第6話。『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』1。
(ゴゴゴゴゴゴゴ──キーン……──)
「な、なんだ!?」
僕からすると、やむなく始まってしまった『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』。
スタート前から、なんか、とんでもない霊力の高まりを学年のみんなや先生たちからも感じる。
「ほっほっほっほっ」
スタートラインで、スタートを合図する時のピストルを構えて立つお爺ちゃん校長先生からも、すんごい霊力が研ぎ澄まされているのが分かる。笑ってるけれど。
何ていうのかな……。いや、僕だって、多少霊感があって人には視えないものが視える──ここにいる幽霊の子たちとか?──けど、その程度なんだけれど、なんだか空気全体がとんでもなくビリビリ震えてるって言うか……。
僕は、アワアワと、うろたえていた。
キョロキョロと、辺りを見渡すと──
──人間なのに、鳥みたいな格好になってる子や、……蛇? ウロコを全身にまとってる子や、人間の姿のまま何かの動物に変身しているような子たちがいた。
「あわわわわわ……」
(か、勝てっこない──)
僕は、その子たちの変身した姿を見て、ビビってしまった。
「へっ! 慌てるこたぁないぜ? 赤羽。 あいつら、俺と同じ『妖魔』だ。けど、バカだな? いきなりパワー全開にして飛ばしてみても、身がもたねぇぜっ!!」
虎みたいに大きなガッシリとした大山君が、スタート前にビビって緊張している僕の肩をポンポンって、軽く叩いて、そう言った。
意外にも、大山君が僕のことを「赤羽」なんて、名前を呼んでくれたことに少し驚いた。
いや、ちょっとだけ、嬉しかった。
けど、『妖魔』の子たちに混じって、何かの呪文? をブツブツ目を閉じて唱えてたり、お数珠や十字架を握りしめて何かを念じてる子たちや……、墨で全身にタトゥーみたいなのを描いてる子、体に巻いてる包帯をクルクル巻き取って炎みたいなのを体から出してる子──地面に魔法陣みたいなのを描いてる子たちもいた──
(ぐぇっ!? にゅ、入学したてなのにっ!? も、もう、そんなことが出来るのっ!? え!? 浄霊師志望で、何も出来ないのって、僕だけ──!? ど、どうしよう……──)
せっかく、大山君のおかげで気持ちが落ち着き始めてた僕は、な、なんか──みんなとの浄霊師としてのハッキリとした差を感じてしまい──またしても不安と緊張で、縮こまって落ち込んでしまった……。
「赤羽君? 慌てない、慌てない。確かに、あの子たち浄霊師志望の子たちね? サラブレッドってとこかしら? けど、大丈夫っ!! 私が、しっかり赤羽君のことサポートしてあげるからっ!! ねっ!?」
小鳥みたいに、よくしゃべる轟さんが、不安な僕の気持ちを「私がいるから大丈夫──!!」的な感じのことを言って、強引にまとめようとした。
けど、どうしても僕は、劣等感みたいなのを感じてしまう。
轟さんだって、両腕に巻いてる赤いアヤトリみたいな紐を、僕の目の前で、シュルシュルと自由自在に動かしているし……。
ぼ、僕が持っているのは──ず、ズボンの中のポケットのビー玉だけ……。
轟さんの赤いアヤトリみたいな紐や、他の浄霊師志望の子たちが持ってる『魔道具』なんて呼べるほどのシロモノは、持ってはいない。
『妖魔』の子たちには、遺伝とか血筋とかだから、そんなに僕も劣等感は感じてないって言うか……。そこは、仕方がないって想えるんだけど……。
C組の満天君も青風さんも、カバンから自分用の『剣』を取り出して、革ベルトみたいなので腰に固定して準備し始めている。
「私たち浄霊師は、術──力の発動までに時間がかかるのよ。『妖魔』の子たちとは違ってね?」
轟さんが、そう言うと、同じ班の大山君がニヤリと笑って、こう言った。
「瞬発力──爆発力なら、俺たち『妖魔』の方が、浄霊師連中よりも上だなっ!! 咄嗟のタイミングで力を発揮出来るから、術が間に合わねーなんてことはねぇっ!! どんな状況にだって対応できるぜっ!!」
「ふん! 状況次第よ! いくら『妖魔』の子が瞬発力に優れてるからって、対応出来ないケースだってあるわよ?」
轟さんが、「へへーん」と、してやったりの態度で、鼻をフフンと、鳴らした。
「けっ!! だからこそ、どんな状況でも対応できるように、ここで修行するんじゃねぇかよっ!!」
なんか、虎みたいな大山君が、小鳥みたいな轟さんに1本取られたみたいな感じになってて、悔しそうだ。
スタート直前の時間にしては、けっこう同じ班の轟さんや大山君としゃべれたけど──各クラスと各班のスタート前の作戦会議は、ほとんど、なし。
いや、こうやって、しゃべれてるわけだし、何かを伝えることくらいは出来たのかも知れないけれど──
お爺ちゃん校長先生が、生徒のみんなや、先生たちの臨機応変さを見たいからーとか言い出して、ほとんどのみんなが、誰とも何も相談出来ないまま、いきなりスタート開始することになってしまっている様子だった。
(後は……──)
僕は、もう少しだけ目を凝らして、幽霊の子たちを視てみる。
相変わらず、ボーッとしている子や、スタートとかそっちのけで、ハシャギ回っている子たちもいる。
けど、B組担任の黒井戸先生が、同じクラスの幽霊な子たちに、この僅かなスタート前の時間に、何かをこっそり耳打ちして回ってる……。
「取り憑く……」
幽霊女の子な南さんが、僕の隣に、フワーッと寄ってきて──そんなことを、ポソリ……と、つぶやいた。
「え? 取り憑くって……?」
僕は、南さんにたずねた。
「特殊能力……。幽霊の子たちには、あんまり無い。って、思う。特殊な力は、先生たちから教えてもらう……。生き返れるように。今の私たちには、取り憑くこと……。それだけ」
「え? 取り憑く? 特殊能力!? 生き返る!? 何のことっ!?」
僕の隣で一緒に聞いていたおしゃべり好きの轟さんが、僕と幽霊女の子な南さんとの会話に、目を輝かせて食いついて来た。
「私たちの担任の叶先生も、幽霊な子たちが、なんで学校にいるのか後で説明するーって言ってたけど、まだ何も説明が無いんだよねー? もしかして……。その……。何か関係あるのかな? 生き返る……ってことと?」
轟さんが、幽霊女の子な南さんにそう言うと、南さんは、少し黙ってからこう言った。
「後で……言う……」
それっきり、南さんは、バッサバサの長くて黒い前髪を垂らして俯いてしまった。
「まったく………。轟は、デリカシーってもんが、ねぇな? ピーチクパーチク……。鳥みたいにウルせぇんだよ。話しかけられるのも、人によっちゃあ、時にはツラいってもんだぜ?」
大山君が、空気の読めない轟さんを、諭している。
「な、なによ!? あ、あんたのその一言の方が、よっぽど傷つくんですけどっ!?」
負けじと、小鳥みないな轟さんが、虎みたいな大山君に喰ってかかった。
「ま、まあ、やめなよ? 二人とも……。もうすぐスタートだよ? た、確かに轟さんみたいに、南さんの言うことも気になるし、大山君の言うように、今すぐ聞かなくても良いとは想う。今は、とりあえず、無事、山の上の宿泊施設まで登りきれることを考えようよ……」
ぼ、僕は、ちょっとだけ勇気を出して、轟さんと大山君に、そう言った。同じ班のメンバーとして。
「ふん! そうだな。赤羽の言うとおりだ。今、南に聞くことじゃねぇよ。校長のジジイは、クラスが勝てば一番良い部屋に泊まらせてやるとか言ってやがったが、そんなことよりも、俺たちA組が他のどのクラスよりも一番強えぇってことを証明してぇっ!! 絶対にB組にもC組のヤツらにも負けねぇっ!!」
大山君が、何か興奮気味に、虎みたいにガオー!! ってなりながら、そう言った。
「ふん! 高級ホテル『ザ・シーサイドビュウホテル・リッツヒルトン樹海』!! 私たちの教育施設にして、高級過ぎて、3月まではプレオープンで抽選で宿泊客を募ってたけど、ネットでもすんごい人気で、絶賛話題沸騰中とかって、そんなことは、どうでも良いのよっ!! ようは、私たちA組が、他のどのクラスよりも凄いってとこを見せつけてやるんだからっ!!」
そ、そうなんだ……。な、なんか、ちょっとだけ聞いたことあった気がしたけれど、ホテルなんて興味なかったし……。ま、まさか、僕らの宿泊施設が、そ、そんな高級ホテルだったなんて……。
けど、大山君も轟さんも、そんなことは、どうでも良いんだ……。
いや、轟さんは、どうでも良いとか言っときながら、やたらなんか詳しいし。
でも、A組……。僕らのクラスの勝利。それに関しては、大山君も轟さんも、燃えているんだ……。
「高級……。リゾート……。最上階は、絶景……。ラグジュアリーなビップルームが多数……。温泉も、ある……。ルームサービス半端ない……。けど、私も、みんなの足、引っ張りたくない。負けたくない……」
珍しく幽霊女の子な南さんが、興奮気味に、たくさんしゃべった。
でも、なんで、南さんは、宿泊先のホテルのこと知ってるんだろ?
夜中に、誰かのネットでも、こっそり見てたのかな……?
「み、南さん、ホテルのこと詳しいね? それに、南さんも──」
僕が、南さんにたずねると──
「ホテル……好き。居心地の良いところは──他の幽霊な子たちも……みんな好きなんじゃないのかな? けど、勝ちたい。それが、青春……でしょ?」
スタート直前──僕は、南さんのこのセリフを聞いて、ものすごくドキッ!! とした……。
(せ、青春……か。か、考えたことなかったな……)
静かに、しゃべった南さんの長くて黒い髪の毛が、海から吹く潮風にフワッ……と揺れて──空からまぶしく光る太陽に反射した……。
「位置について……用意──!!」
お爺ちゃん校長先生が、いよいよ、スタート前のセリフを言い出した。
ドキドキする……。
「お!? そうじゃ!! 1位になったクラスの生徒には、霊験あらたかにして誉れ高きゴールデンバッジを!! 最優秀の先生と最優秀の各クラスの班には、特別賞として、何かワシから特別にご褒美をやろうぞっ!!」
「「「「 うおぉーっ!!? 」」」」
スタート直前の、いつものワガママお爺ちゃん校長先生のこの突拍子もないセリフのせいで、生徒のみんなや、先生たちまでもが、ワーっ!! となって、どよめいた。
(パンッ──!!)
「スタートじゃあぁっ──!!」




