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戸惑い


突然の告白に思わず頷いてしまったけれど、“好き”とはなんだろう、と思う遥。

同じ教室には、同じ性別の人間が自分を含め40人近くいる。

1学年4クラスあるのだから全体で480人。

男子校なのだからその全てが同じ男であり、その中で“付き合う”というのはおかしいのではないだろうか。

隼の言う“好き”というのは明らかに友人のそれとは違うみたいで・・・。

まさか自分が、それも同じ性別の人間から告白を受けるとは思っていなかった遥は混乱する。

安易に“友人”になってしまったのはまずかったのかもしれない。

ちらりと自分よりも右斜め後ろに座っている隼を見た。

今は昼休みで、彼の周りには沢山の人が集まっている。

朝霧にしても、隼にしても、とても友人が多いらしい。

そして人気者だ。

間違いなく女の子にももてるのだろうから、なにも同姓の自分に好意を抱かなくても不自由しないのに・・・。

つらつらとそんな事を思っていた遥は突然硬直した。

友人と楽しげに語らっていた隼が遥の視線に気付き、視線を送ってきたからだ。

遥は急いで前を向き、何故だか赤面してしまった自分の顔を下に向けた。

そんな遥の反応を不思議に思ったのだろう隼は友人たちをその場に置き、遥の元へとやってくる。

「結城、ちょっといい?」

遥は急いで頷き立ちあがった。

それを確認した隼は遥をつれ立って教室を出る。

そのまま屋上への階段を上って行く隼に、遥はドキドキしていた。



屋上に出るのだろうか、と思っていた遥をよそに隼は扉の前で立ち止まる。そうして遥を振り返った。

「結城、そんなに緊張するなよ」

少し困った様に笑い隼は切り出した。

その瞬間遥の顔が再び赤くなる。

「初めにも言ったけど、先ずは友達から。俺の事じっくり知って、そして答えを出してくれればいいから」

にっこりと笑う隼に、失敗したかと思った。

ここまで真剣に自分を見ようとしてくれている相手に、親友立ちの為に使ってしまった、という事実に胸を痛める遥であった。



屋上での“話合い”が終わり、隼は

「俺、先に戻るから。結城は5分くらいしたら戻ってきて?・・・ほら、ここ男子高だろ?変な噂する奴もいるからさ」

そう言い、階段を下っていった。

1人取り残された遥は溜息を吐く。自分の汚い部分を初めて自覚し、落ち込んでいたのだ。

隼は『5分くらいしたら』と言っていたが、教室に戻ろうとは思えなかった。

どうしようと思い、目の前の鉄の扉を見る。その向こうはほとんど誰も来ない場所だった。

一つ息を吐きその重そうな扉を開く。強い風に押し戻される扉を、なんとか押し開くと一面に大きな空が姿を現した。

雲一つない大きな碧い空。

一歩踏み出すとまるで空に浮いているような錯覚を覚える。

柵ぎりぎりまで近寄り、下を覗き込んだ遥の目に校庭を数人と歩く朝霧の姿が見えた。

とたんに涙が浮かぶ。

今までだったら、何か心配事や困った事があると朝霧に必ず相談していた。

朝霧は、だるそうにしながらも必ず最後まで話を聞き、何かしらのアドバイスをしてくれていた。

でも今はそれが出来ない。

悩みの種が朝霧だったのもそうだが、自分で朝霧立ちをすると決めてしまったから、そして男に告白された、などときっと口が裂けても言ってはいけない気がしたから、遥は屋上で1人静かに涙を流した。

其処に始業を知らせるチャイムが鳴る。

ハッと顔を上げたけれど、やっぱり教室に戻る気にはなれなくて、遥は柵を背にその場に座り込んだ。



あっという間に一日の授業が終わる。

しかし遙はいまだ屋上から出られないでいた。

「はぁ~・・・」

と、溜息。

その時だった。屋上への扉が音を立て開いたのは。

遙は驚き扉の方を確認すると、隼が立っていた。額に汗を流しその手には遙の荷物が握られている。

「な、にやってるの?」

苦笑ともとれる隼の声。しかし、その声は息が上がっていた。

「もう、探したよ~・・・」

茶化すように、しかし何処かに真剣さを含みながら言った隼は、一歩一歩遙に近寄って来る。

「もしかして・・・探してくれたんですか?」

控えめながらも聞いた遙に、隼は無言で頷いた。



横には隼が歩いている。

遙はちらりと横を見、隼の丹精な横顔を眺めた。

「結城」

突然呼ばれて飛び上がりそうになる。隼がちらりと遙の事を見た。

「は、はい」

なんとか返事はできたけれどその視線を見詰め返す事ができない。

「・・・その敬語」

そこで言葉を止めた隼を不思議に思いながらも視線をあげる事はできなかった。

「は、はい?」

へんな返事になってしまう。

「だから、その敬語。なんとかならない?」

敬語・・・。

そう言えば隼への返事は敬語だなぁ・・・、などと漠然と思う。

「同じ年で、ましてやこれから友達になろうとしてるのに、変だよ」

「そ、うですか?」

隼の言葉にまたしても敬語で返事をしてしまう遥に、隼は眉間に皺を寄せた。

「絶対に変だ。じゃあ結城は、相良に対しても敬語なのか?俺、聞いた事無いけど」

隼の言葉に、それもそうか、と思う。確かに朝霧に対してはごく自然に言葉が出てくる。

親友だし、幼馴染だし、敬語なんて先ずあり得なかった。

ゆっくりと頭の中を切り替え、間違えないように言葉を紡ぐ。

「そう、だね。朝霧に敬語なんて使った事ないよ。・・・直ぐには治らないかもしれないけれど努力する」

顔も何とか笑顔を作りそう約束した。

その瞬間、隼の顔が爆裂な笑顔へと変わる。

いきなり手首を掴まれた遥が疑問に思う前に、隼のその腕が遥を包み込んだ―――――。





隼への印象、その2。

――――――――― 変な人・・・



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