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本当の気持ち



隼の視線が、遙の後方を捉えている。

その瞳がまるで獣のように鋭く光、遙は息を呑んだ。

ゆっくりと首を回らせ自分の後方を確認する。其処には、なんと朝霧が立っていた。

驚きに遙は目を見張る。

見た事もない怖い顔で2人を睨みつける朝霧に遥は戸惑った。

「・・・何か用か?相良」

口を開いたのは隼だった。

朝霧の切れ長の目がピクリと揺れる。

「あ、さき?」

遙の言葉に朝霧の眼光が鋭く光った。

遙の身体が恐怖にガタガタと震えるのを確認すると隼は眉間に皺を寄せ、そんな遥を背にかばうようにし間に立った。

「相良、様があるなら早く言えよ」

苛立ちを含んだ隼の言葉に朝霧は口角を歪める。

「あんたに様はない。・・・遥、お前に用があるんだよ」

低い、冷たい声。やっぱり聞いた事のない声に遙はすくみあがった。遙の手が、自分と朝霧の間に立っている隼の制服の裾を掴む。その手も小さく震えていて、隼は“大丈夫”とその手を握った。

それを見ていた朝霧は更に眉間に皺を寄せる。そうして小さく鼻で笑った。

「あんた、遙の何なの?」

矛先が隼に向かう。

「何って・・・まぁ、一応友達かな。俺的にはそれ以上の関係を希望しているけど」

ぎょっと遙が隼を見る。

「あぁ、ごめんね?俺、ウソって付けないんだ」

眉をハの字にしながら謝る隼に、遙は場を忘れ小さく笑ってしまった。朝霧がすっと目を眇める。

「・・・ふ~ん。で?遙はそいつの事が好きなのか?」

答えられなかった。確かに隼の事はかなり好印象だ。一緒に居ても凄く楽しくてあっと言う間に時間が過ぎてしまう。

そうして遙は自分の胸の中に浮かんだ、後少しで形作られる物を認識し、隼の言葉、視線にドキドキする事にもようやく合点がいった。

しかし、それは朝霧に対して伝える様な事ではなくて、遙は朝霧に対して困った顔を向けた。それを見た朝霧は勘違いしたようだった。

「迷惑みたいだぞ?遙は」

くすくすと笑い、隼を挑発した。隼の顔が、悲しみと朝霧への怒りに揺れる。

違う、そうじゃない!と叫びたいと思っていても遙の喉は干上がったように音を発してくれない。

遙を振り向いた隼の顔を見た時、何故に言葉が出てこなかったのか後悔した。

「・・・ごめん、迷惑、だったよな」

そう言い、置いていたメットを掴むと隼はその場を後にした。

「待って」

「遙!!」

呼び止める遙の声をかき消したのは朝霧の声。

遠ざかる隼の背中を呆然と見、そうして遙の心に浮かんだ物は決定的な形を作りだした。ようやく、遙は自分の気持ちを自覚したのだった―――。



瞳から大粒の涙が零れる。

そんな遙に朝霧は戸惑っていた。

「遙?」

さっきまでの怖い顔はもうない。でも、遙にとってはもうどうでも良かった。朝霧がどんな顔をしようと関係ない。隼にあんな顔をさせた事がショックだった。遠ざかる背中をどうして追いかけなかったのか・・・。そんな後悔が襲った。

「はる」

「なんで」

呼びかける声に被せるように遙が呟く。

「え?」

朝霧の声に反応するように振り向いた遙に息を飲んだ。

「なんで、あんな事言ったの?・・・僕は迷惑だなんて言ってない!」

遙の反論に朝霧は言葉を失う。

「それに、僕と隼がどんな関係だろうと、朝霧には関係ないじゃないか!!」

朝霧は眉間に皺を寄せ、遙の腕を掴んだ。ハッとする遙をよそに朝霧が低く呟く。

「・・・“関係ない”?・・・俺がどんな思いでお前を守ってきたと思ってんだ!」

低い、怒りが籠った言葉。今度は遙が言葉を失う番だった。

「お前の事を、誰にも傷付けられないように、大切にしてきて、変なむしが付かないように立ちまわってた俺にそんな事言うのか?!」

怒りに目をぎらぎらさせた朝霧は、遙を掴んでいた手に更に力を込める。

朝霧の言っている意味が解らない。変なむしとはどういう事なのか。

「俺が、ただの幼馴染に、そんな事すると思うか?!」

更に力を込められて、痛みに顔を歪ませた。

「あ、さき、痛い・・・!」

遙の小さな悲鳴に、朝霧は我に返り掴んでいた手を離した。

「あ、あぁ悪い・・・」

怒りと悲しみを湛えた朝霧は視線を落とす。朝霧の家での事も含め遙は聞いた。

「・・・それってどういう意味?」

「おまえの事が好きなんだよ、遙」

深呼吸をした後、朝霧は呟くように告げた――――――――。




遙は携帯を握りしめながらベッドに突っ伏していた。

携帯の液晶には隼へのメール文が打ち込まれている。ボタンを押せば直ぐに送信できるけれど、ボタンを押す勇気がなかった。

公園を去った時の隼の顔が頭から離れない。一緒に居てとても楽しかったのに、朝霧の言葉を直ぐに否定出来なかった事が送信出来ない理由の一つでもあるのだ。

携帯を伏せたり見たりと落ち着かない。そんな携帯が突然光り、着信を告げた。

驚いて液晶を確認する。そこには『花月 隼』と明記されていた。慌てて通話のボタンを押し、恐る恐る耳を当てた。

『・・・は、・・・結城?』

名前を呼ぼうとし言い直す隼。それだけで遙の瞳には涙が浮かんだ。

あぁ、もう名前では呼んでくれないのだと思うと胸がぎゅっと痛む。

「は、やと・・・」

迷惑を掛けたくないと涙を抑えながらの言葉だったけれど、詰まってしまい失敗してしまう。

『な、いてるのか?』

戸惑いの言葉にもう抑える事は出来なかった。携帯から遙の嗚咽が漏れる。

『な、ど、どうした?!』

優しい、けれど焦りが込められた声に遙は限界だった。

「は、やと・・・ふぇ、あ、あ、あいたい~・・・!」

その一言を言うのが限界だった――――――――――――――――――――。




――――――――― ただ、隼に逢いたくて・・・

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