その1
一滴
夜の水は暗く冷たく気持ちが良かった。深く潜っていくとやがて仄明るい場所に着いた。そこには、湖の主である巨大な二枚貝が水底に安置されていて、それは微かに発光しその周りを薄らと照らしている。そこに向かって泳いで行った。
辿り着くと貝殻の滑らかな表面を撫でながら
「ただいま」
と心の中でつぶやいた。
すると貝は大きく開きワタシを迎え入れた。ワタシは柔らかく弾力のあるその身の上に腰を下ろしてくつろいだ。
「お母さん」
薄桃色の身に頬ずりすると奥から横たわった姿勢の等身大の人型をした真珠が現れた。
「お母さん」
大きな真珠を抱きしめた。
それは硬く冷たく乳白色の中に様々な色味を浮かび上がらせている。ずっとここで抱きしめていたかった。が、真珠は静かにゆっくり腕の中から抜けて貝の身の中に潜っていった。
その姿が見えなくなると今度は自分の傍から小さな小さな真珠がぽつぽつと湧き上がった。二ミリにも満たないそれは洗面器一杯分程になった。
ワタシは薄手のデニムシャツを脱ぐとビーズの様な真珠をその中にかき集め、こぼれ落ちない様に丁寧にしっかり包んだ。
湖の主、ありがとうございます。その時が訪れるまでこのベビーパールをワタシのそばに置かせていただきます。
「また来るね」
丸めたシャツを大事に抱えるとそこを離れた。大きな貝は殻をしっかり閉じると光を放つのをやめ辺りは闇に包まれた。