第19話。樹海②。
「はわわわ……。は、早く、南さん来てくれないかな……」
耳もとに装着しているピピ郎先生のデバイスから、大山君、轟さん、南さんの音声が聞こえる。
「先に、轟か赤羽のとこ行ってやれよ、南。俺は妖魔化して『【猛虎変化】』出来るから平気だぜ? いざとなったら単独行動でもゴールを目指せる。妖力も回復して来たしな」
「あ、私も意外と平気かな? ずーっと一人は、そりゃ心細いけど。みんなには言って無かったけど、私のアヤトリ組紐には固有霊スキル『【探索】』があるんだ。基本スキルの『【憑】』で疲れたけど、しばらく休めば回復するよ」
妖魔の大山君に浄霊師の轟さん。
みんなには、特別な能力があって、僕には無い。
いざとなれば、単独で困難な状況を打ち破れるほどの、固有霊スキルを持っている。
「んじゃ、赤羽くん優先で……」
耳もとのデバイスの中から、幽霊女子の南さんの声が響く。
「ごめん……。頼り無くて」
でも、本当に心細い。
足もとに覆い茂る緑の葉っぱを見つめながら、僕は俯いて呟いた。
「んーん。いつも、助けてもらってる御礼」
そんなことない。
けど、南さんの気持ちは素直に嬉しい。
一番最初に、僕のところに南さんが来てくれることになったけども、森の中の烏が僕の目の前にやって来て、何かを待つようにして僕を見つめている。
「アー!アー!」
「しっし! アッチ行けよ! 僕は、まだ死なないぞ!!」
不吉だ。あまりにも不吉だ。怖い。
烏は死にそうな人のところへと、待つようにやって来るって言うし。
(さ、流石は、死神の使い……。けど、居るんだろうか、死神って、本当に……)
手で追い払うような仕草を烏に見せつけたけど、烏は微動だにしない。
なんか、バタバタと黒い羽根を広げて、他の烏たちも舞い降りて来た。
(た、頼むよ……。南さん、早く来て!)
僕は、祈るような気持ちで手を組んで目を閉じた。
「そ、そう言えば……」
南さんが「今から行く」って言ってから、しばらく南さんを待つ間。
僕は目の前の烏たちを警戒して、樹海の森の景色を見渡しながら、赤いジャージズボンのポケットの中に、ビー玉が入っているのを想い出した。
「ビー玉。僕のお守り……」
浄霊師の皆みたいに、霊スキルの触媒には使えないけど。
何処かで拾ったのか、小さい時から何故かいつも持ってて、眺めてるといつも落ち着く。
「不安だけど……。もうすぐ南さんが来るって。せめて、みんなが無事で良かったよ」
僕は、ビー玉を見つめながら話し掛けるようにして、独り呟いていた。
このビー玉に何か霊力が宿ってるとか、そう言うのは特に無いんだけど、見つめれば見つめるほど不思議な感覚になる。
星のような、惑星のような、宇宙のような──。
──不安が去って、気持ちが落ち着く。
よくよく見渡すと、樹海の広がるこの場所も、とても神秘的で。
緑の樹木の隙間から木漏れ日が射し込み、白い靄のような霞が空気中を漂っている。
街じゃ聞かない色彩りどりな鳥の、綺麗な鳴き声が響き渡り、小川のせせらぎが聞こえる。
目の前の烏たちは、相変わらず僕を見つめてるけど。
「それにしても、なんで、こんなことになったんだろ?」
突然、僕らの身に起きた摩訶不思議な現象。
まるで、神隠しに遭ったみたいだ。
時折、風が吹いて来て、ザーッって緑の草木が音を立てた。
森の中の静けさが余計に僕一人なんだって思わせる。
「ワッ……!!」
「わ、わーっ!! って、え? え!? 南さん!?」
長い睫毛と大きな黒い瞳。
僕が驚いて振り向くと──、
──長くて黒い前髪を掻き上げて、うすボンヤリとした淡い光とともに、セーラー服を着た南さんが、恥ずかしそうに両手を組んで微笑んでいた。
腰まで届く南さんの背中の長い後ろ髪が、風に靡いていた。
「びっくりした?」
「え、え? そりゃあもう!! み、南さんだよね?」
「ウフフ。赤羽くん、驚いてるね?」
幽霊女子の南さんが、照れくさそうに僕を上目遣いで見つめている。
森の風が、またザーッと吹いて、僕と南さんの間を通り抜けた。
「ピピピ!」と、鳥の鳴き声が、森の奥に響き渡る。
幽霊女子の南さんの気配を察してか、「アー!アー!」と、烏たちが何処かへと飛んで行った。
「そ、そー言えばさ? ど、どーやって来れたの? 南さん?」
照れくさかったけれど、気になってたことだし、僕は少し頭を掻くような仕草をしてから南さんへと尋ねた。
さっきまで樹海の中は、ヒンヤリとしてたけど──、なんだか南さんと二人きりなせいか、森の中も静かだし、緊張しているせいか身体が熱い。
「ん? 私、ユーレイだし、別に歩かなくても良いし、草とか木も通り抜けれるし、命を落とす心配もないし?」
「フフン」と、南さんが後ろ手に手を組んで、少し首を傾けてニコリと静かに笑っている。
「ピピ郎先生のデバイス、無くても赤羽くんの気配とかは分かるよ。後、大山君と轟さんも」
「じゃ、じゃあ、位置情報の取得とかって……」
「んーん。それは、本当。なんとなくだけど」
南さんが、何かコソコソと左耳につけられたピピ郎先生の白いデバイスを触る。
それにしても、ピピ郎先生のデバイスは不思議だ。
霊スキル『【間】』を修得させるためのピンクの腕輪もそうだったけど、霊の子にも僕ら生きてる子にも触れることが出来る。
(──フォン……)
「え?」
僕と南さんの目の前の何も無い空間に──、蛍光の青緑色した文字盤が灯り、ピピ郎先生のヴァンパイアなコウモリの形で象ってある画面が突如として現れた。
「ふぇっ!?」
「フフフ。凄いね、ピピ郎先生」
画面の上には、『新着♡』と書かれた項目が幾つかあって、スマホにあるアプリみたいなのが、ピピ郎先生がデザインしたのか、ふざけた形のアイコンが──、ピコピコ!と、動いている。
「コレ……」
そう呟いた南さんが、透けるような白い指先で、何も無いはずの空間に浮かぶピピ郎先生のアイコンに触れると──。
──まるで、ドローンで空撮された樹海の地形が表示され、ピンで立てたみたいにして、大山君と轟さん、それに僕と南さんの位置が分かった。
「す、凄い!!」
僕が振り向いて、南さんの顔を見つめると、南さんも僕の顔を見つめて笑った。
「なんか、霊力を指先に込めると──、『【憑】』まではいかなくても、反応するよ? 電源入れるみたいな感じ?」
「へ、へぇ……。そ、そうなんだ」
僕は、一人迷子になって、慌てていて、霊力なんて出せて無かったのかも知れない。
霊力を指先に込めると──なんて、南さんは言ったけど、ちょっとしたコツがあったみたいだ。
普段、無意識にタレ流してる霊力を指先に集めて、たぶんボタンを押すような感覚なんだろう。
南さんから少しレクチャーしてもらって、僕はなんとなくだけど、コツみたいなのを掴んだ。
「こ、こう、かな?」
カチリ──と、何かが反応して南さんと同じように、ピピ郎先生がデザインした文字盤みたいなのが、青緑色に光って現れた。どうやら、上手く押せたみたいだ。




