。覚えている記憶の限りを繋げれば、私は、
「ドラガニア王国カネヒーメ領が令嬢、ワルノ・カネヒーメの名において、すべてを許しましょう。」
目の前の女性、いや、第三王子ルートのサブNPC、ルドさんは、ただただ信じられないという目で私を見ている。
おかしい人を見る目じゃない、気がする。
私が、あのワルノが、使用人を許すことが信じられないのだろう。
けど、今の「私」は、この世界をゲームとして楽しんだ、転生者だ。
コンビニに行く途中で、この世界をもっと知ろうとした御空で、私は死亡した。
私は、この世界が大好きだった。何よりも、現実の父母への親孝行と、友達との友情の次に。
ルドさんの反応は、私が、見たことのあるものではない。きっと、NPCなどではなく、今ここにある現実の人なのだろう。
15で死んだこととかは、幾夜もかけて己の心をほぐしていくとして、だ。
この世界を現実として生きていくことは、私にとって至上の幸福。
アイテムも学問も、おまけ資料で見たこの世界の読み書きだって全部覚えている。
セリフだって、推しのは全部覚えてる。
でも、たった一つ、大きすぎる問題がある。大きすぎて、すべてのメリットを粉々に粉砕するレベルの。
転生先のこの身体、ワルノ・カネヒーメは、このタイミングですでに破滅が確定しているのだ。
何故わかったか?本編の全破滅イベント直前にこの身体が主人公方に自慢していやがった盗品、寝取り証拠などがフルセットで壁や棚にあるからだ。つまり私が今ざっと思い出せるルートのどれかしら、または全ての破滅フラグは立て済み。
「あの、ワルノ、様。」
「カップ、は、えと、カップだけ、片付けておいてちょうだい?」
私が片付けたいけれど、目の前の超絶わがまま主人が変わりすぎたら困惑するだろう。ルドさんを許した時点でもう、手遅れな気がするが。
今日は何日か、と一応確認しようとすれば、頭の中にゴウと情報が湧き出る。
この身体の、13年分の記憶。
贅を尽くし、人の不幸を笑い、宝石と見なした物を買い漁り不満が出たら捨てる人生。
前世で主人公の幼少期をプレイ中に見た、幼少期ワルノそのものだ。
ひどい頭痛と嫌悪感とともに、私は、その場に倒れ込む。
気絶する前に、私が生きるこの世界では、主人…デフォルトの名前は、リューズ・ノワールさん―、あの人は、どんな、幼少期を…
「何を今更」
今の声、は―
意識が戻った時、「私」はベッドに寝かされていた。こんなことをしている場合ではないのに。
もう破滅は始まっているはずだ。私の幼少期の記憶を探ると、意地悪から国家転覆未遂まで罪の記憶バーゲンセールじゃないか。
どのルートのどの破滅が炸裂するかも全部フラグ立ててあるから分かりゃしねぇ。
ああ思い出した。というか身体の記憶よく見て知った。
「私」はリューズさんに喧嘩を売っている。当然仲直りもしていない。
リューズ幼少期パートでワルノと仲良くなる以外ワルノを救う手はない。
ワルノと仲良くしていると、学園パートがほぼほぼヌルゲーになる。物語の妨害が9割なくなるのだから。しかしそのためには幼少期パートの殆どをワルノに捧げねばならず、攻略対象も一人諦める必要が出てくる。
しかし仲良くしなければどんなルートでもワルノは多種多様な悪事をし、下手なビュッフェより色鮮やかに破滅する。
自業自得だが、推してる人には辛いものだっただろう。補助アイテムが出るまで、結構炎上してたよな。このシステム。
それはいい。一番重要なのは、明日ドラニアマジカ学園の入学式で起こる見せしめイベント。
「私」はリューズさんとの喧嘩の際、あの時から10年後、つまり明日の決闘を約束している。
そして「私」が負けたら貴族の地位を捨てるとも煽りやがったこの身体。
前世にはない「魔法」を使いこなせる自信、なし。
リューズさんが私より弱い確証、なし。
時間、なし。
まあつまり、「私」を今から救う手はないということだった。
終わっている。何もかもが。
……いや、まだ手はある筈だ。ここまできたらそれは一つ。
実際に聞く!!謝る!!!!
「っ…はぁ。ルド。馬車を。ノワールさんの家へ。」
「えっ…不躾ですが、明日は入学式です。お休みになられたほうが…」
「あの小娘に己の明日の立場をわからせなければ、名門校の絨毯を気持ちよく踏めませんわ。支給、用意を。」
よし、今のは結構それっぽ…駄ー目だ。学園パートの舞台であるドラニアマジカ学園のこと見下してたんだった。このワルノ。
ふと、あることが再び頭をよぎる。この世界のリューズさんは、どんな選択肢をとってきたのか?
どんな選択肢を選び、幼少期パートでどのくらい攻略対象と仲を深めて、どのくらい強くなったのか?
わからない。わからないから、行くしかない。
馬車で数十分、リューズさんの家にたどり着く。ルドさんは馬車で待たせ、扉をノックする。作中のワルノ曰く、犬小屋みたいな家。だが、私にはワルノなんかの家より、リューズさんの家のほうが温かみがあって好きだ。
「ノワール…さん。夜分遅くに…間違った。で、出て来なさーい…。このワルノが、会いたいと言っているのよ。」
少しして、ゆっくりと扉が開く。こちらの様子をうかがう黒髪の美女は、まぎれもなくリューズさんだった。薄い麻布の服を着ている。
彼女は桃色の唇を少しだけ開き、
「あ、転生者さんだ。お口に合うか分かんないですけど、クッキー食べます?」
と言ったのだ。
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