ep.3 彼女の目的
身だしなみをある程度整えた俺は落ち着きを取り戻していた。まだ頭は混乱していて状況も飲み込めていないが、声が出なかったり冷や汗が出るような緊張感は消えていた。
花のんがいる部屋に視線だけ送ると彼女は控えめにキョロキョロしていた。ありきたりな表現かもしれないが小動物みたいでかわいい。ジロジロと眺めているのも失礼だし、聞きたいことは山ほどあったから俺は戻ることにした。
「お前の目的はなんだ?なぜ俺の部屋にいる?」
緊張し過ぎて顔の表情は固い。それにもっと優しく話しかければ良かった…!でも、推しだとはいえ安全な存在かはわからない。そもそもバーチャルの存在がなぜ現実にいる???これは何かのドッキリかもしれない。気を許してしまっては俺の身が危ないかもしれない。
色々考えた結果、俺は花のんと一定の距離を置いてコミュケーションを測ることにした。
「驚かせてごめんね、急に知らない人が自分の家にいたら誰だって嫌だよね。でもボクはバーチャルだから君の家の呼び鈴を押すことは出来ないんだ。だから家で起きるのを待っていたの。」
花のんの声のトーンは明るい。でもこちらの気持ちを汲み取り言葉を選んで茶化すことなく話している。
この子は多分、多分悪い子じゃない。でもまだ疑問は残るばかり。俺は優しくは振る舞えなかった
「目的も言わなきゃだよね!目的って言うかあのね〜」
わざとらしくう〜んと顔もを悩ませている彼女は可愛かった。
「ボク!登録者数一万人越えのつよつよVtuberになりたいの!!!お兄さん協力して!!!!!!!」
本当に意味がわからなかった。別に誰がどのくらいの目標を志そうとどうだって良い。
周りが無謀だとか水を刺す必要はないのだ。
ただ、ただなんで俺?別に配信者でもなければ実況者やイラストレーター等の活動者でもない。ただの無趣味な俺になぜ…?
きっとなぜ?の気持ちが顔に出ていたのだろう。花のんは続ける。
「ボクの配信を観てくれた人は何人かいたけど、最後まで観てコメントをくれたのはたった1人!!!!」
「もしかしてその1人が俺?」
「混乱してる割に賢いね!偉い!!!」
軽率に偉い!が出てくる辺りVtuberらしいなとなんだか笑ってしまう。意味はわからないが、悪意を持ってここにいる訳ではないと言うことがなんとなく伝わってきた。
この無垢な笑顔。とてもとても可愛くて話してて心地よい。だが、なんの知識もない俺に同接0のこの子を高みまで連れていって上げることはまず出来ない。
「あ〜、君を応援してあげたい気持ちは山々だし推してあげたいが俺はVに関して何も知らない。力にはなってやれそうにない。ごめんな」
大きな瞳をパチクリさせた花のんは「お兄さんは何も悪くないから謝らないで」とフォローをしてくれた。
この子は心まで綺麗なんだな。協力してやれない己の無力を嘆くよ…ごめん
「ボク、1万人超えるまでお兄さんから離れないから安心してね」
花のんは優しく元気に宣言して微笑む。
可憐な彼女の笑顔は様になる、それはまるで青春もののドラマにでも出てくるような笑顔で一瞬時が止まりそうなほど魅力された。…が
「いや、帰れよ!!!!!」
笑顔では帳消しにできない爆弾発動が来て俺は大声でツッコミを入れる。
そんな様子を見てカラカラ笑う彼女を憎むことは出来なかった。