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第1話 平凡高校生

1作品目になります。よろしくお願いいたします。

「汝に祝福を与えよう……さあ、選ぶがいい」


 荘厳な声が、頭の奥に直接響いた。視界に浮かぶのは、宙に浮かぶ三つの球体。赤、青、緑――それぞれが淡く光り、手を伸ばせば届きそうな距離に漂っている。


 火、水、木。三つの属性の魔法が今、俺に選択を委ねている。


 選べ、と言われても……迷う。


 火は攻撃力に優れ、なによりビジュアルが映える。火炎を操る魔法使いなんて、ロマンの塊だ。

 一方で、水は回復も防御もこなせる万能型。実用性を考えれば、間違いなく選ぶべき属性だろう。

 木属性は……まあ、ちょっと地味かもしれないが、癒し系のスキルが多いし、パーティーに一人はいてほしい存在だ。


 うーーーーーーん……悩む。


 ……いや、やっぱ火属性のキャラってスキンがえっちだし。そこ重要だし。これにするか。ムフフ……


「……辻川! 辻川遼! いい加減に起きなさい!」


 ビシッと黒板を叩く音とともに、甲高い声が教室に響いた。


 ――夢だった。


 俺は机に突っ伏したまま、ビクッと肩を震わせて顔を上げる。教室中の視線が俺に突き刺さり、一気に血の気が引いた。


 しまった。寝落ちしてた。


 しかも、よりにもよって社会科の村上先生の授業中とは……。彼女は学校でも屈指の鬼教師として知られていて、寝ていた生徒を見逃すような人じゃない。


 ちらっと周囲を見れば、何人かのクラスメイトがニヤニヤしながら俺を見ていた。恥ずかしさで、耳まで真っ赤になる。


「どーせまたメガモンの夢でも見てたんだろ?」


 隣の席から声が飛んできた。西村圭介。俺の悪友にして、ゲーマー仲間だ。俺がどれだけ『メガモン』というゲームに魂を捧げているか、誰よりもよく知っている。


 ――そう。今日がそのメガモンの新作発売日なのだ。


 『メガモンスターズ・クロニクル6』。長年愛されてきた人気シリーズの最新作。前作をやり込んだ俺にとって、待ちに待った日だ。

 この日のために、バイトして金も貯めた。どの魔法から始めるか、どんなキャラを育てるか、もう何度もシミュレーションしてきた。


(あーもう、早く学校終わんないかな……)


 放課後。授業を終えた俺は、圭介と共に下校していた。


 春も終わりかけ、桜の花びらはほとんど散ってしまった。舗道には、まだ少しだけ花びらが残っていて、それを踏むたびにサクッと小さな音が鳴る。

 明日からはゴールデンウィーク。世間は行楽モードだが、俺の予定は一択。ひたすら家にこもってゲーム三昧だ。


「で、決めた? 最初に使う魔法」


 横を歩く圭介が訊いてくる。彼もメガモンを予約済みだが、受け取りは明日になるらしい。


「無難に火属性かな。やっぱ見た目が可愛いし、使ってて気持ちいいしな」


「だよなー。俺も多分そうするわ」


「全部使えたら苦労しないんだけどなぁ……」


 こんな何気ない会話すら、楽しい。


 現実の俺は、目立たない普通の高校生。でも、ゲームの中では違う。どんな魔法も、どんな敵も、俺の前では屈するしかない――そんな無敵感が、たまらなく好きだった。


 やがて、圭介と別れる交差点にたどり着いた。

 帰宅時間帯ということもあって、交差点は学生や会社員、買い物帰りの主婦たちでごった返している。自転車のベルが鳴り、子どもの声が飛び交い、まさに“日常”という雰囲気だ。


「んじゃ、俺は真っ直ぐ帰るわ。メガモンの感想、明日聞かせてくれよ!」


「おう、任せとけ!」


 手を振り、圭介と別れた。


 さあ、いよいよだ。ゲームショップへ向かうため、交差点を避けて裏路地へと足を踏み入れる。少し遠回りになるが、時間的にはこの方が早い。

 ……が、その選択が最悪の結果をもたらすことになる。


 その路地は、昼間でもどこか薄暗く、古びた住宅が並んでいた。人通りはほぼない。そんな場所で、いきなり声をかけられた。


「おいボウズ、ちょっとツラ貸せや」


 見るからにヤバそうな男たちが、路地の奥から現れた。数は三、いや四人。金髪、サングラス、タトゥー、ボロボロの革ジャン――チンピラのテンプレみたいな風貌。


 足がすくむ。


(マズい……)


 反射的に踵を返して逃げようとしたが、背後にももう一人いた。退路は塞がれた。


「ふ、ふぁい……」


 俺は小さく返事をしてしまった。逃げる隙も抗う気力もない。ただ、震える足で言われるままに路地の奥へ連れていかれた。


「テメェ、財布出せや」


 ゴツい丸刈りの男が俺を地面に正座させ、威圧感たっぷりに睨みつけてくる。


 財布の中には、メガモン購入用の一万円と、GW旅行用に貯めておいた二万円。計三万円。俺にとっては命より重い金だった。


「……2万で、勘弁してもらえませんか……?」


「ナメてんのかコラ! テメェ、痛い目見てぇのか!?」


 怒号とともに財布が奪われ、ポケットの中身まであられもなくまさぐられる。


「おっ、三万も入ってんじゃねーかwww」


「俊さん、この坊主泣いてますよww」


 俺の情けない姿を見て、チンピラたちは大笑いした。俺は……ただ、地面を見つめて唇を噛むしかなかった。


 財布は空になり、地面に投げ返された。

 チンピラたちはゲラゲラと笑いながら去っていく。俺はその場に立ち尽くし、拳を握りしめた。


(……俺、何してんだ……)


 あんな連中に、抵抗もできず、ただ金を奪われるだけの存在。

 ゲームの中じゃ、最強の魔法でモンスターを蹴散らせるのに――現実では、何もできない。


 情けなくて、悔しくて、泣きたくなった。


 とぼとぼと歩いて、交差点へ戻ってきた。けれど、そこには誰もいなかった。


 ついさっきまで人でごった返していたはずの場所が、嘘のように静まり返っている。


(……え? なんで?)


 車も、自転車も、人影もない。まるで時間が止まったかのような不自然な沈黙。

 その時だった。


「うっ、がああああああっ!!」


 頭を、何かが貫いた。

 痛みと共に、言葉にできない情報が脳内に流れ込んでくる。熱い。苦しい。意識が遠のいて――


 どれほど時間が経ったのか分からない。

 気がつくと、俺は空を見ていた。

 ゆっくりと起き上がると、俺はあることに気づく。


「ふぁああああ!? なんで俺、裸なの!?」


 そこは地上ではなかった。雲より高く浮かぶ岩の上。周囲は空と光に包まれ、目の前には、天を突くような巨大な大樹が一本、そびえ立っていた。


 俺は、夢の中にいるような気分だった。


 そして、声が響く。


「やあ、起きたかい。驚かせてしまったかな?」


 振り向くと、そこには金色の髪と碧眼を持つ、美しい少女が立っていた。


「私の名前はロレア。能力を司る女神だよ」


 俺の人生が、ここから大きく変わっていくことを、まだこの時の俺は知らなかった――。

読んでいただき、ありがとうございます。

書くのはおろか、小説を読んだ経験も浅い中書きましたので、気になる部分が多いかもしれません。

更新は毎日できることもあれば、週1などになってしまうこともあります。ご了承ください。

ブクマや評価、大変モチベーションになりますので気が向いたらお願いいたします!

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