表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

心の形



部屋に掛け込んだ遙は布団を頭まで被り、零れる涙を必死に止めようと、乱れた心を落ち着かせていた。

何度か深呼吸を繰り返し、ようやく止まった涙の残した重さに溜息が出る。ゆっくりと布団から頭を出した遙は、いつの間にか暗くなっていた部屋を認めた。

身体を起こし、窓の外・・・朝霧の家を眺めた。

朝霧の言っていた言葉を反芻する。

遙を大事にして来た、と言っていた。

変な虫がつかないように・・・とはどういう事か。

掠め盗られた・・・?

そうしてあそこで浮かんだ隼の顔は、遙に告白してきてくれた、その顔だった。

そこで初めて、遙は自分の気持ちを考えた。

自分は隼の事をどう思っているのか、という事を・・・。

友達、とはきっと違うのだ。

友達だったら抱きしめられた時、きっと嫌悪する事は無いにしても、良い気はしない。

では自分はどうだったのか。

隼に手を握られたり抱き締められた時、遙は嫌悪を抱く事はなく、逆に心地良いものを感じた。恥ずかしさも勿論あったけれど、それ以上に幸せを感じたのだ。

この気持ちはなんだろう・・・。

今までに経験したことのない感情に、遙は戸惑いを覚えた。しかし、その戸惑いは不思議と嫌悪感はなく、遙の心をフワフワとしたものが跳ね回る。

やっぱり、隼は友達ではない。

“好き”なのか、と問われればきっと頷く。

では、“愛”なのか、と問われれば遙は首を傾げるしかなかった。

いつの間にか頭の中は朝霧の事ではなく、隼の事で一杯になっている遙は、それが恋、所謂、愛だとは皆目見当などつかない。

恋だ、愛だと騒いだ経験が皆無の遙にとっては未知の世界なのだから仕方のない事だった。



暗い部屋で、つらつらと慣れない事を思い悩んでいた遙は、ふと携帯が音も立てずにライトが点滅しているのに気がついた。

着信を知らせるものだ。

朝霧・・・?

と思い、中々手を伸ばせない。あんな事があった後で、どのように接すればいいのかわからないでいた遙は、携帯を遠目で見守る。

長いライトの点滅は1度止まり、その後は一定の間隔を空け点滅するという物に変わった。

恐る恐る携帯を手に取り、画面を確認する。

【着信1件】と記された画面をクリックすると、予想に反して別の名前が記されていた。

それが隼であると認識すると、何故だか遙の鼓動は早まる。ドキドキと脈打つ心臓に疑問符を打ちながら、遙はおりかえした。

携帯を耳に当て、呼び出し音を数える。10回程繰り返し、諦めかけた時呼び出し音が唐突にぷつりと途切れた。

『遙?!』

耳に隼の少し焦った声が聞こえる。

その瞬間、遙は自分の鼓動が、心が温かくなるのを感じた。

『・・・遙?』

返事をしない遙に、隼は遠慮がちに呼びかける。

「・・・はい」

遙も釣られて遠慮がちに返事をした。

『ごめん、ちょっと風呂に入ろうかと思って準備してたら携帯気付かなくて・・・』

等と言い訳めいた言葉を隼は言うけれど、遙は自分の気持ちが楽になり、ましてやほんわかと温かくなる自分の鼓動、心に戸惑い続けそんな事には気付かない。

「こちらこそ、ごめん。携帯気付いてたんだけど・・・朝霧かも、と思ったら出れなくて・・・」

戸惑いながらも発した言葉に、しかし向こう側からの返事がない。

どうしたのだろう、と思い声を発しようと思った時、低くくぐもった声が聞こえた。

『・・・相良がどうかした?』

低い声にドキリとする。

「え・・・・」

聞き間違えかと思い、困惑する遙をよそに、隼は小さく笑った。

『なぁ・・・、今から逢えない?』

何か、違和感のある物言いだったけれど、遙は隼に“逢える”という事実に喜び、二つ返事で了承していた。



待ち合わせの場所は、丁度遙の家と学校までの道の中間点にある小さな公園に決まった。

遙は、いそいそと準備をし、そんな自分に苦笑を漏らす。

何故に自分はこんなにも楽しそうなのか・・・、その答えにあと少しで辿り着ける所で公園に着いてしまった。

遙は公園入り口近くにあるベンチに腰掛ける。

と遠くから原付の音が聞えた。その音はみるみる内にこの公園に近づく。そうして原付のヘッドライトが暗闇を照らし、遙の姿を浮き出していた。

滑るように公園内に入り込んだ原付は、遙の前で停車し、半ボの顔が良く見えた時、遙は微笑む。笑みの形を崩さないままその口角が言葉を紡いだ。

「隼」

そう声をかけられ、隼も微笑を浮かべる。

「原付の免許、持ってるんだね」

ベンチから勢い良く立ち上がった遙は、物珍しそうに原付バイクを見詰めた。

「俺、誕生日4月だからな」

エンジンを止め、メット取りながら隼はそう言い遙の頬にその手を触れさせる。

触れられたその箇所が、密かに熱を持ち、遙の心の中で何かが大きく動きだした。まるでゼンマイ仕掛けの時計のように歯車が噛み合い、動き出した何かが形作って行く。

それが形になる前に、遙の意識を殺ぐ物があった。

隼の視線が、遙ではなく遙の後方を見ていたからだった。




――――――――― この形は、なんなんだろう・・・?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ