〜講師〜
「お兄ちゃん、ヴィンドお兄ちゃん…、大丈夫?」
「…はっ…はっ…。」
そうだ。あの悪夢を見ていたんだ。
「大分苦しそうにしてた。大丈夫?」
「あ、あぁ…。はは、大丈夫だ。」
あの夢を見て、少し思ったことがあった。
古文書などを読む限りこの世界では格闘とかは殆ど発展していない。なんなら銃があるかどうかすらわからない。幼い頃に教わった力さえあれば、ネージャを守ることになんら支障はない。だけど…。この世界でそんな格闘技術を使えば注目されるのは目に見えてる。注目されれば、ましてやこの世界で発展してない技術となれば、尚の事狙われる可能性が上がる。そうなれば二度手間だ。やはり俺は魔法の技量を努力で補うしかないのか…。先は長いな。
「それより、今日も学校だろ、早く行こう」
「うん、そうだね」
ネージャはにこっと笑う。この笑顔を守るために俺はここに住んでいる。
「で、ここはこうであるからして⸺
おいライアン、何回寝るなと言わせれば気が済むんだ。」
またあの癖が
「だから、寝てないですって。歴史の授業が始まると頭の中で映像化されて授業の内容が全部綺麗に見やすくまとめられるんです」
少し驚いたようにした後、軽く咳払いをして、
「ま、まあいい。ライアン、後で来なさい。」
俺なにかまずいこと言ったか…?
「なんですか、先生。」
「いいか、その力があることは誰にも言うな。」
「どうしてですか?」
「…少し昔話でもするか。昔、才能にあふれた人物がいた。その者には、あらゆる才能があった。謂わば最強。どんな属性の魔法でも扱うことができたし、人の言葉を表や図に書き起こして頭の中で整理する…映像化の力も持っていた。そしてその者はいつしか気付いた。自分はこの世界に居るべきではない。そして…自分の力を封印し、自害した。だがその封印は完全なものではなかった。それが…解けていた。…15年前に。そう、その力がお前らの世代に渡っているのだ。そして君は恐らく…。」
「その映像化の力を貰い受けた…と?」
「この情報は本当に極一部しか知り得ないものだ。俺が歴史の講師だったからこそ知っていただけで。命拾いしたな。」
「…ありがとうございました」
なんなんだよ、これは…。俺は部屋を後にした。
幼い頃に両親を亡くしその犯人を殺した俺と、意図せずとも父親を殺したネージャが出会い、兄妹となり、しかもその前にはもう一人義兄がいた?それも限りなく死に近い行方不明、そして俺は歴史稀に見ぬ魔力量の持ち主で例の最強の男の力を受け継いでいる…?そんなの、偶然にしちゃあできすぎてる。かといって、なにかがあるという確証も…。
「痛っ、すみません…」
「あぁ…誰かと思えば落ちこぼれのヴィンド・ライアー君じゃないか。」
「お前、は…。」
コイツは…、ライアー家の後取り息子、ライド・ライアー…。
「おやおや、目上の人間に向かってお前呼びとは。なってないぞ落ちこぼれ。なにやら、雑魚も雑魚なりに頑張ろうとしてるみたいだけど…。どうせ無駄。やめといたら?なんせ僕こそがライアー家の誇り、このライド・ライアーなんだから!!あははっ!!超優秀な僕がいる限りお前みたいな奴はお父様達に、そして世界に認められることはない!」
「別に認めさせることは興味ないけど…。勝負しないか?そうだな…来週とかどうだ?」
「は?」
「だから…勝負しようと言ったんだ。元はと言えば勝負を振ったのはそっちだろう。」
「あぁ…。まあいいや、お遊びにもならないだろうから。せいぜい死なないように気をつけろよ落ちこぼれ」
そういってお付きの人と去っていった。俺は何がしたかったのだろう。面倒事を自分から増やしてしまった。あの様子だと俺に喧嘩をふっかけたことすら忘れていそうだったのに。
「あのライド・ライアーに?」
「あぁ。」
俺はネージャにあのことを話した。
「…勝算はあるの?」
「あぁ。絶対負けない。」
「…そっか。わかった。怪我だけはしないで。」
「怪我なんてするつもりはない。負わせもしないさ。」
俺がそう言うとなにか考えるような素振りをした。
「そっか、頑張って。」
「あぁ。」
丁度家についたのでそれぞれ部屋に戻…ろうとしたのだが。
「ちょっとヴィンド〜??話があるんだけど。」
「何?お義母さん。」
「ライド・ライアーと決闘するって本当か?」
まさに半信半疑といった表情だ。疑うのも無理はない。魔法の技量に関しちゃ俺はアイツに劣っている。
「…あぁ。心配はいらない。勝つ気だし、この家の面倒になるような事態は避ける。」
「…そういわれても親としては『はいそうですか』と放っておくのは…。」
「勝負は来週だ。万一にも負けることはありえない。むしろここで逃げる方が弱く見られる。」
そういってリビングを後にした。
…絶対に負けられない。ここで勝てれば、『手を出してはいけない』と認識されるだろう。多少乱暴な手を使ってでも負けるわけにはいかない。…ネージャの為に。