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物置部屋の不思議な鏡

 柏木友香(かしわぎともか)の舞台挨拶から数日が経った。逢沢(あいざわ)このは、川島(かわしま)ミア、十六夜楓(いざよいかえで)の三人は花壇から白骨死体を掘り起こしたショックで部活動を行えないでいた。あれから花壇には立ち入り禁止のテープが貼られており、警察がよく出入りしている。

 このははあの日から頭の中にこびりついて離れないものがあった。それは友香と小林(こばやし)の会話から聞こえた「まりあ」と「大切な人を失くした」という言葉だった。まりあは多分人の名前だ。大切な人……。そのまりあが大切な人ということだろうか。では誰にとっての大切な人? まりあは女性の名前。ということはやはり小林にとっての大切な人なのだろうか。それに、白骨死体を見て「まり……!」と叫んだ小林。まりあと叫ぼうとした? まさかあの遺体がまりあだとでもいうのか?

 そんなことを考えていると、

「さっきからぼうっとして、何か考え事ですか?」

「ホームルームはとっくに終わった。ずっとぼうっとしてたし、小林先生も心配してた。何か気になることがある?」とこのはを心配したミアと楓に声をかけられた。

「うーん。まあね」

「ここじゃなんですし、カラオケ行きませんか? 個室の方が話しやすいでしょう」

「そうだね。ありがとう」

 三人は帰りの用意を済ませると、カラオケ店へ向かった。いつもならワイワイふざけながら帰っているが、ここ数日は誰もあまり話さなかった。

 カラオケ店に着くと、白骨死体のショックをかき消すようにまずは何曲か歌う。その後、このはは二人に小林と友香の会話など、今気になっていることを話し始めた。

「今回の件に先生と友香さんが絡んでるってこと?」

「はっきりとは言えないけど、多分ね。あたしの考えすぎかもだけど」

「先生に話を聞くのが一番早いんでしょうけど、教えてくれなさそうですね」

「まあ、殺人事件に絡んでると疑われるのはいい気はしない」

 話している間、またこのはは一人考えていた。そして、あることを思い付く。映画で生徒を埋めた場所は花壇の下。白骨死体を見つけたのと同じ場所だ。ということは生徒を絞殺した教室、あの場所も実際に殺人が行われた場所なのではないか? 白骨化するほど昔に殺されたとしても、何か声が聞こえるかもしれない。ただの憶測にすぎないが、確かめてみる価値はある。

 このはは今思い付いたことを二人に話した。

「あたしは行かない」と楓はこのはの提案を拒否する。

「どうして?」

「どうしてって……。ただでさえ花壇から死体を掘り起こしたのもショックなのに、もし本当に先生がこの事件に絡んでたなら、それこそショック」

「ごめんなさい、このは。今回はわたしも遠慮しておきます」

 続けてミアも拒否する。

「ミアまで……」

「先生のようないい人が殺人を犯すなんて考えられません。わたしは先生を信じたいんです。それとも、このはは先生を疑うんですか?」

「あたしだって信じたいよ。でも偶然にしては出来すぎてるよ。遺体を埋めた所とか。真実を知らずにはいられない。二人が来ないならあたしが一人で真相を暴いてみせる。それで、先生は無関係だって証明する」


 翌日。放課後。このはは例の殺人シーンが撮影された教室の前に立っていた。扉に手を伸ばす。だが開かなかった。鍵がかかっていた。

「逢沢さん? そんな所で何してるの?」

 このはの隣のクラスの担任である田所(たどころ)に声をかけられた。

「ここ、柏木監督の映画の撮影場所に使われていて。見学したいの。聖地巡礼みたいな?」

「その気持ち分かるわ。わたしも若い頃アニメの聖地巡礼に行ったことあるもの。でもここはやめておいた方がいいわ」

 田所は一旦言葉を区切る。そして、深呼吸をして落ち着かせると、再び話し始めた。

「ある生徒が絞殺されたの」

 このはは青ざめた。

「そんなに驚かなくても、冗談よ。この教室は今は物置部屋として使われているの。鍵がかかっているのは単に色々物が溢れかえっていて危ないってだけ。今鍵を持ってくるわね」

 声高らかに笑いながら話す田所は、鍵を取りに職員室に向かっていった。

 数分後、鍵を指に引っ掛けくるくる回しながら田所が戻ってきた。

「お待たせ。本当に物が散乱してるから気を付けてね。じゃ、楽しい聖地巡礼を」

 鍵を開けてもらい、教室に入る。中は不用品などが詰め込まれており、足の踏み場がなかった……というのは言い過ぎだが、田所の言う通り本当に物が散乱していた。撮影の時は掃除をしたが、終わった時にまた乱雑に詰め込んだんだろうなという感じだった。とりあえず中を見渡していると、布に包まれた背の高い物があった。このはは布をどかす。それは姿見だった。このはの身長よりも高い。

「この鏡を覗いたら異空間に飛ばされちゃったりして」

 ふふふ。と鏡を覗きながらファンタジーな妄想をして一人で笑っていたその時、このはの体は鏡の中に吸い込まれる。しばらくして、視界が歪み脳が揺れる感覚に襲われる。そんな気持ち悪い感覚を数分体験すると、地面にストンと着地した。辿り着いた先はある教室だった。このはの目の前には姿見がある。だがこれは先ほど布をどかした時に現れたそれとは違い、とても綺麗だった。よく辺りを見てみると、全体的に綺麗である。先ほどの光景とは大違いだ。このはは教室から出ようと扉に手を伸ばす。だが扉に触れることはできず、そのまま体が扉をすり抜けた。このはは理解が追いついていないが、ここが現実世界でないことだけ分かる。とりあえず校庭を目指し廊下を歩いていると、小林とすれ違った。彼の見た目はとても若かった。校庭に出て校舎を見上げてみる。校舎とすれ違った若い小林。このははようやく理解した。彼女が辿り着いたのは昔の女学園だった。

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