傭兵団
今後は毎週月水金の21時に投稿します。
次の投稿は月曜の21時です。
激しい剣撃が交わされ、サーディスとジークリンデの戦いは、一進一退の攻防を繰り広げていた。
サーディスの剣は、風の流れを読み、死角から迫る刃を正確に捉える。
しかし、ジークリンデもまた、不規則な風を纏いながら攻撃を仕掛け、サーディスの間合いを狂わせ続ける。
鋭い風の斬撃が交差し、剣が火花を散らす。
どちらかが一歩でも遅れれば、決定的な一撃を許すことになる緊迫した戦いだった。
だが、その均衡を破ったのは――
"ヒュン――!"
鋭い風を切る音。
それは、一筋の矢だった。
ジークリンデの背後から飛来する鋭い矢。
彼女の風をもってしても、その襲撃はあまりに突然だった。
しかし――
"ズバァンッ!"
ジークリンデは即座に反応し、風を操る。
突風を生み出し、矢の軌道を逸らした。
だが、その一瞬の防御が、決定的な隙を生む。
「――ッ!」
風を操ったことで、瞬間的に身を固めたジークリンデ。
その一瞬の硬直を、サーディスは見逃さなかった。
"シュバッ――!"
サーディスの剣が、迷いなく突き出される。
ジークリンデはギリギリで身を引いたものの、完全には避けきれない。
鋭い斬撃が彼女の白い軍服を裂き、鋭く傷を刻む。
「くっ……!」
鮮血が滲み、赤が白を汚す。
ジークリンデは即座に後方へと飛び退いた。
その間にも、森の木立の間から"矢を放った"者が姿を現す。
「……怪しげな力持ってんなぁ」
軽い口調。
姿を現したのは、緩く波打つ赤毛の青年だった。
彼の腰には、華美な装飾のないシンプルなショートボウが下げられている。
細身の体つきだが、しなやかな動きと、鋭い目つきが特徴的な男。
一見飄々とした態度だが、その目には揺るぎない自信が宿っていた。
「……味方がいたのね」
ジークリンデは即座に警戒し、矢を放った青年を睨みつける。
すると――
ガサッ、ガサッ……!
背後の森の影から、さらに多くの男たちが続々と現れる。
屈強な傭兵たち。
無骨な鎧に、使い込まれた武器を携えた男たちが、戦場へと歩み出す。
彼らの中心に立つのは、目つきの鋭い大柄な男だった。
深く刻まれた古傷のある顔。
ずっしりとした体躯。
その姿を見た瞬間、ジークリンデの瞳がわずかに細められる。
(……あの男は……)
ジークリンデは、即座に戦況を判断する。
サーディスとの一騎討ちなら、まだ勝機はあった。
だが、傭兵たちが加勢し、さらにあの男がいるとなれば――
"一人で戦い抜くのは、不可能だ。"
「……ここは引くべきね」
即座に決断する。
"ゴォォォ――!"
ジークリンデが、風を巻き上げる。
白いマントを翻しながら、一瞬で後方へと飛び退る。
風が彼女の姿を包み込むように舞い上がり、霧のような視界を作り出す。
――次の瞬間、彼女の姿は、木々の間へと消えていた。
王子アレクシスとサーディス、そして傭兵団。
その場に残された者たちは、"ジークリンデの撤退"を見届けた。
戦いの第一幕は、ここで終わりを迎えた。
「ったく……逃げ足も速ぇな」
赤毛の青年は肩をすくめ、弓を背負いながら苦笑する。
どこか気の抜けた態度だが、目の奥には鋭い光が宿っていた。
王子アレクシスは、深く息を吐くと、目の前に立つ屈強な傭兵たちを見つめた。
一歩前に進み、顔に傷のある団長らしき男へ向け、静かに頭を下げる。
「……助太刀、感謝する」
無駄のない、簡潔な言葉だった。
だが、それだけで、王子が本気で礼を言っていることは十分に伝わる。
傭兵たちは王子を見つめたまま、一瞬の沈黙が流れた。
そして、傷のある男が、短く頷いた。
その様子を横目に、サーディスは警戒を崩さないまま、傭兵団を見渡す。
王子に向かって矢を放った者が"敵ではなかった"のは明白だったが、それでも"本当に味方なのか"の確証はまだ持てない。
王子は次に、矢を放った青年へと視線を向けた。
「……エルヴァンか?」
青年は、ふっと口角を上げた。
「おっと、覚えててくれて光栄だな」
軽く片手を挙げ、にこりと笑う。
その姿はどこか軽妙で、親しげですらあった。
サーディスが目を細めながら王子を見た。
「シス様、この方々はお知り合いですか?」
王子が返答する前に、エルヴァンが自分の胸を軽く叩きながら答える。
「俺はエルヴァン。昔は貴族だったけどな、今はただの傭兵さ」
肩をすくめるような仕草をしながら、軽く笑う。
そして、顔に傷のある男が前へと進み出た。
その視線は鋭く、どこか探るような色を帯びていた。
「団員の知り合いが襲われていると聞かされて来てみれば、まさか王子だったとはな」
王子は少し驚いた様子で口を開いた。
「貴方は……」
男は一拍置き、ゆっくりと口を開く。
「初めましてだな。俺はゲオルグ――この傭兵団を率いている」
静かで落ち着いた声音。
だが、その言葉には妙な"含み"があった。
ゲオルグは腕を組みながら、王子を真っ直ぐに見据える。
王子もまた、その視線を受け止め、深く考えるような表情を見せた。
そんな中、サーディスが小さく息を吐き、切り出す。
「シス様、この方々を雇えないでしょうか?」
王子はその提案を聞き、すぐに答える。
「私も同じことを考えていた」
サーディスが提案した瞬間から、王子の心には"決意"があった。
王子の目前には、強力な戦力が揃っている。
これを逃す手はない。
王子は短く息を吸い込むと、傭兵団へと向き直った。
「……後払いになるが」
ゲオルグは腕を組みながら、顎をさすり、考え込むような仕草を見せる。
そして――
「……まあ、いいだろう」
淡々とした口調だったが、その言葉には確かな"意思"が感じられた。
すると、傭兵団の一人が興味深げに問いかける。
「いいんですかい、団長?」
ゲオルグは鼻を鳴らし、口元に薄く笑みを浮かべた。
「傭兵業ってのは、縁も大事だ。ここで会ったのも、そういう巡り合わせかもしれん」
そう言いながら、ふっと小さく笑う。
「それに……カエルスは信用できない男だ。どっちかにつくなら今ここで王子に恩を売っておくほうがいい」
サーディスは僅かに眉を顰める。まるで知己のような言い方だ。だが王族であるカエルスと傭兵が接する機会などかなり限られてくる。
(ゲオルグ傭兵団……聞いたことはあるが……どういうつながりが?)
かつて戦場を転々としていた時に聞き覚えがあった。団長であるゲオルグは片腕ながら見事な槍捌きを持つ人間だと。しかしそれと王族との関係が分からなかった。
エルヴァンが、ゲオルグの言葉を聞いてニヤリと笑い、肩をすくめた。
「どうせ報酬もたんまり踏んだくれそうだって顔してるぜ、団長?」
ゲオルグは豪快に笑いながら、エルヴァンの肩を軽く叩く。
「おうよ」
そして、改めて王子へと向き直る。
彼の目には、"興味"と"試すような色"が滲んでいた。
「つまり、王子よ――俺たちは、お前の味方ってわけだ」
王子は、その言葉を聞き、僅かに表情を緩めた。
「なら、改めて頼もう。私の傭兵になってくれ」
ゲオルグは、王子の言葉を聞きながら、口元を釣り上げる。
「任せとけ」
その瞬間、王子の側には、新たな戦力が加わった。
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