ep.6 生命は奇跡
「おはようおはようおはよーう!!!!」
「「挨拶はこんかの」なんじゃないのかよ。」
「朝が来ることは嬉しいこと!!電源が入るのと同じだからね〜!!!だってどちらも明るい!だから嬉しい!その嬉しさに敬意を表してボクは朝はおはようだよ!」
歯を磨いてたら急に現れて元気いっぱいに話しかけてくるこいつはVtuberの綿雲花のん。
急に姿が見えても驚きはしない。なぜなら「発声練習よし!」って玄関の方で大声で独り言を言っていたから。律儀にもこいつは開ける必要のない玄関からやってきた。
「今日もつよつよVtuberになる為に協力してもらうよぉー!!!」
「それなんだが..」
俺は今日4時間だけバイトを入れている。帰ってきたら花のんに付き合ってやるつもりだったがこいつは朝一で来やがった。
「バイトか〜!!!めちゃくちゃ偉いねぇ、頑張って!ボク応援しているからね!!!!」
「社員じゃないのに頑張ってると思うか?」
劣等感から嫌味が出てしまったみっともない俺。自分だって他のバイトの人をみて社員じゃないんだ。なんていちいち思わない。働き方なんて人それぞれだ、社員もバイトも全員頑張ってて偉いんだ。それなのにいざ自分に焦点が当たると卑屈になってしまう。
なんて嫌なやつなんだ俺は、情けない
「今日を生きて、明日を願い眠る。そしてまた起きて生きていく。」
珍しく真顔でそう語りかけてくる花のん。
「生きているのは奇跡なんだよ。当たり前じゃないの。その奇跡を掴んで、その上働く君を褒めない理由なんてどこにあるの?」
生命を語る花のんは親が子に向けるような慈愛に満ちた目をしていた。俺は、自分が恥ずかしい思いよりも花のんを安心させたくてまたいつもの笑顔になってほしくて
「ありがとう」
一言つぶやき家を出た。
毎日繰り返している奇跡に意味が生まれたのはこの時からだった。