第14話。『第1回クラス対抗洞窟山登り合戦』~(洞窟編)~ 5。
「さっきは、惚れたよ?」
「え?」
青色に光る洞窟内で、ボーンパラダイスオーケストラの皆さんの演奏が、ド派手に鳴り響く。
そして、僕の目の前に現れた女の子。
──紅さんだ。
洞窟内に鳴り響くド派手なダンスミュージックが遠くに聴こえるほど、僕と僕の目の前にいる紅さんの空間が、静寂に包まれていた。そんな風に感じる。
紅さんの言う「さっき」って言うのは、たぶんこの洞窟に入る前──。
空飛ぶ火の鳥妖魔の紅さんの背中に僕が飛び乗って、紅さんのぶっちぎり1位通過を阻止したことだ。
赤毛だけど、ショートヘアの火の鳥妖魔の紅さんが、両手を後ろ手に組んで、恥ずかしそうに僕を上目遣いで見つめている。
B組の黒の体操服を腕まくりして、ズボンも膝のあたりまで、まくり上げている紅さん。
綺麗な肌色の素足と、つり目だけど大きな紅さんの黒色の瞳が、洞窟の青色の光に輝く。
なんか、嘘みたいな打ち上げ花火のようなこの瞬間──。
「さっきは、惚れたよ?」って言った紅さんの姿が、僕の脳内で何度も繰り返し再生されていた。
(──って、あれ?)
視界の端っこの方で、幽かに揺れ動く視線。
僕のすぐ真横で踊ってた幽霊女子の南さんの姿が、どことなく虚ろで、この青色の洞窟の光に消え入りそうなほど──……。
「赤羽君?」
「ほへっ!? は、はいっ!!」
正面で恥ずかしそうに顔を赤らめて立つ、火の鳥妖魔の紅さんが、僕の名前を呼びかけていた。
僕の目の前にいる紅さん。
紅さんに名前を呼ばれて我に返る──。
「一緒に、踊ってくれないかな?」
「え?」
恥ずかしそうに上目遣いで、紅さんが僕へと差し出した右手──。
紅さんが、赤毛のショートヘアを、僕の視線へと横目に流し左耳にかき上げる。
なんか、嘘みたいなシチュエーション……。
ボーンパラダイスオーケストラの皆さんのド派手な演奏が青色の洞窟内に鳴り響く。
けれども、僕の視界の右隣にいるはずの、幽霊女子の南さんがいるあたりの空間が、影のように黒い。
「あ、あ。……うん」
僕は、火の鳥妖魔の紅さんに向き直り──さっきのカラフルガイコツシスターズのお姉さんと踊ってた時とは違った意味で、生唾を一度に飲み込んだ。
ゴクリ──。
息が、しづらい……。
「格好良かったよ?」
そう言った紅さんが頬を赤らめて、視線を落としながら僕の右の手のひらを握りしめる。
ボーンパラダイスオーケストラの皆さんの演奏する派手な音楽が洞窟内を流れる。
「い、いや。ぼ、僕は君の背中に乗ってただけだから」
紅さんの視線から目を逸らした僕。
繋がれた僕の右手には、紅さんの右手の感触。
紅さんの手のひらは、ゴツゴツとしていた。って言うか、ガサガサと硬い。
「驚いた? 私ってさ、ほら? 炎を扱うからさ。妖魔の修行で、ね? 赤羽君の手は──、柔らかいんだね」
紅さんの大きな黒い瞳が、赤毛のショートヘアの隙間から見えて──、僕の目線とバチッ!と合った。
僕は、紅さんに手を繋がれてて、何度も視線を逸らす……。
けど、僕の視界の右端のあたりが、なにやら黒い──。
洞窟内のド派手な音楽とは無関係に、僕の周りだけ温度が低い。って言うか、空気が冷たい──な、なに?
「ちょっ!? み、南さんっ!?」
僕と紅さんが手を繋いだ直後──。
南さんのいる方向へと振り向いた轟さんのポニーテールが、赤いジャージ服の背中の上で、驚いたように跳ね上がる。
「なっ!? み、南っ!?」
虎みたいな大山君も、僕と紅さんの視界の手前にいる南さんを見て、目を見開いて驚いている。
「あ……。れ?」
どんどんと、身体中が、黒ずんでいく南さん。
半透明な南さんの身体が、夜空のように黒く、透明な輪郭を残して今にも消え入りそうだ。
「ちょっ!? み、南さんっ!?」
「あ、赤羽君っ!?」
僕は、紅さんの手を離し、慌てて南さんのもとへと駆け寄った。
紅さんの慌てたような僕の名を呼ぶ声が、背中の後ろ側で聞こえた。
「ど、どうしたのっ!? 南さん!!」
「分からない。なんで、かな?」
虚ろな目をした南さん。けど、南さんは幽霊だから、助けようにもスカスカと僕の腕がとおり抜けて行く。
「南さん、だっけ? 私の背中の上に赤羽君といた? 幽霊さんだよね?」
腕組みした赤毛の紅さんのショートヘアが、揺れる。さらっと、前髪を掻き上げる紅さん。
「そう、ですね。初めまして。じゃない、さきほどは、どうも」
南さんが、たどたどしく答える。
そう南さんが言った、すぐ後──。
南さんは、青く光る石の転がる洞窟の地面へと、フッ……と倒れそうになった。
「──あ、危ないっ!!」
僕が慌てて、倒れそうな南さんへと腕を伸ばすと──、何かが「ブブブ……」と音を立てて間一髪──。
倒れかけていた南さんの身体を、僕はなんとか受け止めることが出来た。
いや、よくよく考えると、南さんは幽霊だから、地面に倒れても怪我をするなんてことは無いんだけど。
「嘘? 触れてる?」
僕の背中の後ろから紅さんの驚いた声が聞こえた。
それは、そうだ。
本来、僕らが幽霊に触れられるなんてことは、あり得ない。
逆に幽霊な子らは、なんらかの修行をすると、一定時間以上は触れられるようになるらしいんだけれど。
だから、僕もどうやって倒れそうだった幽霊な南さんを受け止められたのか、分からない。
けど、驚きよりも──……。
「あ、ありがとう。赤羽君。凄いね。触れられてる?」
抱きとめた幽霊女の子な南さんが、僕の腕の中で、大きな長い睫毛と瞳をパチクリ!とさせて、ボーッとした表情で、僕の目を見つめている。
「え? い、いやぁ。良かったよ。怪我はない? ってか、無いか」
なんか、焦りつつも、なんて言って良いか分からないままに、僕は南さんへと返事した。
なんなんだろう……。
僕の腕の中に幽霊女の子な南さんが居るのが、不思議だ──……。
「へぇ。お熱いね? お二人さん。霊スキル【『憑』】って、ヤツ?」
僕の背中の後ろから、何かニヤニヤとしたような声が聞こえた。
声がした方に僕が振り向くと──、確かに見覚えのある男子が立っていた。
B組の黒のジャージ服に、韓流アイドルみたいなツーブロックの黒髪姿のイケメン君。
えーっと、名前は……。
「なに、花園君? あんたも見てたの?」
腕組みして僕と南さんの様子を見てた紅さんが、素っ気なくその子に尋ねた。
花園君──? あぁ、そうだ。植物霊使いの子だ。
「ふーん? まあ、気にすんなよ、紅。お前の惚れたソイツ。ある意味、天才クンじゃね? 霊力は最貧弱なのに、器用だねー?」
うっ……。霊力最貧弱。
言われなくても分かってる。
たぶん、霊力だけで言えば、妖魔な子も浄霊師の子も幽霊な子も……みんな合わせて学年全体の全生徒中、僕が最下位だ。自覚は、ある。
天才とか器用とか言われても、バカにされてるようにしか聞こえない。
相変わらず、花園君って子が、僕の背中の後ろでヘラヘラと笑っている。
「よぉ。言い過ぎじゃねぇのか?」
それを聞いてた虎みたいな妖魔の大山君が、ズンズン!と、僕を追い越して──植物霊使いの花園君って子の目の前に立った。
花園君は、まだ僕と同じ学年で多分13才なのに、身長がもう180センチ近くあって、スラッと背が高い。
けど、虎みたいな大山君は、その花園君よりも、何て言うか……もっとデカい。
「へぇー。お前、浄霊師に負けた妖魔の末裔ってヤツ? デカいからって、イキってんじゃねぇよ」
「言ってろよ」
背の高い花園君が、もっとデカい大山君を見上げながら、不敵に笑う。
大山君は、今にも花園君に殴りかかりそうな勢いだ。
けど、ヴァンパイアなピピ郎先生のボーンシスターズの皆さんにピンクの腕輪──霊具の一種だと想うんだけど──を取り付けられてるから、大山君は霊力が強制的に【『間』】の状態にさせられている。
だから、大山君は妖魔の虎には変身出来ない。けど、内に秘められた気迫というか霊力というか闘気というか……何かが静かに燃えているように感じられた。
「ちょっとぉっ!? 二人ともっ!! ケンカは禁止っ!! 減点の対象だよ? 先生たちだって見てるし、良くないよっ!!」
鳥みたいな轟さんが、口うるさく、花園君と大山君の立つ二人の間へと、ズカズカ!と、割って入った。
こう言う時の轟さんのパワーって言うか、性格って言うか、勢いは凄いものがある。
あーだ、こーだと、赤いジャージ服の背中にポニーテールを揺らしながら、花園君と大山君の二人に注意する轟さん。
もはや、学級委員長って言うか、先生みたいだ。
「そーだよ。格好悪いよ? 花園君。何が気に入らないのか知らないけど、煽ってんじゃないわよ」
そう言った火の鳥妖魔な紅さんが、植物霊使いの花園君って子の黒いジャージ服の背中をグイッ!と引っ張った。
「ケッ!! やめろよっ!! 紅っ!!」
その時、紅さんの手を振り払った花園君の指先が、一瞬──。
チッ!と、紅さんの頬をかすめた。
「痛ッ!! 最低ー」
紅さんは、花園君の指先が当たった頬を押さえて、花園君の目を見て睨んだ。
ショートヘアで赤毛の紅さんの妖気が炎のように揺らめくように感じられるけど、やっぱり妖気自体はピンクの腕輪のせいで強制的に【『間』】の状態にさせられていて、紅さんの身体からは出ていない。
「ハッ!! 悪かったな? 紅っ! けど、霊スキル【『間』】はおろか、【『憑』】なんて出来てるヤツは、コイツと先生たち以外まだ居ない! C組の御剣って忍者バカでさえ、出来てるのは【『間』】だけだっ!! 霊力最貧弱のコイツが出来てるなんて、おかしくねぇか? しかも、この短時間にっ!!」
植物霊使いの花園君が、荒ぶる。
見た目、韓流アイドルみたいなイケメン君なのに、なんか残念な感じだ。
確かに、全ての霊力と妖力を吸い取るこの洞窟内で、最初から平然と立っていられたのは、霊スキル【『間』】が使える先生たち以外じゃC組の忍者浄霊師──御剣君くらいだった。
「ふーん? 嫉妬? ダサっ!! そりゃ、アンタが言うように、赤羽君が天才クンだからじゃない?」
「くっ……!!」
赤毛のショートヘアの前髪を、サラリ……と掻き上げた紅さん。
紅さんの放った言葉に、身長の高い花園君が、ツーブロックの前髪を洞窟の地面へと垂らして俯く。
「けっ!! 嫉妬かよ? ダセぇな? なんか、お前に一瞬でもムカいた俺自身が、残念でならねーぜっ!!」
「ちょっ!! アンタも、言い過ぎっ!!」
虎みたいな妖魔の大山君が、大きな身体を揺らしながら、植物霊使いの花園君へと言葉を吐き捨てた後──、轟さんがポニーテールを背中に揺らしながら、大山君を見上げるようにして言った。
「なんか。あの子。可哀想……」
僕の腕の中で、抱きとめられていた幽霊女の子な南さんが、ポソリ……と、僕の目を見つめてそう言った。
「う、うーん。そ、そうだね」
僕は、南さんに苦笑いするしかなかった。
(え? ぼ、僕が悪い? なんかスミマセン的な感じになってない?)
さっきまでの状況を振り返ってみても、倒れそうになった南さんを抱きとめただけなんですけど──的な感じで、内心、なんか変なコトになったな──なんて想う。
気まずい……。
「誰が、『忍者バカ』でござるか? 拙者、地獄耳ゆえ、霊スキルとは関係無く聴こえたでござる」
うっわ……。
ややこしそうなのが、もう一人。
C組の忍者浄霊師、御剣君本人が、ストン!と、洞窟の地面に片膝をついて急に突然現れた。
いかにも、忍者って感じで。
いや、花園君の『忍者バカ』発言に関しては、けっこうな大声で叫んでたから、ボーンパラダイスオーケストラの皆さんの演奏の音が大きかったとしても、わりと聞こえてたのかも知れない。
「あぁ!? 天才忍者バカか? わざわざ何しに来た?」
「バカは、余計にござる。拙者のことが気に入らぬのなら、正々堂々、勝負するにござる」
忍者の御剣君は、背が低い。けど、お爺ちゃん校長先生みたいに、チンチクリンじゃないし、僕と同じか僕よりちょっと背が高いくらいだ。
花園君を見上げるようにして勝負発言をした御剣君に対して、その御剣君を見下ろすようにして立つイケメン韓流アイドル風な花園君。
ツーブロックの黒髪を地面に垂らして、ダラーンと俯いて立っている。
「赤羽君は、悪くない」
ポソリ──。
僕の腕の中から声がした。
幽霊女の子の南さんは、まだ、僕の腕の中に抱っこされたままだ。
お人形さんみたいな幽霊女の子の南さんが、僕の目を見てパチクリ!と、瞬きをした。
いや、ほとんど幽霊女の子の南さんには重みを感じないから──、いつまでも僕は、南さんを抱っこしてしまってたんだけど──。
なぜか、南さんも、僕に抱っこされたまま動こうとはしなかった。
「ごめん、南さん。霊スキル【『間』】の修得もあるから、赤羽君とダンスしなきゃいけなくて。良いかな?」
紅さんが、優しく南さんへと微笑みかける。
「あ、すみません。どうぞ……」
南さんもニッコリと笑って、僕の腕からヒョイ!と立ち上がって、もとのガイコツシスターズのパートナーさんと再び踊り始めた。
紅さんと南さん──。
なんか不思議な感じがしたんだけど、僕には良く分からない。
「ヘッ!! 俺もB組のイケメンくそ野郎じゃねぇけど、一瞬で赤羽を追い抜かしてやるぜっ!!」
「虎が、何言ってんだかねー。浄霊師の未来は、俺無しじゃ語れねーようにしてやるよ!」
「フッ……。忍者バカの拙者の力っ!! おのおの方に、近い未来にて、とくとご覧にいれようぞ!!」
虎みたいな大山君が、もとのダンスパートナーのガイコツシスターズの人のもとへと戻り、ズンチャ♪ズンチャ♪と、大きな身体を揺らしながらズンズン!!躍り始めた。
そして、大山君と御剣君にスラッと背を翻した花園君が、スタスタとその場を静かに後にした。
御剣君も、ニヤリと清々(すがすが)しく何かを悟ったかのように笑っている。
「あちゃー。何だか、ややこしそうな展開だねー……。あっちも、こっちも……。まったく──」
轟さんも、背中でポニーテールを揺らしながら目を閉じて首を横に振り、両手を広げて呆れたような仕草をしている。「ま、楽しんで躍るわよっ!!」
けど、僕には、ややこしそうな展開の意味が分からなかった。
「おーい!! 御剣君ー!!」
「ちょっ!? 御剣君? ここって、A組とB組が合流するポイントだよ? 何してるの?」
C組の満天君と青風さんが、革ベルトを腰に巻きつけて、装備した銀色の剣をガシャガシャと揺らしながら、C組のダンスポイントから御剣君のもとへと走って駆け寄って来た。
一触即発で今度は、B組の植物霊使いの花園君と、C組の忍者浄霊師の御剣君が、戦闘しそうだったからだ。
「む? 何やら騒がしいな?」
黒髪のツインテールが揺れる僕らA組担任の叶先生──と、踊っていたC組担任の白銀先生が、ダンスの途中で急に叶先生の手を離し──、一瞬で、僕らの目の前に現れた。
「ちょっ!? 白銀先生ッ!?」
置いてけぼりになった叶先生が一瞬だけ遅れて、ドッカーン!!と、物凄い雷のような電光とともに、秒速で僕らの目の前に現れた。
(ゴゴゴゴゴ……──)
かと想いきや──。
僕らの目の前に黒い球体が突如として現れて──、中から恍惚とした表情のB組担任の黒井戸先生が華麗に現れ、ヤツれた表情の川岸教頭先生がヨロヨロと千鳥足で、フラつきながら出て来た。
川岸教頭先生の白のカッターシャツと赤いネクタイが、くたびれたように、ヨレヨレになっていた。
「も、もう良いだろ? 黒音ちゃん」
「良かったよ? 楓くん」
なんだか、いつもどおり、よく分からない大人な会話をする二人。
それを聞いてた叶先生が、黒井戸先生の方を向いて、キッ!!と、睨んだ。
「むぅ……!」
叶先生は赤く頬を膨らませていて、なんだか少し涙目になっているみたいだった。
「ふぉっふぉっふぉっ!! 待て待てー!! ヴィシュヌヴァちゃん!!」
「いやーぁ!! もぅっ!! 来ないでーっ!! 百会っち!!」
チンチクリンのハゲちゃびんお爺ちゃん校長先生が、洞窟内を縦横無尽に飛び回り──嫌がるヴィシュヌヴァ先生を追いかけ回していた挙げ句──偶然、二人とも、僕らの目の前へと現れた。
いや。もう……。何が何だか──……。
「ズンチャ♪ ズンチャ♪ パンパカパぁーンっ!! さぁて、皆さんっ!! 楽しんでいただけましたか? では、クライマックスターイム!! 行ってみましょ、ドンッ!! レディ……ファイナルトラーイっ!! めくるめく魅惑のダンスターイム!! めぐるめぐる体内霊気!! つかみましたか? 霊スキル!! 【『間』】!! ウン♪ママ♪ ウンマーっ♪!! レボリューションっ!! 革命して覚醒ですとも!! ハイっ!! 皆さん!!」
尚も、叫びながら激しく指揮棒を振るヴァンパイアなピピ郎先生。
ピピ郎先生の目が赤く光り、ボーンパラダイスオーケストラの皆さんの演奏が、更に激しくなった。
楽しそうだな……。ピピ郎先生。あんたって人は……。




