第9話。『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』4。
「なまら、他のクラスにばっか、ええカッコばっか、させてられないでやんす!!」
「ぐもももももも!! フンガー!!」
何か、誰かと誰かの叫び声が、僕と幽霊女の子の南さんと、火の鳥妖魔の紅さんのいる上空まで聞こえて来た。
誰? と、思いきや。
赤いジャージ服を着ている毬栗頭の丸坊主の男の子と、柔道着を着たやたら身体の大きな幽霊な男の子の二人組がドスドスと。先にトップで洞窟に入った川岸教頭先生に次いで、2位をひた走るC組先頭の白銀先生に──海岸の砂浜の砂煙を巻き上げながら──追いつこうとしていた。
「──A組の子……たち」
僕の頭の中に、そう言った幽霊女の子の南さんの声が響いたかと思うと──スーッと、南さんが僕の身体の中から出て来た。
ぶわっ……として──一瞬、何か僕自身が脱皮したかのような感覚に襲われた。(いや、僕は、虫でもないし、爬虫類でもないんだけど)
「え? 南さん? 僕の身体から抜け出……──」
「ここからは、私も手伝う……」
え? そうなの? いや。南さん。充分、僕の心の励みにはなったよ?
でも、ほんというと、もうちょっと、僕のなかにいて、励ましてくれたりしても良かったんだけれど……。
ん……? でも、なんか、この照れ臭い感じ……。なんなんだろ。
「なに? 私の背中で、イチャついてんの!? あんたたち、もしかして、付き合ってんの? 私も彼氏欲しー!! って、そんなのどうでも良い!! ウカウカしてらんないわっ!! さっさと、ゴールしなきゃっ!! 私の美しい、この美貌火の鳥スタイルに惚れちゃう男子も、いるかもしれないしっ!!」
なんか……。声を張り上げて言うところが……。
轟さんばりに、自分アピールの強い子だなって、思う……。紅さんって。いや、轟さんより上か。
妖魔だけど、やっぱ、異性とか興味あるんだなー……って、そんなの思っちゃいけないのかもだけど、あんまり異性とか意識したこと無い僕は、そんな風に想った。
そうこう思っていると──
「良いで、やんすか? オイラたち、親友でやんすね!?」
「フンガー!!」
「なら、オイラが、へばったら、霊力を貸すでやんすよ!?」
「フンガー!!」
「なら、背中に乗るでやんす!! 同じ班の子とA組の子たちは、ピンチになったら、オイラの胴体を切り離して助けに行くでやんす!! ぐむむむっ!! 妖魔態化!! 『阿修羅百足』ーっ!!」
「フンガー!!」
「フンガー!!」しか言ってない(なぜか、「フンガー!!」の声だけが空までよく聞こえる)幽霊男の子が、毬栗頭の丸坊主の男の子の背中にひょいと乗ると──、見る見るうちに毬栗頭の丸坊主の男の子は、何本足があるのか分からないほどの、巨大な百足へと、姿を変えていった。
洞窟の中へ突入したら、百足って、めちゃめちゃ速そうだと想う。
「へぇ……。アイツら、ヤルぜっ!!」
「って、感心してる場合っ!? 私たちも、引っ張るわよ!?」
「へっ!! 言われるまでもねーぜっ!!」
「「 せーのっ!! 」」
(ガクン──!!)
火の鳥妖魔の紅さんの空飛ぶ高度が、僕に絡みついた轟さんの赤いアヤトリ紐を、虎みたいな妖魔の大山君が引っ張ったことで急速に下がった。
僕は、必死に火の鳥妖魔の紅さんの背中に、しがみついた。
「離せ!! 離してよ!! この、変態っ!!」
「嫌だ!! 離すもんかっ!! 命に変えてもっ!!」
「な、なに!? ほ、惚れてんの!? 私に!?」
「ち、違っ!!」
思い込みの激しい子だなって、想う……。火の鳥妖魔の紅さん、て。
「こちょこちょこちょ……。こちょこちょこちょ……」
──と。僕が、火の鳥妖魔の紅さんの背中に、必死で抱きついていると──僕から抜け出た幽霊女の子の南さんが、火の鳥妖魔の紅さんの身体を、こそばし始めた。
「アッハ!! アハ!! な、なに!? や、やめてよ!? ギャハハハハハハ!! く、くすぐったいっ!! なにって、アハ!! ゆ、幽霊なのに、アハ!! あ、あんた、なんで、私にアハ!! さ、さわれ……ヒィー!! アハハハハハハ!!」
「ヴィシュヌヴァ先生の風の力。幽霊の私でも、今は、あなたに触れられる……」
よく視ると──幽霊女の子の南さんの手のひらに、ヴィシュヌヴァ先生の風の力なのか、透明な風の膜みたいなのが、クルクルと纏わり付いてて──どうやら、今限定で、幽霊女の子の南さんでも妖魔女子な紅さんの身体に触れられるようだ。
「よし!! あいつら、何か、やりやがったぜ!!」
「みたいね! 火の鳥妖魔のあの子が、グングン地上に降りてくる!!」
轟さんと虎みたいな大山君が、なんか、口をパクパクさせて言っている。嬉しそうだ。
上空を飛ぶ僕が、ふと、隣を見ると──
火の鳥妖魔の紅さんと、その背中にしがみつく僕と、尚も、こそばし続ける手を止めない南さんに向かって──
風に乗って空飛ぶヴィシュヌヴァ先生が、先生の足もとまである長い白衣をバタバタと風に靡かせながら──
顔のサイズに合わない大きな丸い黒眼鏡の奥から、キラキラと瞳を覗かせて──
またもや、僕らに向かってバチッ!とウインクした。
先生は、手にはめた指先の空いた黒い手袋から左手の親指を出して、サムズアップしている。
ヴイシュヌヴァ先生の頭の上のアホ毛が、プロペラのように風に揺れていた。
「グッドラックだね!! 少年と少女たちよ!!」
ヴィシュヌヴァ先生が、そう叫んだ後──もうすぐ地上まで、あと僅か……といったところまで、轟さんと虎みたいな大山君が、火の鳥妖魔の紅さんと、僕と幽霊女の子の南さんを赤いアヤトリ紐で、凧糸を手繰り寄せるみたいにして引っ張った後。
百足妖魔の男の子と、妖魔態化して変身したその百足の背中に、「フンガー!!」と叫んで乗った柔道着幽霊少年の男の子が、早くも山頂の僕らの宿泊施設へと続く洞窟の入り口に入っていった。
「ウンウン。やっぱり、洞窟一番乗りは、私のA組よねっ!!」
「させるかっ!! ──B組が、植物霊使い!! 花園くんっ!!」
「ふわぁ~……。眠っ……。了解ー。伸び縮み自由……。巨大アサガオの蔓~……」
(ズルン……。グムムムムムムムム……──)
なんだか、眠たそうに欠伸をするB組の花園くんて子が、やる気なさそうに叫んだ後──僕らのA組の「フンガー!!」幽霊少年な子と百足妖魔な子を追いかけるようにして──巨大な何かの植物の蔓が、一瞬で大きくなって伸びたように空から視えた。
「ふわわわ……。眠っ……。B組のヤツらぁ、全員つかまっとけ……」
B組の花園くんが、なんだか眠そうに──口をパクパクさせて言った。
(ズドドドドドドド──!!)
一気に、B組の子たちが、花園くんの巨大アサガオの蔓につかまって、洞窟へと雪崩混んでゆく。
「ヤタッ!! 生徒の能力と個性の把握は、担任の勤めよね? 夢葉? ウフフ……」
「ハッ!! あんたなんかに、言われるまでもないわ!! これからよっ!! 黒音!!」
B組の生徒全員が、瞬時に洞窟へと入った最後尾に、黒井戸先生が、巨大アサガオの蔓に片手でつかまり、笑顔で僕らに手を振る。
「バイビー!! チュッ……!!」
投げキッス……。初めて見た。
「うへっ!! 黒音っ!! アンタのなんか、見たくないわよっ!!」
悔しそうにも、黒井戸先生の後を追いかける、僕らのA組担任の叶先生。
僕も、B組の子たちに先を越されて焦るけど──だいぶ、地上へと、僕と幽霊女の子の南さんと、火の鳥妖魔の紅さんは、降りて来ている。
「ここから……──」
「え?」
火の鳥妖魔な紅さんを、尚も手を休めずに──こそばし続ける幽霊女の子な南さんが何かを呟いて──よく聞き取れなかった僕は、幽霊女の子な南さんへと聞き返した。
「あひっ! わひっ!! も、もお、ダメ……。アハハハハ!! ま、まいったわよー!! 降参っ!! もうやめてー!! アハハハハ!!」
最後、僕は暴れまくる火の鳥妖魔な紅さんに、必死でしがみついてるのが、精一杯だったけど──
僕に巻きつけられた赤いアヤトリ紐を手繰り寄せた轟さんと、虎みたいな大山君が、僕と火の鳥妖魔な紅さんをキャッチ!!
幽霊女の子な南さんが、火の鳥妖魔な紅さんの背中から、フワッと降りて──ようやく、僕らは地上へと生還した。
「フン!! 私たちB組は、先に行ったわよ? って、キャー!!」
火の鳥妖魔な紅さんの変身が解けて──
すっぽんぽんの丸裸の紅さんが、両腕と両足をくねらせて、ワチャワチャと、その場で立ち尽くしている。
「おほっ!?」
「ほげっ!?」
目を丸くして、鼻の下を伸ばした虎みたいな大山君と、驚き過ぎて呆気に取られてる僕。
「キャー!!」
叫び声を上げて、すっぽんぽんの丸裸なまま、その場にしゃがみ込み、うずくまる紅さん。
「ちょっ!! バカ男子!! 見ちゃダメー!!」
「見ちゃ、ダメ……」
慌てて、叫んだ轟さんとボソッと呟いた幽霊女の子の南さんが、僕と大山君の目の前に立ち塞がり、バリケードを作った。
「ふ、ふごっ!! わ、悪い……。俺は、こう言うの、み、見ねぇ主義だぜ……」
「もう、見たじゃない!!」
「み、見てねー……」
顔を真っ赤にして、しゃがみ込みながら怒鳴る紅さんと、同じく顔を赤くして、知らん顔して口笛を吹くそぶりの大山君。
(はわわわわわわ……──)
僕は、ドキドキが止まらずに、慌てふためくだけだった。
「やっぱり、男の子……だね?」
幽霊女の子な南さんが、長くて黒い前髪をかき分けて、チラリと僕を見てから、長い睫毛をパチクリとさせた。
幽霊女の子の南さんは、地面からやっぱり少し浮いてて──南さんの着ているどこかの学校のセーラー服が、風に揺れて見えた。
「ちょっ、服!! 誰か、服!! 持って来てー!!」
慌てて叫ぶ轟さん──けど、僕は、百足妖魔なあの男の子もきっと──なんて、想像してしまう。
誰か、って言うか、同じ班の子たちがあの子の服とか荷物を持ってくれてたら良いんだけど……。
と──
(ヒラヒラヒラヒラ……)
紅さんの黒ジャージにバスタオル、下着(見てはいけない)一式が、風にのって飛んできて──きちんと、畳まれたまま、ストン……と、紅さんの目の前に置かれた。貼り紙が添えられている。
(『──紅さん。ごめんね。後で私の魔力で引っ張るから、これ着てね。B組担任の黒井戸先生より──』)
貼り紙には、B組担任の黒井戸先生が魔力で描いた水墨画みたいな文字が、書かれてある。
魔法陣を描くみたいにして。
「う……。くっ……!!」
恥ずかしそうな顔を真っ赤にして、着替え一式を手に取る紅さん。
「バカ男子!! 向こう向けっ!!」
「向こう……向いてて……」
轟さんに怒鳴られ、南さんに静かに注意された僕と大山君。
僕は、呆気に取られてたけど、知らん顔してた大山君も、やっぱり何だかんだ言って、見てたみたいだ。
「んもう……。黒音ったら、自分のクラスの子ほったらかしにして……。何してんのよ……。大丈夫? 紅さん?」
慌てて駆け寄って来た僕らA組担任の叶先生が、黒髪のツインテールを揺らして、しゃがみ込んで──B組の紅さんを優しくナデナデして慰めている。
その後から、背中に大きな剣を背負った青ジャージ服姿のC組の白銀先生もやって来て──涼しい顔をしたまま、腰まで届く金色の長い髪の毛を掻き上げて、紅さんの目線までしゃがみ込んで──ポンポンと紅さんの頭に優しく触れた。
「平気か……?」
「だ、大丈夫……です。平気です……」
僕らの担任の叶先生が、B組の黒井戸先生が魔力で送って来た大きなバスタオルを、ふわりと紅さんに掛けてあげて、C組担任の白銀先生が、「ザン!!」と背中に背負った大きな剣を地面に突き刺して、僕らの目の前で仁王立ちになった。
半端ない白銀先生のオーラ……。
紅さんは顔を真っ赤にして俯いて、着替えを始めた。
紅さんは赤毛で、ショートヘアな髪型は、黒井戸先生みたいだった。
(──……ブブブブブ……──)
(──え?)
その時、真っ黒い球体みたいなのが、電気みたいな光を帯びて──着替え始めた紅さんを包み込み──アッと言う間に洞窟の中へと引きずり込み、消えていった。
「黒音の時間差魔力……。んもう!! 魔力発動が、ちょっと遅い!! ハイ! 大山君も赤羽君も!! A組の子たちのフォローに行って!!」
パンパン!!──と、手を叩いた叶先生の声で、僕も大山君もハッとなった。
「……あ、赤羽っ!! い、行くぜっ!!」
「う……、うん!」
僕と大山君は、一目散に、その場から駆け出した。
「A組とB組の見事な攻防──しかと見届けた……」
そう、白銀先生の声が聞こえた瞬間。
一瞬の閃光が、僕と大山君の目の前で光ったかと想うと──
──アッと言う間に、白銀先生の姿が洞窟の中へと消えていた。
ちょうど、その頃、僕らA組とC組の子たちも、全員ようやく洞窟の中へと入った頃だった。
「さあ!! 最後尾になっちゃったけど、ここからよ!!」
「「「「 ──ハイっ!! 」」」」
僕と大山君と、轟さん──幽霊女の子の南さんも、四人そろって僕らの担任の叶先生に、元気よく返事をした。




