ep.8 中の人
少しずつ、少しずつ花のんと俺はVtuber界の知識を蓄えた。ただ蓄えただけでなく、花のんに置き換えて考え彼女に向いてそうなアピールの仕方を模索した。
「ボクはお歌とお話し!いわゆる雑談配信の2つを基本として活動しようかな〜!」
「ゲーム実況とか朗読配信には興味ないのか?」
「う〜ん、、、ゲームしながらコメント読むのが大変そう!朗読はボクこの声しか出ないから無理!」
不得意なことを話すときもニカッと笑う花のん。この笑顔に俺は弱い。
「まあ、本人の心のままに活動するのが1番だもんな」
「そういうことだ〜」なんて呑気な返事が返ってくる。花のんといると楽しくて落ち着く。
「そういえば、配信活動は休止しててもSNSは手軽に運用できるし何かしらツイートしてみたらどうだ?」
「あ〜〜〜、、、ねっ!あ〜、SNSぅぅ〜?うーん、、、」
急に萎え切らない態度で首を傾げたり口を尖らせたり落ち着かなく動き出す花のん。
「なんだよ、前に配信告知出してだろ。その要領でおはよう。とかおやすみ。とか挨拶だけでも習慣づけてみれば多くの人の目に留まるかもしれないだろ」
「実はボク、SNSはしばらくやるつもりないんだ。だからアカウントも消しちゃった!」
「はぁー?SNSはお前を見つけるきっかけになったんだぞ!!俺以外にもそういう人がいるかもしれないんだから、消すなよな、、、」
俺にとっては大切だった出会いのきっかけが花のんにとっては愛着も何もないものだったんだ。そう思うとなんだか悲しくなってしまう。
「ごめんごめん!あの時はボクを見つけてくれてありがとうね。嬉しかったよ!」
勝手に落ち込み拗ねる俺に優しく明るく話しかけてくる花のん。
「じゃあまた始めれば良いじゃん。」
「う〜ん!あんまり積極的には使いたくないんだぁ!」
「は?なんでだよ。」
本人がSNSは使わない。そう宣言しているんだから他人の俺なんかが口出しする権利もなければ、余計なことは言わなきゃ良かった。本人の心のままになんて、理解ある振りをしていたけど結局俺は花のんの意思を尊重するような態度は取れなかった。この時のことをすごく後悔している。
「ボクの中の人はSNS苦手なの」
中の人?その言葉を花のんから聞いて時が止まった。何も考えられず、言葉も出ず、嫌な汗だけが垂れる。
花のんがいる日々があまりにも楽しくて忘れていた。
そうだ彼女は、花のんはVtuber。花のんの中には俺以外に大切な人間がいるんだ、花のんは花のんは花のんは
(俺と同じ人間じゃないんだ)
それを理解した瞬間認めたくなくて俺は叫んだ
「VtuberはVtuberだっ!!!!!!中の人なんていない!!!!!!」
花のんは初めて悲しそうな顔をした