第7話。『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』2。
(パン──!!)
お爺ちゃん校長先生のスタートの合図のピストルの音が、青空に鳴り響いた。
「スタートじゃあっ!!」
「「「 うおおぉぉぉっ──!! 」」」
(ドドドドドドドドドド──!!)
各クラス、各班の──妖魔な子、浄霊師の子、幽霊な子たちが、一斉にスタートラインを飛び出した。
どよめきの中、砂煙を上げて──まずは、スタートラインから100mほど離れた鬱蒼と生い茂る山頂へと続く洞窟の入り口を目指して、みんなが、一斉に走り出した。
「うおおぉぉぉっ!! みんな!! 俺に、ついて来ぉーいっ!!」
疲れていたはずの川岸教頭先生が、まるで別人みたいに生き生きとして、生徒の誰よりも速く──革靴にスーツ姿のまま、先頭を切って走り出した。『心霊機械工学』で使う重そうな機械を背負っているのに、速い。
オジサンだけど、流石は教頭先生だ。
「流石は、楓くん。一流の浄霊師にして教頭先生ね。壮絶を極めた『妖魔大戦』を生き延びただけのことは、あるわねー?」
「楓……。いきなり、あんな飛ばして大丈夫かなー? たぶん、生徒の子たちの先導役を買って出て、張り切っているんだとは、思うけど……」
B組の担任の黒井戸先生が黒い球体に包まれて、突然、僕らの目の前に現れたかと思うと──僕らA組の担任の叶先生が赤いジャージ服を着たまま、黒井戸先生を追いかけるようにして物凄いパンチとキックの連打を、黒井戸先生の身体を包む黒い球体ごと浴びせている。
(ズガガガガガガ──!!)
僕らの目の前だけ突然、夜になって、物凄い稲光と雷の轟音が鳴り響いてるみたいだった。昼間なのに。
(ドガガガガガガガガ──!! ズゴォォォン──!!)
「あら? 私の邪魔ばかりしてて良いの? 夢葉? A組のサポート役に徹しないと、クラスの子たちがヤバいんじゃない?」
「アンタこそ、自分とこのB組優先で、私のA組や真莉愛先生のC組を妨害するつもりでしょっ!!」
「ウフフ……。言いがかりよ? 夢葉? 私が何したって言うのかしら?」
「フン!! 今の内、アンタを牽制しとかないと、アンタは何しでかすか、分からないからねっ!! 黒音!!」
横を振り向くと、僕の隣で走ってる? いや、正確に言うと──ちょっと地面から浮いて飛行している幽霊女の子な南さんが、バッサバサの長くて黒い前髪を風になびかせながら、大きな目を輝かせて、長い睫毛をパチクリと瞬きさせて──涼しげな顔をして「ふふ……」と、笑っているように見えた。
相変わらず、僕らA組担任の叶先生と、B組担任の黒井戸先生は、バッチバチだけど、C組の白銀先生は我関せずと言った感じで、叶先生と黒井戸先生のバトルには参加しようとはしなかった。
「フフ……。相変わらず、元気が良いな。叶先生と黒井戸先生は。私も混ぜてもらいたいものだ。が、今は生徒優先。血がうずく……。フフ……」
C組担任の白銀先生も笑っているみたいだった。余裕の表情と言った感じで、叶先生や黒井戸先生と比べると、かえって不気味だった。
け、けどっ!!
僕は、それどころじゃあないっ!!
押し合いへし合いになりながら、各クラス各班の生徒のみんなが、一斉に山頂へと続く100m先の洞窟の入り口を目指して走り出したもんだから──
僕は、砂煙の中──転ばないように、踏まれないように、倒れないように、それだけで必死っ!!
「ぐっ!!」
走りながら、転ばないように僕が耐えてると──上空を赤い火の鳥みたいなのが、一瞬、太陽の光にキラめいて──青空高く山頂へと吸い込まれるように飛んで行った。
「ちっ!! アイツは、朱雀のところのB組の『紅』だ!! 姉貴の朱音が一流のプロ浄霊師で妹のアイツ(紅)も妖魔で火の鳥だ!!」
ギュウギュウと、押し合いへし合いの中、大きな山みたいな虎のような大山君が、ドスドスと、重たそうに走りながら悔しそうに、そう言った。
「ちょっ!! み、見てよ、あの子の背中!! 何体もの幽霊な子たちが、ぶら下がったり、のっかったりしてるわよっ!?」
「けっ!! 妖魔だからな……。俺たち妖魔は、普通の人間と違って、霊に取り憑かれても平気だしな。むしろ、力として妖力に変換できる。やるかとは思ったが、紅の奴──案の定かよ……」
小鳥みたいな轟さんが驚いて、虎みたいな大山君が打つ手無しと言った感じで、大きな口から牙をむき出しにして言った。
B組担任の黒井戸先生が、スタート直前に幽霊な子たちに囁いてたのって、このことだったのかな……。
「あき……らめるの?」
幽霊女の子な南さんが、僕の隣で、ギュウギュウの押し合いへし合いの砂埃の中──地面から身体を浮かせて飛行しながら、そう……僕たちに、つぶやいた。
「え?」
「へっ!! 言うじゃねぇかよ? 南……!!」
またもや、小鳥みたいな轟さんが驚いて、そのあとで大山君が、何か思いついたらしく……ニヤリと笑った。
「赤羽!! 俺が、『爆裂大腕爆波』でお前を火の鳥の紅のとこまでブン投げるから、轟!! お前は、アヤトリの赤い紐で赤羽巻きつけとけっ!! 赤羽が火の鳥の紅をとらえたら、俺と轟で赤羽を妖魔の紅ごと引き寄せる!! 南は、俺か轟に取り憑いて力を貸せっ!!」
「了解っ!! アンタにしては、ナイスアイディアね!!」
「チッ!! ひと言、多いぜっ!!」
ひえ……。
なんて事だ。
僕が、遥か上空を飛ぶB組の火の鳥の紅さんのところまで、虎みたいな大山君にブン投げられて、カッ飛ばされて──
──僕が、B組の火の鳥の紅さんに、しがみつく……? って言うか、抱きつくっ!?
んなっ!? で、出来るのか!?
いや、ヤルしかない……。けど、B組の紅さんは、火の鳥だよ!? も、燃えているんですけど……。
「お、大山君? く、紅さんは、火の鳥で、燃えているんだよ? だ、大丈夫……なのかな?」
「赤羽!! んなコト、四の五の言ってる場合じゃねぇっ!! 保健のヴィシュヌヴァ先生が、いるだろーが!! 俺の見たてじゃ、ヴィシュヌヴァ先生はマジ凄ぇ!! やるだけやってみろっ!! 赤羽!!」
「わ、分かったよ……」
「心配いらないよ? 赤羽君? マジヤバかったら、私が赤いアヤトリ紐で赤羽君を引き戻すから。ね?」
「そう……。心配いらない。赤羽君……」
ギュウギュウと押し合いへし合いの中……。
各クラス全員の子たちが、砂埃を上げて走っているけど──僕は、轟さんの言葉と幽霊女の子な南さんの言葉が、嬉しかった。
特に、何気に、あんまりしゃべらない幽霊女の子な南さんが、僕のことを「赤羽君」と言ったのには、驚いたのもあったけど、ちょっと嬉しかった。
と、その時──
──C組の方で何か声がして、「キラン」と何かが光って、遥か上空を飛ぶB組の火の鳥の紅さんをめがけて飛んでいった。
「甲賀流闇手裏剣……、『満月風車』。飛ぶとは卑怯にござるな? ならば、拙者も飛び道具を使わせてもらうでござる……」
「おおっ!! 流石は、御剣君!! ナイスだよっ!! シビれる忍術っ!! ねぇ、姫花?」
「だよねー? 刀剣も良いけど、霊力で作った手裏剣って素敵よねー。星夜よりも御剣君のが、カッコイイかも?」
「え?」
な、なんか、C組の子たちの声が聞こえたみたいだけど──B組の火の鳥の紅さんをめがけて乱射されて飛んでいった光る物体は、ことごとく、ヒラヒラと火の鳥の紅さんに躱されて──C組の方へと戻っていった。
「くっ!! 敵方もやるでござるな? 拙者の闇手裏剣、『満月風車』が全て躱されるとは!? め、面目ない……。星夜殿に、姫花殿……」
「だ、大丈夫だよ? 御剣君? 数撃ちゃ当たる!! 落ち込まなくても、レッツトライだ!」
「んー。やっぱ、御剣君の忍術でも無理かー。ウチのクラスの男子は、なんか頼り無いなー……」
「「 え──!? 」」
なんか、C組の方が、わちゃついてるけど、B組の火の鳥の紅さんが、同じクラスの幽霊な子たちをたくさん乗せてグングンと──山頂の僕らの宿泊施設まで昇ってゆく……。
「チッ!! ヤベぇぜっ!! こうなりゃ、赤羽!! やるしかねー!! 作戦決行だ!! 行くぜっ!!」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
僕は、虎みたいな大山君に、まともに「ハイ」と返事出来ずに……ただただ、心臓の音をバクバクさせるだけだった。
「じゃ、アヤトリ紐を赤羽君、巻きつけるわよっ!! 頼むから、B組の火の鳥のあの子を阻止してねっ!!」
「ふぁ……、ふぁふぁったよ!!」
僕は、「分かったよ」って、言いたかったけど、言葉にならなかった。
「じゃあ、南さんは、私か大山君に取り憑いて力を貸して!!」
「うん……。けど、私は赤羽君に取り憑く……。たぶん、その方が良い……」
「「「 え? 」」」
なんか、僕も轟さんも、虎みたいな大山君まで、キョトンとしてしまった。
僕は、轟さんの赤いアヤトリ紐でグルグル巻きにされて、いよいよ虎みたいな大山君の妖魔の技『爆裂大腕爆波』で、遥か上空を飛ぶ火の鳥の紅さんのところまで、カッ飛ばされることになった──
「じゃあ、行っくよー!! 古式……アヤトリ組紐──『赤色の契り』……」
轟さんが目を閉じて、そう言って静かにお祈りすると──手を合わせた轟さんの両手からスルスル……と赤いアヤトリ紐が僕へと伸びて──
──クルクルと不思議な感じで、轟さんの赤いアヤトリ紐が僕の身体に巻きついて行く……。
「ハハッ!! 間に合えよー!! 行くぜっ!! 猛虎!! 俺式、白虎オリジナル!!『爆裂大腕爆波』!!」
──ああ、神様……。どうか、僕をお守りください……。南無阿弥陀仏……。アーメン……。
「フフ……」
(ん? あれ? 保健のヴィシュヌヴァ先生?)
なんか、遠くの方で、保健のヴィシュヌヴァ先生が、風にゆれるみたいにして、僕に「フフ……」って、笑いかけたように見えた。
「さぁ……。大丈夫だから……。赤羽君。行こっか……」
「え?」
幽霊女の子な南さんの囁くような声が聞こえたかと思うと──
僕の身体の中に──南さんが、入って来たっ!!
「う、うわっ!?」
なんだか、目の前に星が回る──けど、なんだろう? だんだん、暖かくなって──不思議なことに僕の身体まで、何だかフワフワと軽くなっているような気がした……。
けど、なんか、変な感じだ。
僕の中に、僕以外の人がいる──幽霊女の子な南さんの呼吸とか心臓の音とかが不思議なくらいよく聴こえた……。南さんは幽霊なのに──
「さあ……。行こっか……。赤羽君……」
もう一度、幽霊女の子な南さんの声が、僕の中で響いて──




