終幕
流れる涙をそのままに遙は携帯を閉じた。
隼は『ちょっと待ってろ!!』と焦りながら叫び携帯の通話を切った。
ぎゅっと携帯を握る。
隼の家から遙の家までどれくらい掛かるか検討もつかない。
それまで自分は我慢できるだろうか・・・。
隼に逢いたい、と言ったのは自分で・・・あんな悲しそうな顔をされてしまったのも自分。早く逢いたい。逢って謝罪とこの想いを伝えなければならない。
そう思ったら、いてもたってもいられなくなり、遙は身支度そこそこに家を飛び出した。
携帯を握り締め走り出す。
あっと言う間に息は切れるけれど足を緩める気は無かった。
――――――― 確かここを曲がれば近道のはず・・・
そう思い角を曲がった時だった。目の前になにかがあり、その瞬間衝撃と共に後ろへとしりもちをつく。
刹那、呆然とするも直ぐに衝撃と共に放り出された携帯を目で探した。
唯一、今の自分と隼を繋ぐ物。目を凝らすと携帯は何かの下にあった。
急いで其れを拾おうとした遙だったが、それよりも早く別の手が携帯を拾っていた。
視線を上げその人物を確認する。
遙の目に再び涙が浮んだ。
「は、やと・・・」
視線の先には隼の姿。ヘルメットを無造作に取り携帯を遙へと渡した。
「ゆ、うき、何処、行くんだ?」
戸惑いながら、しかし笑顔を浮かべた。
それでも遙の涙は止まらない。
“結城”・・・又隼はそう呼んだのだ。もう2度と名前では呼んでくれないのかと思うと、涙が止まらなかった。
「ど、どうした?どっか痛むのか?」
心配そうに、遙の身体を確認する隼に言葉が出てこない。だから、行動に移した。
「は、るか?」
抱きついて来た遙に動揺し、名前を呼んだ隼。
バッと遙が顔を上げ、その顔が嬉しそうに綻ぶ。その綺麗な笑顔に隼は又しても動揺した。
「・・・名前」
「え?」
小さく呟いた言葉に困惑する。
「名前で・・・呼んで?」
艶のあるそんな呟きに隼は更に困惑した。
「え?・・・あ、はる、か?」
困惑しながらも希望通り呼ぶと、遙は更に嬉しそうに微笑んだ。そうして目を伏せる。
「すごく、凄く逢いたかったんだ。・・・どうしても謝りたくて」
目を伏せながら遙は告げる。
「あやまる?」
何を謝るというのか解らずに聞き返した隼に、遙は小さく息を吐いた。
そんな仕草も隼にはぐっと来て、少し、遙にはばれないように腰を引く。
「そう。・・・公園で、朝霧の言っていた事。・・・僕は別に迷惑じゃないよ?毎日一緒に帰れて、休みには色々な所に連れて行ってくれて、ほんとに楽しくて嬉しかったんだ」
遙の言葉に、隼の胸は大きく波打つ。
春の日差しのような、そんな暖かいもので一杯になる。
嬉しさのあまり遙を強く抱き締めた。腕の中の遙が熱くなる。
「もう、いいよ遙。俺も楽しんでくれて嬉しいよ」
そう言った隼に、しかし遙は頷かない。
「良くないよ!・・・まだ、伝えて無い事・・・あるもん」
そう言った遙は、ちょっと身じろぎ、隼の腕を解かさせた。
「あの後朝霧に告白されたんだ」
遙の言葉に動揺する。やっぱり俺じゃあ駄目なのだ、と隼は思った。しかし次に続く言葉に隼は踊り出したい気分になった。
「でも、断った。・・・隼が見せた背中で自分の気持ちに気付いたんだ。・・・僕は何時の間にか隼の事好きになってた。だから、二度と僕の事、苗字で呼ばないで?」
顔を真っ赤に染めながらの告白。隼は再度遙を抱き締め、そうしてそっとその小さな唇に己の其れを落とした。
遙の身体が驚きに固まる。
しかし、直ぐにそれは解れ、細い腕が隼の身体に巻き付いたのだった―――――――――。
「おはよ~、隼」
登校し直ぐに隼の姿を捉えると、遙は小走りに近づき声を掛ける。
横を当然のように歩く遙に、隼は微笑を浮かべた。
「遙」
「ん?何?」
そんな遙を抱き締めたい衝動にかられながら隼は告げた。
「俺、今度単車の免許取るよ。単車も買うから、遙後ろに乗ってくれる?」
決心した事を告げると、それは嬉しそうに遙は笑った。
「それで、もっと遠くに遊びに行こう?俺との思い出沢山つくろうな」
隼の言葉に、遙は更に満面な笑顔を浮べ頷いた――――――――――――。
最後まで、お付き合いして下さった方、ありがとうございました。
とりあえず、遙ちゃんと隼くんのお話は完結です。
ある意味可哀そうな朝霧くん。
気持ちを伝えるのが遅かったなぁ・・・と漠然と思いました。
このお話を書き始めた当初は、幼馴染の恋物語だったのです。
しかし、隼くんの遙へのまっすぐな気持ちが、作者でもある自分を動かしてしまいました。
ですので、朝霧くんには本当に申し訳ない事をしたなぁ・・・と思っています。
朝霧くんにも恋人を!!
と思い、今現在彼のお話を考案中です。
機会がありましたら、是非そちらも覗いて頂けると幸いです・・・。