第5話。休憩と出発。
「えー。ではー、今から小休憩をはさみまして、各クラス……班毎に、順番に登頂します。合宿先の宿泊施設は山の上ですが、頑張れば1時間ほどで着きます。はりきって行きましょうー。あ、途中に洞窟があったり急な山の斜面がありますが、くれぐれも無理はしないように。何かあったら、担任の先生に言いましょうー」
(だいぶ、疲れているのかな? 川岸教頭先生?)
僕らからみると、川岸教頭先生はオジサンだけど、まだ二十代。
(遠い目をしている……)
相変わらず、しんどそうな川岸教頭先生は、なんか先生って言うよりも、どこかの会社の普通のサラリーマンみたいって感じだ。
先生たち以外にも手伝いに来てくれたスタッフさんたちに、あれこれ忙しそうに指示を出しているんだけど──
なんか、川岸教頭先生のテンパってる一杯いっぱいな感じが、見てると申し訳ないくらいに僕にも伝わって来る。
(あんまり、ジロジロ見ちゃ悪いかな……?)
そう思った僕は、そこまで読む気はしないけど、カバンからゴソゴソ『旅のしおり』を取り出して、読んでいるようなフリをした。
そう言えば、川岸教頭先生自体の、自己紹介的なものは、無かったような……。
(忙しくて、忘れたのかな──?)
って言うのも、落ちこぼれ浄霊師になるかも知れないなんて今から心配している僕は、川岸教頭先生の専門にしてる『心霊機械工学』(『旅のしおり』には、少しだけそんなことが、書かれている)に興味がある。
なんでかって言うと、知識と技術と少しの霊力があれば、みんなのサポート役になれるかも知れない(そんなことが、『入学のしおり』に書かれていた気がする)からだ。
僕らの学校じゃ浄霊の時に使う『魔道具』のことも教わるみたいなんだけど──(担任の叶先生があんまり言いたくなさそうに、「B組担任の魔道専門の黒井戸先生から教わるんじゃないー?」 みたいなことをチラッと学校で言ってた気がする)──
最先端の科学と技術を取り入れた『心霊機械工学』の機械よりも、たくさん霊的なセンスが必要な『魔道具』の方が、使えるようになるまでよっぽど難しいらしい。
なので、自信の無い僕は、『心霊機械工学』をしっかり勉強したい──そう思ってた。
だから、ちょっとだけ『心霊機械工学』を専門にしている川岸教頭先生のことが気になっていた。
いやいや、好きとかそう言う意味のことじゃあなくって……。
──んー……。
保健のヴィシュヌヴァ先生の『不思議な風』は、川岸教頭先生の心の中にまでは吹かなかったのかな?
さっき、保健のヴィシュヌヴァ先生の挨拶の時に吹いた『不思議な風』のおかげで──僕や周りのクラスメートたちみんなは、元気いっぱいな感じだ。出発までの小休憩ってこともあって、余計にそんな感じがする。
さっきまで、みんな体育座りをして先生たちの話を聞いてたけど──先生たちの話が終わると、だんだん同じ列の前の子や後ろの子とかと、体育座りをしながらペチャクチャと、おしゃべりを始めた。
出発までは、小休憩のおかげで、少しだけ自由時間がある。
山頂の合宿用の宿泊施設までは、近くにトイレが無いもんだから──船まで戻ってトイレに行く子、水筒に入ったお茶か飲み物を飲んで水分補給してる子(僕)、ふざけあったりじゃれ合ったりしてる子(危なっかしいし疲れちゃうよ?大丈夫なんだろうか……?)、しゃべりまくってる子(轟さんだ……)、目を閉じてドカッ!と腕組みして座ってる子(虎みたいな大山君だ……。存在感あるな……)──
見ているフリをしてた『旅のしおり』をカバンにしまって、僕は、あたりをキョロキョロ見渡していた。
僕と同じ学年のみんなは、だいたいの子が前まで小学生だったからなのか、だんだんお構いなしに、ワーワーキャーキャー騒ぎ出して、嬉しそうにしている。
幽霊の子たちの中でも、静かにしてる子と、悪ふざけみたいにハシャギまくってる子(全然幽霊っぽく無いんですけど──けど、やっぱり体は半透明)とがいる。
見渡すと、暗いというか、淡々としているというか幽霊らしい子(こう言っちゃ変だけど)と──幽霊なのに底抜けに明るくて元気そうな全然幽霊みたいじゃない子(けど、やっぱり見た目は幽霊)──がいて、やっぱり幽霊の子たちの中でも、全然、温度さがあるみたいだ。テンションが、全然違い過ぎる。
こう言っちゃ何だけど、中には全然、打ち解けてない子もいる。僕が言うのも何だけど……。
それは、生きてる子たちにしても、幽霊の子たちにしても同じことが言えるんだけど──
──全然違う方向を向いてたり、ボーッと立ってたり。体育座りをして、地面の砂を一人でいじってたり。
チラホラ、そんな子たちを見つけてしまう。
流石に今回の合宿は、班毎に分けられているから、班の中で誰かから質問されれば答えたりとかは、しているみたいなんだけど……。
心を通わすのが、難しい……。
いや、ほぼ、コミュ障の僕が言うのも申し訳ない気もするんだけど……。
(南さんだって──)
僕は、少しだけ勇気を出して、南さんの方をチラッと見た。
南さんは、風に吹かれるまま、ボーッと突っ立っている。
時々、髪の毛をかき上げる仕草をみせては、光る海を見つめているみたいだった。
相変わらずの長い睫毛と大きな瞳。
けど、入学したての時の南さんみたいに、今の南さんは、うつむいてはいなかった。
顔を上げて、どこまでも続く水平線の彼方を見ているようだった。
南さんの着ているどこかの学校のセーラー服とスカート──胸の赤いリボンが風に揺れている……。
(そう……。そうだ!! 心を通わす!! そのための合宿じゃあないのかっ!? きっと、幽霊の子たちとも生きてる子たちとも友達になれるっ!! 合宿は、まだ始まったばかりじゃないかっ!!)
ちょっと、いつもとは違う思考パターンに、自分でも驚いてビックリした。
なんか、海を見つめる南さんが、余計にキラキラと見えた。自分でも不思議だった。
小休憩の時間が終わって、みんながもとの場所に帰って来た。
各クラスの担任の先生たちが、点呼を取って確認してる。
僕も、叶先生に、「赤羽くん!」と呼ばれたので慌てて「は、はいっ!!」と返事をした。
相変わらず、僕は、言葉に詰まるけど……それより今から洞窟を抜けて山登りしないといけないから、そっちの方が心配だ。
(もつかな……。僕の体力……。同じ班の大山君や轟さん、それに幽霊女の子だけど南さんにも、また迷惑かけちゃうのかな……──)
僕らは各クラスごとに並んでて、さらに同じ班の子たちと一緒に登ることになってるみたいだ。
「さあ!! 行っくよー!! A組っ!! 出発ーっ!!」
僕らA組担任の叶先生の明るい声が、空いっぱいに響いた──
「ちょっと、待ってくれんかの?」
その時、先生たちの後ろに追いやられてたツルッツルのハゲちょろげお爺ちゃん校長先生が、突然、僕らの前に出て来て、何かを言おうとした。
「な、なんです……? 校長先生……? この期に及んで、また何かヤラカそうって言うんですか?」
川岸教頭先生が、何かを察したみたいに恐る恐るお爺ちゃん校長先生にたずねた。
「いや、なに、登頂したら宿泊施設で、みんな休むじゃろ? 部屋にもグレードがあっての? 一番先に到着したクラスが、一番ええ部屋を使えるみたいな? どうじゃろ? その方が盛り上がるじゃろ?」
ツルッツルのハゲちょろげお爺ちゃん校長先生が、また、突拍子もないことを言い出した。
それを聞いた先生たちも僕らも、みんな騒ぎ出した。
「「 あ、あんたって人はっ!!? 」」
僕らの担任の叶先生と川岸教頭先生が、声をそろえて、そう叫んだ。
「安全第一でしょうがっ!? 部屋の割り振りは『旅のしおり』に書いてあるように決まってます!! 競争して山登りして、生徒たちが怪我したら、どうするんですかっ!?」
川岸教頭先生が、目を三角にして、ツバやシブキが飛びそうなくらい勢いよく、僕ら生徒たちの目の前で、お爺ちゃん校長先生に猛反発した。
叶先生も、お爺ちゃん校長先生を説得するために必死になってる。
僕は、本当に、川岸教頭先生と叶先生の言うとおりだと思う。
「いや、何、保健のヴィシュヌヴァ先生もおるし、怪我の治療は心配ないわい。それに、いかに早く生徒たちの能力を引き出し、安全に登頂させるかも、各クラス担任の先生たちの力量が問われるところじゃろ? 先生たちの活躍ぶりを見せてもらって、今月のお給料……ボーナスも倍にアップさせてもらおうかの?」
「「 なっ!? 」」
川岸教頭先生と担任の叶先生が、声をそろえて、ちょっとだけ一瞬たじろいだ。
お金の話がお爺ちゃん校長先生から出て来て、急に川岸教頭先生と叶先生の様子が変わった。
「僕がいるから、怪我のことは、心配ないよ? しっかりサポートさせてもらうから大丈夫っ!! いくら霊力が高くても、たくさんお金を手にすることは、難しいからねー」
なんだか、保健のヴィシュヌヴァ先生もお金のことが気になってるみたいだ。指先のあいた黒い手袋をはめたまま、何かを指折り数えてて、ヴィシュヌヴァ先生が、ニヤついている。
「あら? 叶先生は、自信がないの? 残念ねー。全部、上手く行くように、私ならサポートしちゃうけどなー。安全、楽しさ、生徒たちの能力アップ。担任の教師としては、全部出来てこそじゃない?」
B組担任の黒井戸先生が、僕らの担任の叶先生をやっぱりアオる。
いきなり、最初から何もかも求めるなんて、無茶だ。無理があり過ぎる。
もう、のほほんと、ゆっくりで良いじゃないかって、僕は思う。
けど、アオられた叶先生の表情が、みるみる変わって行く。
「黒音っ!! 分かったわ!! これは、決闘よっ!! あんたのクラスが先か、私のクラスが先かっ!! 勝負よっ!!」
あー。なんで、この二人の先生たちは、お互いに張り合うんだろ……。
叶先生が、一歩も引かない。
僕らの運命は、いったいどうなるんだろ……。南無阿弥陀仏……。
「勝負か……。面白そうだな。金に興味はないが勝負ともなれば、話は別。叶先生と黒井戸先生には悪いが、C組担任として、この白銀真莉愛も決闘を申し込みたい。フフ……。久しぶりに、血がたぎる。生徒たちの安全は私が聖騎士パラディンとして確保する。勝負と言いながらも、いざという時は、生徒たちもそうだが、私たち教師同士もお互いに助けあい、苦難を超える。それでこそが、浄霊師ではないのか?」
も、もはや、次元の違うお話になって来た。
や、やっぱり、C組担任の白銀先生には、ついてイケない……。
「「 流石ですっ!! 白銀真莉愛先生っ!! 」」
わっ!! び、ビックリした!!
またしても、白銀真莉愛先生のクラスの満天星夜君と青風姫花さんが、大きな声で、白銀先生に声援を飛ばした。
笑顔で、C組のクラスメートたちみんなに手を振る白銀先生。
なんか、白銀先生は、大きな剣をジャージ服姿で背負ってるし、腰まで届く金色の長い髪の毛に青色の瞳だし、変な感じだけど、この場面だけを見ると、何だかまるでよくある異世界もののアニメを見ているみたいだった。
そんなこんなで、やっぱりお爺ちゃん校長先生の意見が、通ってしまい、『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』が、始まった。
「オゥラァ!! みんなぁっ! 行くぞぉーっ!!」
担任とか受け持ってないはずの川岸教頭先生が、人が変わったように張り切り出した。
あんなに疲れてる顔をしてたのに……。
お金って、怖い……。
隣を見ると──幽霊女の子の南さんも、静かにラジオ体操みたいなのをして、深呼吸をしている。
ウォーミングアップってわけか?
南さんも、やる気?
轟さんも、虎みたいな大山君まで、みんな準備運動をし始めた。
(な、なんか、みんな気合い入ってるな……。ぼ、僕だけ? まだ、心の準備が出来てないの──?)
なんか、誰が引いたのか──僕らの目の前の地面には、『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』のための白いスタートラインが──石灰の粉でいつの間にか引かれていた。
お爺ちゃん校長先生が、どこから持って来たのか──運動会の徒競走で、スタートする時に鳴らすピストルを、耳を塞ぎながら、かかげようとしていた。




