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第2話。僕はクラスになじめない

(キーンコーン……カーンコーン……──)


 ──チャイムが鳴った後の休憩時間。


 ふと、廊下を見ると──さっき始業式で挨拶してたお爺ちゃん校長先生が、ルンルン姿でステップ踏んで、ウキウキしながら歩いていくのが見えた。


 僕は、椅子に座ったまま視線を教室の前に戻す。

 教室のホワイトボードに書かれた文字──


 『ご入学おめでとう!!』


 あぁ、これ。

 担任のもと幽霊女先生の叶先生が張り切って書いたんだろなーって、僕は教室の椅子に座ったまんまボーッと一人で眺めてた。


 換気のために開けられた教室の窓の外を見ると、入学初日なのに小雨がパラパラと降ってて、新しい教室の床材や建築素材とかの匂いが雨の匂いに混じって、余計に慣れないこの新しい学校に来てしまったんだなーって想う。


(僕、上手くやっていけるのかな──? 友達──出来るかな……)


 後ろを振り返り、教室を恐る恐る見渡すと──


 僕と同じように椅子に座ったまんま、ボーッとしてる子たちがいた。

 いや。

 頭の上に、火の玉が揺れてるんですけど──

 やっぱり幽霊さんですよね? 僕と同じクラスメートだけど。ウゥ……。


 半透明な姿で座っている幽霊な子たちが何人か──いる。

 学生服とか私服とか……。

 けど中には、いつの時代の子? なんて、子もいる。

 

(モンペに、ハカマ? 着物? 何時代──?)


 幽霊な子たちは、みんな──それぞれ黙ったまんまだ。

 教室の前の方を見てるみたいなんだけど、ボーッとしてて。

 

(なんか、僕みたいだな……)


 姿や形は、違っても──なんか、そんな風に想った。

 けど、そんな風に僕が見渡していると急に突然姿を消して、霊感のある僕にも見えなくなる子がいた。


(あれ──?)


 突然、消えたかと想うと、教室の窓辺の方にいて運動場の方を向いてたり、廊下の方をスー……ッと歩いている子もいる。

 いや、足はちゃんとあるみたいなんだけど。

 

 何か、時期はずれだけど、夜のホタルの光みたいに、フワフワと点いては消えて──現れては消えて……──


 幽霊な子たちは、僕から見ると、ポツリポツリと──点いては消える灯りのようにも見えた。

 僕は、霊感はあるけど、こうやって長いこと見てると瞬間移動みたいにして見えるもんなんだなーって、想った。


 だけど、同じクラスメートでも、僕と同じ生きてる側の子たちは、われかんせずだ。


 幽霊な子たちに、話しかけるわけでもなく、一人の子もいれば、もう何人の子たちと打ち解けてる子もいる。

 さっきの自己紹介の時に自分から手を挙げて発表したトドロキさんは、案の定、もう何人かの子たちとペチャクチャ喋ってて、まるで小鳥みたいに楽しげだ。


(凄いな。トドロキさんは。コミュ力お化けだ──)


 いや、生きてるトドロキさんは、お化けじゃないんですけど──僕から見たら眩しくて、そんな風に想ってしまう。


(あぁ。嫌だなー。早く帰りたい……)


 ひととおり教室を見渡した僕は、あることに気づく。

 自己紹介の時に見た幽霊女の子の南さんが、いない。


(どこ行ったんだろ──?)


 後ろを振り向いてた僕は、自分の席から離れるわけでもなく、クラスの様子に戸惑いながらもビクビクとしていた。

 だって、初日──。

 これからのこととは言え、小学校の時みたいに仲間外れにされたくない。


(ウゥッ……。不安だ……──)


 今年で十三歳になると言うのに七五三さんみたいな格好をさせられた僕は、ポケットの中のビー玉を握りしめる。

 これは、僕が小さい時から持ってる御守りで──とは言っても、ただの大きめのガラス玉。

 けど、ビー玉の中の泡とか太陽の光にかざして見ると──それは、まるで宇宙みたいで。

 キラキラしてて、なんか、僕がまるでビー玉の中にいるみたいに想えるから、いつもズボンのポケットの中に入れてて、手のひらの中でコロコロ転がしてはギュッと握りしめたりして、時々ズボンのポケットの中から取り出しては眺めてた。


(安心する──)


 そう想いながら、僕がお気に入りのビー玉を教室の席に座ったまま眺めてると、突然、目の前に人の姿がボーッと、ビー玉越しに急に現れた。


「う、うわっ!?」


 驚きすぎた僕は、椅子ごと後ろに、ひっくり返りそうになった。


「キレイ……──」


「え……?」


 突然、何が起きたか分からないまま、声のする方を恐る恐る見上げると──


 ──幽霊女の子の南さんが、バッサバサの黒くて長い前髪をまるで幽霊みたいに(幽霊なんだけど)垂らして、長い前髪の髪の毛の隙間の向こうから、僕をジーッと見つめている。

 だけど、自己紹介の時に見た時よりちょっとだけ南さんの目が大きく開いてて、目の奥がキラキラと輝いてるようにも見えた。

 

 けど──


(いや、急に現れて怖いんですけど、幽霊だけに──!! )


 ひとこと。

 南さんは「キレイ」という言葉だけ残して、スー……ッと、消え去ってしまった──


(え──っ!?)


 もう、南さんは、見えない。

 どこに居るのか、さっぱり見当もつかない。幽霊だけに……。

 教室中を、急いで見渡したけど、どこにも南さんの姿が──ない。


(な、なんなんだ──!?)


 戸惑う僕をヨソに、2回目のチャイムが鳴って、入学初日の最初の休憩時間が、終わった──



(キーンコーンカーンコーン……。キーンコーンカーンコーン……──)



(ガラガラ……。バタン──)



 チャイムが鳴って、しばらくすると、担任のもと幽霊女先生の叶先生が、教室の扉を開けて入って来た。

 

 僕は、もう席について座っているけれど、さっきまで喋ってたトドロキさんが、慌てて席に座る。

 どこに行ってたのか、ノシノシと、大山君も教室の後ろの入り口から入って来て、特に慌てる様子もなくドシン!と、大きな虎みたいに座った。やっぱり、大山君は、怖い……。

 そして──振り返ると、南さんが、いつの間にやら着席していたのが見えた。幽霊だけど、どこ行ってたんだろ?


 教室に入って来た叶先生は、もう幽霊じゃない生きてる人間先生だけど、おもむろに、僕ら生徒にも分かるくらいにハッキリと「ハーッ……」と深いため息をついて立ち止まり、それからツカツカと教室の一番前の壇上に上がって、先生用の机の上に手をついて──こう言った。


「えー。突然ですが、明後日からオリエンテーション……新入生合同合宿訓練を始めることに決まりました──」


「「「「 えぇ──っ!? 」」」」


 クラス中が、どよめく。


 それは、そうだ。

 オリエンテーションと言う名の合同合宿訓練は、四月には予定されてたけど、まだ先で。

 急遽、まさか、明後日から始まることなんて、誰も聴いて無かったからだ。


「先生、先生!! なんで、明後日から合同合宿訓練が始まるんですかっ!?」


 トドロキさんが、またもや手を挙げて素早く立ち、誰もが聴きたかった質問を最速最短の速さで 先生に質問した。

 もうすでに、学級委員長だ……。トドロキさん。


「えー。かのう百会びゃくえ校長先生の独断と偏見で急遽、勝手に決まりました。ハーッ……」


 2度目の深いため息をついた叶先生。

 

 叶百会かのうびゃくえ校長先生は、叶先生のお爺ちゃんで、お寺の住職もしてて介護施設の運営や他にも幾つも会社を起業している日本有数のお金持ちだ。

 始業式の時に見たけど、「~じゃっ!!」が口癖のように語尾につく、ちんちくりんのハゲちゃビンの何時代なにじだい?って想うくらい昔風(着物?)な格好をしたお爺ちゃんだ。クマのぬいぐるみの『点』みたいな目をしてた。


「校長先生の独断と偏見って、何ですか!?」


 またもや、トドロキさんが、素早く手を挙げて質問する。


「ハーッ……」


 担任の叶先生が、3回目のため息をついた。


「推しのアイドルグループのライブの日程と重なるとのことで、急遽、日程が早まりましたっ!!」


 そう言った担任の叶先生がうつむいたまま壇上で、バン!と机を叩いた。

 

 叶先生の顔を見ると、美人だけど、呆れている。

 先生は遠い目をして、4回目のため息をついた。

 クラス中のみんなが、シーンとしている。さすがのトドロキさんも静かになった。

 けど、僕は──


(おいおい、仮にもここは、学校だろ──!? 校長先生とは言え、んな勝手なことが、まかり通るのっ!? 生徒より推しアイドルかよっ!?)


 僕の心の中の声が、弾け出そうだ。

 だけど、必要なものとか、急いでそろえなきゃなって想う。


 そう言えば、幽霊な子たちって、何を用意するんだろ?


 叶先生が、いそいそと、ホワイトボードに水性の黒のマジックペンで、何か文字を書きだした。

 素早いけれど、丁寧な文字。

 保険証のコピーとか、着替えとか? 必要なものとかを書いてるのかな……と、思いきや──


 ──!?


 『生き残る』


 ──とだけ書いて担任の叶先生は、『生き残る』の文字の上に今度は水性の赤マジックペンで勢い良く、まるっと、円を描いた。

 再び、僕らの方へと向き直り、壇上の先生用の机に手をついて──担任の叶先生が僕らにこう言った。


「えー。オリエンテーションの新入生合同合宿訓練は、一ヶ月間です。必要なものは、すべて学校が用意します。生きてる子たちも幽霊な子たちもお互い必死に協力しあって生き残って下さい。以上──」


「「「「 えぇ──っ!? 」」」」


 再び、クラス中が、どよめく。


 いや。幽霊な子たちもどよめいてたのかまでは分からないけれど、何か教室中がザワついてた感じは、すぐに分かった。

 けど、生き残るって、何? サバイバル訓練?

 オリエンテーションなんだから、みんなとの仲を深めるのが目的とか? そんなじゃないのっ!?

 校長先生も変だけど、この学校も変だ! 

 僕は、この先、大丈夫なんだろうか……。

 

 僕は、みんながどんな様子なのか気になり、チラリと後ろを振り返って見てみた。


 すると──


 ──視界の中に、ちょこんと椅子に座る南さんの姿があった。

 

(な、なんか、こっち見てる──?)


 南さんが、長すぎる前髪の隙間の奥から、やっぱり僕を見てたんだろうか? すぐに南さんの目と僕の目が、あってしまった。


(な、なんなんだ……──?)


 一瞬、僕を見た南さんが、フッとくちびるの端っこを上げて笑ったように見えた。


(ウッ……──?)


 なんだか、よく分からない気持ちになる。

 教室の後ろの方の窓辺に座る南さんの黒くて長い髪の毛が、風に揺れた気がした。

 

(幽霊なのに、風を感じるのかな──?)


 ふと、疑問に感じた僕の視界の中に、ひっそりと椅子に座る南さん。

 僕は、なんだか恥ずかしくなって前へと向き直り、叶先生がホワイトボードに書いた『生き残る』の文字をそのままじっと、凝視していた。


 窓の外のパラパラと降ってた雨は、いつの間にか止んでるみたいだった──




 

 


 

 









 

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