異界の星月の御巫候補〜始まりの日〜
私は陽緒。クルゼンに住む普通の学生。今日、突然知らない場所に幼馴染の和泉と一緒に飛ばされて、今は人に囲まれてる。
これだけだと何があったんだってなるんだろうけど、わたしも何があったんだって言いたいよ。
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その日はいつも通り、朝起きてからキッチンに向かって弁当を作った。そのあと、学園に行く支度とかしてから、研究に没頭している和泉を迎えに家に向かった。
「和泉ー、学園行くよー」
「もうそんな時間? 少し待って。今準備するから」
和泉の部屋は良く分からない研究に使うらしいものばかり。分かるものだと、本が棚いっぱいに入っている。それに、学園でも授業で使っていた拡大鏡が机に置いてある。
「そういえば明日テストだよね? 教えるから泊まってって」
「うん。いつもありがとう。これ、今日の弁当。今日はデザート付きだよ」
「ありがとう。支度できたから行こう。帰り、待ってて。一緒に買い物行くから」
「うん」
テスト前になるといつも泊まりで教えてくれる。そのおかげでいつも補修を免れてる。テスト毎回学年一位に教えてもらえるなんて、本当に運が良いのかも。
こんな感じで今日の予定とかを話しながら学園に向かったんだけど、その途中で占い師を名乗る怪しい人に声をかけられたの。
「お嬢さん、占いに興味はあるじゃろうか? 」
怪しい人だから、無視して歩いていても、追いかけてきてずっとそう言ってきた。
「ヒッヒッヒ、本物の御巫様の誕生に祝福を」
訳の分からない事を言う人が最近増えているなんて聞いていたけど、この人もそれなのって思った瞬間、辺りが光出して、気がついたら、全く知らない場所に和泉と二人でいた。
それが、ここに来た経緯。
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岩ばかりでゴツゴツとしている地形。植物を育てるには適していない環境のようだけど、野菜らしきものとか育てられている。
家は、わたしが知る場所とは異なる構造で、木のようだけど、違うような素材が使われている。広い窓が多い。
そんな場所で人に囲まれているのは、分かっていない。
「何の騒ぎだ」
「これは、黄金蝶様。実は、本物の御巫様が現れました。ご覧ください。この特異な魔力を。あれが偽物だと証明されたでしょう」
なぜか言葉が理解できたのはきっと、転移特典とかじゃなくて、昔、この言葉を聞いた事があるから。和泉の研究に付き合っている時に、和泉がこの言葉が使われた謎の機械を調べていた。
その時になぜか和泉は言葉を全て翻訳してわたしに見せてくれたから、なんとなくだけど理解できる。
「……この二人はこちらで保護しよう。そこの二人、ついてこい」
わたしのいた場所では茶髪は黒髪が多かったから、色素の薄い紫の髪のわたしも、金髪の和泉も浮いていたんだけど、ここではそうじゃないみたい。
派手な緑髪に黄金の瞳。それを見ると、わたし達が普通だと思った。
それはそうと、少し怖そうな人だけど、大丈夫なのかな。
「和泉」
「ついて行ってみよう。ここにいても何も始まらないから」
「うん」
わたしは、和泉と一緒に緑髪の青年について行った。
「……あの、さっきみんなが言っていた偽物って」
「偽物ではない。ここの連中は御巫というものを理解していないだけだ」
「どんな人なんですか? 」
「それはのちほど話そう。それよりも、民衆が言っている御巫というのが気にはならないか? 」
わたし達がいた場所でも御巫という言葉はあった。神に仕える人の事をそう呼んでいた。だから、そういうのかなと思ったけど、ここは別の世界なんだよね。
「はい。教えてくれるんですか? 」
「説明義務があるからな。御巫というのは黄金蝶の番となる相手とされている。黄金蝶というのは、神獣の中でも希少種であり、外見はどうであれ、生態的には性別がない」
神に仕えるというわたし達の世界の御巫。神の獣に仕えるというか番になるこの世界の御巫。他の言葉も似ていそうだけど、違いがあるって考えれば良いのかもしれない。
学ぶのが一番だと思うけど。
「シンプルですね」
「そうだな。言い忘れたが、元の世界に戻る事は難しいだろう。戻れたとしても、それは貴様らの知る世界ではない。時間軸の違いというものだ。戻りたいと思うだろうが、来てしまった以上この世界で暮らす覚悟を決めろ」
一番知りたかった事だけど、知りたくない回答。でも、そのおかげで、わたしも和泉もこの世界で暮らさなければならないと理解できたんだと思う。
「……その、こういう時は楽しい話をすべきなのだろう。魔法とかが良いのか? それとも文化か? 」
あっ、この人は不器用なところがあるだけで優しい人だ。
「俺は研究のしがいがある事に興味あります」
「わたしは、魔法とか興味あります」
「フッ、そうか。そちらの……名を聞いてなかったな。俺はイールグだ。記録を見て名を知っているが、今の名の方が定着があるだろう。今の名を教えてもらいたい」
今の名。それがどんな意味なのか分からないけど、普通に名乗れば良いんだよね。
「陽緒です」
「和泉です。今の名というのはどういう意味ですか? 」
和泉が普通に聞いてる。これ聞いて良い事なのかな。
「どんな世界にいようと転生の理は変わらない。貴様らの転生前の名を知っているだけだ。陽緒はピュオ。和泉はノーヴェイズ」
ピュオ。この世界にいるならその名前でいた方が良いと思う。初めは慣れないかもしれないけど、こっちで呼び合っているうちに慣れると思う。
「なら、そちらの名前で呼んでください。この世界にはその方が良さそうですから」
「良かろう。それで、研究のしがいのある事だったか。魔法具技師を目指すのはどうだろうか? 設計図であればいくつか持っている。この世界で一番有名な設計師のな」
魔法具って事は、魔法の道具だよね。この世界ではやっぱり魔法が重要なのかな。良く小説とかであるような世界なのかな。そこまで栄えていない少し不便なところがある。
「魔法に関しては、のちほどたっぷり勉強できるだろう」
「あの、この世界は、ちゅうせ……都心……えっと、和泉」
「この世界の風景画とかあるんですか? 」
「貴様らが思っているよりも発展しているだろう。常人には行く事ができないが、ロストとかはかなり栄えているな。それを見せないようにするという努力もされている。栄えすぎていたから争いが生まれたという例がないわけではないからな」
異世界って魔物とかで争いなんて日常的でみんなそれを受け入れて何とも思っていないと思っていた。
どれだけ発展しているのか気になるけど、常人にはいけないって事はわたしもむりだよね。
転移特典みたいなので、どこでも行けるとかあれば良いんだけど、この世界はなんだかそんな都合の良い世界じゃなさそう。
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「着いたな。今日からここで暮らしてもらう。何か欲しいものがあれば用意できる範囲で用意しよう」
生活感がある。少し前まで誰かが住んでいたような。
内装とか外装は、どことなくわたし達がいた世界と似てる気がする。木造で畳が引いてある部屋。って見た目だけど、質感とか色々と違いはある。
「ここは誰か使っているんですか? 」
「御巫候補達が使っていた。黄金蝶と共に」
わたし達がここへ来なければ、その御巫候補達がずっとここにいれたんだろう。そう思うと罪悪感しかない。
いつか会えたら、居場所を奪った事を謝ろう。わたしに何ができるか分からないけど、力になろう。
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それから、どれだけ時が経ったのか分からない。
エクリシェと呼ばれる空中に存在する巨大箱庭。
「ピュオねぇ、これノヴェにぃと一緒に作ったの。って自慢しに来た」
「そうなんだ。どんな魔法具なの? 」
「ふっふっふ、これはなんと、無意識に愛している人を映し出す魔法具なんだー……ぴにゃ⁉︎ ノヴェにぃ、これ故障してるの! 起動したらフォルの画像出てきたの! 」
エンジェリルナレージェ。前はミディリシェルと名乗っていた子。本名は別にあるらしいけど、いつか知れれば今じゃなくて良いかな。
わたしが居場所を奪ってしまった子は、遠い時を経て、一緒にいる。笑ってくれている。
「エレ、わたしにもやらせて」
「ふにゅ」
エレから魔法具を貸してもらう。昔、わたし達がいた世界で流行っていた魔法少女とかが持っていそうな可愛らしい装飾が施された丸い手鏡みたいな魔法具。
「……ノヴェだ」