〜高校生〜
あれから一週間ほど経ち、そして今日は入学式。
ネージャの親父さんとお義兄さんがどうして死んでしまったのかは知らない。裏にもっとデカい闇が渦巻いているのかもしれない。それでも。こんな境遇の少女を放っておけるわけがないだろ。
「続いては魔力測定です」
嫌な予感がする。
「では、手をかざしてください」
そっと手を出すと、測定用の水晶が爆発した
「測定不能!どうしますか!?」
最初はみんなその魔力量に期待するんだけどな。
「魔力量は…未知数です!なんでこんな学校にいるんですか!?君はこんなとこにいるべきじゃない!」
他にも色々言っていたが聞き飽きてるから無言で立ち去った。もうすぐ教室への移動とのことだ。早く帰りたい。
「このクラスの担任になったロウ・ライアーです。よろしくお願いします」
ライアー…担任が俺の家系に通ずる者ってことか…。
その後順調に終わり帰ろうという時。
「少し良いかな?ヴィンド君。ああそうだ、ネージャさんには席を外してもらっていいかい?」
「ちょっと待っててくれ、ネージャ。」
「うん。わかった。」
「君は…。ヴィンド・ライアーだね?」
「さぁ?俺はヴィンド・ライアンですので。ライアーは先生でしょう?言い間違えでは?」
「…今はそういうことにしておいてあげます。世界一に近しい魔力量を誇るが魔法を扱う技量に恵まれなかったことからついた蔑称は『シェーム・ライアー』…つまり、ライアー家の面汚し…という意味です。まあ、私はそんなものは嫌いですが。」
「…嫌いなのか?」
「えぇ。私は貴方が努力で魔法の技量を身に着けようとしていると話を聞き、その方法を教えたいと思ったのです。」
「具体的に何をしたらいい。」
「ネージャさんの魔法を扱う姿を良く観察しなさい。まあ既に観察癖のついてる君なら技量なんてものはすぐ上達するでしょう。」
「…本当か」
「えぇ。魔法とは、イメージなのです。自分が魔法を扱う姿を具体的に強くイメージするのです。そのため、身近で見やすい魔法の技量に長けた者はネージャさんが適任です。あの人の技量は目を見張るものがある。見て学びなさい。言えるのはそれだけです。」
「ありがとうございました。では、ネージャが待ってるので。」
「ごめん、待たせた、ネージャ。」
「いいよ。何の話してたの?」
「俺がライアン家に来る前の家のこと。」
「どんな家だったの?」
「それは…。」
「ごめん、なんでもない。」
「…ありがとう。」
この子は、優しい。まだ、世界の汚さを知らない。
帰ってから、片っ端から魔法の技量に関しての書物を読み漁ってみたけど…。やっぱり実物を見ないといけないらしい。ネージャに少しお願いしてみよう。
「あのさ、ちょっといいかな?」
「なに?」
「ネージャは、上手く魔法を扱えるんだよね?」
「うん。上手だって、お母さんが」
「今使ったりできる?」
「あぁ…。できると思うよ」
もし、この魔法の使う姿勢というのを観察することができたなら。ネージャの闇を晴らす第一歩を踏み出せる。
「あ、ちょっといいか、ヴィンド」
と思ったが、ライアンさんのおでましだ。
どうやらここでは話せない話らしい。
「そういえば、父親について詳しく話したことなかったと思ってな。」
「なにか理由が?」
「…アイツは…。ネージャが2、3歳の時に殺してしまったんだ。」
想像してた3倍以上の出来事がこの家にはあった。
「普通の赤ちゃんは、感情を上手く表せない時泣くだろう。だが、ネージャは感情を上手く表せない時に魔法が暴走するんだ。幸いなのかなんなのかわからないが、幼い時だったから、ネージャにその記憶はない。だから、ネージャには事故で死んだと伝えている。」
事故で死んだと思い込んでいた家族を、実は自分の手で殺めてしまったと知ったら…。ネージャは自分を責めるんじゃないか。
「そう…ですか。今は?」
「今はほとんど暴走することはない。元々魔法の威力が桁違いなのはあるがな。」
「…ありがとうございました」
「全く、お前はいつまで敬語で喋るつもりなんだ。これでもお前のお義母さんなんだぞ。」
「ごめん…とは思ってるけど…」
正直、最初ライアー家に生まれた時でさえ本気で母さんだと思ったことはなかった。それでさらに義理の母に対して本当の母のように関わるのは無理があるだろ。うちの家族のなかで、母さんは…。本当に救いだったから。尚の事簡単に上書きできない。
「すまん、気の利かないことを言ったな。」
「それはいいが…。お義兄さんの方は…?」
「そっちは…。昨日は死んだと伝えたが、行方不明、というのが正しい。」
「行方不明…?じゃあなぜ昨日は…。」
「限りなく死に近い行方不明…。つまり見つかる見込みはないという意味だ…。昨日は悪かったな。」
「いえ…。ネージャは、お義兄さんのことは好きですか?」
「あぁ。本当の家族のようだったよ。」
「ありがとうございます。…ネージャに魔法を見せてもらうのはやめたほうがいいか?」
「…私はネージャがもし暴走した場合、鎮圧することはできない。させるとしたら、暴走しても大丈夫な場合にしてほしい。できればだが。」
俺は…お義母さんに一瞥をくれた後、ネージャにはなんでもないと言い、自分の部屋に戻った。
絶対、魔法を上手く使えるようにして、ネージャの心の闇を晴らす。それが人生で初めて抱いた夢だった。