ep.4 数字の伸ばし方
バーチャルとはいえ人が来たのにまだ水すら出してない俺。
「あ〜とりあえず何か飲み物飲んで落ち着こうぜ、お茶とコーヒーどっちがいい?」
「そんな!お気遣いなく!でもありがとう…お茶で!!」
飲みたいものを答えるだけでこの元気、この明るさ、この笑顔。悔しいがかわいい!!!ただ絶対表情になんか出してやるものか!俺もなんだか変に意地になって
「じゃあちょっと待ってろ」
なんてぶっきらぼうに答えてしまう。本当はわかってんだ。俺。こんなんだから彼女ができないってこと…心の中で大号泣しながらお湯を沸かす。
こんなクールキャラみたいなの2次元の美形がしていたら様になるけど、俺がしたところでただ目つきが悪く無愛想に見えるだけだ。
そんなことはわかっているが、推しを前に緊張して変な態度をとってしまう。きもいな
「はい、どうぞ。熱いから気をつけて」
笑顔は作れないが、なるべく無愛想にならないようにできるだけ優しい声色でお茶を差し出す。
「ありがとうございます!いただきます!」
パァァァっとニコニコ笑顔の花のんがコップに手をかけようとすると
スカッ….スカッスカッ
「うぇっ!?」
間抜けな声を出しながらコップを掴もうとする花のんの手はコップをすり抜ける。
物体に触ろうとする行為をとって初めて気がつく。この子は物に触れようとするとホログラムのバグみたいにブレるんだ
「なんでー!?絶対飲めると思ったのにな!だって強く願ったら叶わないことなんてないはずなのになぁ」
そんなことを言いながらも何度挑戦しても掴めなかった花のんはせっかく用意してくれたのにごめんなさいと謝った。
「お茶は俺が飲むから無駄にはならない。気にするな」
気取らなくてもスッと相手を思いやる言葉が出てきた!偉いぞ俺!5分前より進歩している!!己の成長を噛み締めている。成長といえば…
「そういえば登録者数一万人を目指すって言ってだけど、具体的にどうやってリスナーを掴むのかは考えてるのか?」
「うん!!!いっぱいいっぱい心の中で強く念じるの!」
こいつはノープランだった。元気いっぱいにノープランだった。そうだよな、最初っから考えがあって実行出来てたら見知らぬ他人の俺なんかを頼らないよな。
見切り発車のくせにこいつは一万人を達成しないと帰らないなんて訳のわからないことを言っている。
何度も繰り返すようだが正直花のんのことは推してあげたい。だけど俺じゃその方法は検討もつかない。
そもそもなんで同接が0のこの子はいきなり一万人を目指しているのか?何か理由があるのかもしれない
「一万人にこだわらなくても、君を本気で応援してくれる人を少しずつ増やせばいいんじゃないか?俺を頼らずとも配信を続けていれば時期に人は増えるだろう。」
何か言いたそうに視線を上下させながらこの子目をパチパチさせている。
「う〜ん、あのね詳しくはうまく説明出来ないんだけど、大好きが増えるのは嬉しいけどそれはボクの為じゃないんだ」
不思議な文章で喋り出した。先ほどから話していると花のんは幼いというよりも人間になりたてほやほやという表現の方があっているような喋り方だった。
(こうしてる間にもなんて説明すればいいのかいっぱい考えているんだろうな)
この小動物のような赤子のようなこいつを門前払いするのもなんが心の良心が痛む。
「とりあえず、伸びてるVを見習ってそこから学んでいくのはどうだ?まぁ、それぐらいなら付き合ってやるよ」
かっこつけた口調の割にはもごもご喋る俺。それでも花のんはありがとう!!!と嬉しそうに笑った。
「そうと決まればまずはSNSでの調査から始めるか!」
「えいえいお〜」