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変化


隼は、教室ではあまり遥に話掛けない。

それは友人と言うにはかけ離れている態度だったが、友人を知らない遥にとってはそういう物なのかもしれない、と言う程の認識しかなかった。

制服のポケットに忍ばせていた携帯が昼休み中に振動を伝える。

遥は周りを気にしながら液晶を確認すると其処には隼の名前が記されていた。

急いで画面を見る。

【TO結城へ

 今日、終わったら屋上に来て。

 予定がないなら、一緒に帰ろう。

          隼より】

文面を再度しっかりと読み携帯を閉じた。

遥と隼の約束にツールはもっぱら携帯。隼が取り決めた約束だった。

直接話せば良いのでは?と疑問を呈した遥に、隼はやっぱり変な噂になるのは避けたい、けれども毎日は難しいが、出来るだけ一緒に居たい、と言うのがその言い分。

そうゆう物か、と思い遥は了承した。

携帯、というものは持っていたけれど殆使った事が無かった遥。

着信は親と朝霧だけで、持ち歩く事は殆なかった。

隼にその事を伝えたら、俺の為に持って、と言われ再度赤面したのだった。

ちらりと、自分の右斜め後ろの席をちらりと見る。

隼は友人と思われる人と何かを楽しそうに話しながらも、その手に握られている携帯をちらちらと見ていた。

友人の1人がそれに気付き声を掛ける。

「何、どしたの?さっきから携帯ずっと気にしてるじゃん」

友人の言葉に隼はちらりと遥の方を見た。その目が何かを訴えているように見えるけれど、残念ながら遥にそれを汲み取る事は出来ない。

なんだろう、と思い首を傾げた。

それを見た隼は溜息を吐く。そうして視線を友人のほうへ戻したのだった。



放課後、遥は荷物をまとめ急いで屋上への道を急いだ。

そんな遥の腕をいきなり誰かが掴む。体が一気に動力に逆らい、遥は強烈な痛みを覚えた。

「遥」

痛みに目がちかちかしている遥の耳に、懐かしい声が響く。それが朝霧の物だとわかり、一気に現実に引き戻された。

「あ、さき・・・」

顔を見、やっぱり彼だとわかった遥はとっても気まずい物を覚え、言葉を無くしていた。

「・・・話あんだけど」

妙に凄みを利かせた言葉に、体が凍り付く。

「聞いてる?」

返事のない遥に苛立ちを感じたのか、腕を掴んでいる手に更に力を込められた。

痛みに遥の顔が歪む。

「き、いてる。朝霧!痛いよ」

小さく抗議すると手を離してくれた。

掴まれていた腕がまだ痛み、遥は腕を摩る。

「・・・話ってなに?」

朝霧の顔を見る事なく伝えると、チッと舌打ちの音が聞こえた。それと同時に朝霧を呼ぶ声が聞こえる。

遥は顔を上げた。視線を朝霧の後ろへ向けると、自分たちとは違う色のネクタイを付けている人が再度彼を呼んでいる。先輩のようだ。

その声を無視し、再度遥に向き合おうとしている朝霧に

「呼んでるよ」

遥はそう言い、朝霧に背を向けた。

「おい!遥!!」

遥を再度捕まえようとした朝霧だったが、それを声の主に阻止されたようだった。

それをなんとなく背中で感じながら、遥は屋上へと急いだ。



階段を一気に駆け上がり、屋上への扉の前で一度立ち止まる。

上がった息を整えながら深呼吸をし、そうして屋上への扉を押し開いた。

ぶわっと風が舞い、遥の髪を弄ぶ。

それを気にしながらも、屋上へ一歩踏み出した。

後ろ手に扉を閉め屋上を見渡す。パッと左を見ると、その先の柵に両手を着き空を仰いでいる隼がいた。

ホッと息を吐く。そうして隼の方へ歩いて行った。

「花月くん」

遥の声に隼は仰いでいた空に別れを告げ、その視線を遥に向けた。

「遅かったな」

何故だかちょっと責められているような感覚を味わい遥は戸惑う。

「あ、途中で朝霧に捕まって・・・」

なんで自分は言い訳じみた事を言おうとしているのか、不思議に思いながらの言葉に隼は眉間に皺を寄せた。

「ふ~ん・・・相良にね」

なにか含みのある言葉に嫌な物を感じるけれど、それを隼に伝える事は今の遙に無理らしい。じっと隼を見詰める事しかできない。

その視線に気付いているはずの隼だったけれど、特に何も言わずに、ふっと息を吐いた。

「結城」

呼ばれて遙はドキリとする。

「な、なに?」

敬語にならないように気を付けながら返事をすると、隼はその顔を笑顔にした。

「お願いがあるんだけど」

隼の言葉に頷く。

「俺も、相良みたいに名前で呼んでも良い?」

笑顔のまま隼はそう言い、一歩遙に近づいた。

一瞬の間。

遙は瞬きをし、言われている意味を考えた。

名前、とは『なまえ』だろうか?朝霧みたいに、という事は多分、苗字ではなく下の名前の事。

今まで、自分を名前で呼んでいたのは両親と朝霧だけ。でも断る理由もない。

「別に、良いよ?」

良く考えた上での了承だった。別に特に変な事でもない。クラスの友人達も、友人をやっぱり名前で呼び合っている人もいるのだ。

了承され隼は満面な笑みを浮かべた。そして一呼吸置き

「遙」

名前を口にする。

「は、はい」

やっぱり変な感じで、遙は可笑しな返事をした。

「俺の事も“隼”って呼んで?」

笑顔のまま隼はそう言い、遙はしばし口ごもってしまった。

「ど、努力・・・する」

遙の言葉に、隼はそれはそれは嬉しそうに笑い了承した。

「それから、もう1つ」

ポケットから携帯を取り出すと隼はそう言う。

なんだろう、と思いながら遙は自分の携帯も取り出した。

「メールの返信、してくれよ。じゃないと誘ったのがOKなのかNGなのか解らないだろ?」

諭すように言われ、それもそうかと思い急いで遙は了承した。

「よし、遥」

初めて名前で呼ばれ、遥はこそばゆい物を感じる。くすり、と笑った遥に、隼はちょっと口をとがらせながら

「笑うなよ・・・」

照れを隠しながらの言葉に、遥は我慢できなくて声を上げ笑った。隼も苦笑を浮かべる。そうして一つ咳をした。

「今日の話はこれでおしまい。帰ろうか」

隼はそう言い、その手を遙に差し出す。遙は一瞬躊躇したが、結局はその手を掴んだのだった。




隼への印象、その4

――――――――― 注文の多い人・・・


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